岩倉が倉庫の一室で右に左に、背中に手を回して歩き回る。
ときどき立ち止まってこめかみを手で押さえ、また歩き出す。
基地外警備についている4中隊はなんとか敵を押しとどめているとのことだが、当然応援に駆けつけねばならない。
しかし今、基地外に応援に出せる3中隊の手勢は30数名。
3中隊の死亡4名、重軽傷14名。
基地施設内在住者の被害の全貌はまだわからない。少なくとも5~6名の死亡は確認されている。重軽傷は10数名。
残った人員をすべて外に出すわけにはいかない。
いまだ基地内を徘徊する少数のアンドロイド兵の駆逐や、生存者の救助、基地施設の修理も急がねばならない。
そして
-責任問題-
基地内に敵兵の侵入を許したこと。
そして機密性の高いだろう米軍の最新兵器を勝手に乗り回したこと。あまつさえ、その兵器に中国の軍人まで乗せてしまった。
加えて、自衛隊の武器を中国の軍人に渡したこと。
さらには防衛線を破られ、非戦闘員の区画にまでアンドロイド兵の侵入を許してしまったこと。
岩倉は腕組みして椅子に座る。
あれこれ言い訳を考える。
言い訳とは別に一歩引いた客観的な状況の説明も考えた。
その中で自分の責任は、判断の誤りは。
しかし途中で面倒くさくなった。
「懲戒免職・・・かなぁ。」
ノックがあり、徳田曹長が加勢と王宇軒を連れて入ってきた。
「加勢士長参りました!!」
あいかわらず超のつく元気の良さだ。
王は自衛隊の作法がわからないのか、とりあえず無言で敬礼をする。
「加勢士長か。今回の米軍兵器の件は・・・まあ、いいたいことはあるが。まずは礼を言おう。王・・・中士?もだ。」
「恐縮です!」
徳田曹長は加勢が恐縮なんて言葉を使うのでちょっと驚いた。多分川路との会話で覚えたのだろうな。
王も軽く会釈をする。岩倉はその所作に若者っぽさを感じた。
「あのロボット、ずいぶんと上手く乗りこなしていたが、なにかその、練習というか、コツというか。どうしてあんなに上手かったんだ。」
「はい!乗ったとたんに電気がビビっときて動かし方がバーンってわかりました!」
「はい?」
「そして、レバーがビューンって伸びてきて、あの踏むやつもズーンって足にきました!」
「はい?」
「こう、クイって体を傾けたらロボットもググーンって曲がって、なんだか腕をまわしたらいい気がしたのでまわしたらロボットもまわしてくれてホームラン打てました!」
岩倉「なるほど、よくわかった。」
加勢士長は鼻息も荒く説明してくれたが、さっぱりわからない。
岩倉「王中士もよく動かしてくれていたようだが。」
王はしばしもじもじしてから翻訳機を介してしゃべる。
「自分は砲撃手で、弾薬がなかったため、砲身を振り回したり照準鏡で距離を測定したりしていただけです。」
岩倉は多分これは謙遜だろうなと察した。実際どのくらいの腕前なのかはわからないが、加勢士長と阿吽の呼吸で動いていたことは間違いない。
「入ります!」
倉田2曹がいきおいよく入室してきた。
「米軍と連絡がとれます!ウィストン大佐からさっそく通信です。」
そういうや、倉田2曹が投影機で倉庫の壁に画面を映し出す。
ノイズがひどかったがすぐにおさまり、ウィストン大佐が映し出された。
「岩倉1尉。状況はどうだね。こちらもだいたいは掌握しているが。」
「大佐。3中隊の戦力は2割減と言ったところです。4中隊は基地外で敵を押しとどめています。基地内の敵脅威の排除はおおむね完了しており、再編成後、4中隊支援のために前進予定です。」
「なるほど、了解した。我々もそちらに即応中隊を送るが、到着は4時間後となる。なお、地球上でも戦闘が起こっているとのことだ。本国からは敵基地破壊については消極。脅威の排除による基地保全を命じられている。そちらはどうだ。」
「こちらはまだ回線がつながらず、明確な命令、指示はきていないため有事要務手順に則って対応しております。」
「了解した。医療チームも4時間後にはそちらに到着する。リバティステーションからも増員が来る予定だ。なお、タカマガハラも送っているらしい。
ときに陸上自衛隊の部隊はどうしている?」
「基地外で演習中だったらしいのですが、いまだ連絡が取れていません。」
事前に通報されている訓練予定によれば、陰面での総合射撃訓練だったので、彼らは実弾をもってどこかにいることになる。
基地内には留守役の当直が一人残っていたので、異変についての通報はなされているはずだ。もっともその当直は行方不明なので判然としないが。
「しかし岩倉1尉、驚いたよ。LOW-MACSを操縦できる兵士がそちらにもいたとは。」
どき!
岩倉1尉の心臓がきりりと締め上げられた。
「あ、はい!あの、その。ちょっとお尋ねしますが、あのLOW-MACSは誰でも操縦できるような作りなのでしょうか。」
岩倉1尉の顔からの血の気が引く。
「どういうことかな?」
「その、搭乗するや電気信号が走って操作要領が直接脳に送られる・・・といったような。」
加勢士長がキラッキラした目で岩倉をみつめてくる。
うんうん!と力強くうなづいているではないか。
やめろ・・・!
加勢士長。
君があのロボットの機密兵器っぷりをオノマトペで説明するほどに、私の懲戒免職にいたるまでの叱責の度合いが増えていくようでつらいのだ!
ウィストン大佐は、はて、と首をかしげて答えた。
「たしか搭乗すると精神コネクトがある、とは聞いているが、操作要領がたちまち脳に入ってくる?というのは知らないが。」
加勢「え、私は電気がビビってきて動かし方わかりましたよ?」
徳田曹長が加勢の肩をおさえて「しー!」っと促す。
「LOW-MACSは日米共同開発だ。自衛隊も富士学校で先行的に運用試験をしているので、そちらもある程度は知っていることと思うが。
適性を持った兵士が基本訓練一か月、応用訓練一か月。
月面訓練一か月の合計三か月の訓練をすれば操縦できるようになっている。
君のところに操縦手がいたことは幸いだ。」
「大佐、あの。LOW-MACSは米軍の兵器の中でも機密性の高いものだったりしますか・・・」
「いや?確かに最新兵器ではあるが、すでにある程度の仕様も含めて一般に公開されている。月面戦闘車のシュワルツコフなどとさして変わりはない。
あと、そちらに置いていた兵器類を使用したことについては、空幕の月面分室からさきほど連絡がきており、後付けながら承知した。まだ正式な文面ではないようだが、この案文でくるならこちらとしては異存はない。
車両がいくらか破壊された分も特に問題はなく、LOW-MACSの使用は継続してくれ。弾薬もシャックルトン前進弾薬庫から払い出す。」
いつの間に・・・
岩倉1尉、徳田曹長はともに頭をひねった。
そういえば戦闘のさなかに重原准尉が文書がどうのこうのと電話をよこしてきたのを思い出した。
こんなときに、今まさに戦っている真っ最中に紙の話か!
怒りがわきにわいた、あれだ。
「あれでしたか。」
「あれだったな。」
「ものすごく無礼な対応をしてしまいましたね。」
「事が済んだら菓子折り持って行こう・・・」
岩倉も徳田もうなだれる。
二人には"しゅん・・・"という擬音が何よりもふさわしかった。
「長話をしても仕方ない。では岩倉1尉、シャックルトン基地防衛を頼んだぞ。」
ウィストン大佐はそういうとノイズが画面に走り、消えていった。
「加勢士長。王中士。
引き続きLOW-MACSに乗ってくれるか。現状、あの車両・・・車両で良いんだよな。車両を乗りこなせるのは加勢士長しかいなさそうだ。」
加勢は大きな声で、それはそれは大きな声で答えた。
「ハイ!加勢士長!!」
王は軽く会釈した。
◆
加勢の分隊は拠点にしている芝生広場にいた。
包帯でぐるぐる巻きにされた山本1曹が重ねられた弾薬箱に座ってせわしなく指示を飛ばしている。
「加勢、戻ったか。」
「はい!戻ってきました。」
「チュウはどうだった。」
「はい。お元気そうでした。」
山本1曹は、そういうことを聞いているのではないのだがな、と思った。
しかし加勢だし仕方ないかと話を切り上げた。
「わかった。お前も気密服や装具、銃の点検をして弾薬を受領しろ。」
分隊はあわただしく戦闘準備をしている。
負傷者の手当。弾薬の再配分。破損した気密服の修繕。
4中隊の支援のため、今度は基地の外に出ていく。
「30分後に出発だ。」
ルナクルーザーが始動する。月面戦闘車シュワルツコフと武装月面ホッパージャックラビットにも隊員が乗りこんだ。
大谷「加勢!お前はこれやろが。」
大谷3曹がLOW-MACSを指さす。
そばには川路も準備していた。
「加勢士長、いつでも行けます。」
中腰で肩車の姿勢だ。
加勢が川路に駆け寄る。
「川路!」
川路がちょっとのけぞった。
「ジェネリック加勢出して。」
アームモニタをいじるとジェネリック加勢が出てきた。
「私がいなくなっても、ジェネリック加勢で私の事を思い出すように!」
ジェネリック加勢「そうだよ、川路。忘れたら承知しないから!」
3Dのジェネリック加勢がリズムよく小躍りして指摘のポーズを決めた。
-そんなこと言わないでください-
露骨に顔に出す川路だったが、声には出さなかった。
代わりに
「了解でごわす。」
そう答えた。