ダブルTS自分ヒロイン物   作:双葉

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第一話 二人の自分

 

 空に浮かぶのは、赤と青の二つの月。

 その下で焚き火を囲むのは、白と黒の二人の俺。

 しかも両方とも女で、目も眩むぐらいの美女だ。

 

 我ながら意味不明な自分語りだと思うけれど、それ以外に説明のしようがない。

 気付いたら荒野の真ん中で二人ぼっちになっていて、それがお互いに自分自身の意識や記憶をコピーしたような存在で、しかもダークエルフとエルフになっているだなんて。夢でも想像しなかった事が現実となっていた。

 

 弱々しく燃える焚き火を眺める。風の動きに合わせ揺れ動く炎の踊りだ。

 吸い込まれそうな輝きを見るともなしに見ていると、無意識に触れた自分の頬の柔らかさを指に感じた。エルフだけあって肌の滑らかさは人間の比ではない。シルクの手触りがあるマシュマロみたいな不思議な手触り。女の子にしても過剰なぐらいの美肌を指先で楽しむ。

 

 今の自分は指が凄く細い。お姫様の手だと言われても納得してしまうだろう。

 箸より重い物なんて持った事がありません。まさにそんな感じの繊細さだなと思った

 

 

「相手が自分だと分かっていても、見た目はコレだもんな……」

 

 

 自分の手から顔を上げ、焚き火の向こうに居る方の自分に目を向ける。

 そこでは褐色肌の美女がだらけた感じで座っている。疲れた顔をしながらガサツ極まりない動きで己の銀髪に手を突っ込み、鎧の隙間に指を入れながら首の後をボリボリと掻いていた。

 残念美人という言葉が非常に似合うだろう。その様子を見るともなしに見ていたら目が合ってしまい、何か言おうとしたがお互いに言葉が出なかった。気不味くなって同時に顔を逸らす。

 

 

「ダークエルフのイメージが……。まあ、俺も人の事は言えないけどさ」

 

 

 先程は自分の方が見られていた。胸元に手を突っ込んで探っていたのは不味かったなと思う。

 見た目がどうあれ中身はネトゲ中毒のダメ学生なのだ。リア充とは違うからファッションの類には興味がなかったし、女子との付き合いもないから女の子らしい動作なんてものも知らない。

 もしスカートなんか履いたら酷い事になるだろう。きっと萌えアニメみたいにパンチラ祭りになる程度には無作法だった。

 

 

「……」

 

 

 こうやって異性が……いや、今は同姓なのだが……近くにいると、どうも落ち着かない。

 炎の香りに混じって漂う汗の香りに鼻をひく付かせたり、その事に気付いて大慌てで気付いていないように取り繕ったり、誤魔化そうと声を出したら見事にハモって気不味くなったり。挙動不審な動きをしてしまった。

 

 まあ自分だから仕方がないだろう。彼女いない歴=年齢 の男なんてこんなものだ。

 気持ち悪い部分も含めて自分である。ここまで来ると言い訳のしようもなかった。なにせ認めたくなくても、本能の部分で 「ああ、こいつ俺だわ」 と納得してしまっていた。

 

 

「「あー、ちょっといいか……。って、またかよ!」」

 

 

 今も言葉をかけようとしたらハモってしまう。いい加減に学習したいが難しい。

 なにせ向こうの俺は前衛型の戦士、そう銀髪巨乳ダークエルフ様で。こっちの俺は後衛型の支援魔法使い、ちんまい胸と背丈がチャームポイントな金髪チビエルフ様である。

 

 その内に慣れるだろう、という共通解は持っているけれど。美女を前にすると気後れした。

 異性との付き合いがなかった自分としては厳しい状況だ。それは相手も同じだから上手く会話が続かない。チラチラとお互いの姿を盗み見てファンタジーさに満足してしまう。

 行動が同じだから心の奥まで丸分かりである。気が合い過ぎるのも不便だった。

 

 

「よし、そっちから頼むぞ、巨乳の俺」

 

 

 このままでは話が始められないじゃないか。なのでエルフの自分が先を制した。

 白い手を持ち上げて相手側に話を譲る。自分の考えなので9割9部ぐらいは言う前から理解できてしまうのだが、言葉にして納得し合うという行為は重要だ。コミュニケーションは大事。

 

 

「おう、分かったぞ、貧乳の俺……。なんてな、ハハハ。

 でさ……もう気付いてると思うんだけど、一応言っておくが……。

 ここって、ドーンワールドだよな? ほぼ間違いなく」

 

 

 形の良い肉厚の唇が動き、ハスキー系の耳障りの良いボイスが発せられる。

 その内容はやはり自分が予想していた物だ。暫くお互いの顔を眺め合ってから同時に頷いた。

 

 

「原因はやっぱり、2つのアカウントを同時操作をしてたせい、か?

 こうなった理由とかは全く分からないけど、俺が目の前に居るなんて状況の方は、それが原因だよなあ……」

 

 

 形の良い薄手の唇を動かし、鈴の音に似た耳障りの良いらしい声を発する。

 ドーンワールドというのはネットゲームの事であり、学生の本分に苦しめられながらもド嵌まりしていた、そしてお互いの容姿とソックリなキャラクターで遊んでいたゲームの事でもあった。

 

 あっちの巨乳の方が前衛で、高防御かつカウンター系の重戦士。

 こっちの貧乳の方が後衛で、支援魔法をメインにした魔法使い。

 

 パーティーを組むのが前提のゲームだったから、一人二役は色々と便利だったのだ。

 別のPCからログインしていたので規約違反ではない。ややグレーだが問題ない行為である。マクロやBOTなどのツール類は使っていなかったし。

 まあ、その罰を受けているのがこの現状だ、とも言えない事もないが……。

 たった独りで荒野のど真ん中に放置されるより、同じ自分でも二人一緒である方が何倍もありがたいので、接続料を2倍払っていたボーナス、とでも思っておくべきだろう。

 

 

「今日はもう野宿で決定だけど、明日は街を目指す、って事でいいか?

 何をするにしても、とりあえずの足場は固めないと動けん。未来よりも明日が心配だ」

 

 

 ダークエルフの自分はそう言いながら肩を竦めた。鎧越しにも巨乳が動くのがわかる。

 向こうはレザーメイルの一部を金属板などで補強した感じの重装備で、防御力と機動力を両立するためなのか、ゴツイ装甲があるのは肩などの一部分だけに留まっている。

 両手には頑丈そうな小手を装着し、左手には小さいながら金属のフレームで強化されたウッドシールドを、右手には槍の一種であるハルバードを、慣れている感じだが妙なほど手持ち無沙汰な様子で握っていた。

 

 防具の下には特殊な鎧下を纏っているから、肌の露出自体は全く無い。

 ただし伸縮性が非常に高いらしくライダースーツのように肌に貼り付いて、ダークエルフ特有の豊かなボディラインを強調しているため、貧乳のコチラとしては何だかムズムズする。

 その整い過ぎた外見から、何かのアニメキャラのようだな、と思った。相手も中身は自分なのだが。

 

 

「それでいいよ。ドーンワールドで遊びたいから、早く帰りたいんだけど……。

 帰ろうと思ってホイホイ帰れるような、そんな軽い感じじゃないしね。ホームレスとか嫌だよ」

 

 

 エルフの自分も同じように肩を竦めた。悲しいかなオッパイはピクリともしない。

 こちらは魔法使いらしく茶色いローブを身に着けている。野外での活動を考えてか生地は厚めだし頑丈そうで、袖なども程よく引き締まっているから枝に引っ掛ける事も無さそう。地味だけれども実用的な装備だった。

 

 足首近くまである長い裾はちょっとだけ不安だけれど、この中にはズボンを履いている。

 スカートは嫌なので助かった。これなら裾を踏んづけてもドジキャラの如くパンツ丸出しになる危険はない。

 まあ正確にはパンツというか、下着は下着だけど、ドロワーズだった。

 お互いに同じタイミングで股間や胸に手を突っ込んで確認している、その時の事を思い出して苦笑いが浮かんだ。

 

 

「もう暗いし、寝ちまおうかと思うんだが……。見張りって交代でやった方がいいのか?

 こっちは体力が有り余ってる感じだから、一晩ぐらいは徹夜しても行けそうだけど」

 

 

 勇ましげに胸を張るダークエルフ。胸のサイズと合わさって勇ましい。

 だが不安げに揺れる視線から色々と虚勢を張っているのが丸分かりだった。自分を相手に見栄を出しても仕方が無いだろうに。自分の微笑ましい一面を感じて頬が緩んでしまい、それに気付いた向こうさんが苦笑を浮かべた。

 前衛型だけに体力が優っているのは事実だろう。他ならぬ自分の為ならば頑張れる、その気持も自分だからこそ良く分かった。辛い環境故に思い遣りが温かい。でも無理はさせないように口を開く。

 

 

「えっと、ドーンワールドじゃ存在しない、日常魔法? っぽいのも使えるみたい。

 だから虫除けの結界とか風除けの結界とか、魔物が来ても警報とか、できると思う。大丈夫だよ」

 

 

 今度はこっちの自分が胸を張る番だ。肩に立て掛けていた長い木製の杖を手に取る。

 掴んだのは節くれ立った表面が目立つウッドスタッフで、先端には小さいながらクリスタルが嵌め込まれていて美しい。ファンタジーらしく魔法使いのための杖だった。

 ちょっと重いし取り回しは大変だけど、それだけの価値はある、頼もしい装備だと思う。

 

 こういう杖って、特に自分の身長より長い大袈裟な杖って、実は憧れていたのだ。

 凄く魔法使いっぽくて格好が良い。自分が魔法を使えるのだから尚更に素晴らしい。凄く雰囲気が出ていると思う。

 

 

「おお、そりゃ助かる! 夜は怖いからな、本音を言えば寝たかったんだよ。

 そういえば焚き火にも魔法で着火してたし、便利なんだなー、魔法って」

 

 

 軽くはしゃいでいる様子のダークエルフを見て、この世界で久しぶりの笑みを浮かべる。

 これは責任重大だぞ。両手で杖を掴むと先端にあるクリスタルを頭上に掲げた。星の光を受けてキラキラと輝いているクリスタルに思いを馳せた。

 

 

「それが役目だしね、こっちは。その代わり体力とか無いから羨ましいよ」

 

 

 周囲には果てしない荒野が広がっている。自分たち以外に人の気配は全く無い。

 唯一の光源は目の前の焚き火ぐらいで、見上げた星空は現代で眺めるそれよりもずっと星の数が多かった。文字通り星の数ほど星が広がっている。見慣れない空を見ていると 「異世界に来ちまったんだなー」 という呟きがどちらともなく口から漏れた。

 

 

「太平洋ひとりぼっち、なんて言葉があるけど。今の俺らも同じだよなあ」

 

「そうだね、この世界でたった二人きり、そんな感じ」

 

 

 人間なんてちっぽけな存在だ……なんて言葉は、こういう時に使うのだろう。

 遮蔽物もない空は広すぎて、何だか押し潰されそうに感じたし、実は焚き火だけでは暗くて怖かったから明かりの魔法も併用している。感覚的に魔法が使えたのは本当に助かった。

 

 もし使えなかったら、非力な自分なんて邪魔なお荷物だ。考えると怖くなる。

 地球での自分よりはマシだけれど体力もないし、魔法キャラなので戦い方も殆ど分からない。最低限杖で殴るぐらいは出来そうだが、高校の授業でやった剣道と似たレベルだと思う。

 ヘタしたらヒモになっていた、自分自身の甲斐性に期待するハメになるところだ。

 

 

「魔法って憧れがあるから、俺はそっちの方が羨ましいんだがなあ。

 ……そろそろ焚き火も消えちゃいそうだし、もう寝る準備しようぜ? 魔法頼むぞ!」

 

 

 座布団もなく地面に座っていたから尻が寒い。頷いて立ち上がる。

 焚き火のお陰で体の正面の方は暑いぐらいなのだけれども。燃料の枯れ葉などを集めるだけでも結構な時間を消費したから、夜明けまでは魔法で誤魔化す方針になるだろう。

 

 

「了解、やっておくね。こっちも快適に眠りたいし。

 でも結界とかがあっても、現代のテントとかよりは不味いだろうから、まあ覚悟しておいて」

 

 

 杖を構えて胸の内にある魔力を集中させる。足下を覆っている背の低い草や苔に魔力を送る。

 主に植物の根っこを利用した【プラント・アラート/警戒網根】の魔法だ。これは足音などの振動からモンスターや危険な獣の接近を感知してくれる。

 ただし振動による認識なので、上空からの襲撃には効果が無い。しかもこの荒野では植物の力も弱いため、使ったとしても気休め程度の範囲が関の山である。

 

 

「お、風が止んだ? これが防風の結界か、凄いじゃん!」

 

 

 美人のダークエルフが笑顔ではしゃぐ様子は役得だ。中身が自分でも外見だけは良かった。

 気合を入れて防風、虫除け、保温などの魔法を発動させる。消費こそ少ないが夜明けまでの数時間を維持するとなると結構な労力になった。

 

 

「魔法の連発は、ちょっとキツイかも……。まだ余裕はあるけどさ。

 まあ慣れてないってのもあるかな? こりゃ街についたら色々と練習しないと」

 

 

 連続して魔法を使った影響だろう、体の奥の方に締め付けられるような倦怠感を覚える。

 これがマジックパワーを使うという感覚であるようだ。学生なので酒は飲まないのだがイメージ的に二日酔いに似ているかもしれない。あまり楽しい物ではなかった。

 杖に体重を預けながら深呼吸を繰り返す。すると重い塊だった物が体内で拡散し、今度は脱力感や疲労感に変わった。ズシリと絡め取られた身体に気合いを入れる。

 

 長い髪の毛が後頭部を引っ張る感覚に加え、まるで漬物石でも背負わされた気分だ。

 ドーンワールドでは魔法を使った場合でもスタミナを消費する。逆に肉体系の技能でも少量のマジックパワーは消費する。その影響かもしれない。

 精神的な疲労に加えて肉体的な疲労も増したのだろう。設定を思い出して再び額を抑えた。

 

 

「そうか……。魔法も大変なんだな、意外と。

 んで、疲れてるところに申し訳ないんだが……。鎧脱ぐの手伝ってくれ」

 

 

 ガチャガチャ音がするなと思ったら、脱ごうとして脱げなかったらしい。

 冒険者の鎧には装着時のギミックに工夫があるとかで、慣れれば単独でも着脱は容易との設定があるようだが、そもそも慣れていない人間には厳しいらしかった。

 手順などは浮かぶのだがやってみると上手くいかないようだ。仕方なしに近づいて手を伸ばす。

 

 

「なに、ここの金具を引っ張るの? ……相手が自分でも恥ずかしいんだけど」

 

 

 脇腹の辺りにある金具が原因らしい。指差されたそれを見て顔を引き攣らせる。

 僅かに漂う汗の匂いは決して不愉快な物ではなくスポーツ少女的な好感度を齎す感じ。しかも脇腹にある金具を見せる関係で脇を大きく開いている。ちょっとしたエロ画像のようなポーズな上に、腰回りをスカート状にガードしていたベルトのパーツを外しているから、ムチムチした腰回りと合わせて目に毒としか言えない。

 

 また金具の配置の問題もある。隙間を固定するため位置的には鎧の内側にあるのだ。

 仮にも女体の身体に触れる事になるわけで……。身長差の関係で頭上から覆い被さるように二つの突起物が迫る。ボディラインが強調されているからムチムチと効果音が聞こえそうな程である。

 間近で見ると鎧越しでも凄いボリュームだ。その迫力に思わず顔を引っ込めた。

 

 

「こっちだって恥ずかしいっての! んなジロジロ見ないでくれよ!

 でもグラマスなダークエルフの身体とか、絶対に凝視するよな! くそ、気持ちが分かり過ぎて責められん!」

 

 

 おっかなびっくり手を伸ばす。皮鎧の内側を触るために指を差し込む。

 鎧下はツルツルしており本当にゴムのような感じだった。それよりも柔らかい肌と強靭な筋肉の手触りに心が揺れる。思わず真顔になってしまうぐらい集中してしまう。アスリートの肉体は硬いのではなく柔軟なのだと聞いたが本当なんだなと思った。触り心地は物凄く良い。

 

 ああ、自分は今、本物のダークエルフに触っているんだな。妙な満足感を覚える。

 すると上方から手が降って来て、ゴツンと後頭部にチョップを食らった。予想していなかった衝撃に 「ぶえっ」 と声が漏れ、顔を上げると恨みがましい目で見られてしまう。

 攻めるような目つきも美女にやられると悪くないな。反省せずそんな事を考えつつ、片眉を吊り上げている褐色肌の自分に向けてしたり顔で言い訳を吐き出す。

 

 

「だってマジモンのダークエルフだぞ、ファンタジーだぞ?

 しかも自分が相手なんだし。そりゃ触れるなら触るって」

 

 

 言ってやると絶句していた。自分の最低っぷりには自分も呆れるらしい。

 けど満足したので、今度は真面目に金具を外しにかかる。ネタならともかく自分同士で喧嘩なんかしても仕方がない。

 

 

「やっと外れた……。よし、後は自分でも出来るな、サンキュ。

 ただ自分とはいえ役得が一方的なのは許せん。後でそのちっぱいを揉ませろ」

 

 

 真顔で妄言を吐かれたので額に向けてチョップを返す。乙女のバストは安くないのだ。

 こっちは脇腹を軽く撫でただけなのに。小さくともオッパイとは釣り合うまい。

 

 

「何はともかく、お馬鹿をやるのは街に帰ってから、で。

 モンスターが出るような場所だし、茶番なんかやってたら危ないしね」

 

 

 茶番をやったお陰で少しだけ気が楽になった。焚き火を挟んで身体を横たえる。

 火の勢いはずいぶんと弱くなってしまった。支援タイプのキャラだから攻撃的な火属性は苦手なのだ。僅かな燃料と魔法だけで維持できるのはこの程度であるらしかった。

 

 自分で思っている以上に疲労していたのだろう。すぐに眠気が訪れる。

 首筋辺りに野草が触れる感触は邪魔であるし、固い地面は寝難いなんて物ではない。それでも横になって数分で闇が広がる。自分の意識は大地よりもずっと深い場所へ沈んでいく。

 

 異世界での一日目は、こうして終わりを迎えた。

 

 

 

 

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