炊飯器と冷蔵庫   作:すりーみにっつ

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昭和〜建徳

シャックルトン基地に米軍がなかなか配置されないことの最大の理由は受入れ施設がないことに尽きる。

器材は基地外に置けるとしても、それを動かす将兵を受入れる居室やインフラがない。

なにせ4中隊と普通科小隊の受入れでさえ一苦労だったのだ。

また、器材だって基地外にはなるべく置きたくない。

強烈な放射線、100度を超える気温など、それらを前提に作られているとはいえ基地内の格納庫の方が保管には適している。

 

しかし月面情勢の悪化から、米軍は兵器・器材をあらかじめシャックルトン基地に送り込むことを決定。

 

シャックルトン基地は米軍の要請をうけ、器材置き場とするため、営庭や倉庫などをたたむ作業を行う。

 

これは3中隊が警備に出払っている間に4中隊と陸自作業員が2日がかりで完成させた。

 

3中隊が警備から戻ると営庭や見慣れた倉庫群は消え、かわりに米軍のものものしい兵器がズラリと並んでいた。

 

「流石、米軍はモノが違う。」

皆が口を揃えておどろく。

自衛隊がもたない種類の装備の展覧会のようだ。

 

友軍の装備がせっかく並んでいるということで、米軍の保守管理要員に説明会を開いてもらうことになった。

 

と言っても、保守管理の軍属はぷらぷら歩いているだけで、勝手に見学。聞きたいことがあったら軍属に尋ねるフリーシステム。

 

園部1尉と重原准尉も3中隊に混ざって見学をしていた。

 

しかめっ面のまま終始無言の重原准尉。

何を見ても「凄いですねえ。」とニコニコ笑う園部1尉。

 

それを遠目に見るいつものメンバー

津志田「足して2で割れ…!」

六会「少し園部1尉寄りでお願いします。」

加勢「私は重原准尉寄りがいいな。」

 

「そうだ!」

加勢はぼーっと立ってる川路のすそを掴んで重原准尉に近寄っていった。

 

「すいません重原准尉。」

重原が加勢の呼びかけに「ん?」と面倒そうに振り向く。

振り向いたら大男の顔。女の子がいない。

下を見たら加勢がいた。

 

「重原准尉は昔、何やってらしたんですか。」

「高射。ナイキ扱ってたよ。」

「ナイキですか!」

加勢の反応は声だけ一級品だ。

 

スポーツメーカーしか知らないって顔だな…

 

「わからないと思うから説明すると、ペトリオットの前の対空ミサイルだよ。」

「ペトリオットですか!」

一級品の声が返ってきた。

知らなさそうだな…

 

「ところで加勢士長?加勢士長は何年入隊なのかな。」

「建徳4年です!」

「君は?」

川路「建徳6年です。」

重原准尉は薄々知ってはいたが、ショックを受ける。額に手を当て、顔をゆっくりふり、心を落ち着かせる。

「ペトリオットはね。ヴァンガードシステムの前の対空ミサイルだよ。」

「ヴァンガードですね!」

重原はこの子、絶対わかってないと確信した。

ヴァンガードシステムも最近はグラディウスMOD2に更新されている。

 

園部「私が最初に部隊配置されたときはヴァンガードの発電小隊長でしたよ。」

加勢「すごいですね!」

園部「そういえば、あのときはまだ89式小銃でしたよ。」

展示の米軍の宇宙用小銃をなでながら園部が懐かしそうに語る。

 

川路は分かっている。加勢がなにも理解していないことを。そもそも何故重原准尉に突っ込んだのか。

 

「あれ。あれは実に凄いですね。」

重原がまじまじ見ているのは日米共同開発の低重力下装甲機動戦闘システム

Low-gravity Operational Warfare Mobile Armored Combat System

略してLOW-MACSだ。

 

「私が自衛隊に入った頃にちょうどこういうロボットのゲームがありましてね。そっくりなんです。まあ、このロボットは複座ですが。」

 

園部「地球で開発が始まったのだけど、どうしても滞空時間が実現できずに御蔵入りするところだったのが、月面ならばと、開発が再開して完成した。らしいですよ。」

 

川路「重原准尉の入隊というといつ頃なんでしょうか。」

「平成8年だったかな。」

 

遥かな歴史の彼方だ。加勢がめちゃくちゃうれしそうだ。

「重原准尉の生まれはいつですか!」

「昭和52年だよ。」

加勢は目を丸くして小躍りする

川路は薄々気付いていたが、ちょっとショックを受けた。

 

20数年あった令和の前に30年にわたり横たわる平成のさらに前の元号。

戦争のあった世紀!(と言っても重原はもちろん体験していない。)

ネットやAIはおろかコンピューターもあったか怪しい原始時代。(もちろんコンピューターや一部ネットはあったが、建徳時代の人々の昭和解像度は低い。)

 

加勢「マンモス世代の方ですか!」

重原は苦笑いする。

「ひょっとして氷河期世代のことかな。」

 

前を村田と王が横切った。

この間は一触即発のにらみ合いをしていたが、今日はアームモニタにお互いのVOCASONを呼び出して喧々諤々議論をしている。

 

劉達はキャンプシャックルトン・リムに送られる予定だったが、結局航空宇宙自衛隊シャックルトン基地にとどめ置かれている。

 

米軍が拒否したのは防諜が理由だろうと言われている。

劉が本国を通じて抗議したため、シャックルトン基地側も拘束ができず、監視役の隊員と行動させるという折衷案が実行されていた。

 

監視役は常にモニタを起動して同行するのだが、王の監視役村田士長は発声クミを3次元投影して王に見せていた。

それに王があれこれ論評を加え、熱の入った議論になっている。

 

「君たち!」

重原が村田と王を呼び止めた。

「それはもしかして発声クミじゃないか。」

 

村田と王が顔を見合わせる。

「そうですけど。」

重原は深呼吸して大きく息を吐いた。

「まだ現役なんだ!」

 

発声クミは平成17年にリリースされたVOCASONの草分け的存在である。それから令和まで息の長いヒットが続いていた。

 

「流石に現役ではないです。自分の場合はクラシックなデジタルコンテンツが好きなのでモニタに入れてるんです。」

 

「三浦半島の御当地キャラがこんなにまで愛されるなんてねえ。」

「え、御当地キャラなんすか!?」

村田と王がシンクロして驚いた。

 

「発声クミって大根もってるだろ?」

「昔の少年漫画ネタと融合したからなんでしょ?」

「いや、製作チームのリーダーが三浦半島の発声ってとこの出身なんだけど、そこが大根の産地なんだよ。少年漫画のネタと融合したのは確かなんだけど、リーダーがことのほかそれを気に入って公式にも取り入れたんだよ。」

 

村田と王が狼狽している。

こんな白髪の老人にまさかデジタルコンテンツの深掘り話を聞かされるとは。

 

いや、よくよく考えたら老人ほどリアルタイム勢なので詳しくてもおかしくはないのだが、建徳の時代でも老人はデジタル音痴のイメージが強かった。

 

まあ、重原はたまたま発声クミを若い頃知っていたので詳しかっただけで、デジタルは音痴である。

 

王が「これは?これは?」と温州ミカを呼び出す。

重原には温州ミカに見覚えがある。

たしか発声クミの後発VOCASONでそこそこ有名だったはずだ。

 

「えっと、みたことはある。紅玉リン…違うな。」

村田と王は「紅玉リン」と、聞いて大興奮する。

温州ミカの次にリリースされたVOCASONだが、優れた性能であったにもかかわらず、すぐに消えていった悲運のキャラなのだ。

 

ようやく重原は温州ミカのパッケージの絵が頭の中で像を結んだ。独特のフォントで温州ミカと書かれたパッケージだ。

「温州ミカ。そうだ。温州ミカだろう?」

 

村田と王がわあっと大喜びして重原にハイタッチしてきた。

重原は勢いでハイタッチに応じるが、正直なんだコイツらとしか思っていない。

 

津志田達もやってきた。

重原准尉の昔話を聞いて加勢が腕組みして「ふふーん!」と勝ち誇った表情だ。

津志田「なんでお前が得意げなんだよ。」

 

「あ、津志田3曹って免許証もってます?」

「もってるけど、なんだよ。」

津志田が取り出した自動車運転免許証

 

建徳2年12月9日鹿児島県公安委員会交付

中型自動車免許(10t)

大型車は自衛隊自動車に限る

手動運転は自衛隊自動車に限る

 

「これがどうした?」

加勢がニヒッと笑って重原准尉に話しかける。

「重原准尉!すみません!准尉の免許証見せていただけますか!」

 

村田と王のテンションについていけなかった重原はこれ幸い加勢に免許を差し出した。

「これがどうかした?」

 

建徳6年7月23日東京都公安委員会

大型自動車免許(H9.8.24)山口県公安委員会

抗認知症剤服薬

 

 

「凄い!!」

「シンプル!!」

「平成9年からゴールド!!」

川路「自動も手動も制限がない免許は初めてみました。」

 

加勢「重原准尉、あの。」

「なに?」

「昔の人って、AIなしに運転してたじゃないですか。」

「そうだね。」

「事故おきますよね。人間だと。」

「起きるね。」

「起きてたんですか?」

 

令和晩年にはレベル5自動運転車が普及している。

加勢の世代は物心ついた頃にはレベル4自動運転が常識となっており、年間の交通事故数は令和初期に年間30万件、死者3000人ほどだったのが、建徳元年には事故件数1万件、死者は20人にまで減っていた。

 

重原は遠い記憶を呼び起こす。友人が交通事故で死んだことを思い出した。

思わず苦い声がでる。

「起きてたよ。毎日。今にして思えば人の命は軽いものだったね。」

 

加勢はハッとした。

―聞いちゃいけなかったかな―

いつぞや川路に「女を安売りしてはいけない。」と、たしなめられたときに感じた、なにか悪いことをしたような自己嫌悪感がむくむくわいてくる。

 

「加勢士長」

重原准尉がじっと加勢を見つめる。

 

「ハイ!加勢士長!」

怒られると思ったか、加勢は気をつけをして声を張り上げる。

勢いで重原がひっくり返りそうになる。

 

「なんでそんなに大声なんだい…」

「ハイ!申し訳ありませんでした!」

 

なんで謝られているか重原はイマイチわからなかったが、若い人にはたまに話しかけるだけで謝られる事があるので、いつものことと言えばいつものことか。

 

「いや、昔の話もいいけど、若い人はこれからのことをもっと学ばないといけない。米軍の武器がせっかくあるんだから、もっとそちらを見ないと。」

「ハイ、加勢士長ー!

 ほら、川路!あのロボット見に行くよ!」

「ハイ、川路1士!」

加勢は川路を引っ張ってLOW-MACSを見に行った。

 

園部「にぎやかな子、行っちゃいましたね。」

重原「元気が一番なのは建徳でも同じで何よりです。」

「ちなみにですけどね。」

園部がニコニコ顔を重原にむける。

「なんでしょうか。」

「私の祖父ですが。昭和52年生まれなんですよ。」

そういうとアハハと笑いながら園部もどこへやら。

見学の人の波の中へ消えていった。

 

「そうで、ございますか。」

重原は近くの柵に腰をおろして深いため息をついて、天井をみあげる。

天井には月の天空が投影されており、相変わらず地球は輝いていた。

 

「へへ。俺がねえ。宇宙に。それも月にいるなんてねえ。」

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