(―――――ああ、よかった)
永い、永い旅路だった。
もう200年以上も前。かつて帝国を蝕む呪い――――それに立ち向かった、一人の男がいた。
ドライケルス・ライゼ・アルノール。
優しい人だった。ついつい自分で抱え込みすぎてしまう悪癖はあれど、支えたいと思わせてくれる人。
面影は無かった。けれど、帝都にいたその男性を一目見れば分かった。
それが如何なる理由からか気づく前に――――その男性とともに微笑む女性と赤子を見て、伸ばしかけた手を止めた。
(そうですか。貴方は、幸せでいてくれたのですね)
ならば、声を掛ける理由もない。
遠目に見ても一角の実力者なあたり、生まれ変わっても性根は変わらないのだな、なんてことを考えて踵を返し――――ふと、身体に違和感を覚えた。
(……妙ですね)
不死者となってから、体調不良など感じたことは無かった。
獅子戦役の時の、戦死した直前のままの身体。その起こるはずのなかった“変化”が現れたのは、その前後のことだった。
――――――――――――――――――――――
七曜歴1204年、3月下旬―――。
温泉郷ユミルから列車で一路トリスタを目指す少年、リィン・シュバルツァー。
さほど込み合っていない電車の中で座る席を探していると、自分と同じ深紅の制服を着た金髪碧眼の少女と目が合った。
まるで彫像のように整った――――美しさと幼さが両立した、恐らくはエリゼと同じくらいの年頃に見える少女。ただ一点、その蒼穹のように澄み切った瞳は強い意志を宿しているように思えた。
(似ている―――?)
エリゼに? あるいは、それ以外の自分が良く知る誰かに。
そんな直感に、思わず数秒見つめ合ってしまい。不躾だったかとリィンは頭を軽く下げて謝罪した。
「すまない。妹に少し、雰囲気が似ていたから」
「ふふっ。構いませんよ、私も不思議と他人のような気がしなかったので」
せっかくなのでどうですか、と向かい合う席を示されて。
恐らく同じトールズの新入生だろうと予想したリィンはその言葉に甘えることにした。
「では、改めまして。ライナと申します」
「俺はリィンだ。よろしく」
「それにしても深紅の制服とは――――リィンさんはトールズの組み分けはご存じですか?」
「え? ああ、貴族と平民でクラスが分かれてるんだったか……」
ユミルの浮浪児、なんて陰口を叩かれた過去もある自分にとってはそう考えると居づらい場所かもしれないが……かといって平民クラスになら馴染めるのかというとそれも難しいだろう。
「はい。そして貴族クラスは白い制服を、平民クラスは緑の制服を身に纏います」
「え? ………どう見ても赤だよな」
「赤ですね」
「………手違い、ではないよな」
「間違えて違う方の色が届くならともかく、全く新しい色というのは不自然ですね」
「つまり……新しいクラス?」
「その可能性が高いかと。リィンさんは『これ』、届きました?」
と、少女が取り出したのは獅子のデザインがあしらわれた銀色のオーブメント。
「ああ、届いた。けどそれだけ何の説明も無かったんだよな……」
「もしかするとこの深紅の制服と関係しているかもしれませんね。ところでリィンさん、その得物……刀では?」
荷物を棚に上げる際に、目ざとく刀袋を見つけたライナはキラキラと目を輝かせて言った。
「流派はどちらを? もしや――――」
「一応、八葉一刀流の初伝を授かってる。……まあその、あまり出来の良い弟子じゃないんだが」
「そうですか? でも私、自分の目で見たものしか信じないタイプなのです。時間ができたら一手、お手合わせいただけますか? 一度、八葉の方と手合わせしたかったんです」
「ああ、それくらいなら。……失望させることになるかもしれないが」
リィンの目から見て、ライナは一見するとただの少女のようだが―――その実、気配がまるで掴めない。これまで戦ってきた中で、そんな風に感じたのは唯一人、ユン老師くらいのもので。
ニコニコと微笑む少女から感じる得体のしれない圧―――それと、エリゼを見ている時のような放っておけない気持ちを同時に感じてリィンは遠い目になった。
―――――――――――――――――
―――――生まれ変わったらゼムリア大陸でした。
はぁー、クソですわ。
ゼムリア大陸、それは知れば知るほど行きたくなくなる魔境。
魔獣が跋扈し、戦争が勃発し、挙句の果てに箱が出てくる終わってる世界である。
特に閃の軌跡のリィン君は毎回作品の大体最後に悲痛な叫びを上げてフェードアウトするという開発陣からのイジメを受けており、ノーマルエンドで死ぬより酷い目に遭う可哀想な主人公である。かわいそう(小並感)。
そんな中、なんでか『鋼の聖女』アリアンロードに育てられたのが私ライナである。
おかしいな……鉄機隊にそんな子いたっけな……? 名もなきモブ…? なんでか母様と呼ぶようにと言われたので母様と呼んでいる。養子?
どういうわけかあの母様が相好を崩して可愛がってくるのだが、鉄機隊のデュバリィ達にも嫉妬されるでもなく『姫様』と敬われている。わけがわからないよ。
そこは嫉妬されたりなんだりするんじゃないだろうか……いやでもデュバリィいい子だしな……でもデュバリィだしな……。もっとデュバリィ(動詞)してほしいんだけど。真面目モードか可愛がりたそうな顔してるかどっちかである。
まあそれはともかく、リィン君に頑張ってもらわないとノーマルエンドにすらたどり着けるか危ういのがこの世界(逆にリィン君さえ頑張ればそれなりに上手く行きそうだけど)。
うっかりリィン君が死んじゃったりしたら打つ手なしなのでちょっと本気で守護らねばならぬ。
というわけで最低限の友好は稼いどかないとね、というわけで武術トークを切り出したのだが。今のリィン君って初伝でユン老師に見限られたと勘違いしてる時期だったのをすっかり忘れてた。
あるよー、私も師匠に「そこは自分で磨きなさい」って放り出された時期あるよー。
と必死でフォローしたらちょっと顔色が良くなった。……リィン君不憫すぎんか?
確かユミルの浮浪児呼ばわりされて優しい養父母に迷惑かけたくなくて家を出るために全寮制の士官学院を選んだんだっけか……。お辛い。
妹を助けるために引き出してしまった『鬼の力』のせいで大事な妹のエリゼにも嫌われたと思い込んでるんだっけ。……いやもうこれイジメでは?
で、この後Ⅶ組の『重心』としてギスギスする仲間たちをなんとか取りまとめていくんですね……イジメだな!
――――――――――――――――――
旧校舎でのオリエンテーリング。
入学したて、士官のしの字も分からないひよっこ未満の卵に、いきなり戦闘をさせるのは正直どうかと思うがそこはゼムリアクオリティ。
突然床が滑り台になるという謎ギミックで成す術もなく落ちていくⅦ組の生徒たち――――ワイヤーを伸ばして難を逃れた銀髪の小柄な少女と、ふつうに斜めの床の上に立っている私を除いて。
「駄目、アンタも付き合いなさい」
「めんどうくさいな……」
ワイヤーをサラ教官の投げたスローイングダガーが切断。落下していく銀髪の少女を見送って、“気”で斜めになった地面に直立不動になった私はサラ教官にドン引きされた。
「………いやなんで普通に立ってるのよ!?」
「滑り台って、子どもの頃逆から登ってみたくなりませんでしたか?」
「まだ十分に子どもでしょ」
「そういえばそうでした」
「で。話が進まないからアンタも下に降りなさい」
「えー」
「えー、じゃない。早くしないと蹴り落とすわよ」
「体罰反対です」
仕方ない、問題児扱いされて喜ぶ趣味はないので大人しく滑り台を満喫することにする。スカートに気を付けられるようになってしまったのを喜べばいいのか悲しめばいいのかわからないよ…。
下に降りると、既にリィンは頬を赤くした後で。既にヒロインの胸に顔を埋めるイベントをこなしたのだろう。ラッキーというより不憫に思えるのは日頃の行いだろうか。
サラ教官が戦術オーブメントARCUSの通信機能を使って指示してきたのに従い、校門で預けた武器――――馬上槍を受け取ると各々てんでバラバラに行動し始めてしまう。
……ふむ。
まあここで危ないのは単独行動しているユーシスとマキアスだろう。でもどっちも面倒なので放っておく。
ラウラ達女子グループはラウラが強そうなので放っておいても問題ないだろう。
ということで、リィンの今の実力を見るためにも手を振って女子グループには先に行ってもらい。
リィン、エリオット、ガイウスの原作操作PTに合流させてもらうことにする。
うんうん、これが軌跡シリーズ主人公最強格の初期の実力かぁ……太刀筋に迷いがあるのがもったいない。というか歯がゆい。なるほどねー。心の問題かやっぱり。
――――――――――――――――――――
「――――ライナは女子たちと行かなくてよかったのか?」
「流石に帝国の『武の名門』アルゼイドの一人娘で攻略できない敵なんてそうそういないでしょうし……リィンさん以外の二人は慣れてなさそうで心配だったので」
さらりと他のメンバーの心配をする余裕のあるライナ。その背には身の丈よりも大きな
「――――ふっ」
残心。
魔獣が一撃で吹きとび、セピスに変わる。
明らかに達人級の功夫を、リィンとガイウスは持ち前の、あるいは磨きつつある直感で察知し。エリオットは自分より小さな少女がそれをなしたことに驚きを隠せない。
「この程度、私の敵ではありません」
「流石だな……。ライナの武芸の師はどんな人なんだ?」
リィンの問いに、ライナは明確に困った表情を見せた。
答えたくはないがなんとか答えたい、そんな表情の末、いいことを思いついたとばかりに口を開く。
「え? えっと……母様なんですけど……うーん、まあ言ってしまうと古の鉄騎隊の流れを継いでるといいますか。アルゼイドの方とはちょっと色々あるので秘密にしておいて下さいね?」
リィンとエリオットは得心した表情だが、帝国の歴史に詳しくないガイウスは不思議そうに反復した。
「鉄騎隊?」
「あ、それなら僕も知ってる。《獅子心皇帝》、ドライケルス大帝に仕えた《槍の聖女》の部下だよね」
「はい。その中でも槍の聖女こと《リアンヌ・サンドロット》の苗字、Sを引き継いでいるのがラウラ・S・アルゼイドさんになります」
「あ、じゃあ同じ《鉄騎隊》の流れをくむ仲間ってこと?」
「そこが色々と複雑みたいで…。まあ世間一般には私は特に何もないごく一般的な市民です」
「そうなのか」
「いや流石にそれはちょっと」
「無理があると思うなぁ…」
納得してしまうガイウス、あの技の冴えでそれは無いと首を横に振るリィン、魔獣だったものとライナの浮世離れした容姿に目を往復させるエリオットであった。
――――――――――――――――――
「―――――さあ、耐えてみなさい!」
ボスのガーゴイルのおかわりとか聞いてないんですよね。
私という異分子がいるせいか、本当は一体だけのはずの中ボスが二体出てきた。ので抹殺することに。
――――聖技、グランドクロス(手加減版)。
母様のそれが閃の軌跡仕様なら、私のは碧の軌跡仕様。特に相手を拘束したりはしないのだが、圧倒的な破壊力で全てを蹂躙する。貫通、というか爆散したガーゴイルは一拍遅れて自分が既に破壊されていることに気づいたかのようにセピスに変わる。
「………ふぅ。さて、そろそろ説明していただけますよね」
「いやぁ、景気よく吹き飛ばしたわね……。なかなか見どころがあるようで何よりだわ」
ちょっと冷や汗かいてないですかサラ教官。
まだ私は本気を出してないですよ。
「君たちは身分に関係なく集められた特科クラス、Ⅶ組に選ばれたのよ。もちろん今からでも元の身分に合ったクラスに編入させてあげることもできるけれど」
「身分に関係ないだって!?」
「そんなの急に言われても…」
ふっ。ここでカッコよく参加を表明するのがやっぱり主人公だよね。
というわけでリィンに目線を送ると。なんでか目が合った。
いや、早く参加表明しようよ。
アイコンタクトで通じるでしょリィン君なら。
「――――えっと、参加させてもらいます」
「では私も」
リィン君は生贄になったのだ……いやこれ洒落にならないからボツだな……倫理観博士かな。鬼! 悪魔! この眼鏡野郎!
手を挙げるとガイウス、エリオットも続いてくれて。ラウラやエマ、アリサの女子組、フィー、ユーシス、そしてまだ狂犬モードのマキアスも参加することになり。無事?にⅦ組はスタートを迎えたのであった。
(ふっふっふ、私がいるからにはリィン君には少しでも幸せになってもらわないと)
毎回最後に悲痛な叫びなんてあげさせないぜ!
そのためには《黒》とオズボーンと母様をなんとかしないとなんですけどね。
無理ゲーかな? むしろなんで勝てたんだ原作リィン君。