「我々に武器をよこせ。我々も戦うのだ!」
第2倉庫の臨時3中隊本部に劉達が押し寄せてきた。
「おまえら日本にはいろいろ思うところもあるが、こたびは一飯の恩もある。それに攻めてきているのは偽華の楊だろう。やつらの首は我々にとらせてくれ。」
岩倉1尉に詰め寄る劉
-ああもう、こんなときに!-
趙「岩倉大尉、ここは呉越同舟と行きましょう。一人でも兵士が欲しい時ではないですかな!」
-いや、そうなんだけどさ。アンタらに武器渡したりしたら、あとから処分くらっちまうよ!-
「劉隊長、武器は余っているようです!」
劉の部下に武器庫にしていた一室を発見された。
中隊本部の隊員が劉達に銃を向ける。
「離れろ!」
劉「岩倉大尉、わしらを信用しきれないのはわかるが、背に腹はかえられんぞ。」
趙「そうです。我々もここまで来る途中、あなたの部下たちの苦戦を見ました。」
劉「こうしている間にも、岩倉大尉。あんたの部下が一人死に、一人不具になっていくのだ。ワシらを使え!」
岩倉の肩を徳田曹長がつかむ。「中隊長、さすがにやめておきましょう。国際問題です。国際問題!」
劉「皆殺しに合えば国際問題もなにもないのだぞ!」
ダン!
中隊本部要員の威嚇射撃だ。
劉が思わず尻もちをついた。
岩倉「あなたがたの申し出はありがたいが、自衛隊の武器を部外者、それも他国の軍人に渡すわけにはいかない。」
そのとき、劉が岩倉の両肩をつかんで壁に押し付ける。
「岩倉大尉!正論を言っている場合じゃないのだ!ここだ、ここ!ここだあ!!」
劉が電子戦図上のある区画を指さす。
「ここには民間人や非戦闘員の役人がいるのだろう!お前らが!」
劉が図上の防衛線を指でなぞる。
「この線を抜かれたら、ここにこもる連中は皆殺しなのだぞ!」
趙「いや、殺されるならまだいい方です。詳しく説明できないが、脳から情報を抜きとられて殺されることもあるのですよ!」
岩倉が拳をめちゃくちゃに振り回して叫んだ。
岩倉「わかっています!わかっている。わかってるんだよ!!」
劉「いいや、わかってない!柳沢るり子がここにいるんだぞ!!」
劉のこめかみに浮きたった血管はまるで迷路のようだ。
いまにも血管はやぶれ、血を噴き出しそうな勢いでまくしたてる。
柳沢るり子の名を聞いて岩倉がひるむ。
劉の手をふりほどいた。
「あらたに負傷3名。さきほど下がった七瀬3曹のバイタル消失。」
倉田2曹が淡々と被害を読み上げた。
徳田「中隊長、中隊本部から2名増援しましょう。」
岩倉は苦々しく許可した。
劉「わかった。もう何も言わん。無理を言った。立場が逆ならわしも外国人に銃を持たせるわけがない。」
岩倉は無言で劉を見つめる。
劉「だが、一飯の恩だけは返すぞ。わしらは民間人区画に行く。鉄パイプでもなんでも持って警護に当たる。お前らは安心して戦うといい。」
趙が静かにうなづく。
-この警護で楊の軍隊から民間人を守れば。そして我らに戦死者が出れば。その時は日本人も我々を信用してくれるだろう-
突如、倉田が叫んだ。
「米軍がきました!米軍のロボ兵器が敵を蹴散らしています!」
倉田が大スクリーンに映像を出す。
そこにはLOW-MACSがローラー滑走で道路上の敵兵を文字通り蹴散らしている様が映っていた。巧みな操作で路上にジグザグを描き、過ぎ去りざまに足で敵兵を轢き、体を傾げて長い砲身で敵兵をなぎ倒し、飛んだかと思えば着地し、逆噴射で敵兵をまとめて吹き飛ばした。
岩倉も劉も。いや、その場の全員が魅入ってしまった。
それは兵器の動きではない。あたかもフィギュアスケートの舞のようだった。
劉がゆっくり跪き、地面に両手をついた。
「・・・これで。・・・これで柳沢るり子は助かる。」
その両目から涙が零れ落ちる。
その静かなつぶやきを岩倉は聞き逃さなかった。
徳田曹長を呼び、なにやら指示をした。「え、それは。大丈夫ですか。」
しばらく徳田曹長は難渋な顔で中隊長になにか反論めいたものをしていたが、やがて劉達に顔を向けた。
「劉大校。銃を貸し出します。あなた方にもご助力願いたい。」
徳田は中隊本部の隊員に命じて劉達に銃を用意させた。
「使い方は若干普通の銃と異なるので、使用法は短切に教えます。」
劉達は自衛隊の銃をまじまじ見て、触る。人民解放軍宇宙軍のQBZ-31式無後座力自動歩槍(低反動自動小銃)とはまるで違う作りだ。
劉「岩倉大尉。恩に着るぞ。」
岩倉「今はあなたを信じる。」
劉「期待に応えよう。」
岩倉「劉大校も柳沢るり子をご存じのようだ。」
ふと、劉は言葉に詰まった。
岩倉「彼女は私の婚約者なのだ。あなたに守ってもらいたい。」
劉「え」
趙がちいさく「アイヤー」と叫んだ。
岩倉「我々は絶対にそこに敵を近寄らせないつもりだが、民間人はさぞ心細いだろう。劉大校、頼みます。」
劉が天井を仰いでハハハハと笑う。
「癩蝦蟇想吃天鵝肉(ヒキガエルが白鳥の肉を食べようとする。身の程知らずに高嶺の花を得ようとする人を皮肉る言葉)」
岩倉「なんと?」
劉「いや。なんでもない。おまかせあれ。」
劉は踵を返し趙に部下を並ばせた。
劉「保華援沙義勇軍(真の中華を守り、シャックルトン(沙)を援ける義勇軍)。総員8名。岩倉大尉。守って見せよう。」
そういうと劉達は民間人区画に駆けて行った。
-10分ほど前-
加勢は川路の肩に乗せてもらい、LOW-MACSの操縦席になんとか座れた。
アメリカ人サイズの席にふかぶか腰かける。
「どれどれ」と、操作盤や席の周りを見回すと書いてある注意書きは当たり前だが全て英語だった。
「英語!」
登ってきた村田士長がコネクタケーブルを取り出して接続してくれた。
接続し、スイッチを入れると体に軽く電流が走った。ビビッと2~3度。
するとモニタに「Unregistered crew member」と浮かぶがすぐに「未登録乗員」と日本語にかわった。続いて「Friendly crew member(友軍乗員)」と出て、また軽く電気が走った。
すると「Registration complete(登録完了)」と出た。
加勢の脳裏に不思議と操作のイメージがわく。
席が動き、加勢の体形にあわせた位置で固定される。
レバーやペダルが意思があるかのように加勢の手に、足に添ってきた。
「米軍すっご!!なにこれ!!」
王「準備はいいか、加勢さん。」
加勢「よくないけど、いい!行こ!」
加勢は操縦手で王が射撃手だ。
王「あ、そっか。」
加勢「どうしたの!」
王「弾がないや。」
加勢「大丈夫!大砲の角度とか操作して。私があいつらに近づくからホームラン打って!」
まかせろ!
と王が言うや否やLOW-MACSは飛び出した。
村田の通信が届く。ノイズ混じりに「がんばーれー!」の声が二人のヘルメット内に響いた。
レバーを傾け、三つあるフットペダルを順繰り踏んでみる。
なるほど、なぜかわからないが、思った通りの動きをしてくれる。
LOW-MACSはレバーとペダル以外に、加勢の姿勢も読み取るようで、意図した姿勢の変化が機体の動きに反映する。
不謹慎ながら「おもしろい、これ!」と強く思わざるを得ない。
眼前に路上で射撃をする敵がいる。脚部ローラーで引っ掛けると敵兵は吹っ飛んでいった。強い罪悪感や背徳感が加勢を襲う。
「でもあいつら多分、アンドロイドだし・・・」
「加勢さん。あいつらアンドロイドだ。仮に人間でも放っておいたら君の仲間がどんどん死んでいくんだぞ。」
「そうだよね!」
加勢が走行中の機体を右に傾ける。すれ違いざまに王が砲身で敵兵を殴り飛ばす。
敵兵は面白いように飛んで行った。
「ホームラン!」
ときおり被弾する音がするが、ノイズキャンセラのおかげか気密服のおかげか、びっくりするような音ではない。
サブモニタに機体の線画が表示され、弾が当たるたびに被弾箇所が示されるが「No Damage」と出る。
王「装甲が厚いというより、着弾時に体をひねって受ける機構があるようだ。」
加勢「時々勝手に細かく動くのそれだったんだ。」
LOW-MACSがジャンプをする。敵の弾が空中の機体を追うが、逆噴射で急制動をかけたLOW-MACSは噴射ノズルを地上の敵に向けて着地コースに入る。
地上2mの位置で噴射すると敵兵はまとめて吹き飛んだ。
ゆっくり着地するLOW-MACS
-第2倉庫-
「ええええ」
岩倉が絶叫した。
倉田2曹「間違いないです。あのLOW-MACSには加勢と中国の兵士が乗ってます。」
情にほだされ中国兵たちに銃を貸し出したことに加え、今度は米軍兵器の無断使用。
「クビだ・・・」
しゃがみこんで両手で顔をおおう岩倉。
徳田曹長が一緒にしゃがみこみ、肩に手を置いた。
「中隊長。命あっての物種と考えましょう・・・」
-LOW-MACS-
LOW-MACSは雨宮3尉の警備地区にも進出し、つぎつぎに
「もうね、あとでめちゃくちゃ怒られて首になるかもしれないけど!ここまできたら3中隊も4中隊も助けちゃる!って感じ!」
「加勢さん。こんな言葉がある。「勝利に勝る弁明なし!」」
「すごいね王さん。中国のことわざ?中国人みたい。」
「ワタシ中国人アルヨ!あと中国のことわざじゃなくて、日本の大昔の漫画のネタコマだよ。」
「漫画なら私もそういう意味のセリフ知ってるよ。「勝てばよかろうなのだあああ!」」
「加勢さん。それ敵のセリフね。」