月面戦闘車シュワルツコフ
20mm超電磁砲搭載
弾薬60発
9トン
航続距離は100キロ
巡航速度 時速20キロ
最大速度 時速50キロ
月面ロケット飛翔機(ホッパー)
ジャックラビット
7.62mm超電磁銃一挺
1960kg
弾薬200発
最大飛翔高度60m
飛翔回数最大18回
滞空時可能推進距離最大5キロ
「へー…凄い。」
ポスト・トランプのモータープール(軍駐車場)に停まっている車両やホッパーを研修する警備3中隊。
「しかし、もらったはいいが。誰が操縦するんだ。」
「そもそも何の免許でイケるんだ?」
「月面だと原付もってればオッケーらしいですよ!」
アームモニタで検索した加勢が、ホッパーのフロントをなでながら飛び跳ねる。
月面車両(飛翔車含む。)は一般の交通状況下で使用しない上に、月面での検定が事実上不可能なため、月面で勤務する公務員に限り、なんらかの車両免許さえあれば、慣熟運行することで乗ることができる。
保険に関してはその都度申請し、それぞれ運行する公務員の所属官庁が発行する。
津志田「原付でいいんか。見た目とのギャップがエグい。」
「法律上可能でも、これは練習しないと無理だろ。」
シュワルツコフはキャタピラではなく、6輪車で、タイヤはチタン合金で編まれたワイヤで作られている。レゴリスを踏みしめ、うまく噛み合う。
ホッパーは四輪で地上を移動しながら、ロケット噴射で飛び上がり、滞空中に空中を移動できる。
下方噴射を調節すれば、滞空時間も延ばせる。
免許自体は大丈夫なのだろうが、じゃあ誰が持ち帰るのか。
ちょっと揉めたが、車両運用員の峯田1曹、整備員の中村2曹がシュワルツコフ。システム員の倉田2曹がジャックラビットを持ち帰ることに。
バッテリー駆動なので、燃料については問題ない。
弾薬や作動油は後から米軍にもらいに行かなければならない。
アームモニタにダウンロードされた890MB、10000ページ相当のマニュアル(日本語化されているが)に頭痛を覚える峯田達であった。
―射撃訓練―
シャックルトン基地のリム側に射場はある。
45式3.5mm超電磁自動小銃は月面では2キログラム程度。
超電磁銃は通常の銃よりも反動が大きくなるため、月面射撃において20式小銃の反動と同等程度になるよう威力調整されている。
それでも3.5mmのアーマチュア弾で7.62mm完全装甲弾以上の殺傷力を持つとされる。
希薄な大気密度ゆえ空気抵抗がほぼゼロ。重力加速度は1.6。月面の射撃が始まったのが約18年前。
まだまだ人類は月に慣れていない。
研究途上であるため、月面射撃にはメーカーの研究員や学者がたびたび立ち会う。
「ブーラボー!」
ジャパン製鋼の主任研究員佐久間が飛び上がって喜ぶ。しばらく落ちてこない。
七色に染色したセミロングにピンク縁のサングラス。服だけはキチンと白衣を着用した男。月に異物。
天井近くから佐久間が採点システム係に尋ねる。
「面白弾道。最高にアガるよね!あの3番の射手はどなた?」
佐久間のテンションについていけない大谷が答える。
「加勢士長です。」
「いいね!彼にあとで話を聞きたいけど、いい?」
「加勢士長は女性です。」
射撃指揮官の岩倉が答える。
「なおさらヒーホー!失礼、その加勢士長に…あれ?あの子!あのデカい子!あの子にも話を聞きたい!」
「川路1士ですね。」
「彼女も呼んでくれます?惚れ込んだわ!」
「川路1士は男性です。」
「なおさらヒーホー!」
性別は関係ないんだ。
射撃管制所の勤務員たちは皆思った。
あと、あんなデカい女はいねえ。
―射撃管制所の一室―
「加勢士長ほか1名の者、入ります!」
「どうぞどうぞ、はいっちゃってー!自衛隊さんは失礼しにこないの、面白いよねえ!」
二人が部屋に入り、敬礼するのを佐久間はとめた。
「僕、自衛隊じゃないから隊の挨拶はナシね。されても困っちゃう。」
加勢と川路も困った。おろおろしていると佐久間が「座って座って。」と着席を促してくれた。
「失礼します。」
加勢が座ろうとすると佐久間が「あ、そこは失礼するのね。」と。加勢は座るのをやめて気をつけになり「す、すいません!そんなつもりは!」
佐久間が「ごめんね!ささ、どうぞ座って座って。」
川路が加勢を促し、ようやく着席した。
机の上には45式小銃が置いてある。
民間人、それも奇妙なファッションの男性を前に加勢はガチガチに緊張している。
「あらあら。そんなに緊張しないで。」
「ハイ!」
加勢が大声で応える。
川路「加勢士長。ひそひそ話くらいで…」
加勢「うん、わかった…」
佐久間「早速だけど。あなた達の弾道ね…」
「す…すいませんでしたああああ!」
加勢が両手を机について額をこすりつけた!
川路が加勢の両肩に手を置き、加勢と佐久間を交互にみる。
川路「か、加勢士長…!?」
佐久間「なんだかわからないけど、謝ることないのよ。でも、なにがあったの?」
「は、反動が怖くて腰がひけてました!」
「それだけ?」
加勢は見破られた!という顔になり続けた。
「すみません!反動が怖くて連射じゃなくて単発にしてました!」
「それだけ?」
加勢は見破られた!と、続けた。
「射撃前点検でレール清掃をやりませんでした!」
「それだけ…って。加勢さん。私はあなたが隠し事してるかどうかなんてわからないから、「それだけ?まだあるんじゃないの?」とは聞いてないのよ。」
佐久間はクスクスからゲラゲラ笑った。
川路「加勢士長、落ち着いてください。」
加勢は佐久間を見上げ、安堵の表情になる。
「良かった…コイルチューバーの連動桿の段階を中のまま撃ってU型レバーが斜めったのを無理やり戻して撃ったのも…」
「ちょっとアンタなにやってくれちゃってんのー!」
佐久間のレインボーヘアが怒りで逆立った!
「ひぇッ!」
「45ちゃんはネ!頑丈に作ってるけど、コイルチューバー周りだけはどうしてもデリケートちゃんなの!最初の教育で習ったでしょ!」
「うひぃ」
川路が加勢の両肩をしっかりつかんだ。
のけぞって浮きかねない。
「あれ?でも、コイルチューバー…U型レバー…。どんな角度だった?」
「も、もう二度としません!」
「もっペンやってみてくれる?」
「へ?」
「そもそもU型レバー無理やり戻したって言うけど、どうやったの。宇宙服着てるから、お手々がグローブでしょ。」
「え、それは…その。」
加勢は新隊員の時にやって、武器運用員に滅茶苦茶のドチャクソに怒られたチョンボを恐る恐る再現した。
「気密服のときは、アームの、この辺の角っちょで、こうすれば…」
川路もこのチョンボは見たことがあるが、月面の実射でやる人がいるとは思わなかった。まあ、確かに撃てなくなったり、危険だったり壊れるとかではないが…
佐久間はしばし腕組みして天井を仰ぎ、考え込む。
加勢は直立し、佐久間のお沙汰がくるまで目をずぅっと閉じていた。脂汗がにじむ。低重力なのでなかなか垂れ落ちない。表面張力で汗が膨らむのがわかる。その感覚が恐怖感を増した。
佐久間が姿勢を戻す。
「なるほど!あの面白弾道、わかったわ!」
45式小銃は制式化する前に幾度もテストされてはいるが、試験環境がなかなか用意できなかったため、他の小銃に比べると十分とはいえなかった。
おまけにユニークユーザーがまだ1000人未満。
初期ロット状態なのだ。
佐久間は加勢の手を握ってブンブン振った。
「ありがとう!ありがとう!隊長さんには内緒にしとくわ!ありがとう!」
佐久間は小躍りしながら部屋を出ていった。
残された加勢と川路はぽかんと口を開けて見送った。
川路「俺はなんで呼ばれたんだ。」