LOW-MACSに吹っ飛ばされたり蹴散らかされたアンドロイド達はなおも立ち上がってくるが、体のあちこちを破損していて満足に動けない。そこを狙い撃ちされて一体、また一体と倒されていく。
しかし中にはまだまだ動けるアンドロイドもいて、なかなか仕留められない。
バスン!
川路の気密服に大きな穴が開いた。幸い体は無事だが、当然これでは気密が保てない。ええい、と川路は物陰に隠れて気密服を脱いでしまう。
モニタ表示によれば気圧は88kpa
危険とされる60kpaまではまだまだ余裕がある。
身軽になった川路は射撃をしながら躍進し、隙を見て動きの良いアンドロイドにとびかかる。
流石は機械のパワーだったが、人間体型であるため、関節のつくりはおおむね同じになっている。器用にアンドロイドの抵抗を受け流す。
人間と同じ形なら!
アンドロイドもレゴリスなどの埃対策なのか、軍服を着ているのでつかみようはあった。
低重力ではあるが、なんとか腕挫十字固をきめた川路はそのまま力任せにアンドロイドの腕を破壊してしまい、ついで首に腕を回し、これも力任せにねじって壊してしまった。
どこか大事な回路が壊れてしまったのか、そのアンドロイドは奇妙な反復運動を繰り返し、変な方向にずりずり移動して動かなくなった。
川路の動きを見た3中隊の隊員は次々に気密服を脱いで応戦を始める。
大谷「毛利士長は気密服のままでおって70pkaになったら合図せえ!」
なるほど、規則では施設の故障等で気圧が下がり始めたらただちに気密服を着用するとは決まってはいたが、時と場合によるだろう。
人間は普段訓練でやっているとおりにしか動かないものなのだ。
LOW-MACSに半分壊されたアンドロイド達は気密服を脱いで機敏になった栗林分隊にあっという間に駆逐されてしまった。
-民間人区画-
バン!バン!
航空警務隊のイケメン鴫原2曹が近寄るアンドロイドに窓辺から牽制の拳銃射撃をくわえる。
屋内や塀越しに民間人たちが必死に抵抗を続けていた。
民間人とはいっても、政府省庁のそれなりの役職の公務員も混じっている。
彼らもそれぞれ拳銃を携帯していた。
通常、地球上では携帯しないのだが、各省庁は月面派遣者に拳銃を装備させているのだ。一応なんらかの脅威への対抗手段としてはいたが、暗には自決用だった。
救助の可能性なく、宇宙に漂うようなことがあれば、苦しみぬいて死ぬよりかは、という考え方だ。
きっと令和初期の日本なら暗にではあっても許されないことだったろうが、建徳時代の日本は少々違っている。
もっとも、いま、拳銃は本来の用途に使われている。
クリスマスに向けての飾りつけがあちこちにあるにぎやかな部屋。
鴫原2曹が弾倉を込めなおす隙を、柳沢るり子がうめる。
バン!バン!
アンドロイドはひるまずに迫ってくる。そもそも拳銃が当たるわけはない。
スーツ姿に鉄帽や装具をつけた国交省の係長が45式小銃でアンドロイドを撃つが、やはり訓練されているわけではないので当たらない。
ドチュウン!
バン!
バン!
窓の中へ銃弾が入ってくる。牽制射が途切れるたびにアンドロイド達は近寄り、その命中率は高まっていく。
あと60mか70mか。
アンドロイドが民主派中国のものなのは間違いないだろう。
皆殺しか、噂に聞く脳波スキャンで脳を破壊されるのか。
鴫原2曹「警備隊がじきにきます!それまでは、それまでは辛抱です!」
厚生労働省から派遣された役人はふと「ニコラエフスク」「通州」という不吉な単語がよぎったが、振り払い、弾倉を交換した。
「わが軍はまだ来ないのか!」英語でジャクトン議員が怒鳴っている。米軍属がそれを必死になだめていた。ジャクトン議員は自慢の44口径マグナムをぶっぱなすが、やはり当たるものではなかった。
柳沢るり子はあくまで平静に、平静に拳銃を構え、引き金を搾る。
徐々に徐々に。落ち着け、落ち着け。
バン!頬の近くを弾が通った。
照星の上にアンドロイドが乗る。いまだ・・・
しかし引き金を引く前にアンドロイドの銃口がこちらを向いたのがみえた。
どちらが引き金を引くのがはやいか。
コンマ何秒の逡巡
柳沢るり子は死を覚悟しながら全神経を人差指に集中し、力を入れる。
そのとき、アンドロイドの頭に火花が散り、吹っ飛んだ。
ババン!バン!
区画に攻寄るアンドロイドの側面から射撃があり、アンドロイド達は次々に破壊されていく。
「警備隊が来たぞ!」
鴫原2曹が勇み立って反撃する。
しばらくしてアンドロイド達は破壊されるか散り散りに逃げて行った。
「おーい!おーい!みんな撃つな!」
鴫原2曹が民間人たちの射撃を制止する。
前方の茂みから出てきた気密服たちは航空宇宙自衛隊のものでも陸上自衛隊のものでもなかった。五星紅旗がワンポイントにあしらわれている。
「撃つな!撃つな!」
今度はその気密服たちが手を大きく振って翻訳された日本語で呼びかけてきた。
「俺たちは共産党中国のものだ。君たちを守りに来たんだ!」
趙が銃を地面に置き、両手を上げて歩み寄ってきた。
鴫原2曹が絶句。民間人たちもそれぞれに顔をみあわせる。
ただひとりジャクトン議員が両手を広げて劉達を歓迎した。
劉がジャクトン議員の前に立ち、固い握手をする。
劉「我々は中国人民解放軍。真の中華を守り、シャックルトンを援ける義勇軍です。」
「いや、命拾いをした。ありがとう、ありがとう。」
民間人たちもジャクトン議員につづいておそるおそる前に出てきて礼を言い始めた。
銃を構えた柳沢るり子が劉の傍に寄り話しかけた。
「劉大校。お久しぶりです。」
柳沢るり子は挨拶しながら銃をふともものレッグホルスターにしまった。
劉の目は柳沢るり子のレッグホルスターにくぎ付けになる。
ちらりとみえた太もも。太ももを圧したレッグホルスターの帯。
軽やかに仕舞われ、降りたスカートに隠れた太もも。
察した趙が劉の頭を両手でもって向きを変えた。
柳沢るり子は劉の手を両手で握り、ゆるやかに力を込めた。
「劉大校。なんとお礼を言ってよいものか・・・」
「いや、なに!無辜を救うことは万国に違いのありようもない正義。
礼には及びませんぞ!」
柳沢るり子はしばし劉を眺め、目を閉じ、顔をわずかにそむける。
「劉大校・・・」
「ど、どうされた。」
「あなたはきっと民主派中国と戦いに行くのでしょうね。」
「ま、まあ。それは。」
「愛妻家でいらっしゃったもの。汐玥さんはもう・・・」
劉の脳裏に妻の笑顔が浮かんだ。しらず劉の目には涙が浮かんでいた。
「きっと奥様の仇をうちにいくのでしょう。」
「もちろんです・・・」
「汐玥さんは私の友人でした。そして優しいお姉さんでした。
そうです。私にとっても仇なのです。」
劉の体中に今まで秘めていた怒りがむくむくとわきあがる。
一千万に及ぶ人民を、そしてなにより汐玥の命を奪った連中に鉄槌あるのみ。
「おまかせください!かならずや、かならずや!」
劉は柳沢るり子の手を握ったまま膝から崩れ落ちた。
趙達もぷるぷると震えていた。
錦凌に肉親がいた者もいる。そうでなくともとんでもない数の同胞がゆえなくして死んだ。
純粋な怒りが彼らの体を震わせた。
柳沢るり子が膝をつき、劉の肩に手を添える。
「でも、劉大校。あなたのことも大切です。きっと生きて帰ってきてくださいね。」
感極まった劉はすっくと立ちあがり、趙らに向き直る。
「いいか、我らは真の中華を保衛する真の人民解放軍だ。覚悟はいいな!」
「保華援沙!保華援沙!」
劉達の声が区画いっぱいに響いた。