炊飯器と冷蔵庫   作:すりーみにっつ

6 / 20
タカマガハラ

「タカマガハラへようこそ!」

JAXAのステーション長が3中隊の面々を迎える。

ここタカマガハラは高度約600kmに浮かぶ、200人を受け入れ可能な巨大宇宙ステーションである。

 

アメリカや中国はすでに500〜600人規模の宇宙ステーションを運用しているが、そもそも100人単位滞在可能な宇宙ステーションを運用しているのは数か国に過ぎない。

 

タカマガハラは研究、観測そして航空宇宙自衛隊の訓練にもっぱら使われている。

第三次打ち上げで3中隊は完全編成となった。

 

ここで7日間の1期滞宙訓練をし、次いで10日間の滞宙訓練を経てから、本番のシャックルトン基地警備に向かう。

 

3中隊66名。宇宙が初の隊員は18名。

加勢達がまさにそうである。

令和初期の頃と違い、建徳時代、宇宙はぐっと身近な空間となっているが、それでも気軽に訪れられる場所ではない。

 

「宇宙だ…」

無重力に慣れない隊員は早速酔う。三半規管を無重力に適応させる酔い止めもあるが、体を慣れさせるため、よほどひどくないと処方されない。

 

加勢は全く酔わなかった。

川路は酔いに酔った。トイレから出てくるたび、加勢が手を取った。

「川路、気にすることないよ。」

「すみません、加勢士長。」

加勢士長は宇宙人かもなあ。などと川路は思った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「変わらないもの」なんてロマンを求めて来た宇宙はゲロの味。ふふ、と川路は苦笑する。

 

しかし、兎にも角にも宇宙だ。

宇宙である。訓練を重ね、文字通り夢にまで見た宇宙だ。

感動はひとしお。

しかし、宇宙でも日常と訓練は続く。

隊員たちは、すぐに「生活」に追われ始めた。

 

翌日から早速、地上では出来ない訓練が始まる。

よほどひどかったのか、酔い止めを処方された岩倉中隊長は逆にもっとも元気だった。

 

無重力空間での姿勢制御、移動法、水の飲み方、食べ物の食べ方、基本的な生活の仕方を習う。

シャックルトンは無重力ではなく、1/6の低重力であるが、無重力で基礎を作ると応用がきくというのである。

 

ベテラン勢は思い出すように次々にノルマをこなしていく。一方、初宇宙の者たちは毎日慣れるのに必死だった。

しかし、酔う者もだんだん減り、5日が過ぎると皆だいぶ慣れてくる。

 

加勢は毎日、ガラス窓から地球や月を飽きずに眺めた。

 

地球への帰還まであと2日。

 

ステーションに来客があった。

シャックルトンからだという。

 

「今行ってるの1中隊だけど、誰だろ。」

「10人だって。」

加勢は気が気じゃない。

1中隊には、仲の良い同期がいる。もし彼等だったらシャックルトンの話が聞けるかもしれない。

 

どうも1士とか士長とかばっかりらしいと噂が流れてくる。

いよいよ加勢は浮き足だつ。

 

往還船がドッキングし、隊員がステーションに入ってきた。

しかし彼らの気密服はちとデザインが違っていた。

あと肩に漢字が書かれている。

「楠」

 

加勢が目を凝らす。

背中には「陸上自衛隊」と書かれていた。

 

「なんだ。陸自か。」

「陸自も宇宙で訓練してんだ。」

隊員達は物珍しそうに彼らを見物する。

 

倉田2曹がぼそりとつぶやく。

「第54普通科連隊…俺達のお手本部隊だ。」

 

気密服を脱いだ彼らの視線がこちらにむいた。

加勢達は無邪気に手を振った。

彼らも手を振り返した。

だが一人、手を振らずにらみつけてくる若い隊員がいる。

加勢と目があった。加勢が笑いかけると、ぷいとそっぽをむいた。

 

その日の晩、彼らと親善交流訓練の話が持ち上がった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。