壊れても【直る】少年 作:性癖デストロイヤー
「囚人番号671番……端の部屋だな」
アレから、俺達は各自の部屋に戻った。
渡された携帯端末には【魔女図鑑】という項目があり、規則や俺が見聞きした事の記録がされている。
人物の記録も可能だったので、可能な限り更新した。そして今は規則によると自由時間の終わりを示している。
ルールを破ると懲罰房行きになるので、可能な限りは守ろう。
「………さて。参ったな…」
目の前で殺人が行われた。いとも容易く、一分にも満たない時間で人が死んだ。
俺も、きっと他の少女達も……【魔法】と呼ばれる力を持っている。蓮見レイアは【視線を固定させる】力、あるいは応用によってそれを成した。氷上メルルは桜羽エマの怪我を治していたので【治療】と捉えるのが妥当だろう。
俺の【形状記憶】にも言える事だが、【看守】の強さを目の前にしたらあまりにも
例えば、【形状記憶】が強くなったとしたら、二階堂ヒロが両断された瞬間に発動させて命を繋ぐことが出来ただろう。【治す】のではなく【直す】。【形】を【戻す】力。
だが現実は、精々が【少しづつ戻す】程度だ。カッターで切った傷を直すのに一分はかかる。それは【看守】の即死級の攻撃を目の前にしたら、脆弱も良いところだ。
「はぁ……理不尽だろ…」
己の現状に悲観していると、スマホから梟の鳴き声の通知音が鳴る。ゴクチョーからの通知らしい。自由時間が終わり、従わない者は懲罰房に送ると言った旨が書かれている。
通知から直ぐ鉄格子から鍵の閉まる音が鳴ったので、古い建物ながらもオートロックなのが見て取れる。【看守】の手が足りてないのか、もしくは鍵を閉めて周る程度の知能も持たないのか。
「………考えていても仕方ないか……」
今は15時で、次の自由時間は17時からだ。たった二時間だが敢えてやるべき事もない。
ベッドに横たわり、目を閉じた。
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――フクロウの通知音が鳴る。
幾つか重なって聴こえたので、全員の端末からだ。昼寝としては浅い眠りだったが、時間は潰せたらしい。
微睡む思考を現実に引き戻しながらスマホを起動させると、ゴクチョーからだった。内容は夕食の時間と、食堂へ集まるようにとの事。規則によると今――17時からは自由時間となっている為、別にわざわざ食堂に行かなくとも規則違反にはならないだろう。
とは言え、空腹であるのも事実で、何かを食べないと思考に割く力も湧かない。
脱いでいた灰のローブを羽織り、牢の外に出た。
「……あっ」
「…………うっす」
少女と目が合った。細身で、髪の先端が桜色の少女――桜羽エマ。数刻前に知り合いを亡くしたからか、表情は暗い。
「えっと……カエデくん、で良いよね」
「好きに呼んで良いよ。エマはこれから食堂に行くのか?」
「うん……お腹は空いてるから。あはは…変、だよね…こんな時でもお腹って減るんだからさ」
「そんなモンだろ、人間なんて。ただでさえ変な場所なんだし、食える内に食っとこうぜ」
「そうだね」
何となく、エマと並んで歩こうとしたら、独特な臭いに気付く。エマも同様だったらしく、隣りの牢を覗く。
スプレー缶を手に、石床に絵を描く少女――城ヶ崎ノア。明るい灰色の長髪を左右に束ね、塗料と思わしき物でカラフルに頭髪を彩る少女。低身長も相まって幼い印象を受ける少女は鼻歌を歌いながら絵を描き続ける。
「……城ヶ崎ノアちゃん、だね…」
「こんな量のスプレー缶、どっから持ってきたんだ…?」
レイアのレイピア然り、最初からある程度の付属品を持っている者もいるのだろうか。少なくとも俺には何も無かったが。
「あの、あのさ、ごはんだけど行かないの?」
鉄格子ごしにエマが声を掛けた。飯の時間ならスマホで通知されている筈だが、彼女は見ていなかったのだろうか。
「うーん?んー、のあは今日、ごほん食べないんだよ?まだお絵描きの途中だから」
「まあ、食わなくても懲罰房行きにはならなそうだからな。個人の自由意思ってトコロか」
「お絵描きって……何書いてるの?」
「ちょっと待ってね〜?」
ノアは緩慢な動作で立ち上がり、俺とエマに絵を披露する。スプレー缶で描かれた何かは奇妙な事に、自ら動き出し形を成していく。
確かに【絵】だったそれは、次第に浮かび上がり【蛇】となった。あまりにもリアルで、然しカラフルに彩られた外見だけは現実的では無い。
――つまりは【魔法】だ。
「……魔法だよな?」
「たぶん、そうなのかな?のあの絵はね、勝手に動いちゃうんだ。絵だけじゃなくて、液体はみーんな、勝手に動くの。蛇なんて描くつもりなかったのにな……描き直さなきゃ」
「お、おう……頑張れ」
「えっと…じゃあ、ボク達は行くね」
再び座り込み、絵を描き始めたノアに背を向けて歩き出す。俺は兎も角、エマにとっては信じ難い程に異質な光景だったらしく、飲み込むには時間が必要だ。
ふと、疑問が浮かんだ。エマの反応からして、彼女は【魔法】を持っていない…?少なくとも俺を含め、四人の【魔法】は確認している為、全員が持っているのだと思っていたが……これから覚醒するか、隠されているか。もしかしたら【魔女候補】じゃなかった……なんて事は流石に無いと思うが。
横目でエマを見ると、彼女もこちらを見ていた。
「さっきの、どう思う?」
「…ノアの【魔法】のこと?」
「うん。やっぱり、みんな使えるのかなって」
「そうだと思うけど……エマは使えないのか?」
「ボクは……やっぱり【魔女候補】って間違いなんじゃないかなって。液体を操ったりとか、傷を癒したりとか、そういう事は出来ないから。カエデくんは、【魔法】使えるの?」
「………ま、聞いといて自分だけ隠しても仕方ないか。俺の魔法は【形状記憶】……これ見てみ」
再現した方が早いだろう。
俺は石壁を触って【魔法】で形状を【記憶】させ、次に落ちている小石で壁を傷付ける。
「そんで、また【魔法】を発動させたら――」
「わっ、直った!」
「条件とか面倒な上に直せる規模もしょぼいけど、一応は俺の【魔法】だよ」
「ううん!スゴいよ、こんなこと誰にも出来ないもん」
「そ、そう…?へへっ…」
「あ、チョロい……」
うん、エマは良い奴だ。嘘もつけなそうな奴だし。
こんな状況だけど、良い奴も居る。それだけで多少は暮らしやすくやるというモノだ。出来れば早く帰りたいけど。
……まあ、エマが良い奴なだけに気になる事もあるが。彼女と知り合いだった二階堂ヒロ……彼女は【正しいこと】に執着していた。善人を嫌うのは正しくない。ならば、エマは悪人か?或いは二階堂ヒロの【正しい】は独善的で自己中心的な価値観で構成されているのか?
…結局、完全には信用出来ない。この状況下で俺の出す結論は優柔不断で無いに等しいものだった。
情報収集も兼ねて拉致前の状況を話し合っていると――
「話せ!クソッ!離せよバケモノ!!」
一階に上がる階段の前、階下へと降りてきた【看守】と、脇に抱えられた少女を目撃した。
顔と名前が噛み合わなかったので魔女図鑑で確認する。囚人番号666番、紫藤アリサ。黒いフードを被り、同色のマスクで口元を隠した少女。
思えば、最初に囚われていた時から今に至るまで彼女だけはずっと反抗的だ。あまり関わりたいタイプだとは思わない。
「……あれって…」
「紫藤アリサちゃん…!?」
「あっちからは見えてないみたいだな……」
今のアリサは【看守】を罵倒しながら、然し先程の殺人を見たからか暴れて反抗したりはしていない。
この洋館は二階と地下、つまり三つのフロアで構成されている。俺達が居るのは地下。地下にある部屋は、マップによると監房と焼却炉、そして
アリサが何をしたのかは分からないが、監房側に来ないという事は懲罰房に連れて行かれるのだろう。
「…懲罰房行きってやつか。アイツ、何か規則違反を起こしたな」
「ど、どうしよう……!」
「どうも出来ないだろ。助けようとして反抗したら、俺達もアリサと同じ目に遭うだけ。少なくとも今は放っておくしかないな」
「………規則によれば、二日で解放されるんだよね?」
「まあ、緻密にルール作りしてるんだから嘘はつかないだろうね」
……嘘だ。嘘を言った。メリットデメリットで語るなら、ゴクチョーや看守側は嘘をついていてもおかしくはない。その方がアイツらには有利だ。
でもルールはルールであると従った方が楽で、疑うのはキリがない。それだけの話で、決して嘘がないと確信している訳ではない。
それでも――
「……そう、だよね」
今、これ以上の被害者を出すのは得策ではない。例え紫藤アリサがこれから殺されるのだとしても、俺の意見は変わらない。
斯くして、俺達は看守の背中を見送ってから一階に上がり、食堂に入った。荘厳な屋敷の雰囲気は相変わらずで、紅い壁に複数の光源がある。
机は複数あり、少女達は各々でグループを作って料理を食べている。何処かに加わるか、エマと二人で食べるか……うん、エマは良い奴だから俺とも食べてくれると思いたい。流石に男一人の状況で孤立したら、気でも狂いそうになる。
「えっと……」
エマも俺と同じように迷ったのか、食堂内を見渡す。席が決められていないのは見ただけで確認出来た。もういっそ適当に座ろうかと、歩を進めると――
「おーい、エマさーん!カエデさーん!!こっちこっち!」
シェリーが両腕を振っていた。彼女の近くには遠野ハンナ、氷上メルルが居る。エマも含め、彼女達は最初の自由時間が終わる前に話していたグループだ。
俺は最初にシェリーと話して以来、誰とも関わりを持っていなかった筈なのだが、呼ばれたからには行くしかない。
「ビッフェ形式だったので、二人の分も取っておきましたよ!カエデさんのは大盛り大サービスです!!」
「お、おう……サンキュ」
「あ、ありがとう」
エマと顔を合わせる。互いの口元が引き攣っていた……残飯の方が美味しそうと思える有様の料理。グロテスクで、色も悪く、何の料理なのか判断がつかない。
この黒い揚げ物はなんだ…?葉物野菜のサラダも変な色で、変なものがかかってるし……えっ、もしかしてイジメ?
カウンターに目を向けるが、並んでるものは似たり寄ったりの料理未満な何かだ。
「見た目はアレですが、けっこうイケますよ!」
「え、マジで?どれどれ………おいシェリー、正気かよ」
「味覚がぶっ壊れてますの、この人。超絶まじーですわ……」
「だよな。やっぱ不味いよな」
ハンナは味覚というか、シェリーの頭を疑っているらしい。俺も同意見だが。取り敢えず共に食事をするので、改めてエマを除く三人に挨拶をした。男が一人なのでやはり多少の疑いは向けられたが、被害者の俺が何を証明できようか。
時間が解決してくれると信じて、今はただ馴染むために話を合わせた。
彼女達と話しながら、改めて食堂を見渡す。食堂にはノアとアリサ以外は皆揃っている。今、囚人は二分割されていて、エマやシェリー達のグループとレイアがまとめているグループの二つ。
俺だけはどちらにも属せないと思っていたのだが、シェリーが迎えてくれて、ハンナとメルルも拒否はしなかったので当分は彼女達と行動することになりそうだ。
無論、レイア達とも話せれば話すつもりだが。特にレイアには、後で時間を作って欲しいと言われているのだから。
「あいつ……魔法を使っているに違いねぇーですわ」
唐突にハンナが呟いた。ハンナの視線を追うと、エマとレイアが目を合わせて、エマが照れている所だった。別に変な事象が起こったようには思えないが、ハンナは頬を膨らませて料理を頬張る。やけ食いするタイプか……本当にお嬢様か?
「ふんっ!誘惑する魔法なんて使って……しかも芸能人だからって、囲いを作って、偉そうに!カエデさんも気をつけやがってくださいまし!男なんて誘惑の魔法を使われたらイチコロなんですからね!!」
「お、おう……そんときゃハンナが目ぇ覚まさせてくれよな」
「ビンタでよろしくて?」
「あたぼうよ」
「ぼ、暴力はダメですよ……!」
メルルが慌てて止めるが、別に俺もハンナも本気では言っていない。ハンナが言っていた【誘惑の魔法】ってのも少し違う気がするし、俺も自分自身に違和感を感じたら【形状記憶】で【記憶】した健常な状態に戻す。
唯一、シェリーだけはケラケラと笑っていた。場違いに明るいのか、偽っているのか。二階堂ヒロが殺された時も明るく振舞っていたので、まだ彼女の内心が掴めない
「魔法と言えば、メルルさんの魔法も凄かったですよね!いや現実に魔法があるっていうので私はもうびっくりなんですけどね!」
唐突……ではないが、シェリーは魔法について言及する。彼女の言葉からは、自身が魔法を使えないと言っているようにも思えたが。
エマも、自分は魔法を使えないと言っていた。意外と使えないやつの方が多いのだろうか。捕まる前はそれが当たり前だったが、この場は全員が【魔女候補】だ。使えて然るべきだと思っていたが……。
「……そ、そんなそんな……大したことは、出来ません……エマさんの血を止められただけです、し…」
「【治療】だろ?怪我を一瞬で治せるなんて、凄いと思うけどな」
「は、はわわ……!」
メルルは恐縮している。顔も赤く、本当に恥ずかしそうだ。何となく、メルルとは魔法の効果が似ている気がする。損傷を回復させる魔法と、記憶した形に戻すだけの魔法なんてどう考えても前者の方が便利なのだが。
「ね、ねえ…みんな当たり前みたいに【魔法】って言ってるけど……ここに捕まったみんな、【魔法】を使えるってこと?ボク、そういうのは使えないと思うんだけど……」
「私もエマさんと同じですよ。【魔法】なんて初めて知りました!当然、使えません!」
「……ふぅ、何も知りませんのね。シェリーさんも、エマさんも。【魔女因子】を持っている子は、不思議な力が使えるんですの。それが【魔法】。あなた達も気付いていないだけで、何か不思議な力を持っているハズですわ」
………魔女図鑑に記録されている事柄とも合致している。俺が幼い頃から【魔法】を使えたのは、【魔女因子】があったからだろう。男でも【魔女】なのかと疑ったが、元の原因が【魔女因子】と名付けられているなら性別なんて関係ないはずだ。
「えぇ〜?私、不思議な力なんて持ってないですよ?特技と言えば――」
シェリーは目の前の林檎に手を伸ばし――
林檎を握り潰す握力が大体60kg以上と言われているので、粉砕して飛び散らせるにはそれを超越していないといけない。
とても、細身の少女が出来る芸当ではない。
「………ま?」
「あ……あ………」
「――ちょっと力が強いかなってくらいで」
誰もが唖然としている。これは……【魔法】だろう。シェリーが筋骨隆々だったら有り得なくもないが、同年代の少女だ。【魔法】でなければ夢だ。
「……硬い瓶の蓋を開ける時にはシェリーを頼るよ」
「お任せください!でもカエデさんは自分で開けられるのでは?男の子ですし」
「男の子だって開けられない日があるさ」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
あまり力自慢ではないのだ、俺は。体格が良い訳でもない。レイアには可愛い顔と言われてしまったが、要は頼りがいがないのだろう。少なくとも、同年代の男と比べたら。
「ど、どこがちょっとですの!?ゴリラ女!?」
「ひどいです〜。リンゴくらい誰でも潰せますよね?ほら、カエデさんも!やってみてください!」
「急に無理強するじゃん?俺がゴリラに見える?」
「可愛い男の子に見えますね」
「男の子にだって無理なんですわよ!はいそれあなたの【魔法】!」
「そっかぁ……私って【魔法】が使えたんですね。いやぁ、何だか照れますね〜」
「逆に今まで気付かなかったのが信じ難いですわ……」
名探偵を名乗るわりには抜けているらしい。単に天然と言うには底が見えないし、でも腹黒いタイプにも見えない。
個人的には互いにこの場所で最初に話した仲なので、仲良くしたいのだが。
「カエデさんはどんな【魔法】を?」
「……………俺の【魔法】ね」
シェリーに聞かれて反射的に答えそうになるが、ふと、全員の視線が集まっていることに気が付く。
果たして、この場で【魔法】を披露するのは正しいのか。ゴクチョーが殺人事件が起こると断言している中で、手の内を全員に知らせるのは不利なのではないだろうか。
単純に狙われるだけでなく、もし事件が起こった際の手口で犯人に仕立て上げられたら溜まったモンじゃない。
エマには話してしまったしシェリーに知られても問題はないのだが、他の全員まで信用した覚えはない。
「……俺の【魔法】は、【回復】だよ」
「えっ?」
エマが困惑したように声を上げるが、視線で制する。俺は彼女程楽観的ではないのだ。
「【回復】と言えば、メルルさんと同じなんですか?」
「大分違うと思うよ。俺が【回復】出来るのは自分だけだし、治せるのも軽い傷とか病気だけ」
一応、嘘は付いていない。傷も病気も、健康な状態を【魔法】で【記憶】しておけば発動と同時に少しづつ修復する。
それが他人や無機物にまで作用する事や、めちゃくちゃ時間をかければ重傷でも"直せる"点については敢えて言わないが。
「メルルさんの下位互換ですね!」
「もう少し言葉を選びやがれですわ!?」
「わ、私の【魔法】では病気は治せないので……す、すごいです…!」
「自分の病気しか治せないけどな」
「なるほど……似たような【魔法】でも、詳細はそれぞれ異なるらしいですね!個性豊かなんですね、【魔法】って」
今のところ、俺とメルル以外の【魔法】の系統はかなり異なる。全員の能力を知っているわけではないが、もし俺達をこの場に集めた犯人がいるのであれば、【魔法】の詳細まで知られている可能性がある。つまり敢えて相乗効果のある【魔法】同士は分けられている可能性があるのだ。
例えば【転移の魔法】と【強化の魔法】があったとして、単体では弱い魔法でも合わせて使えば脱出はヌルゲーだ。可能性の話でしかないが、多種多少な魔法があるのであれば先に詳細を得る必要もあるように思える。
………まあ、そうなると俺とメルルの【魔法】が同系統なのが気になるが。俺が男だから異例なのか、メルルが黒幕なら話は早いが……後者は普通に有り得ない。
「ところで、ハンナさんはどんな魔法をお持ちで?」
「ふふんっ、仕方がないですわね。そんなに見たいなら、見せてあげてもよろしくってよ?よ?」
「や、別にそこまでは……」
「良いから見やがれですわ!!」
「あ、うん」
余程見せないのか、ハンナは目立つ場所に移動して両腕を広げる。
「――これがわたくしの【魔法】ですわあぁぁっ!!」
「………う、浮いてるね」
「………ちょっとだけ浮いてるな」
10cm程だろうか。かなり力んでいるので、少し浮くのが限界なのだろうか。人力での浮遊は確かに凄いのだが……10cmか…うん、しょぼい。
エマも同じ事を思っているらしい。思わず感想が出そうになるが、シェリーの反応を見て言葉が喉の奥に引っ込んだ。
「すごいすご〜い!」
まさに大絶賛だ。ぴょんぴょんと飛んで彼女の【魔法】を褒め散らかす。確かにシェリーは先程まで自身の【魔法】にすら気付いていなかったので、分かりやすく【魔法】である【浮遊】には興味が尽きないのだろう。
「こ、このまま移動も出来ますのよ!!」
「………移動したね」
「………ちょっとだけ、移動したな」
少しだけ移動して、着地した。大分疲れたらしく息が乱れている。ぜえぜえと喘ぐ姿はとてもじゃないが、お嬢様には見えない。
袖で汗を拭き、自分の席に戻ったハンナは息を整えてから口を開いた。
「……と、こんな風にわたくし達は魔法を持ってますの。きっと魔女見習いみたいなものね」
ハンナは語る。彼女は不思議な力を自覚して以来、色々と調べたらしい。魔女因子や牢屋敷については都市伝説にもなっているらしく、15歳の少女が行方不明になる事件の真実がそんな噂になっていたようだ。
信じ難い話だからこそ、都市伝説になったのだろう。俺は聞いたことなかったが、シェリーは知っているらしい。
「………わたくし、牢屋敷送りが嫌で……この能力を、ずっと隠してましたのに……」
―――魔女因子の検査が、全てを台無しにした。
不可抗力だ。それがいつ行われて、誰が判断しているのかも分からない。きっと本当の意味で逃げるには、何の組織にも属さず誰にも見つからず、永遠に独りで生きるしかなかったのだろう。
「こんな所に閉じ込められて、この先、どうなってしまうんですの………」
ハンナの呟きは、空気を重くするには十分だった。
こうして夕飯が終わり、自由時間になった。
【形状記憶】
・記憶した形状に物質を戻す魔法。発動条件は触れている事。また、