因幡と別れて、バスに乗って会場に向かう来栖。背負っていた両手剣、正確には130cmのロングソードであるのだが、バスの席に座るにあたり邪魔にならないように、外している。
揺れるバスの中で目を閉じて、トラウマとなって心体機能にも異常をきたしたかつての事件の中で、唯一見続けられる、一人の手を思い出す。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ……うん、」
試験会場に着けば、鞘を背負い、抜き身のロングソードを振り回す、その姿は異質なれども、ほかの受験生の目を引くのは来栖のプロモーションだろう。栗色の髪に、170cmの長身で、女子が嫉妬する豊満な胸、だが、そんなものは来栖に関係はない。興味がないのだから。
『はい、スタート』
「?あらぁ?」
やはりと言うべきか、それが始まりの合図とは誰も思わないような雰囲気で放送された試験開始を伝える合図に、来栖を含めた複数の生徒が首を傾げるなりなんなり、疑問を浮かべる。
そこにこの試験が始まっていることを再認識させる放送が流れる。
『どうしたどうしたァ!?実戦にゃカウントダウンなんざねェんだよ!走れ走れェ!賽はとうに投げられてんぞォ!?』
「あらぁ〜イジワルな試験」
軽く喋っているが、既に来栖には情け容赦というものは存在していなかった。
ほかの受験生と同じタイミングで駆け出し他のにも関わらず、ロングソードを持っているが故に、他の人間より重量がある筈なのに、誰よりも先に仮想敵の元へと辿り着く。
それは誰よりも早く、誰よりも先へ、そんな思想を抱える因幡についていくためだけに得た脚力、雲耀に至るわけではない、体の使い方が違うのだがら、それでも、どれだけ離されようとも、ついてく事を諦めなかった。それが来栖である。
「え〜い♡」
大きく振り被ったロングソード。
ロングソードの利点は二つ、工夫すれば片手で扱える重さであることと、両手で持てるだけの柄があることである。
それを横薙ぎに振るえば、仮想敵など容易く斬り裂ける、来栖は基本的に両手で持つ、理由は男女の根本的な筋力差である。それは片手で使いないという意味ではない。
体を半身にして、右手のみで持った剣を左手に持ち替えて突き技を繰り出す。
「二体めぇ〜」
止まる、そんな言葉を知らないと言うように、突き進む来栖は立ち止まる。目の前に数十体の仮想敵、
「あらぁ〜?いっぱいねぇ〜」
来栖は利き足を前に出し、剣の柄を頭の後ろまたは肩の近くに置き、剣身を背中側に隠すように斜めに背負う。貴婦人の構え。
『我は至高にして誇り高き貴婦人の構え、全ての攻撃を打ち破り、汝を切り裂く』―――フィオーレ・デイ・リベリー
またの名を憤怒の構え。
頭の高さにある剣を、筋力と重力で斜めに振り下ろす。纏めて二体を切り裂いて、返す形で更に二体たおす。
「もぉ〜多いぃ〜」
複数のロボットに囲まれているせいで、大ぶりのロングソードは確実に隙ができる。が、そちらには、ロングソードから手を離した左手の正拳突きがささる。
オートカウンター、来栖が因幡と模擬戦をする中で辿り着いた反射の極地、触れられた瞬間に、触れてきた対象に対してカウンターを決める、後の先と言う技術。個性が万全に使えれば怪我すらしない完璧なカウンターであるが今の来栖は個性を使えない。
来栖は以前、ヴィラン犯罪に巻き込まれている。それも
来栖は痛みを感じにくい為に、受けた攻撃に対する痛みの反射が引き起こされない、故に瞬時に攻撃に転じることが可能なのである。
「もぉ〜服が汚れちゃうじゃない……」
そんな異常な戦闘の仕方で、体力消費に対する認識も遅い来栖は、現れた避けるべき障害物のゼロポイント仮想敵に対して貴婦人の構えをする。
「え〜い!」
キャタピラ部分にロングソードを振り下ろして、転輪を破壊すると、そのまま、空いた隙間を通して履帯そのものを切り裂く。これで片方のキャタピラが使えなくなった。つまりはゼロポイントの機能停止である。
「ん〜他はぁ〜えいっ!」
ゼロポイントから離れて近くを通った他のロボットに剣を振るう。試験時間が三十分、それなのに、重いロングソードを軽々と振り回してまだ倒す。
ペースが落ちてくる後半で、最後まで動ける人間は少ない、それもほぼ無個性がだ。
『終ー了ー』
「終わっちゃった…」
そんな異常とも取れる来栖の戦いと、別会場でも同じく大きな印象を残した因幡、それ以外にも注目の的と言うのは居たがそれでも、個性という部分を見れば二人が断トツであろう。実際に試験が終わり映像を確認していた教師達は反応に困っていた。
「救助活動ポイント0で1位とはなあ!」
「後半になると疲弊して鈍る奴が多かったのに、最初から最後までへばることなく迎撃し続けていたな」
「ありゃそうとうタフだな。個性の練度も高い」
爆発というわかりやすい個性で、首席を取った生徒の反応、そしてその結果に対して逆のポイントを出した生徒。
「対照的にヴィランポイント0で
「アレに立ち向かう受験生は時々見かけるが……まさかぶっ飛ばしちゃうとはね」
「久しぶりに見たな! 思わずYEAH──!って声上げちまった!」
だが、そんな生徒は例年にも似たような事例があるのであまり問題ではない。問題となったのはもちろん、二人、因幡と来栖である。
「個性、
「どこかで聞いたような気がするものなんだけどね」
「不可視の魔剣、雲耀」
「知っているんですか?オールマイトさん」
「昔ね、九州の方で薬丸自顕流の極致を目指す剣士がいてね、個性に頼らずが彼の方針だったが。相澤くん、その個性は反応速度だけなのかい?」
「ええ、あくまで上げるのは反応速度のみだそうです」
「つまり、不可視の魔剣の技術がようやく使える人間が出てきたということか」
原理はある、故にオールマイトがあった剣士も雲耀は出来ただが、反応できないのだ。自分の体に視界が付いてこないそれを因幡影月は個性ありきとは言え、完璧に体得したのである。
「そしてもう一人、個性、
「痛みに鈍い反応だったのも問題ね」
「でもよ、二人ともあのゼロポイントを倒している。完全破壊ではないけどよ、」
「二人とも駆動部を狙っている。完全に破壊するより正しい判断だ。破片が飛んだり、落下したり、そういった危険をかんがみれば動けなくするという判断は正しい」
「そうだな、そしてこっちも剣術を扱う、ロングソードを扱うことから西洋剣術であるがな」
個性を使ってヒーローをする世の中で剣術を実戦レベルに引き上げてメインで使う、そんな人間はやはり異端なのだった。