シャックルトン警備隊の訓練は一部中止になり、常時40名ほどが施設改造工事に従事することになった。地球から投入された基地業務群の施設分隊の指揮下に入り、急ピッチで宿舎や生活インフラ工事が進められる。
キャンプシャックルトン・リムはあくまで全域がフロリダで、航空宇宙自衛隊シャックルトン基地はフロリダに建設された自衛隊基地ということになる。
令和22年に条約交渉により、片務条約が改訂され、米国本土への攻撃には日本も参戦することになり、自衛隊の駐屯地・基地が米国に数か所開設された。
従来の横田や座間の一角に基地や駐屯地を間借りさせてもらっている形式ではなく、シャックルトン基地は米国内の基地・駐屯地なのだ。
ちなみに他にも陸上自衛隊のワシントン州のルイス・マコード駐屯地、海上自衛隊のハワイ基地、ディエゴガルシア日米英共同基地などがある。
米国内という建前と実情。それゆえ、基本的なインフラは米国式である。
排水設備、浄水設備、上下水道、配電設備その他諸々は基本的に米国規格で設計されていた。
見た目は日本式の庁舎や隊舎だが、システムはアメリカのもので、基地業務群のエンジニアたちはアメリカの技術顧問の指南を受けながら大改造を指揮した。
隊員たちは来る日も来る日も、レゴリートのレンガを製造し、くみ上げ、強化材で補強し、隊舎を増築。地球から運び込まれる内装をとりつける毎日を送る。
重力1/6の月でこんなに汗をかくなんてなあと、誰もかれもが思う。
日課に定められている朝夕の筋力低下防止体操が筋肉痛で痛い。
「このまま地球に降りても普通に歩けるよ、きっと。」
加勢は加給食のプロテイン飲料を飲みながら川路に言う。
腰に片手を当て、ややのけぞりながらごくごく飲んでいる様が実に加勢らしい。
-大昔のコミックに出てきそうなんだよなあ、加勢士長-
「なに見てんのさ。ほら、飲みな。」
加勢が川路にプロテイン飲料を放って渡す。
給養班に友達を作った加勢は、こういった軽食や飲み物を時々もらってくる。
自分にはないコミュニケーション能力。
まだ勤務は2年少しなのにまるで古参士長のようだ。
「ありがとうございます。」
川路は加勢にならい、片手を腰に当てて背をのけぞらせて飲んでみた。
「アハハ、川路!平成平成!平成のカッコ、それ。アハハ!」
-加勢士長は自覚してないのか-
川路はわざと「ぷはぁ~」と息を吐いた。
加勢が笑いすぎてひっくり返った。
さて、ようやく全員に個室がいきわたる目途がついたころに・・・
「なんだって。あらたに60人来るんだって?」
「重量物ロケットに乗ってくるらしいっすよ。」
「そんなこたぁ聞いてない!」
技術主任の庄司技官は怒り狂う。
60人だと、隊舎がまったく足りない。レゴリート原料、強化材、配管、配線、内装品・・・どうする気だ。人より先に物をよこしてこい。
「あらあら、なにかお困りですか。」
庄司技官が部下にぶつくさ言っていると、背中に声がかかった。
ふりむくと空自の1尉が立っている。
ひまわりみたいな笑顔の女性だ。
庄司技官があいさつをする。
「初めまして。航空宇宙自衛隊の園部1尉です。シャックルトン警備隊の様子をみるために今朝こちらへ参りました。宇宙は初めてなのですが、なかなか快適なところで驚いています。いえ、それは技官さんたちのおかげでしたね。」
「はぁ・・・」
園部が建築を終えた隊舎群を眺めてため息をつく。
「はあ…これはまたすばらしいお仕事でしたね。」
「ありがとうございます。ですが、どうやらもう一仕事あるようです。」
園部がにっこり微笑む。
「そうですね。ですが、いわゆるガワについては心配ご無用です。」
「え、どういうことですか。あの、追加で来るという60人の宿舎の話なのですが。」
園部がうふふと笑う。「そうです、その60人です。」
シャックルトン基地近傍の着陸広場。
ここは特殊加工されたレゴリート床で覆われ、ロケットなどの着陸場として使われている。
重量物ロケットからの物資搬送支援のため3中隊と4中隊の50名が呼ばれた。
その中には非番の大谷達がいる。
月から仰ぐ天空。はるか遠くに地球が輝き、片方は闇に星が散らばる。
ヘルメットの遮光モニタグラスで修正された映像ではあるが、いつ見ても圧倒される。
ほどなくしてマラベール山から4つの光が見えてきた。光は次第に近づき、その姿を現す。おにぎりみたいな巨大な金属の塊が青白く淡い火を噴いて飛んでいる。
アメリカから購入した重量物ロケットHLVだ。
「おいおい、まだ大きくなるぞ。」
空気がないため、地球と異なる遠近感に皆が驚く。だまし絵のようにHLVはどんどん大きくなる。
直径20mの巨大宇宙運搬船、HLV。
隊員たちの度肝を抜き、次々に着陸していく。レゴリート床の上に着陸するのだが、わずかながら積もっているレゴリスが巻きあげられるため、隊員たちは退避壕に隠れた。
ぱらぱらとレゴリスが降ってくる。数分して落ち着いたころに「前へ」と指示があり、隊員たちは退避壕から出てHLVの前に並ぶ。
HLVには「陸上自衛隊」と書かれてある。
岩倉と徳田がわずかに飛び跳ねる。
HLVの巨大なエアロックハッチがゆっくり開き、まず隊員が出てきた。
次いで、器材が出てくる。
見たことがない車両がぞろぞろ続く。
さまざまな新器材。しかし共通点がある。
どの車両もバンパーにあたる部分に「54普連」と標記されており、車体側面には「楠」の文字が大書されていた。
岩倉と徳田がごくりと唾をのむ。
大谷「奴らが来たぞ...」