炊飯器と冷蔵庫   作:すりーみにっつ

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あわただしい日々

シャックルトン基地の正月はあわただしかった。

正月早々ではあるのだが、4日に合同葬送式が控えている。

しかも、極めつけが米大統領の参加だ。

 

クイゼンベリー大統領は米国初の女性大統領で、ケネディ大統領の42歳より3歳も若い39歳で選出された史上最年少大統領でもある。

就任からちょうど1年ほど。

とにかく活発でフットワークの軽い大統領だ。

 

「しかし、いくらなんでも10日前に月に行く!なんて思い立って実現させるだなんて。仮にもアメリカ大統領だよ。町内会長だってもちっと時間をかけるぜ。」

10日前、と一般には伝わっているが、正確には24日前であり、米政府内で実現性を検討し、日本政府に伝達されたのが10日前だ。

月面戦闘前に思い立ったことなのだが、途中で月面戦闘が日米の勝利で終結したため、葬送式に参加と言う形になった。

 

「月で起きた本格的な戦闘」は政治パフォーマンスにうってつけと言うことなのだろうが、正直、本当に、真剣に迷惑であった。

 

日本政府もアメリカ大統領が来るとあってはそれなりの閣僚を派遣しなければならない。首相は御年77歳。元気はいいが、この年で宇宙に送り出すにはリスクが高い。

55歳の副島総務大臣が送られることになった。

そして、警備である。

警備3中隊、4中隊及び54連隊は葬送式参列のため、警備任務には就けない。

すくなくとも全力では。

 

アメリカ大統領が来るんだからアメリカにやってもらえばいいじゃないかという意見もあるが、合同でやるとしても主体は日本でなければならない。

 

「シャックルトン基地は日本だからな。」

「米軍やアメリカのオマワリが日本の治安を守ったんじゃ日本の主権とメンツにかかわる。」

 

シャックルトン警備隊は急遽1、5中隊をシャックルトンに送ることになった。

しかし警察庁も日本の閣僚がいくのだからと、警視庁と埼玉県警から警備を出すと言う。海上自衛隊も警備は本来任務ではないが、海上特殊群から一個分隊を派遣することになった。

 

すべてが突貫だ。

シャックルトン警備隊はともかく、警視庁や海上自衛隊には宇宙での勤務経験がある者が希だ。

滞在は3日~4日

もちろん、タカマガハラでのんきに順応などする暇はない。一度経由はするが、ただちにシャックルトンに送られてあわただしく警備に就く計画だという。

 

そしてシャックルトン基地業務群の庄司技官はまた叫んでいる。

「200人寝泊りできるようなモノを先に送ってこい!!」

 

3中隊と4中隊は快適だった一人部屋が6人部屋になる。

各省庁の職員の居住区画もタコ部屋となった。

使用しない器材はすべて隅っこにまとめられ、あるいは基地外に置かれ、空いた営庭には再び54連隊が天幕を張って暮らし始めた。

 

これが1月1日、2日の仕事だった。

そして2日の夕方には地球から大挙して閣僚や側近、そして警備がやってきた。

基地司令曰く、シャックルトン基地のキャパを20%超えている、とのことだ。

もっとも1週間くらいならどうにかなるらしい。

 

米軍とMPそしてシェリフもやってきた。

シャックルトン・リムはフロリダの郡扱いらしく、シェリフも常駐していた。もっとも今回は本土から応援が来ているようだが。

 

3日目は葬送式の予行が行われた。

肝心のアメリカ大統領はこの日の夕方に来るはずだったが、予定がずれ込み、明日4日の早朝3時ころ到着になるとのことだ。

 

そして岩倉1尉は予行の後、倒れて医務室に運ばれた。

「アメリカ大統領やら総務大臣やらがやってきたおかげで式次第が全部作り直しで3中も4中もどう動けばいいのかよくわからなくなった。」

見舞いに来た4中隊長丸崎3佐は岩倉1尉の愚痴に付き合い、うんうんと頷くばかり。同意しきりだ。

 

◆

 

六会「こんなに忙しいと人が死んだってのになんだか実感わかないねー」

加勢「本当のお葬式もそんなもんでしたよ。お父さんが死んだときはそうでしたもん。」

津志田「いきなり重い話ぶつけてくんじゃねーか。」

 

明日は本番。午前10時に集合完了し、葬送式は1030に始まる。

1時間半ほどの式ののちに、会食があり、14時に解散予定だ。

 

WAF部屋も5人部屋となり、3中と4中のWAFはまとめられた。

「狭小住宅よねえ。」

さいわい月面勤務は私物持ち込みが厳格に制限されているため、引っ越しは簡単だった。

3段ベッドの最上階から4中WAF八街3曹が声をかけてくる。

真ん中の空いたベッドを指さす。

「下々の者ども。ここはあと一人入るぞ。」

津志田「これ以上入ってたまるかよ。」

加勢「人口密度がこれ以上あがったらバグ起きちゃう。」

津志田「平成のシミュレーションゲームかよ。」

六会「アハハそんなの通じないよ。村田くらいじゃない。」

津志田「六会、おまえに通じてんじゃん。」

 

4中WAFの浦松士長が勢いよく手を挙げる。

「はい。そこ、私の別荘にきめました!」

加勢「それなら人口密度も上がらないですね。」

六会「バグらない。うふ。」

 

こんこん

ノックがあった。

「はいります。」

5人が一斉にドアを見た。

 

「お邪魔しますね。4日ほど。」

キャリーバッグを引いた園部1尉が入ってきた。

 

「えええ!ここ、曹士部屋ですよ?」

「ええ。私も粘ったんだけどね。やっぱり部屋が足りないからって追い出されちゃって。来るのが政府高官だと言われては、ねえ。」

諦め顔の園部だったが、あいかわらずにこやかな笑顔だ。

 

「そ、それはご苦労様です。(人口密度が・・・)」

「いいのよ、いいの。私の事は年増の3曹くらいにおもっていただければ。」

 

-年増3曹の先輩が一番気を遣うんです-

 

とは思ったが津志田は口に出さない。

 

「いよいよ明日は本番ね。」

荷をほどいて身の回りを整理する園部。

急遽1段目を津志田があけて園部に場所を提供しようとしたが、片手片足が無い隊員を2段目にはできないからと、園部は辞退した。

 

対面ベッドの1段目の六会がどこうとすると「たったの数日だし、昔を思い出してなつかしいから。」とそれも辞退した。

加勢が私の2段目は出口に近いし、コンセントも近いですよと申し出たが、微妙すぎるのでいいですと、これも辞退した。

 

「正直、はやく終わらないかな~って。思ってます。」

津志田がベッドに横になってひとりごちるように園部に言う。

 

「みなさん、全員そう思ってらっしゃいますよ。」

 

「でしょお!」

「津志田ははやくおわって地球に戻って彼ピと暮らしたいんでしょ。」

「いうなって!」

 

ぴきーん!

 

園部の目つきが変わった。

「その話・・・」

シーツと枕を整え終えた園部が2段目から顔をだす。

「くわしく聞かせてもらえないかしら。」

 

津志田「えと・・・はい。」

 

津志田が兎内とタカマガハラで会ったことから、はじまり、ベテルギウス大爆発までを、六会が説明した。

津志田(なんでそんなにくわしいんだよ)

 

そこから打ち解けるのは早かった。

六会が川路にお姫様抱っこされて嬉しかったという話。

ちなみに加勢はものすごく満足そうな顔でその話を聞いていた。

5中隊の誰それが1中隊の誰それと付き合っているとか、なんとか。

 

この勢いなら言える。そう見切った加勢は尋ねた。

「園部1尉ってあの陸自の変な髪型の幹部の人とよく一緒ですけど、仲良しなんですか。」

 

人の恋バナを肴にするのは大好きだが、まさか自分が肴に?

意外な角度からの話題に言葉が詰まる。

「え」

園部の顔がたちまち真っ赤になり、目は泳ぐ。

「仕事ですからね。」

 

津志田・六会・八街・浦松

-コイツ、園部氏の男の話踏みやがった-

 

加勢「そうですか。やはりただのお仕事仲間でしたか。」

なんだかホッとした。もしかしたら恋人同士だったりするのかもと思っていたからだ。あんな不良みたいな髪型の人、悪人に決まっている。

 

津志田・六会・八街・浦松

-コイツ、あれで納得しやがった-

 

園部はやりすごした!と表情にでていた。

 

津志田・六会・八街・浦松

-この人、ごまかしきったつもりでいる!-

 

八街「その陸自さんですけど、面白いお話とかないんでしょうか。」

津志田「いや、はは。ほら、変わった古風な髪型じゃないですか。うちらも結構気になってまして。」

浦松「素敵な方だなあって。」

六会「きっとああ見えて誠実なんじゃないかなって話してたんですよ。」

 

そこからの園部は饒舌だった。

河野2佐がいかに面白い話をしてくれるのか。

自販機で買うジュースの好みが渋いだとか。

紳士な言動、果断な性格、ブラックユーモアが効いた話術

 

20分後

園部はなぜか涙ぐみながら床に正座していた。

津志田「それで・・・その。園部1尉は。」

六会「河野さんが」

八街「好きになってしまった、と。」

加勢「結婚するんですか!!」

浦松「それはまだ早い。」

 

園部「早くありません!」

 

津志田「いや、さすがにまだ出会って数日じゃないっすか。」

加勢「津志田3曹がそれ言うのは説得力無いですよ。」

津志田「うるせえ。」

八街「でも、3中隊長と言い、津志田といい。会ってすぐ婚って本当に流行りなんだね。」

 

園部「いいですか。古の言い伝えに曰く。女はクリスマスケーキ!」

 

「なんかどっかで聞きましたね。それ。」

 

園部は拳を振り上げながら演説する。

「あの真意は!24日を過ぎたクリスマスケーキが半額になって売られることを、女性に例えたものです。つまり24歳で結婚できず、25歳になった女性は魅力半減!そういうことなのです。」

 

津志田・六会・八街・浦松・加勢

「コンプライアンス違反の極北!!」

「そうです。コンプラに照らせば死刑に相当するような主張です。」

 

◆

そのころ重原准尉は若い空曹ぎゅう詰めの居室でブルっと悪寒を感じていた。

◆

 

津志田「でもですよ!その、ご本人を目の前にして言うのもなんですが、園部さんがおいくつか知りませんが、多分25歳以上なんでしょう。でも十分魅力的で、とてもとても半額だなんて思えませんが。」

八街「そうですよ。園部さん。私が男だったら絶対放っておかないと思います!」

 

「シャラーップ!」

園部の流暢な発音の英語が飛ぶ!

 

-なぜ英語-

 

「とにかく。魅力があるとおっしゃってくれるのはうれしいのですが。私は河野さんともっと。もっと。もっとお近づきになりたいのです!もう寝ます!」

園部はフン!とそっぽを向いて布団に入り込んでしまった。

 

ときは22時。

津志田が当直に園部1尉含めて異状なしを報告する。

さきほどまでの喧騒はどこへやら。部屋は静寂に包まれていた。

 

誰言うともなく「寝よっか」とはじまる。一人、また一人と布団に入っていった。

「消しますよー」

加勢が部屋の電気を消す。

 

シャックルトン基地の消灯時間は2230。

WAF部屋は一足早く夜のとばりの中に入っていった。

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