壊れても【直る】少年 作:性癖デストロイヤー
魔法少女ノ裁判をクリアしたので投稿。
――昔から、おかしな力があった。
きっと誰もが持つモノではなくて、自分だけはちょっとだけ特別な存在。子供ながらに昂ったのは、魔法とも言える力に、
………【形状記憶】。少しの怪我なら
そんな、ちょっとだけ特別な力を自覚して俺は……早々に見切りを付けた。幼いながらに気付いてしまったのだ。世の中で未知の力は、ただ否定されて受け入れられず、嘘つき扱いされるのみ。
唯一、信じてくれた【彼女】は――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「………ッ!……ここは……?」
目が覚めると同時、違和感を覚える。
体調が良くない……いや、正確には体調が【変化】している。俺は自分の身体に【形状記憶】の魔法を使用して
普段は部屋のベッドに付与して、寝ている間に【形状記憶】を身体に掛けているのだが……まさか意識がない間に場所や環境が変わるとは。【形状記憶】はベッドと俺の位置関係にも働くので、強制的に離され続けない限りは有効。
「つまり、拉致か……」
粗悪なベッドから起き上がると、薄暗い部屋が視界に入る。冷たい石の床に、同様の壁。古い電灯は光が薄く、他の光源は部屋の外――
疑いようのない拉致監禁だ。頬に汗が伝い心臓の鼓動が速くなる。嫌な汗だ。袖で拭い、また気付く。
白いシャツに、月が描かれた紺のネクタイ。灰色のローブは脛が隠れるほど長く、同色のパンツに黒い厚底のブーツ。
中世の魔法使いみたいな装いだ。確かに魔法みたいな力は使えるが……。
勝手に着替えさせられた…?ゾクリ、と寒気がする。意識がない間、人間は無力だ。
「ダメだ…ダメだ、ダメだダメだダメだ…ッ!落ち向け………!!」
――それは【禁忌】に触れている。息が浅くなり視界が狭くなる……落ち着かないと。深呼吸、大丈夫だ。まだ俺は理性的だ。
自分を落ち着かせる為に、或いは少しでもトラウマから意識を逸らす為に。改めて部屋の探索をする。
相変わらず、やはり通路側の鉄格子以外は四方を石壁で覆われている。そして、壁にはテレビモニターがある。それが形容し難い違和感に思えた。
服装もそうだが、中世のような牢屋に現代的な物が設置されているのだ。古牢は雰囲気作りや誘拐犯の趣味なのか、或いは元から古い牢屋に現代的なモニターを後付けしたのか。どちらにせよ現状は変わらないが、意味によっては動き方も変わる。
「………一人の独房なのに、二段ベッド…建物自体は年季が入っている。でも所々に施された現代的設置物……部屋の探索はこのくらいか」
天井はそこそこ高いが、二段ベッドの上に乗れば届く。無論隠し通路なんかがある訳もなく、唯一の通路は鍵のかかった鉄格子のみ。
「力づくで鍵は壊せないか?」
中の探索を打ち切り、灰のローブを翻して鉄格子に近付く。多少の怪我は【形状記憶】で【直る】。なので無理をする事を前提に、鉄格子を蹴破ろうとした刹那――
「――ねぇ、ここどこなのかな!?」
少女の声がした。
それほど遠くはない。他にも誰か囚われているのだろうか。俺と彼女だけが捕らわれているのであれば、情報共有をしたい所だが……少し様子を見て、誘拐犯からの接触がなければ声を上げよう。
………と、警戒していた俺が馬鹿だった。
「何を考えていますの!?わたくしをこんなところに閉じ込めるなんて!!」
「少女監禁とか犯罪だよこれ!誰だか知らないけど、人生終わるよ!?」
「ざけんなぶっ殺すぞおらぁ!出せぇ!!」
恐らく俺と同じ立場の人達が騒ぎ立てる。自分だけじゃなかったことに、少しだけ安心してしまった。
だが現実は無情で、何も好転しない。仮初の安心感だって時間が過ぎれば不安に反転するのみ。やはり無理やり脱出が現実的か?……何故か意識が、攻撃的になっている。一瞬前までは同情を覚えていた捕らわれの少女達も、騒ぎ立てる度に苛立ちが増す。
(………いけない。落ち着け、冷静になれ……変に心が荒れる……普通じゃないな。焦っているからか…?それとも、薬物の類でも…)
――芽生え始めた敵意を理性で抑えていると、先程までは沈黙していたモニターに砂嵐が走る。そして映り始めた画面には、妙なナニカが居座っていた。
黒い頭巾を被り、首を直角に曲げた梟。無機質な瞳は生物的ではない。丁寧に左上には赤丸とLIVEの文字が浮かんでいる。
「っ!バケモノ、か…?」
少女達の声も止んだ。モニターはここだけでなく全ての古牢に設置されているのだろう。皆が注目している中、映像越しに梟は
《あ……もしもし……映像って見えてます……?何せ古くて故障が多いので……やれやれ》
流暢に喋り出したバケモノは、心做しか社会に疲れたサラリーマンのようにも思えた。人を閉じ込め、それを作業感覚で流しているのだから理解の及ばないバケモノであるのは疑うまでもないが。
《私、ゴクチョーと申します。詳しい説明がしたいので、ラウンジに集合してください。監房の鍵を開けますので、看守の後を着いてきてください》
………ゴクチョー。看守。ラウンジ。出てくるキーワードを心に刻む。
《抵抗とかは自由なんですが……命とかなくなっちゃうので……はい………》
ゴクチョーと名乗った梟は、それだけを告げると配信を切った。色々と考えたいが、一つだけ確かなことは――ゴクチョーの言った【看守】は危険な存在だ。抵抗すると命がなくなる……つまり殺される。
ここに来て漸く、本当に殺される危険性を知ってしまった。身震いしていると、鉄格子の向こう、通路の方から重々しい音が近付いてくる。何かを引き摺るような音。
"それ"が通る度に、目撃したであろう少女達の悲鳴が聞こえる。少しづつ、少しづつ、やがて俺の前にまでやってきたソレの正体は――
「ッ……!?」
細身で、3mはありそうな巨体。白い仮面に、リボンやらハサミやらと装飾が多い。鎌を担ぎ、擦り切れた黒衣を纏う異形はゴクチョーの言った【看守】なのだろう。
(確かに……逆らったら、殺されるな…)
看守が通り過ぎた後、いつの間にか鍵が開いている事に気が付く。牢を出て、後をついて行くべきなのだろう。
仕方なく鉄格子を押し、通路に出る。異形は随分と先に進んでいて、その後を青ざめた少女達が着いて歩いている。
(俺が最後尾か……にしても、女の子しか居ないな……)
場違いな感情ではあるが、気恥しさを覚えてローブのフードを深く被った。恐怖は確かにあるが、未知の体験に多少心が浮かれているのかもしれない。
辺りを見渡すと、一人の少女と目が合った。青髪で、探偵さながら鹿撃ち帽とベストを纏った少女だ。彼女だけは好奇に目を輝かせている。
身体ごと辺りを見渡していた少女は軽い足取りで近付き、肩がぶつかる程の距離を詰めてきた。
「どう思います?この状況」
「急だな」
「ふっふっふー!あなたが一番冷静で、聞きやすそうでしたので!!」
「……まあ、拉致監禁じゃないか?まだ確証はないけど、取り敢えずゴクチョーの指示に従っておけば安心だとは思う」
「同意見です!ほら、アレが多分看守ですよね。普通だったらこの状況、私たちみたいにお喋りしてたら怒ったりとか、あるいは問答無用で攻撃したりすると思うんですよ。ですか無反応です!今なら逃げても大丈夫かなーって思えるくらいには!!」
「止めとけ。看守の仕事は、【囚人をラウンジに連れて行く】…なんじゃないか?その役割を全う出来れば無害。出来なければ……」
「私たちを殺しそうですよねー。うんうん!拉致監禁は名探偵にピッタリです!!」
「楽しそうで何よりだよ、ホント……」
相変わらず、看守はこちらに反応しない。寧ろ煩わしそうに睨むのは、俺達と同様に捕まっていたであろう少女達だ。
皆、同様に顔色が悪い。異質なのは俺たちの方だ。俺は多少の事なら【形状記憶】でどうとでもなるから、多少は楽観視もしているが……青髪の少女の心の内は分からない。本当に楽しそうだし、名探偵を名乗る程なのだから何かを察知している可能性もある。
少女――シェリーと意見を交わしながら移動すること数分、どうやら俺達の捕らわれていた牢屋は地下にあったらしい。
長い階段を上り、玄関ホールに出ると建物の構造も軽く見えてくる。ここは豪奢な館なのだろう。老朽化していることから、先程のモニター然り、修理やらで手を加え続けているらしい。
近くの部屋に看守が入り、俺達も続く。
圧迫感があり、艶美な雰囲気を孕む空間――高々とした天井から吊るされるシャンデリア、紅い絨毯に大きな暖炉。
壁にはクロスボウが飾られ、本棚には本の他にも骸骨や謎の壺、骨董品が並んでいる。壁に飾られた無数の悪魔の頭蓋骨は悪趣味の一言に尽きる。
「ここがラウンジみたいですね!」
「イイ趣味してるな。厨二心が擽られるよ」
シェリーはざっと部屋の中を歩き、一通り見渡した後に俺の隣りに戻る。シェリーがいると緊張感が解されてしまう。
俺も、シェリーみたいに歩き回ることはしないが、部屋を流し見る。人数は、看守を除くと十四人。内、俺だけが男。心底居心地が悪い。
出しゃ張るつもりはないので部屋の後方に控えていると、同様に下がってきた少女と目が合う。灰と青の混ざったような頭髪に、先端が桃色。線が細い少女もまた、部屋で男一人の俺に何か思うことがあるのだろう。軽い会釈をされて、反射的に返す。日本人の性なのだろう。
気まずい雰囲気が展開されるが、やはりシェリーには無関係らしい。少女に近付き、両手を掴む。
「うーん!すごいことが起こってるのを感じます!高ぶっちゃいますよね〜!!」
「え、う、うん……?」
勢いよく上下にぶんぶんと振る。シェリーの握力が強いのか少女は困ったように眉を下げた。何がシェリーの興味を惹いたのかはわからないが、思い当たる節はある、
彼女は、牢屋を出で直ぐに彼女が同室の少女と揉めていた。
一見して強気な少女が気弱な少女を突き飛ばしたように見えていたが、俺には少女が大袈裟に倒れたようにも見えていた。無論、かなり線が細い少女なので多少小突けば転びそうではあるが。
歪だった二人の少女の関係に、シェリーもまた興味を持っているのかもしれない。
相変わらず強引なスキンシップを図る少女を止めていると、横から口が挟まれる。
「なぁにが、高まっちゃいますよね〜!ですわ!!やべーことになってるんですわ!もっと危機感を持った方が良いんじゃないかしら!?」
小柄な少女だ。緑と白のゴシックロリータ衣装で、見てくれはお嬢様だ。だが口調が不自然で、似非感が満載だった。
俺の他にも違和感を覚えた者が居たらしく、部屋の中にクスリと笑いが零れる。
「い、今笑ったのは誰でやがりますの!?」
「――いや、すまない。少し変わった喋り方だと思ってね」
一歩前に出てきたのは中性的な少女だった。長い四肢に明るい栗色の髪。精悍な風貌に改造軍服の衣装は、携えたレイピアも相まって凛々しい騎士だ。
――不思議と【視線を離せない】
………違和感。俺はいつも、何か違和感を覚える度に自分に能力を行使している。【形状記憶】は【記憶】した形状に【対象】を戻す能力。距離が離れたり、あまりにも形が変わり過ぎると使えないが、多少の擦り傷や体調不良程度なら【記憶】した形状、状態に戻せる。
自分に対して行使すると、不思議と彼女から視線を外せた。【それ】が効いていない【俺の形状】に戻ったのだから、もう一度されたらまた【視線を離せない形状】になるのだが。
本人は驚いたように視線を向けてくるが、それも一瞬で取り繕われる。
(……俺と同じ、何かの能力の持ち主か…?)
もしかしたら、この場の全員が何かしらの能力を持っているのかもしれない。
やがて少女達は自己紹介を始めた。シェリーとは先に自己紹介し合っていたが、他はまだだったので有難い。
一人一人名を告げて、次に周る。誰かが指定した訳でもないが、この場で異質な俺は必然的に最後になった。
「――さて、キミで最後だね。私もこの場で唯一の男の子であるキミに興味があるんだ。名前を聞いても良いかい?」
少女――蓮見レイアは演劇の王子のように、気取って手を差し出してくる。頼れるリーダー的な立場として、唯一の男である俺が安全かを測っているのかもしれない。
個人的には気恥しさもあるが、孤立して一人ぼっちは流石に寂しい。隠す事でもないので、深く被っていたローブのフードを脱いで告げる。
「
「……ああ、よろしくね。なんだ、カエデくん。可愛い顔じゃないか」
「アンタには負けるよ、レイア」
「フフッ、キミとは仲良く出来そうだ」
レイアと握手を交わした。そしてまた【視線を離せない】ので、再度自分の【形状】を戻す。コイツ、もう俺には隠す気がないのだろうか。
あるいは挑発か?レイアに習いニッコリと微笑みを浮かべると、彼女はスっと近付き耳元で囁いた。
「後で、時間を貰えるかい?」
「……さあ?ゴクチョーと看守しだいかな」
無事に開放されたら幾らでも時間を作るが、この場で皆殺しにでもされたらそれっきりだ。言いたいことを察したらしく、レイアは強ばった笑みを浮かべた。
「――さて、全員の名前が知れて何よりだよ。ここにいる意味は、私にも分からない。けれど、冷静に行動するべきだとは思っている。とにかく騒がず、落ち着いて説明を待とうじゃないか」
と、レイアが言い放った刹那。バサハザさと天井付近から音が鳴り、全員の視線が集まる。
天井付近には通気口があり、そこからゴクチョーが現れた。生で見るとより一層不気味だ。
「あっ……人がいっぱい……えっと、改めまして……この屋敷の管理を任されているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します………定時とかもあるので、さっさと説明していきますね…」
まず初めに、と区切り。ゴクチョーはあっけらかんと言い放つ――
「皆さんには……【魔女】になる、因子を持っています……エラい人が決めた話では、【魔女】はこの国にとって厄災をもたらす悪らしいんです……」
………【魔女】の因子。
覚えのない単語だが、察して余りある。見渡すと、殆どの少女は思い当たる節があるらしく。顔色を青くしていた。
だが一人――桜羽エマだけは違った。思い当たる節がないのだろう。俺やレイアは自分の能力――【魔法】について自覚している。反応からして他の皆も。だがエマは違うらしい。
思考を深く沈めながら、ゴクチョーの話を情報として頭に組み込む。
・【魔女の因子】を持つ俺らは国の法に基づいて検査され、この場に囚われた。
・俺達はいずれ【魔女】になる可能性がある。
・囚人として、ここで余生を過ごさせるつもりらしい。
・【魔女】になった者は【なれはて】となり、【看守】と同じ存在になる。
………あまりにも情報が過多だ。ゴクチョーの話が本当なら、俺の力は【魔女の因子】から発生した【魔法】だ。
ならば【魔女】になる条件はなんだ?【魔法】の使い過ぎ?それとも一定の年齢?そもそも【魔女】と【なれはて】は何が違う?
追い付かない情報に混乱していると、一人の少女が前に出た。
「間違いです。私は悪じゃない」
――二階堂ヒロ。綺麗な黒髪に赤い瞳の少女。先程エマと揉めていた少女でもある。
彼女の声には絶対的な自信が滲み、迷いがない。そのような性質なのか、あるいは現実に思考が追い付かず自暴自棄になっているのか。理性的に見えるのに、ナニカが違っても見えた。
「この国に災厄をもたらす危険因子は、この子の方だ」
ヒロは真っ直ぐとエマを――否、彼女の奥にいる【看守】をギラついた視線で刺している。【なれはて】をこの子、と呼ぶのか彼女が【なれはて】を哀れんでいるからだろうか。
「はぁ〜〜……あの、頼みます……悪者を受け入れてください……私は残業したくないですし、みんな平和に楽しくが良いので……」
「間違っている。私は悪じゃない。この世を正すことが出来るのは、私だけだ。私は世の悪を排す。まずは――」
「っ!ま、待て!!」
咄嗟に声をあげる。このままだと危ない。
然し俺の声なんて届いていないのか、ヒロは迷うことなく暖炉に立て掛けていた火かき棒を手に取り、エマの方向――その奥に居る【看守】に振り掛かる。
止めようにも、俺は後ろにいてヒロは前にいる。もう間に合わない――
自分が殴られると勘違いしていたエマは目を閉じ、その横をヒロがすり抜けて看守に殺意ごとぶつける。
ヒロの発言からして、彼女は【正しさ】に取り憑かれている。【間違っているもの】に容赦はしないし、この場でそれはバケモノを象る看守だった。
「悪は死ね!死ね死ね死ね!!」
「ッ…!」
異様だ。この光景は、何かがおかしい。
先程までは冷静だった少女が豹変して、看守を滅多打ちにしている。血や肉が飛び散り、彼女を赤く染める。それでもヒロは止まらない。
これほどの狂気、一瞬前までのヒロには無かった。それに、重いはずの火かき棒を一般人の少女が軽々と振り回しているのも変だ。
(人間じゃ……ない……!?)
俺の目には、ヒロは人間には映らなかった。あれほどの狂気を一瞬にして引き出せる奴が日常生活に馴染めるわけがない。
まるでバケモノだ。これが、こんなのが【魔女】になるという事なのか?
吐き気を催す光景た――一瞬、看守がブレたと同時に終わった。
「…………………」
誰も声を出せなかった。
ただ速く、正確に、軽々と看守の鎌は振るわれた。一切の抵抗も許さずにヒロの首に吸い込まれ、
ヒロの首はゴロリと、エマの前に転がる。
嗚呼……ここは地獄だ。
命が軽い。少女が叫ぶ。呆然とするエマを置いて、ラウンジは阿鼻叫喚と化す。
「……あまり、見てやるな……」
「う、あ、あぁ……ひろ、ちゃん……!」
俺はただ、吐き気を抑えながらエマを目を隠してやる事しか出来なかった。あまりにも惨い……俺の魔法では、命は…喪ったモノは【直せない】。
「うわ〜……死んじゃいましたね……掃除しなきゃ………ああ、でも魔女はこんな事では死なないので、彼女は魔女ではないことが証明されましたね……やれやれ…良かったですね……」
反吐が出る。何も良くない。この命が軽い場所で、俺達は暮らしていくのか…?
一人の死が、やっと少女達に事の重要性を理解させた。それだけの代償で一人が死んだのだから、やはり命の価値が軽い。狂いそうなくらい、ここは地獄だ。
「――あ、あと何個もすみません……最後に、もっとも大事なことを伝えておきます。魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄想に取り憑かれます。面倒なことに、いずれ囚人間で殺人事件が起こるんですよ」
……先程の彼女のように、と。ゴクチョーの発言には含みと諦観があった。その諦観すら、自分の手間が増えることにのみ向けられているのだ。
飽きるほど行われ続けてきたのだろうか?この凄惨な事件が、何度も何度も。視界がチカチカとする。ゴクチョーの言葉を、全ては理解出来ない。
「――と、言うことで。殺人事件が起こり次第、【魔女裁判】を開廷します……【魔女】になった囚人は…その……処刑しますので……詳しくは【魔女図鑑】をご覧下さい……では、私はこれで……」
ゴクチョーが飛び立ち、場を沈黙が支配する。
こうして俺達の暮らしは始まった――足元から音もなく崩れ始めているような、不気味な感覚と共に。
もう爪が伸び始めてる主人公くん。