シャックルトン基地の警備の話が持ち上がった際、防衛省は荒れに荒れた。
どこが担任するのか。
陸海空、はたまた、いっそのこと新しい幕を立ち上げるのか。
そこに警察庁からも打診が入ってくる。
まさに混迷をきわめた。
そして陸海空いずれも難色を示す。
海上自衛隊は関連が薄く、早々にフェードアウトしたが、問題は陸空である。
宇宙ではあるが、月面である。いわば宇宙と地球を足して二で割ったようなものだ。
地面があるから陸上自衛隊のような気もするが、宇宙なんだから航空宇宙自衛隊だろうというのが有力であった。
結局どうにも断れず、シャックルトン警備隊は航空宇宙自衛隊が持つことにはなった。
しかし様々に問題がある。
航空宇宙自衛隊には広い面積のある場所で戦闘をするノウハウはないし、規模も概算600〜700名。航空宇宙自衛隊にその規模の純粋な戦闘部隊はない。
人員も足りない。しかし人員は陸海空全部から少しずつ定員を削って捻出することにした。海上自衛隊は相当抵抗したが、押し切られた。
それだけ月面の権益は建徳時代、重要になっていたからともいえる。
部隊創設にあたっては、陸上自衛隊の普通科連隊をモデルにすることにした。
白羽の矢が立ったのが、東海地方に駐屯する第54普通科連隊であった。
航空宇宙自衛隊は全国から要員をかき集める。
とても足りないから陸上、海上にも募集をかけてもらう。
そして、陸上自衛隊の学校や教育隊に要員を入校させ、矢継ぎ早に人員を育てた。
陸上自衛隊も大変である。
学校要員や教育隊を臨時に増やして対応したのだ。
だからシャックルトン警備隊の古参は陸上自衛隊の学校、教育隊出身が多い。
そして、54連隊にくっついて訓練をする。
訓練検閲も受ける。
こうして、ミニ54連隊が、どうにかこうにか5〜6年ほどでできあがり、シャックルトン警備隊の母体となった。
シャックルトン警備隊の幕僚組織が陸自風に1〜4科制なのはそのためだ。
その54連隊の隊員が目の前にいる。
「気合入れも兼ねてうちんとこの若い連中をシャックルトンに連れてったんですよ。」
そう、ほがらかにしゃべるのは引率の桜野曹長。
「そしたら、まあなんとか2週間は持ちましたよ。うわははは。」
岩倉1尉はちょっと怪訝な顔をした。
タカマガハラでの滞宙訓練は予約が埋まっている。陸自の54連隊なんて見たことがない。
「その、いつ滞宙訓練をされたのですか。みなさん新隊員さんのようですが。」
徳田曹長が恐る恐る尋ねると桜野曹長は破顔一笑
「そんなもんいりませんよ。私も初の宇宙でしたが、まあなんとかなりました。」
胸には縫い付けられたばかりのLG徽章があった。
ー無茶苦茶だー
とは思ったが、岩倉も徳田も口には出さなかった。
月には定期便が飛んでいる。
十数人なら調整次第でいけぬこともない。
が、だからといっておいそれいけるものではない。あきらかに陸幕レベルが動いている。
「どうです。昔のよしみもあります。若いヤツラで親善対抗演習でもやりませんか。」
ーこんな無茶な連中と対抗演習なんかしたら全員病院送りになってしまうー
「あのシャックルトン警備隊が、どんなになったか私も興味がありましてねえ。」
そこから桜野は誰それは元気ですか。誰彼は。アイツはどうです。
と、シャックルトン警備隊のベテラン達の名前を並べ立てた。
「倉田や山本も来てるんですか。倉田士長、山本3曹も出世したものですね。」
徳田は思い出した。
狂犬桜野。
徳田は出くわさなかったが、どこかの区隊(教育隊の部隊単位)に令和の世に存在してよいはずがない鬼教官がいたという話を。
「まあ、今回のお話しは…」
徳田曹長がやんわり断ろうとする言葉に桜野がかぶせてくる。
「徳田…2曹でしたっけ。」
「はひ?」
「覚えていますよ。隣の教育隊だったけど、駐屯地清掃の作業員で出てきたときに、私が長だったんですよ。」
徳田は鮮明に思い出した。
出くわしていた。
そして、ただの駐屯地清掃作業が訓練検閲のごときものだったことを!
なにをどうしたものか、箒で捧げ銃をさせられ、箒に何度も何度も謝罪させられたあの記憶を!
今度は岩倉が断りを入れようとすると
「岩倉学生がこんなに出世したなんて、私も鼻が高いですよ。」
「あ…どこかで…」
「いやだなあ。防大で教練を教えてあげたではないですか。」
岩倉は思い出した。
出くわしていた!
1年生のときだ!
そして、ただの教練だったはずなのに20式小銃を頭上に掲げ、土砂降りの中走り回されたことを!
岩倉も徳田も歯がカチカチ鳴り始める。
「親善ですよ。親善。なかよくなかよく。楽しくやりましょう。やりますね。」
岩倉・徳田「はは、よろこんで。」