@白妙ミコト
今日の20時から三枝明那先輩とコラボ配信をします。
『PICO PARK 2』を2人で遊びます。
初めてのコラボです。
たぶん、いつもより話せません。
静かでも怒っているわけではないので、心配しないでください。
#ミコト観察中
↪︎初コラボ!?
↪︎三枝明那と2人!
↪︎ついに直接話すんだ
↪︎コメントではいつも言い返してるから大丈夫
↪︎緊張してる?
↪︎PICO PARKなら協力しないとクリアできないぞ
↪︎頑張れミコト!
↪︎@白妙ミコト
今から緊張しています。
配信が始まって何も話せなくても、コメントで急かさないでください。
三枝先輩の話を聞いているだけです。
@三枝明那
今日20時からミコトくんと初コラボ!
2人で力を合わせて『PICO PARK 2』クリアするぞ!
通話ではめっちゃ静かやけど、ゲームが始まったら俺より喋ると予想してます!
↪︎配信と通話で違うの?
↪︎本当に静かなんだ
↪︎明那が喋り続けるしかない
↪︎初コラボ楽しみ!
↪︎@白妙ミコト
勝手に予想しないでください。
ゲームが始まっても静かだと思います。
↪︎@三枝明那
今はめっちゃ返してくれるやん!
↪︎@白妙ミコト
文字だからです。
↪︎通話との違いが楽しみ
↪︎急に黙るミコト見たい
↪︎明那頑張れ
↪︎@白妙ミコト
見世物ではありません。
午後8時。
配信画面に、白妙ミコトと三枝明那の姿が並んで表示された。
三枝明那は笑顔で左右に揺れている。一方のミコトは体を動かさず、二本の尻尾を自分の腰へ巻きつけていた。猫耳も完全に伏せられている。
「はい、というわけで始まりました! 皆さんこんばんは、三枝明那です!」
▶こんばんは!
▶待ってた!
▶初コラボおめでとう!
▶ミコト固まってる
「そして今日は、初めて2人でコラボするミコトくんに来てもらってます! ミコトくん、自己紹介お願いします!」
「…」
「…ミコトくん?」
「…あ…」
配信が始まる前にも、一度だけ挨拶の練習をしていた。
名前を言って、初めてのコラボであることを伝え、今日はよろしくお願いしますと続ける。それだけでいいと分かっている。
しかし、自分の声を待っている三枝明那と、大勢のリスナーを意識した瞬間、用意していた言葉がすべて消えた。
「あ…あの…。し、白妙…ミコト、です…」
「はい! よろしくお願いします!」
「よ、よろしく…お願い、します…」
▶声小さい
▶本当に全然違う
▶いつものミコトはどこ?
▶緊張してるんだ
▶耳が完全に伏せてる
ミコトは流れていくコメントを見たものの、普段のように言い返すことができなかった。
「…」
「みんな、ミコトくんが静かやからって、コメントで一気に話しかけたらあかんで! 今日は俺がゆっくり話すから、見守っててな!」
「…すみ、ません…」
「謝らんでええって! 昨日も言ったやろ?」
「…はい」
「配信始まる前から、ミコトくんめっちゃ緊張してたんですよ。俺が『聞こえてる?』って聞いたら、返事が来るまで30秒くらいかかった」
「…そ、そんなに…かかって、ないです」
「おっ、さっそく訂正が入りました!」
「…」
「ごめん! 言えたことに触れたら、また話せなくなるんやった!」
三枝明那が慌てて話を変える。
「今日は2人で『PICO PARK 2』をやります! 協力してステージをクリアしていくゲームです。お互いに声をかけないと難しいところもあるらしいけど、ミコトくん、大丈夫そう?」
「…たぶん」
「不安そうやな!」
「…」
「大丈夫! 分からん時は俺から聞くし、ミコトくんは必要な時だけ話してくれたらええから!」
「…はい」
ゲーム画面へ切り替わる。
黄色いキャラクターを三枝明那、白いキャラクターをミコトが操作することになった。
「ミコトくん、白でええ?」
「はい…」
「やっぱり自分と同じ色がいいんや」
「…べ、別に…。どっち、でも…」
「じゃあ俺が白使ってもええ?」
「…」
ミコトは白いキャラクターを左右へ動かし始めた。
「絶対白がええやん!」
「…先輩、黄色…似合って、ます」
「急に褒められた! ほな俺は黄色でいきます!」
▶ミコト白譲らないのかわいい
▶少し話せた
▶明那がちゃんと待ってる
「最初のステージは簡単そうやな。2人で鍵を取って、扉まで行けばいいんかな?」
「…はい」
「じゃあ行こか!」
2人のキャラクターが進み始める。
最初に現れたのは、1人が足場となり、もう1人がその上へ乗らなければ越えられない壁だった。
「これ、どっちかが下にならんと登れへんな。ミコトくん、俺の上に乗れる?」
「…はい」
三枝明那が壁の前で止まり、その上へミコトのキャラクターが跳び乗る。
「あれ? 届かへん?」
「もう少し…右…」
「右?」
「…行きすぎ、です」
「あ、ごめんごめん! ここ?」
「少し…左…」
「こう?」
「…はい。そこで、止まって…ください」
「了解!」
ミコトが三枝明那の頭を足場にして壁の上へ登る。上から箱を落とし、それを足場にすることで三枝明那も登ることができた。
「おお! できた! ちゃんと協力できてるやん!」
「…」
「今のは喋らな無理やったで! ありがとう!」
「…はい」
ミコトの声は小さいままだったが、先ほどまで腰へ巻きついていた二本の尻尾が少しだけ緩んでいた。
次の場所には、2人で同時に踏む必要があるスイッチが置かれていた。
「せーので踏む?」
「…はい」
「せーの!」
三枝明那だけが先にスイッチを踏む。
「ごめん! 全然合ってなかった!」
「…せーの、で…。先輩が、もう…踏んでました」
「俺、せっかちすぎるな。次はミコトくんが合図して!」
「え…」
「難しい?」
「…や、やります」
2人がそれぞれスイッチの前へ立つ。
ミコトは息を吸ったものの、合図を出すまでに時間がかかった。
「…せ…」
三枝明那は動かずに待っている。
「せー、の…」
今度は同時にスイッチを踏み、先へ続く扉が開いた。
「完璧!」
「…よかった、です」
▶少しずつ話せてる
▶明那が急かさないの優しい
▶頑張れミコト
最初のステージをクリアし、2人のキャラクターが喜ぶように跳ねる。
「初ステージクリア! ミコトくん、今のところどう?」
「…え?」
「ゲーム楽しい?」
「…はい。楽しい、です」
「俺とのコラボは?」
「…」
「ごめん! 今の質問なし!」
三枝明那がすぐに次のステージを選択する。
ミコトは何かを言おうと口を開いたが、声を出す前にゲームが始まった。
2つ目のステージでは、2人で大きなボールを運び、穴の向こう側にあるスイッチまで届ける必要があった。
「これ、左右から挟んで運ぶんかな。俺が左に行くわ」
「…はい」
「押すで!」
三枝明那が勢いよくボールを押す。
反対側にいたミコトも押してしまい、ボールはその場から動かなかった。
「あれ? 何で動かへんの?」
「…先輩と、僕…。両方、押してるから…」
「あ、反対方向から押し合ってるだけか!」
「はい…」
「じゃあミコトくん、そっちから引っ張れる?」
「引っ張れ、ないです…。押すだけ…です」
「なら俺が反対側に行くわ!」
三枝明那がボールを飛び越えようとする。
しかし、ジャンプの勢いが足りず、ボールの上へ乗ったまま転がされ、近くの穴へ落下した。
「えっ、待って待って待って!」
三枝明那のキャラクターが画面の下へ消え、失敗音が鳴る。
「…」
▶落ちた
▶明那何してるの?
▶ミコト固まってる
▶笑ってる?
ミコトの猫耳が小さく震えていた。
「ミコトくん、今笑った?」
「…笑って、ないです」
「絶対笑ったやろ! 声聞こえたで!」
「聞こえて…ないです」
「配信にもしっかり入ってたと思うけどな!」
「…気のせい、です」
▶笑ってた
▶小さく笑った
▶耳も揺れてる
「コメントも笑ったって言ってるで!」
「コメントは…信用、できないので…」
「ソロ配信の時のミコトくんが少し戻ってきた!」
その言葉を聞いた途端、ミコトは再び黙ってしまった。
「あっ、ごめん! 戻ってきたとか言わん方がよかったな。普通に続けよ!」
「…はい」
ステージを最初からやり直す。
今度は2人で同じ方向からボールを押し、穴へ落とさないように少しずつ運んでいく。
「ここ、勢い付けた方がええんかな?」
「だ、駄目…です」
「駄目?」
「勢い、付けたら…。ボールが、先に…落ちるので…。ゆっくり…」
「なるほど。じゃあゆっくり押そか」
「はい…」
ボールを押しながら、2人で少しずつ前へ進む。
三枝明那が押す速度を上げると、ミコトが小さな声で止める。三枝明那はすぐに速度を落とし、ミコトのキャラクターへ合わせた。
「もうちょい?」
「…少し。あと…少しだけ…」
「ここで止める?」
「止まって…ください」
2人が同時に止まる。
ボールは穴の直前で止まり、反対側へ渡るための足場になった。
「いけた!」
「…先輩、先に…乗ってください」
「俺から?」
「僕が先に、乗ると…。ボール、動くかも…しれないので。先輩が…向こうから、押さえて…」
「分かった。行くで!」
三枝明那がボールへ飛び乗り、反対側まで渡る。
「渡れた! 次、ミコトくん来て!」
「…はい」
ミコトも跳び乗ろうとする。
その瞬間、三枝明那がキャラクターを動かし、押さえていたボールがわずかにずれた。
「あ」
ミコトのキャラクターはボールへ届かず、そのまま穴へ落ちた。
失敗音が鳴る。
「ごめん! 俺が動いた!」
「…」
「ほんまにごめん! 止まってって言われてたのに!」
「…何で、動くんですか…」
思わず漏れた言葉に、三枝明那が黙った。
「…あ」
「いや、ほんまにその通り! 何で俺動いたんやろ!」
「す、すみません…。怒って、ない…です」
「怒ってもええよ! 今のは完全に俺が悪いから!」
「…もう1回、やりましょう」
「はい! 次は絶対動きません!」
▶今のいつものミコトだった
▶何で動くんですかって言えた
▶ゲームに集中すると話せるのかな
ミコトはコメントを見ても返事をせず、もう一度ボールを運び始めた。
3回目の挑戦で、2人は無事にボールをスイッチまで届けることに成功した。
「クリア! めっちゃ時間かかった!」
「先輩が…2回、落ちたので…」
「ミコトくんも1回落ちたやん!」
「あれは…先輩が、動いたから…」
「俺のせいやった!」
三枝明那が笑い、ミコトの尻尾がほんの少しだけ揺れる。
「ミコトくん、最初より話せるようになってきた?」
「…分からない、です」
「まだ緊張してる?」
「…はい」
「今、緊張を10段階で言うとどれくらい?」
「…9」
「始まる前は?」
「…10」
「1しか下がってない!」
「下がった、だけ…。いいと、思います…」
「たしかに! ちょっとずつ下げてこ!」
次のステージでは、2人がロープで繋がれた状態で障害物を越えることになった。
片方が先に進みすぎると、もう片方が引っ張られて穴へ落ちる。自然と相手の動きを確認しながら進む必要があった。
「これ、俺が勝手に進んだらミコトくんも落ちるってこと?」
「…はい。だから…。勝手に、行かないで…ください」
「信用されてない!」
「さっき…動いたので…」
「まだ覚えてるん!?」
「まだ、数分前…です」
「配信の時みたいに言い返してくるようになってるやん!」
言われた瞬間、ミコトの足が止まった。
ゲーム内の白いキャラクターも、その場から動かなくなる。
「…」
「あっ、今の忘れて! 何も言ってない!」
「…はい」
「俺が前に行くから、ミコトくんはゆっくり来て。危なかったら止めてな」
「…分かり、ました」
三枝明那が先に足場へ飛び移る。
ロープが伸びきる前に止まり、ミコトが同じ場所へ来るまで待つ。
「次、行ってええ?」
「…はい」
「今は?」
「待って、ください…。まだ…」
「了解」
ミコトのキャラクターが足場の端へ立つ。
「大丈夫…です」
「行くで!」
1つずつ、互いの位置を確認しながら進んでいく。
途中までは順調だったが、終盤に動く足場が現れた。
「これ、一緒に跳ばな無理そうやな」
「はい…。足場が、下に来たら…。せーので…」
「分かった。合図お願いします!」
ミコトは動く足場を見つめ、タイミングを計る。
「…まだ」
「うん」
「まだ…です」
「待ちます」
「次…。来たら…」
足場が2人の前へ近づく。
「せーの…!」
2人が同時に跳ぶ。
ミコトは足場へ着地したが、三枝明那は端に触れただけで落下した。ロープで繋がれているため、足場に残ったミコトも引っ張られる。
「待って! ミコトくん耐えて!」
「む、無理…! 先輩、重い…!」
「キャラクターの重さ同じやろ!」
「落ちる…! あっ…!」
2人揃って穴へ落ち、失敗音が鳴った。
「あー! 惜しかった!」
「…先輩が、失敗したから…」
「ごめん! でも今、ミコトくん普通に大きい声出てたで!」
「…」
「ごめん! また言ってもうた!」
ミコトは両手で顔を隠した。
画面の中では猫耳が完全に伏せられ、二本の尻尾も椅子の下へ隠れている。
「…恥ずかしい」
「何も恥ずかしくないって! ゲームに夢中になってただけやん!」
▶先輩重いって言ってた
▶叫んだミコト初めて見た
▶ちゃんと協力できてる
▶少しずつ慣れてきてるよ
「…コメント、読まないで…ください」
「分かった! 今はゲームだけ見よ!」
再挑戦では三枝明那が跳ぶタイミングを間違えないよう、ミコトの合図だけに集中する。
「まだ…」
「はい」
「次も、まだ…です」
「はい!」
「今度…。せーの…!」
2人が同時に跳び、動く足場の中央へ着地した。
「乗れた!」
「動かないで…ください」
「動きません!」
足場が反対側へ到着するまで、三枝明那は宣言通りに一切動かなかった。
「今なら…大丈夫、です」
「行こ!」
2人でゴールへ飛び移り、ステージクリアの表示が現れる。
「クリア!」
「…できた」
「ミコトくんの合図、完璧やった!」
「あ、ありがとう…ございます」
「俺も最後は動かんかったやろ?」
「…普通は、動かないです」
「褒めてくれへんの!?」
「自分で…失敗したところを、直しただけなので…」
「厳しい!」
ミコトの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
配信開始から1時間ほど経っても、緊張が消えたわけではない。三枝明那から急に質問されれば言葉に詰まり、コメントを意識すると何も話せなくなる。
それでもゲームの状況を伝えるためなら、少しずつ声を出せるようになっていた。
「次のステージ、行っても大丈夫?」
「…はい」
「疲れてない? 休憩する?」
「だ、大丈夫…です」
「水飲みたかったらいつでも言ってな」
「…先輩も、飲んだ方が…いいです」
「俺の心配してくれるん?」
「ずっと…話してるので…」
「大丈夫やで! 喉強いから!」
「…でも、飲んで…ください」
「はい! 飲みます!」
三枝明那が素直に水を飲む。
その間、配信には短い沈黙が流れた。
ミコトは何かを話そうとするものの、1人の配信のようには言葉が出てこない。
「あ…あの…」
「うん?」
声をかけた瞬間に返事が来て、ミコトは再び緊張する。
「…何でも、ないです」
「ゆっくりでええよ。待ってるから」
「…」
三枝明那は本当に何も言わず、ミコトが話すのを待った。
「あの…。誘って、くれて…。ありがとう、ございます」
「え?」
「コラボ…。最初、断ったのに…。もう1回、連絡してくれて…」
「いや、こっちこそ受けてくれてありがとう!」
「僕…。全然、話せないから…。もっと、困らせると…思ってました」
「全然困ってへんよ。普通にゲームできてるやん」
「先輩が…。待ってくれる、から…」
「待つくらいいくらでもするって。ミコトくんが話そうとしてるのは分かるから」
「…ありがとう、ございます」
▶初コラボしてくれてありがとう
▶2人とも優しい
▶ゆっくりで大丈夫だよ
▶楽しく見てるよ
コメント欄は、配信開始直後よりもゆっくり流れていた。
誰もミコトへ早く話すように求めず、2人が次の言葉を探す時間も静かに待っている。
「…コメントも」
「うん?」
「あったかい、です…」
「みんな見守ってくれてるな」
「…はい」
「最初より少しは楽しくなってきた?」
「…」
急に尋ねられ、ミコトはまた答えられなくなる。
三枝明那は返事を急かさなかった。
ミコトは机の下で自分の指を握り、時間をかけて声を出す。
「最初から…。楽しく、なかったわけじゃ…ないです」
「うん」
「ずっと、怖かった…です。でも…。ゲームは、楽しいし…。先輩と、できたのも…」
そこで言葉が途切れる。
「できたのも?」
「…楽しい、です」
小さな声だった。
しかし、三枝明那にはしっかり届いていた。
「よかったー!」
突然大きくなった声に、ミコトの猫耳が立ち上がる。
「こ、声…大きいです…!」
「ごめん! でも、ほんまに嬉しかった!」
「…静かに、喜んで…ください」
「難しい注文やな!」
ミコトの二本の尻尾が、椅子の後ろでゆっくりと揺れ始める。
その後も2人は、失敗を繰り返しながらステージを進めていった。
三枝明那が先走って穴へ落ちれば、ミコトが小さな声で注意する。ミコトが操作を失敗すると何度も謝り、そのたびに三枝明那が気にしなくていいと笑う。
完全に普段通り話せるようになったわけではない。
返事だけで終わることも多く、質問されても答えられない場面は何度もあった。それでも、配信開始直後のように何も言えない時間は少しずつ減っていた。
そして、配信開始から2時間が過ぎる。
「今日はこのステージをクリアしたら終わろか」
「…はい」
「最後は一発で決めたいな!」
「さっきも…同じこと、言って…。3回、失敗しました」
「今度こそや!」
最後のステージには、2人が別々の道を進みながら、相手のためにスイッチを操作する仕掛けが用意されていた。
「俺の画面から、ミコトくんの道が見えるわ。ミコトくん、今は進まん方がいい!」
「…分かり、ました」
「まず俺が青いスイッチ踏むから、その先まで行って!」
三枝明那がスイッチを踏み、ミコトの前にある足場が動く。
「今、行けるで!」
「はい…」
ミコトが足場を渡り、次のスイッチへ到着する。
「先輩…。赤いスイッチから、離れて…ください」
「離れたら床消えへん?」
「消えます…。でも、下の足場に…乗れば、大丈夫です」
「ほんま?」
「たぶん…」
「たぶん!?」
「…信じて、ください」
「分かった! 行くで!」
三枝明那が赤いスイッチから離れる。
足元の床が消えたが、その下から別の足場が現れ、無事に着地した。
「ほんまにいけた!」
「…だから、言ったでしょ」
「今の格好よかったで、ミコトくん!」
「…はい」
「否定せんのや!」
「格好よかった、ので…」
「自分で言うんやな!」
「配信では…いつも、言ってます…」
「たしかに!」
2人は相手の位置を確認し、順番にスイッチを操作していく。
最後に残ったのは、ゴール前にある2つの足場だった。
「これ、同時に跳ぶやつやな」
「…はい」
「合図、お願いしてもいい?」
「分かり、ました」
2人のキャラクターが足場の前へ並ぶ。
「…まだ、です」
「うん」
「次に…。足場が、近づいたら…」
「了解」
動く足場が2人の前へ近づいてくる。
「せーの…!」
同時に跳ぶ。
2人のキャラクターは並んで足場へ着地し、そのままゴールへ飛び込んだ。
・STAGE CLEAR
「クリア!」
「…できた!」
▶おめでとう!
▶最後完璧だった!
▶ちゃんと息合ってた
▶初コラボ大成功!
▶2人ともお疲れさま!
「というわけで、今日の『PICO PARK 2』はここまでです! ミコトくん、初コラボどうでした?」
「…」
最後の感想を求められ、ミコトの猫耳が再び伏せられる。
「ゆっくりでええよ」
「…始まる前は、絶対…。何も、話せないと…思ってました」
「うん」
「実際…。あまり、話せなかった…ですけど…」
「そんなことないで。必要な時はちゃんと話してくれたやん」
「先輩が…。ずっと、待ってくれたから…です」
「俺は何もしてへんよ。一緒にゲームしてただけ」
「それが…。よかった、です」
ミコトは何度も言葉に詰まりながら、それでも話すことをやめなかった。
「コラボ…。断ったのに…。また、誘ってくれて…。ありがとう、ございました」
「こちらこそ、受けてくれてありがとう! 俺はめっちゃ楽しかったで!」
「僕も…楽しかった、です」
▶初コラボありがとう
▶また2人で遊んでほしい
▶ミコト頑張った
▶明那もありがとう
「コメントにも、ありがとうって言われてるで」
「…僕も、みんなに…。ありがとう、ございます」
「次のコラボもできそう?」
「…え?」
「今すぐ決めんでもいいけど、俺はまた一緒にゲームしたい!」
ミコトはすぐに答えられなかった。
怖くなかったわけではない。
配信中に何度も言葉が出なくなり、三枝明那を待たせた。普段のようにコメントを読むこともできず、進行もすべて任せてしまった。
それでも、もう二度とやりたくないとは思わなかった。
「…すぐ、は…。無理です」
「うん!」
「でも…。少し、時間が…空いたら…」
「また誘ってもええ?」
「…はい」
「やった!」
「声…大きい、です…」
「最後くらい許して!」
「…少しだけ、なら…」
▶次回ある!
▶また見たい!
▶少しずつ慣れていこう
▶初コラボお疲れさま!
「じゃあ最後に、ミコトくんから挨拶お願いします!」
「ぼ、僕が…?」
「無理そうなら一緒に言お!」
「…1人で、やります」
ミコトは一度目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。
「今日は…。初めての、コラボ配信を…。見に来てくれて、ありがとう…ございました」
言葉は何度も途切れる。
それでも三枝明那は途中で助けず、最後まで静かに待っていた。
「上手く、話せなくて…。静かな時間も、多かったですけど…。三枝先輩と、みんなが…待ってくれたので…。最後まで、できました」
▶最後まで頑張った!
▶楽しかったよ
▶また待ってる
▶ゆっくりで大丈夫
「…ありがとう、ございます。それじゃあ…おやすみ、なさい」
「お疲れさまでした! またなー!」
2人が手を振り、配信は終了した。
通話は、そのまま繋がっていた。
『ミコトくん、お疲れさま!』
「…お疲れ、さまです」
『初コラボ、最後までできたな!』
「はい…。先輩が、いたので…」
『次は今日より少しだけ話せたらええな』
「…期待、しないでください」
『文字の時は、ほんまに返事早いのにな!』
「…それ、は…。関係、ないです」
『もう通話でも言い返してるやん!』
「…」
『ごめん! また黙らせてもうた!』
「…次から、言わないで…ください」
『はい! 気をつけます!』
配信が終わっても、ミコトの話し方は変わらなかった。
それでも、通話をすぐに切ろうとはしなかった。
初めてのコラボは、最後まで上手く話せないまま終わった。それでもミコトにとっては、1人では決して踏み出せなかった、大きな一歩になっていた。