-居酒屋はるの-
「だから!俺たちの方がつええって言ったんす!」
ここは天神の居酒屋。
54連隊の面々20名と合流して飲むことになったのだ。
「じっとしときな!」
そう叱りつけられているのは顔を腫らした兎内3曹
津志田3曹が乱暴に湿布を貼っている。
「あんたバカな上に弱いんだ!」
加勢が吉川をバカにしながら腕に包帯を巻いている。
-4時間前-
乱闘騒ぎがおわって土煙がもうもうとたつ広場には桜野曹長達がいた。
タカマガハラで会った面々もいた。
逃げて行った男たちもよくみたら陸上自衛隊の制服を着ているようだった。
徳田曹長がそおっと桜野曹長に尋ねる。
「いったいなにごとが・・・」
突然握手をされた!
「ひさしぶりですな。徳田曹長!」
「おわったったった・・・お、お久しぶりです。」
ほどかれた手には桜野の指の跡があかく残っていた。
いってて・・・
「して、なにごとで。」
「なに、参拝に来ている陸自仲間がいたので雑談していたら、俺たちはどこそこ最強の普通科だ、と言うので、こちらも負けずに日本最強の普通科連隊だと返したんですよ。そうしたら相手が日本最強はうちらだと言って聞かない。じゃあもう面倒だから54連隊は宇宙最強だと。そしたら宇宙が何だとバカにしてくる。」
桜野はにっこにこの満面の笑みで解説してくる。
「はぁ、それであの乱闘騒ぎに。」
「そう。口ほどにもない連中でしてな。」
「すいません。桜野曹長。」
山本1曹が割って入ってきた。
「おお、山本も。久しぶりだな。」
「その節はどうも。ときに桜野曹長たちはなぜはるばる東海から大宰府までわざわざ制服でいらしたので?地元部隊なら、制服でぶらぶらするところもありますが。」
岩倉と徳田がギクッとした。
ばれる。いや、いずればれるのだが。
桜野が徳田をみやる。
「なんだ、まだみんなに言ってなかったのかあ。」
「あ、その。まあ、ドラマチックな発表をしようかなと。」
岩倉も入ってきた。
「そう、第二次練成滞宙時に大々的にと思っておりまして。」
「なるほどなるほど。そうだな。おい、大山1曹。40人入るとこ。」
「あ、天神で!!」徳田が急いで申し添えた。
大声で呼ばれた大山1曹は携帯端末でササっと操作するや、たちまち「とれました!」と返す。
「発表会は、繰り上げ。今晩と行きますか。」
岩倉・徳田「なるほど!流石!」
-居酒屋はるの-
半ば強制的に連れてこられた天神の居酒屋
3中隊有志は天神に宿をとっていたので、まあ特に異議はないのだが。
桜野「再会を祝しまして。」
みながグラスを掲げる。
桜野「乾杯!」
がちゃ がちゃ がちゃ
あちこちでグラスのぶつかる音がする。
「陸と空がこんな感じで飲むなんて滅多にないことだ!」
「よろしく。俺は54連隊の飯島っていいます。」
「みなさん揃って54連隊なのでは。」
「そうだった。3中の飯島です。」
「え、そちらも3中隊なんですか。」
いまさら判明する中隊のナンバーかぶり。
「そちらの大きな方は?」
加勢が勢いよく立って説明する。
「こちら川路1士になります!」
「嬢ちゃんはそいつのなんなんだよ!」
「いよ、炊飯器と冷蔵庫!」
首をかしげる川路。
しばらくたってから岩倉がおもむろに立ち上がる。
「では、両3中隊の皆様方。わたくし航空宇宙自衛隊シャックルトン警備隊第3中隊長の岩倉1尉ともうします。」
イヨ!空自!
中隊長!
わきあがるヤジを、どうどう、どうどうと制し、続ける。
「重大発表があります。主に我が警備3中隊向けですが。」
ナンダ、ナンダー!
どうどう、どうどう
「えー、タカマガハラで親善をなし、いままたここで会った54連隊3中隊の方々は!
実は!10月の我々のシャックルトン行きに同行することになったのですー!」
ヒューヒュー!
一緒に行くぞォ!
と、もりあがる連隊とは対照に警備3中隊は
シーン
あれ
徳田曹長が立ち上がり、せいせい!ホイキタホイキタ!
わっしょいわっしょい!
意図をくみ、腹をくくった1曹2曹連中が一緒に騒ぎ立てるうちに、ようよう全員一緒に盛り上がってきた。
「警備3中のみんな。ちょっと驚いただろうけど、そういうこと!なので、また月で会うと思うから。今晩は予行!さあ、飲みましょう!」
岩倉1尉はなんとかこの地獄を乗り切った。
川路はビール瓶を頼み、連隊の隊員ひとりひとりに酌をしに回っている。
行く先々で川路は大人気だった。
「お前、でっかいなあ!」「え、柔道やってたのか!」
川路が桜野曹長の前にまわったところで「追い付いた!」
加勢も来た。「加勢先輩。」
「桜野さん。この間はご指導ありがとうございました。」
-私が先!
川路はビール瓶をひっこめた。
桜野「おう、嬢ちゃん。ありがとな。」
桜野は一気に飲み干し、川路にグラスを向ける。
「失礼します。」川路が桜野のグラスになみなみビールをつぐ。
「お、川路君はわかってるねえ。」
おそらく泡と液体の比率3:7のことを言っている。
「はい。先輩に教えていただきました。」
-教えてないけど。っていうか知らない-
「面倒見のいい先輩だなぁ」
「加勢士長にはいつも助けてもらっております。」
「あ、ははは!私の方こそ。力仕事はいつも川路にやってもらってます。」
桜野はさっき加勢が注いだビールが泡と液体5:5だったことは不問にした。
-先輩をたててんだから野暮なこたぁ言うまい-
桜野は去り際の加勢・川路と固い握手をした。
「桜野曹長。そろそろ来ます。」
「お、到着されるか。」
岩倉「どなたか来られるのですか。」
「うちの中隊長」
岩倉の尻が浮いた。
しばらくして
「おーいたいた。ここか。」
160センチの小男がやってきた。
その声も甲高く、うわずっている。
ちょっと出っ歯で、言っては何だがユーモラスな顔と雰囲気だった。
桜野「みなさん。うちの中隊長が来られました。もう一度乾杯をしたいと思いますので、お手数ですが、グラスになみなみとお酒をおねがいします。」
「失礼しますよ。」
岩倉の隣に小男が座ってきた。
「あ、どうぞ。」
なんだ、うちの加勢くらいじゃないか。
「みなさん。54連3中隊長の富原3佐です。よろしくおねがいします。」
物腰も柔らかだ。
その後、桜野曹長の音頭で2度目の乾杯がなされ、また歓談に移った。
岩倉もようやく階級相応のカウンターパートが来たのでホッとして雑談したり、月の話をしたり。
その中で岩倉は桜野たちの乱闘を苦笑交じりに話のタネにしたのだが・・・
富原「桜野ォ!」
居酒屋全体が響いて震えた。
すぐ隣に座っていた岩倉の右耳から左耳に駆けぬけたその音声は岩倉の脳みそを震盪させた。
みなクラクラ来て目がちかちかしたが、気づくと桜野曹長が営内班長に呼びつけられた新隊員のように直立不動で立っていた。
「ハイ、桜野曹長ォ!」
富原「お前ぁ、制服着て喧嘩したんかァ!」
「はい!しました!」
富原「民間人の前でか!!」
「はい、たくさん来ておられました!!」
警備3中隊はじっと蛇ににらまれたカエルみたいになって、二人を眺めている。
富原「勝ったんかぁ!」
「勝ちました!!」
富原「ヨシ!!」
54連隊の3中隊が一斉にワぁっと沸いた。
連隊3中隊の隊員が警備3中隊に一斉に酌を始めた。
べろんべろんの吉川が「おい、ビジン。俺の詫び酒飲んでくれ。」と加勢に注ぐ。
ふらっふらの兎内が「すまない。あれ以来、人にフニャ棒刺せないんだ・・・」と津志田に詫び酌にくる。津志田「それはそれで弱えな。」
金澤が大谷に「刺撃の極意あるんすか!」と酌にくる。
大盛況だなあぁ。若いっていいなぁ。
ひとり、うんうんと頷きながら酒を飲んでいる徳田のもとに店員がやってきた。
「あの、お客様・・・もう少しお静かになりませんか。」
徳田曹長は「あーこの人たちと3か月、シャックルトンかぁ・・・」とうなだれた。