炊飯器と冷蔵庫   作:すりーみにっつ

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新年大爆発

航空宇宙自衛隊シャックルトン基地の北西10kmあたりに70mほどの高さの丘がある。

こぶが二つある特徴的な形をしており、月面に無数にある凹凸のなかでは識別しやすい。いつしかこの丘は肝付岳と呼ばれるようになっていた。

 

12月31日の深夜。

地球はちょうど肝付岳にかかっていた。

 

その地球を参拝すべく基地からぞろぞろ人が集まっている。

警備3中隊、54連隊、基地職員、米軍、各省庁出向者etc

肝付岳までは流石に行けないので肝付岳がよく見える広場に三々五々集まり、仲の良い者同士でだべっている。

 

この統率のなさ!

「これではまるで烏合の衆だなあ。」

岩倉が嘆く。

「中隊だけでやろうと思っていたんですが、こうも参加者が多いと私が指示を出して並ばせるのもちょっと憚られます。」

山本1曹が困惑している。

 

とはいえ、どうにかせねばなるまい。

岩倉が徳田曹長の肩を叩いたそのとき。

 

「集まっている全員、聞け!」

全体に通信が入った。大声ではないがドスの利いた圧がある。

「現在時、2342。新年まであと残り18分だ。主催の3中隊が年越しに際して何かあるそうなので、各部署、各セクションなりに整列!」

 

「桜野曹長の声だ。」

桜野曹長はばらばらに集まっている群衆の前に立ち、すたすた歩きだす。

ここは54連隊、ここは米軍、ここは空自、ここは各省庁、と

おおむねの位置を次々に示していく。

 

こういう時はだれかが仕切った方が話が早い。

このまま年越しを迎えても仕方ないな、と思っていた群衆は桜野の言うとおりに並んでいき、ものの数分でごちゃごちゃしていた人波は幾何学的な整列にかわった。

 

「各グループの長は点呼も忘れるな。」

桜野の声を聞きつつ

 

「空幕シャックルトン防衛部分室、重原准尉異状なし。」

「了解」

園部1尉が

 

「保華援沙義勇軍。応到5名実到5名無異状。」

「明白」

劉が

各グループごとに点呼をしていた。

 

基地から出た人数と帰ってきた人数は出入管理の業務小隊職員が厳密に管理はしているが、もちろん、出先でも各グループが結節のおりおりに点呼をしている。

なにせ日常にくみこまれて忘れがちだが、月は死の世界なのだ。

 

概ねの整列を見た桜野曹長は岩倉、徳田に近づく。

ふたりは不動の姿勢で桜野を迎えた。

「岩倉1尉。整列完了しました。各グループの点呼報告を受けてください。」

 

「はひ。」

岩倉はちょっと情けない声をだしてしまうが、気を取り直して全体に告げた。

「各グループは右から順に私に集合完了を報告してください。」

間髪入れずに一番端っこにいたグループが敬礼し、報告をはじめた。

「シャックルトン基地司令米田2佐以下11名集合終わり。」

 

忘れていた。基地司令、それもあと少しで巡ってくる1月1日。

定期昇任で1佐になる米田2佐が来ていたのだ。

よく考えたらこの参拝に酔狂にもついてきた中にはジャクトン議員も米軍の大佐もいた。

 

俺なんかが報告受けていいのかよ。

 

などと思いつつも、この場の長になっている以上は受けざるを得ない。

覚悟を決めて各グループから集合の報告を受ける。

時折混じる格上からなされる報告のたびに冷や汗が玉となる。

 

報告を受け終わり、ホッとするのもつかの間

徳田曹長「あと4分で0時です。」

「了解した。山本1曹、このあとどうするつもりだったんだ。」

「カウントダウンをして、年があけたらみんなで万歳するつもりでした。そのあと、手持ちのジュースを飲んで帰る、と言った感じで。」

「ジュースは。」

「3中隊はみんな持ってますが、そのほかのみなさんはどうだか。」

 

うーんそれじゃだめだ。

しまらないなあ。まあ、ジュース飲んで帰るだけというのがそもそも小規模な内輪ノリなので、これだけ集まった場ではそぐわないかもしれない。

 

そこに園部1尉の通信が入ってきた。

「園部です。岩倉さん。ひょっとして飲み物の相談ですか。」

「あ、はい。そうです。3中隊はみんな持っているのですが。」

「飲み物なら私が参加者に持ってくるよう伝達しておきました。」

ここで園部が各グループ長に通信する。

「おのおのグループの方々、お飲み物はおもちですか。」

 

岩倉の前に並ぶ各グループの長たちが大きく手を振って飲み物の準備ありとジェスチャーで報告してきた。

 

ありがとうありがとう園部1尉

 

その園部から個別通信が入った。

「岩倉1尉。るりちゃんが手際悪いって怒ってましたよ。」

「はひ。」

 

全員の前に3中隊から10人が駆け足で前に出て整列した。

 

「これからぁ!」

「僭越ながら」

「我々が」

「カウントダウンを」

「します!」

倉田2曹達10名だ。

一人抜きんでて大きいのは川路。抜きんでて小さいのは加勢だろう。

 

山本「なんだ、こんなの聞いてないぞ。」

徳田「まあ、任せましょう。」

岩倉「隊員の自主性だ。うむうむ。」

これがウケたら手際悪いと言われた雪辱ができるぞ。

 

10!

端っこの隊員が大ジャンプをする。

「さあさあ、みなさん。カウントダウンをご一緒に!」

9!ジャンプ

8!ジャンプ

7!ジャンプ

6!ジャンプ

数えるたびに隊員が大きくジャンプをする。

 

そのたび、整列したみんなが大騒ぎをしているようなのだが無音だった。

ただ、AIが臨場感を補正してくれているのでガヤガヤするにぎやかな声は皆のイヤホンに入っている。

 

加勢が川路の両肩に両足を乗せ、のそっと立った。

3!

村田士長が大きくジャンプ

2!加勢を乗せた川路が大きくジャンプした。

1!川路のジャンプの頂点で

マーク!加勢がさらにジャンプした!

 

「建徳10年、おめでとうございます!」

頂点で加勢が大の字で叫ぶ。

 

音は聞こえないのだが

みなが拍手を始めた。

無音の拍手

 

先に着地した川路が加勢を上手に摑む。

 

「赤ちゃんの高い高いの要領だな。少々ワイルドが過ぎるが。」

富原3佐が二人の器用さに感心する。

 

「ブラボーブラボー」と前にでてきて加勢にハグをするのはジャクトン議員

 

岩倉「さあさあ、みなさん。新年あけましておめでとうございます!お手元の飲み物をご用意ください。」

 

徳田「乾杯と行きましょう。」

山本「それぞれのストローをお口にくわえましたら、私の合図で一斉にごくりと。飲みましょう!」

 

岩倉「それでは、参ります。」

山本「新年あけましておめでとうございます。乾杯!」

 

拍手から始まるこの一連に音はなく、さすがのAIも補完してくれない。

 

皆が飲んだのを見計らい

岩倉「今年もよろしくお願いします。」

再び聞こえない拍手を皆がはじめ、手を突き上げたり、ジャンプをしたり、騒ぎ始めた。

 

が、無音。

楽し気な雰囲気ではあるのだが。

 

山本「中隊長。しまらない。しまらないですので。解散といたしましょう!」

岩倉「それが賢明だ!このままいたら何か訓示でもさせられそうだからな。」

 

こうして肝付岳参拝は簡素な新年あいさつを持って解散となった。

 

帰路、重原は川路と加勢のパフォーマンスを思い出しながらぽつりと園部に語り掛けた。

重原「思えば気密服も丈夫になったものです。あんな蛮用をしても破損しないのですから。」

園部「また昔はですか。」

「恐縮です。」

「それより。」

「なんです。」

「「大晦日」こえちゃいましたね。」

「それはまた結構なことで。新年あけましておめでとうございます。」

「今年もよろしくお願いします。准・尉」

園部が重原の肩を軽く拳で突いた。

-いやー根に持ってやがんなあ-

 

陸自の列から空自の列に誰かがやってきた。片足を引きずりながら器用にぴょんぴょん跳ねている。兎内3曹だ。

月面バギーの車長席に座った津志田に通信が入った。

「津志田さん!兎内です。兎内です。」

「二回言わなくてもわかる・・・りますよ。」

「上見てください。」

「上?」

津志田が空を見上げる。

満天の星空だ。

「星がすごいですけど、どうしました?」

「星、すごいでしょう!」

「すごいですね。」

「これがギリシャだったらって思いませんか!」

「?」

「いえ、その。大昔の。」

「なんでギリシャが?昔?」

「あ!そうですよね。星座がたくさんあるなって思いまして。」

「?」

「あれとかなんかトンボにみえませんか!」

バギーについて走る兎内が空を指さすが・・・

 

-わかんねえ-

 

多分、なにかオリジナル星座を伝えたいのだろうと思うのだけど。

星の密度が星座の特定を妨げる。そうでなくとも津志田は星座に興味もなく、地球にいたときに識別したことがあるのはオリオン座だけだ。

なにかロマンチックなやつを演出しようとしているのは途中気づいた。

乗ってあげたいけど、どうすればいいのかわからない!

 

兎内は焦っていた。

津志田さんが乗ってこない!

何がいけなかったのか。

星座、そうだ。トンボがよくなかったのかもしれない。

とっておきのやつで行くか。

 

兎内は津志田の肩に手をかけ、「あれ!あれ見てください。」

まっすぐに中空の一点をさししめした。

 

なんでもいいから驚いてやろうと津志田は兎内の指先の向こうを見た。

 

ピカっと宇宙が光った。

遥か彼方から光が降ってくる。

津志田「兎内さん。兎内さん、あれのこと・・・?」

 

兎内も口をあんぐり開けて光を眺めていた。

「そう・・・です。」

「すごい。」

「すごい、ですね。」

 

皆の足はとまる。バギーも停車した。

兎内と津志田は肩を触れさせ、よりそい、グローブをにぎりあって光を眺めた。

 

◆

 

明石時間2052年1月1日0025

超新星爆発したベテルギウスは太陽系全体を照らした。

満月のような白い天体が宙に生じ、地球と月から夜を減じさる。

 

時ならぬ天文ショーに人類はいっとき争いを忘れた。

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