空調で23度程度に保たれたステーション内。
タカマガハラ自体は開設12年目だが、この第四区画は半年ほど前に増設された、真新しい場所で、壁面も扉も取っ手も、なにもかもが、新品だった。
新品の区画にあわせて18人の「新品」が入り乱れる…
-3中隊津志田班-
大谷のあまり考えているとは思われない作戦で、3人を率いることになった津志田3曹。彼女が頼りにしているのは笹嶋士長だ。
普段から格闘に熱心で、多分この班で、いや、大谷を含めた9人の中で一番強いと思われた。
大谷は自ら刺撃が得意と言ったが、まったくの初耳で、いったん眉唾とした。
「ウチらは多分数で勝てるから、基本2対1に持ち込んで手堅くいくぜ!」
津志田のヤンキー口調に由利、笹嶋、六会ミヤコ士長達はオー!と応じる。
一方、由利、笹嶋、六会達は皆「津志田のヤンキーアネキはさぞ喧嘩も強いだろうから、この班で良かった。」と、思っていた。
そして津志田は「まっずいなあ。自衛隊でヤンキーデビューしたのが、へんに板についちまった。中高って文芸部の陰キャだったんだけど。喧嘩とかマジ初めてだわ。頼むぜ笹嶋。アタシを頼りにすんじゃねーぞ!」と、思っていた。
-54連隊兎内班-
兎内3曹が待てをかける。
「手すりを確保しろ。」
戸塚洋平士長と田代士長は近場の手すりをつかむ。
兎内3曹は居室外のロッカーに体を依託し前方をうかがった。
「洋平、あのダクト。曲がり角まで。」
「了解」
戸塚洋平士長はフニャ棒を逆手に、身構えながら前進し、ダクト付近の曲がり角に到達。
異状無しとハンドサインを送る。
「敵多数の場合は2対1に持ち込め。俺が遊撃。次の角で接敵するぞ。構えながら前進。戸塚先頭。田代は右後ろ。俺は左後方だ。」
アイコンタクトののち兎内が発した。
「前へ。」
津志田班は偶然兎内班の真上に出た。
兎内班は慎重に「次の曲がり角」を通過したのだが、ここは三次元交差になっていた。
笹嶋「津志田3曹!いました。」
津志田「ばか、叫ぶやつがあるかよ!もういい。つっこめ!」
兎内「上か!先頭のヤツをやれ!」
みんな一斉に飛び出ると思った津志田班の由利士長だったが、他の班員達が及び腰だったため、意図せず突出してしまった。
「あれ!?」
すれ違いざまに由利士長は数か所刺される。
バトラーがダメージを読み上げ、由利のイヤホンにはいる。
「腹部7センチ刺傷。肝臓到達。」
「胸部6センチ刺傷。心臓到達」
「判定死亡」
「やられた!」
これで由利士長はもう戦闘に参加できない。
区画の隅っこで体育座りをして浮かんでいなければならない。
3中隊津志田以下はパニックになり、やみくもにフニャ棒を振り回すが、兎内達に2対1に持ち込まれ、一人ずつ刺されていった。
「頸部10センチ切創。出血性ショック。判定死亡。」
兎内が最後に残った津志田の首にフニャ棒をあて、とどめを刺す。
津志田はハッと自分の首を押さえた。
一瞬本当に殺されたと錯覚した。
息が荒い。
周りには体育座りの由利、笹嶋、
様子が変なので兎内が恐る恐る「あの、大丈夫ですか。」と尋ねるが、涙目の津志田は声を出さず手を振って「いいって。いいって。」を表現する。
が、とめどなく涙が溢れでる。
狼狽する兎内。
「あ、ホントすみません。いや、その訓練だけどやりすぎたっていうか。」
「アタシもアンタの右手切ったからお互い様!」
兎内は右腕に津志田のフニャ棒を受けて使用不可になっている。
「兎内班長、いきましょう!」
戸塚がせかす。
「行きな!情けは無用!」
津志田が中指をたてて兎内の顔に押しつけた。
兎内が次の扉に向かって流れていく。反動で津志田は後ろへ流れていく。
回転する体育座りの津志田と目が合った。
兎内は振り向いて「行くぞ。」と指示して消えていった。
笹嶋「アネキ、カッケかったっすよ!」
津志田「この役立たず。」
津志田が笹嶋の頭をたたいた。
バトラー
「頭部打撲。判定無傷。」
-第2居室前-
54連隊の金澤士長達3人と3中隊の村田士長、原田1士の5人が体育座りで浮かんでいる。
中心には大谷3曹
「うーん、ごめん。まにあわんかったね。」
金澤士長「アンタ、ホントはなにかバッヂ持ってんだろ?縫ってないだけで。」
「いや、バッヂなしや。まあ、もらっても面倒やけん縫うかはわからんけど。」
大谷は温厚な笑顔で答えた。
54連隊の金澤達が村田と原田をあっさり片付けた直後にやってきた大谷が、今度は金澤達をあっさりやっつけてしまった。
「まあ、いろいろあってシャックルトンも3回行っとるし、タカマガハラも多分一ヶ月はおった。前、往還船に乗れんで、2週間おったこともあったんやけど、そん時に練習したら刺撃得意になったんや。」
金澤「すげ…」
大谷「死体があんましゃべると怒られんで。じゃな。」
大谷は次の区画へさっていった。
-54連隊フラッグ-
「田中3曹、行かせてください。」
「だからダメだっつってんだろ。」
吉川1士は我慢の限界だった。
なんだ、あのチビ!
女が、それもあんな役に立たなさそうなチンチクリンが宇宙に出てくるのが間違いなんだ。
一方田中3曹も少々焦っていた。
CQB(近接戦闘)を知らない空自相手。多分負けることはないだろうと、主攻、助攻、予備を3・3・3できれいに分けたが、空自の主攻が強力だった場合、兎内か金澤の班が抜かれる。
抜いてきた人数によっては自分と1士2人では少々心もとない。
その時はなるべく防戦し、生き残った班による空自フラッグ早期奪取を待つしかない。
まあ、返り討ちにすればよいだけか。
などと計算しているところに、間抜けなノックがあった。
「こんにちは」
空自の3曹が入ってきた。
一人だ。
ということは、金澤達がやられ、兎内達はおそらく無事。
「吉川、兎内と合流してフラッグ奪取を急ぐよう行ってこい!」
「はい!!」
田中3曹が吉川を出した。
グズグズ言ってる士気の低いやつをここに置くよりかは、伝令兼ねて増強に使えば一石二鳥だ。
田中3曹と佐々木1士は左右に分かれ、フニャ棒を構えた。
-3中隊フラッグ区画に通じる廊下-
「おい、吉川!」
「田中3曹がフラッグ早くとれって!敵がうちのフラッグ取りにきたんです!」
そう言うや吉川は空自区画に飛んでいった。
「不用心だぞ。」
「兎内さん、追いますか。」
「まあ、索敵の手間は省けるな。」
「上下立体にだけ気をつけて行くぞ。」
兎内達がゆっくり前進しているとき。
バァン!
吉川は空自フラッグ区画に到達した。
加勢「アンタか!」
こないだから目が合うたび睨んできてたやつだ。
吉川「チビとデクノボー。はん、まるで炊飯器と冷蔵庫じゃねーか!」
川路は「炊飯器と冷蔵庫」、そんなに一般的な比喩なのだろうかという疑問がわいた。
「空自のチビのブス!」
川路が前に出る。
「戦争では若いものが前に出るもんです。」
「ちょっと、アタシの方が若いんですけど!」
川路は巨体を器用に回転させながら吉川に突きかかるが、相手もさるもの。
慣れているのか、壁面を蹴ってよける。
かわされた川路は突進して正面の壁にぶつかる。
吉川が振り向くと、フニャ棒の刺突が2度3度と襲ってくる。加勢が天井に足をつけて刺してくる。
しかし吉川はそれもかわしてしまう。のけぞりざまに加勢の太ももを刺した。
「大腿部切創。少量出血。判定小破。痛みで走れない。」
「浮いてるから平気だもんね!」
「班長危ない!」
吉川の刺突を川路が邪魔をする。
代わりに胸部刺傷、判定小破を受けた。
強い、こいつ!
「川路!あたしをあそこに投げて。」
「了解!」
川路は加勢を抱きかかえ、手すりに両足をかけ、思いっきり加勢を投げつけた。
振り向く吉川。「ブス!待て。」
「逃しませんぞ!」
吉川を後ろからつかんで抱きかかえようと川路が襲い掛かるが「組み付き禁止」だったことを思い出し「おっと!」と動きを止めた。
そこで背中を誰かに刺された。
「背部刺傷。気管損傷。判定死亡」
振り向くと兎内たちが区内に入ってきていた。
「やられた!」
兎内は川路の巨体と飛んでいく小さな加勢をみて「炊飯器と冷蔵庫かよ・・・」とつぶやいた。
川路は首をひねる。
吉川は壁を蹴って加勢を追う。
「待て、ちびのブス!」
「しつこいやつ!」
加勢が壁に到着し、ダクトの入り口をつかむ。
「わっわっ!急に止まるな!」
吉川の顔に加勢の尻が迫る。
「臀部打撃。判定無傷。」
「顔面部打撃。判定無傷。」
「ち、違うんだ!わざとじゃない。ご、ごめん。すまん、ごめ。」
どご!
「顔面部打撃、判定小破。」
「なにすんの!」
加勢の靴の裏が吉川の顔にめり込んだ。
加勢は顔を真っ赤にしてダクトの中に消えていった。
我に返った吉川、相当に慌ててダクトにとりつく。
「おーい、でてこーい!」
加勢の小さな体だから入ることができたが、他の誰も入ることはできない。
「おい、危ないって!ダクトの中はダメだ!」
吉川「兎内さん、状況中止じゃないっすか!」
吉川がダクトの中を再び覗き込んだその時
「えええーい!」
掛け声とともに上部ダクトから加勢が出てきてフニャ棒と突っ込んできた。
ふりむいた吉川。迫るフニャ棒。だが、無重力空間の物理法則が効き、加勢の体は反転してしまい、吉川の顔には再び足の裏がぶつかった。
顔面にめり込む靴の裏。
「顔面部打撃、判定小破」
ダクトから声が聞こえてきた。
「おーいでてこーい」