炊飯器と冷蔵庫   作:すりーみにっつ

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大復活

「行っちまったな。」

しゃがみこんだ大谷3曹が、おなじくしゃがみこんだ川路の肩をポンとたたいて言った。

「飛んできましたね。」

勢いよく飛び出たLOW-MACSは面前の敵を蹴っ飛ばしていった。

-加勢士長、あまり無理しちゃいけませんよ-

 

大谷達の部隊は米軍の装甲車両のそこかしこに身を隠している。

山本1曹は負傷し、後方に引きずられていき、今は栗林2曹が部隊の指揮を執っている。

 

「あれが車両?加勢はあれに乗ってんのか!」

機関銃を装備した装甲車両にでも乗るのかと思っていた栗林2曹は度肝を抜かれた。

「そういやあいつ、まだ運転免許証もってないよな。無免許じゃねえか!」

「栗林さん、それ以前に、あんな米軍の最新兵器を勝手に乗っていいですかね。」

「いいわけないだろ。いいぞ乗れ乗れって言っちまったのは俺だ。クビか・・・」

背後に村田士長が現れる。

村田「栗林2曹、俺も一緒に首になりますよ。」

栗林が村田の気密服の突起をつかんで乱暴に引き寄せる。

「おめぇ、だましたな!」

村田「だましちゃいませんよ。あのロボットはあくまで車両扱いです。」

栗林の手に力が入っていく。

村田「それに、命拾いはしましたよね。」

 

まあまあ

 

大谷が割って入り、栗林2曹と村田を離す。

「村田士長、お前なんで加勢があげにロボット操作できると思ったんや。」

栗林「そうだ、それだ。何を根拠に。」

「栗林さん、陸自のショベルを動かしたことありますか。」

栗林「なんで今そんなこと聞くんだ!」

大谷が栗林2曹の胸に手を当て、まあまあととりなす。

栗林「まあいい。こないだ外の作業でちょっと手遊びに使わせてもらったが、あんなもん動かせるもんじゃねえな。」

大谷「同じだ。」

 

村田「加勢は初めて扱って操作しきったんですよ。俺は見たんだ。」

 

-5号庁舎の一室-

「岩倉中隊長、それはダメだと思います。口頭じゃ、あとあと突っ込まれます。」

重原准尉が有線回線で岩倉と話をしていた。

「決裁はあとからでいいんです。え?回線が切れて印刷ができない。電子稟議も回せない。そんなことは問題じゃありません。」

重原の口調はあくまで冷静淡々としている。

「ええ、大丈夫です。あとでサインをいただければ。私が作ります。え、どうやって?手書きです。私が3曹なりたてのころ。ワープロが使えないときは手書きでしたよ。え、ワープロがなにかって?まあそれはいいです。」

 

重原は有線回線を切って机に座った。

与圧された部屋。そばに気密服はあるが着ていない。気密服を着ては事務仕事の効率が落ちる。

 

重原の左腕は真っ赤に染まっていた。庁舎窓際を歩いていた時に跳弾にやられたらしい。止血もしてなんとか動く。

 

レターボックスにしまわれたコピー用紙を取り出し、鉛筆、ボールペン、消しゴム、定規。いろいろな文房具を用意した。

 

「命令、通達。4つか5つは起案しなきゃならんかな。」

パイプ椅子に腰を落とし、重原は独り言ちる。

鉛筆を持ち、白紙に定規を当て、文字を書き始める。

「あ」と何かに気付いて重原は後ろを振り向く。

 

体を丸めて頭を両手でかかえて震えている制服の女性が床にいた。

ぐすぐすと泣いている。

 

「園部1尉。岩倉1尉からいろいろと事情を聞きました。例の中国人に銃を渡して民間人保護を依頼した件。あと、3中隊の空士が米軍の最新兵器を勝手に乗り回して反撃しているそうです。」

 

-園部さんよぉ・・・頼むぜ。まるで小学生のうちの孫娘がすねて泣いてるみたいだぜ-

 

床に転がった園部1尉は、震えながら重原准尉をちらりと見上げ、小さくうなづいた。

「足しになるかわかりませんが命令を起案します。なるべく早く作り上げます。後ほどご確認ください。」

園部1尉はきゅっと両目をつぶって顔を伏せた。

嗚咽がきこえてきた。

「死にたくない。」と小さな声で呟いている。

 

-俺だって死にたかないですよ。でもまあ女の子だからしかたねえか。いきなり目の前で俺が撃たれて、隣の奴が死んだらねぇ-

 

重原准尉は特に何も反応せず、鉛筆を動かしはじめた。

しばらくするとエンジンがかかってきたのか、起案のスピードがあがってくる。

 

殺風景な事務室に時折聞こえる女性のすすり泣き。そして鉛筆の音。

 

-なんだかなあ。やっぱ年長者だし何か言わなきゃダメかなあ。苦手なんだよなあ。こういうの-

 

「園部さん。あなたはそんなに気負うことはありませんよ。」

ぴらり。1枚書き終え、次の紙に筆を滑らせる。

「こういう危険なことは年上とか、男にさせておけばいいんです。」

「きっとあなたは平和の中で輝くひとなんです。私がいます。無事、地球に降りることができます。」

「地球に降りて、良い男性をみつけて、結婚して、子供を作って。家庭を築いて。こんな世界の果てで起きた悪夢のことは忘れて生きていけばいいんです。」

 

-そうだよ、そう。園部さんは優しいし、よく気が付くし、なにより笑顔がいい。絶対いいお母さんになれる。我ながらいいこと言ったわ!-

 

園部のすすり泣きが止まった。

 

-よっしゃ大当たり!-

 

「ただ、地球におりるまではご辛抱ください。この重原が守りますので、どうか耐えてください。」

-よし、キメた!-

 

園部1尉がゆっくりと立ち上がった。

恨めしそうな顔で重原をにらんでいる。

 

-あれ、なんか地雷踏んだ?-

 

その時、彼女の頭の中では忌まわしい記憶がよみがえり渦巻いていた。

 

6年前。防衛大学校を卒業したのち、高射隊のヴァンガード発電小隊長に任ぜられた彼女は、さんざんに古参空曹にいじめられたのだ。

 

どんなに苦労して作った計画も、あちこちに漏れがある。ひとつ漏れがあればすぐさまそれをふさぐが、また違うところで漏れがでる。

どれどれと古参空曹が計画を修正するとぴたりと漏れはなくなる。

「なに、最初はこんなものですよ。」と部下の空曹長は言うが、その目は冷ややかだ。

 

ある日、隊長に命令文が非常によくできていると褒められた。

3日かけて作り上げたものだったので素直に嬉しかったが、一抹の不安はぬぐえなかった。

案の定、その命令で実施した実射訓練では途中で不具合があり、射撃が一時停止した。体裁はよくできていた。なるほど訓練の流れもよくできていた。

だが、実際に参加した隊員の技量や性格的特徴などがわからず、適切な配置がなされていないのが遠因だった。直接的な原因ではないが、あきらかに影響があったと彼女は思った。

 

園部3尉は青ざめる。

命令を作る途中、時折訪ねてきた空曹に「こいつにこの器材いじらせるのはよくないと思いますね。」などとやんわり言われる。

 

何を言っているの。誰でも使えなきゃならない器材じゃない。

反発を感じ、彼女はいらだつ。

空曹長もときどき眺めに来ては、なにかと細かいことを言ってくる。

 

無視はできないし一理もあろうと、自分の考えで取り入れられるところは取り入れ修正し、とうとう命令を書き上げた。

 

しかし、実射訓練は一時的にとは言え止まった。

直接的には隊員の技量不足だったり知識不足だったりしたが、あの配置をごり押ししたのは私だ。

フォローにまわる空曹や空士があたりを駆け回る。

私だ。私のせいだ。

 

「小隊長、つったってないで。ほら、あっち。アンタの判断がいる。」

空曹長に肩を押され、よろよろと発電器材にあゆみよる。

もう泣くのを我慢するのが精いっぱいだ。

発電機のレバーに手をかけた若い空曹と空士が近寄ってくる小隊長に視線を向けていた。

その視線が痛かった。

 

「経験がないからな。」

背後から聞こえた。空曹長が誰かと話している。

「経験がないからな。」

ハッキリそう聞こえた。

 

 

嫌な記憶がひととおり駆け巡ったのち、園部1尉はよろよろと重原准尉のとなりの机に両手をついた。

「重原准尉」

「はい。」重原は手をとめず、応答した。

「経験ってそんなに大切ですか。」

 

-わかった。経験不足が園部さんのコンプレックス。ここはやんわり経験なんかそんなに大切じゃないっすよって言っておくか!そもそも俺、年だけ食っててそんなに経験ないしな!-

 

「そうでもありません。邪魔な時もありますね。」

 

 

 

バン!

園部が机に右の拳を打ち付けた。

重原はちらりと見て、何も見なかったようにまた鉛筆をはしらせた。

 

-うっわ、こっえ~!-

 

バン!

「なんだクソ!」

バン!

「わかんねえよ!」

バン!

「紙に書いとけよ!」

机にぼたぼたと涙がこぼれおちる。

バン!

「わかるわけねえだろ!」

バン!

両の拳を机にうちつけ、園部はそのまま机に突っ伏しておいおい泣き始めた。

 

-なんかわからんが落ち着いたみたいだ。なんだろう。なんか仕事振っておくか。だめもとで。手を動かせばマシになるだろきっと-

 

「園部1尉。あなたにしかできない仕事があります。」

重原が口を開いた。

「今私は文書を作っていますが、所詮は空曹に毛の生えた階級が作ったものです。とうてい幹部の職責の方の作ったものには及びません。

人様に出せるように、私の作った文書に赤ペンを入れてください。」

 

-園部1尉をアゲなきゃな。簡単に突っ込める穴も作っといたし、その辺指摘させておけば自信も回復する。完璧だな!-

 

嗚咽をとめ園部は声を振り絞る。

「・・・重原准尉。さっきは私に結婚したほうがいい。子供を作れと、そういうことを言っていたのに、机で暴れて泣いている私を慰めてはくれないんですね。」

 

-うっわ、めんどくせえ!-

 

「さきほど床でおびえていたのは年端も行かない女の子でした。階級抜き、職責抜き。70男の重原として忌憚のない個人のお話をさせてもらったまでです。

しかし机に来てからの園部1尉には闘志を感じた。幹部に戻られた。

ならば幹部に相対するのみ。慰めの言葉など侮辱になると思いました。」

 

-きりぬけた!我ながらまあ、口からペラペラとそれらしいことを言えたもんだ-

 

園部1尉はそでで涙をぬぐった。

「重原准尉。赤ペンを。そのそろえた紙はできたやつね。見ましょう。」

園部は重原の作った命令文を読む。

「よくできていますね。ただ、この書き方では岩倉1尉に責が及びます。あと前田空将補はこういう表現を好みません。整合性がつかなくなるところが数か所でます。」

 

-いいね、計算通り。前田さんが嫌いな表現は俺も承知済みだぜ園部1尉!-

 

重原「よろしくお願いします。園部1尉」

園部1尉「重原准尉、続けて。」

重原は再び鉛筆を走らせる。

 

園部「ひとつ。重原准尉。」

「なんでしょうか。」

「私を守るといいましたが、部下を守るのは私の仕事です。」

「そうですか。定年までよろしくお願いします。」

「任せなさい。」

園部1尉は泣きはらした顔をにっこりひまわりのように咲かせた。

 

-大 復 活 !-

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