シャックルトン基地の先任室。
徳田は4中隊、54連隊からのアンケートを仕分けていた。
津志田3曹、村田士長、加勢士長、川路1士に手伝わせている。
津志田「えー読み上げます。54連隊。銃剣道25票、短剣道9票、徒手格闘6票、刺撃2票、模擬戦1票」
徳田は腕組みしてニコニコしている。
「俺、安全なスポーツを選べって言って渡したよね。」
「アンケート用紙に書いてます。」
村田士長「なんで殺しあおうとしてんのこいつら。」
川路「えー、4中隊いきます。ゴルフ35票、体力検定15票、七並べ29票です。」
徳田は腕組みしてニコニコしている。
「俺、月でやれるスポーツって言って渡したよね。」
「アンケート用紙に書いてます。」
「ゴルフの球、2kmくらい飛んじゃうよ。そもそもなんでゴルフが一大勢力なんだよ。」
村田士長「おおかた中隊長が好きなんでしょう。」
徳田「体力検定って。腕立てと腹筋と3km走?3kmどこ走るんだ。基地内だと200mトラックが一か所あるだけだし、月面を気密服じゃ満足に走れない。七並べは七並べでスポーツじゃない。」
加勢「えー3中隊読みまーす。ドッヂボール18票」
徳田「やっとスポーツっぽいのが出てきた。」
「人生ゲーム5票、金太郎電鉄9票、腕相撲10票、射的8票、輪投げ1票」
「俺、スポーツって言って渡したよね。」
「アンケート用紙に書いてます。」
「輪投げってなんだまったく・・・」
加勢が勢いよく手を上げる。「はい!それ私書きました。」
津志田「輪投げはお前かよ。それより金太郎電鉄99年やろうぜ。中国人を借金まみれにしてやろう。」
川路「腕相撲はギリギリスポーツかなと思いまして。」
徳田「川路は柔道と書かなかったので、それだけでえらい。」
加勢がどこに持っていたのか、輪っかを取り出す。
「先任、みててください。」
輪っかが加勢の手から投げられ、ふわっと先任の目の前をよぎった。
ドアノブにみごとひっかかる。
「ほう、うまいもんだな。でもこんなの誰にだってできるだろ。」
先任が輪っかを回収してチャレンジするが、月の重力ゆえ、なんどやっても飛びすぎる。力加減が難しい。
「先任、こうやるんです。川路、天井指さして。えや!」
輪っかは川路の人差指にみごと引っかかる。
川路がひゅうと口笛を吹き、加勢はガッツポーズ。
村田士長は生まれて初めてガッツポーズをリアルにする人物を目にした。
津志田「お前、こういうの得意だよな。宇宙人。」
へっへーん。人差し指で鼻の下をこする加勢。
徳田「加勢が得意なのはわかった。でもさすがに輪投げはダメだ。」
「えーダメですか。なんでですかー」
「なんででもだ!これは中国軍との親善試合の競技だぞ。自衛隊が輪投げなんか提案できるわけないだろ。」
川路「まあ、さすがにそうですね。」
加勢は口をとんがらせて「ぶーぶー」と鳴く。
津志田も村田も加勢が不満なんだなと一発でわかった。
-広寒中心基地-
「趙上尉、入ります。」
「入れ。」
覗き窓から地球を眺めていた劉が趙に顔を向ける。
「揃ったか。」
「揃いました。」
「で、どんなもんだった。」
「読み上げます。刺殺術88票、禽敵拳69票、散打演習55票。」
「待て待て、上尉。私は安全なスポーツと言ったよな。」
「アンケート用紙に書いています。」
「どうせ歩兵部だろうが。殺し合いをしたいのか。一応これ、友誼戦だからな。」
劉はこめかみを拳でぐりぐりしてため息をつく。
「趙上尉続けろ。」
「ゴルフ44票。」
「待て待て。」
「スポーツでは?」
「何km飛ぶと思っているんだ。」
劉は目頭を右手でぐりぐりしてため息をつく。
「続けろ。」
「憋七(七並べ)8票。」
「待て待て。」
「まあ、これは私もさすがにどうかと。」
劉は両手で頬をぱんぱんと叩く。
「続けろ。」
「套圈(輪投げ)1票」
「・・・」
「以上です。」
「あきれてものも言えないが。」
「ちなみに套圈(輪投げ)は王宇軒中士です。」
「あのC位か。」
趙はどこに持っていたのか輪っかをとりだした。
「先ほど自分もやってみたのですが、これがなかなか。」
趙がコートハンガーの枝めがけて輪っかを投げるが外れて跳ね返ってきた。
劉「なんだ。へたくそだな。」
劉が挑戦するが、全然明後日の方向に飛んでいく。
「子供のころにやったことはあるが、月だとなかなかコツがいるようだな。」
「そうなんです。」
「まてよ。王中士はこれが得意なんだな。」
「ええ、そりゃもう。万無一失(百発百中)の穏操勝券(勝利確実)です。」
劉は覗き窓から地球を眺める。
「うーん。」
-シャックルトン基地-
徳田のアームモニタに警備隊本部からの通信が入った。
「親善試合種目の中国側要望について。」
中隊長室に徳田が駆け込み、報告する。
「本部からきました。」
「あいつらどうせ功夫とか太極拳とか言ってくるんだろうな。」
「いやはや」徳田が緊張している。
岩倉「どれ、開いてみよう。」
徳田曹長が通信欄の受信ボタンを押す。
二人がモニタをおそるおそるのぞき込む。
「中国側要望は下記種目である。」
-わなげ-