「―――――時間通りですね」
帝都に到着したⅦ組を待っていたのは――――鉄道憲兵隊、クレア大尉で。
今回の課題を纏めてくれる人なのか、というアリサの疑問にクレア大尉は首を横に振って答えた。
「いえ。今回はあくまで場所を提供するだけです。正式な方は……あ、いらっしゃいましたね」
「やあ。ちょうどよかった」
「と、父さん!?」
というわけで、マキアスのお父さんであるレーグニッツ帝都知事の到着。
帝都知事ってめちゃ忙しそうな気がするのだが、いいのだろうか。……まあでも確か常任理事だったと思ったからちょうど良かったか。
と、案の定なぜレーグニッツ知事が、という話題になり。明かされる常任理事という情報。
「ああ。時間もないので手短に説明させてもらおう。今回の特別実習の期間は今日を含めた3日間――――最終日が夏至祭の初日に掛かるという日程となっている」
「その間、A班とB班にはそれぞれ東と西に分かれて実習活動を行ってもらおう」
「知っての通り、この帝都は途轍もなく広い。ある程度絞り込まないと動きようがないだろうからね。そこでA班にはヴァンクール大通りの東側のエリア。B班には西側のエリアを中心に活動してもらうことになる」
「ヴァンクール大通り……」
「帝都を貫く大動脈にして、皇城に通じる目抜き通りか」
「うん。帝都駅から北にまっすぐ続いているんだけど……」
「かなり大雑把だが、そこで分けさせてもらった。それでは各班、受け取りたまえ」
そうして渡される、いつもの課題をまとめた封筒に加えてメモと鍵。
「こちらの住所と鍵は……?」
「父さん、もしかして」
「ああ、帝都滞在中の君たちの宿泊場所になる。A班B班それぞれ用意しているからまずはその住所を探し当ててみたまえ。ふふ、ちょっとしたオリエンテーリングといったところかな?」
「おっと、そうこうするうちに時間が来てしまったな……」
「と、父さん?」
「これから夏至祭の準備で幾つか顔を出す必要があってね。悪いが、今日のところは失礼するよ――――そうそう、帝都内では君たちが持つARCUSの通信機能も試験的に働くようになっている。それでは実習、頑張ってくれたまえ」
「ちょ…!?」
うーん。やっぱり忙しいんだろうなぁ帝都知事。むしろよくわざわざ顔を出してくれたものである。息子のマキアスがいるのもあってかな。
さて。そんなわけで大まかな説明を受けたところで導力トラム(路面電車みたいなもの)での移動である。
ちなみに私は「リィンさんがいる方が事件が起きると思う!」とゴネた結果無理矢理A班にしてもらった。本当に毎月事件に見舞われているリィン君とサラ教官は乾いた笑いだったけど。人数比? ハハッ、知らんな。
というわけで、アルト通り。
拠点になる、元遊撃士協会の建物があるのだがその前にエリオットの実家があるということで先に寄っていくことになった。
エリオットのお姉さんのフィオナさんは美人で、エリオットとの姉弟仲もかなり良い。こんなにだっけ? というくらいフィオナさんがエリオットにべったりだったのでちょっと新鮮な驚き。
そうしてエリオットの父親が帝国正規軍最強の打撃力を持つと言われる第四機甲師団の長、オーラフ・クレイグ中将であることが発覚したり、宿泊場所が遊撃士協会なことが発覚したりした。
ひとまず遊撃士協会で荷物を下ろし、さっそく実習内容を確認。
帝都地下道の手配魔獣、手作り帽子の落とし物、夏至祭関連取材の手伝い、店でかけているレコードの同じものの入手。
「ふむ……帝都ともなればさすがに様々な依頼があるようだな」
「ああ……それぞれきちんと事情を確かめる必要があるだろう」
「帝都は広いですから、効率的に回らないと。ですね」
ゲームだと都合上どれだけもたついても全ての依頼をこなすことができたけれど……気合を入れていかなければ。
―――――――――――――――――――――
午後、歓楽街のあるガルニエ地区――――ホテルの地下にある地下道に出てしまったという手配魔獣の退治に訪れたところ。
ちょうど蒼いドレスを着た美女が階段を下りてきた。
「クロチルダ様。そろそろお時間ですかな?」
「ええ、行ってくるわ。それより――――ライナじゃない!」
「あ、ヴィータ姉さま。なんだかお久しぶりです――――むぎゅ」
あの、姉さま…。
胸に顔が埋もれて呼吸が止まるんですけど…。
「あ、ああ――――っ!?」
「ヴィ、ヴィータ・クロチルダ……ッ!? ま、まさか会える日が来るとは……!」
「久しぶりね、ライナ。ちゃんと食べているの? 常に気功術を使って鍛えるのもいいけれど、それだと背が伸びないって婆様も言っていたでしょう?」
「むぎゅぅ……」
「ど、どいうことなんだライナ君!? あの《蒼の
戦術的離脱!
ヴィータ姉さまのハグ拘束を解除!
そのままリィン君を盾に! リィン君ガード!
「ヴィータ姉さまは母様の古い知り合いの家族というか……姉代わりみたいな……」
「「ヴィータ・クロチルダが姉代わり!?」」
「ふむ……《蒼の歌姫》、聞いたことがあるような」
「し、知らないのか!?」
「あははっ……有名だなんて言ってもオペラの世界でだけだもの」
「ヴィータ姉さま、それは大分謙遜では?」
「あら、そう? じゃあもう少しハグさせてくれても……」
「リィン君にしてあげて下さい、苦労人なので」
「ちょっ、ライナ!?」
「ふふっ。さすがにそれはスキャンダルになっちゃうわね。――――改めて、ヴィータ・クロチルダ。オペラ歌手をやっているわ。よろしくね、Ⅶ組の皆」
まあもれなく<結社>の使徒なんですけどね!
「あ、そうだヴィータ姉さん。せっかくだからファンの2人にサインでもちょうだい?」
「そのくらいならいくらでも構わないわよ」
「「あ、ありがとうございます!!」」
「それじゃ、次のリハーサルがあるから私は行くわね。“気を付けて”ね、ライナ」
「うん。ヴィータ姉さんも」
ヴィータ姉さんの大ファンの二人(マキアスとエリオット)から崇められた。まあサインとか貴重だしね…。
ファンなら嬉しいだろうとは思ったけど、思った以上の喜び具合にこちらも嬉しくなる。
しかしその後にホテルの地下道で行った手配魔獣との戦いはラウラとフィーの噛み合わなさをより強調してしまうものになってしまい――――ラウラがサポートに回ると言い出すが。リィンが本来戦力的に二人の相性は最高のはずだと説得し。
そんなこんなで地下道の出口であるマーテル公園へ。
そこで聞こえてきた音色から、エリオットの旧友で今は音楽院に通っている子たちに遭遇。夕飯をエリオットの家でご馳走になった後、詳しい事情を聞くことになったのだった。
本当は音楽院に行きたかったこと、父親に「帝国男子が音楽で生計を立てるなど認められん」と許してもらえなかったこと。部活動や軍への仕官以外にも充実しているトールズ士官学院を選んだこと。
「毎日忙しいけど充実してるし、放課後には演奏もできる。漠然と音楽院に進むより今は良かったと思ってるよ。将来どうするにしても、今は僕自身の意志で将来を決められると思うんだ。だから、士官学院に入ったことだけは後悔しないよ――――何より君たちと、Ⅶ組の皆に会えたからね」
それを聞いて何を思ったのか――――。
ラウラはフィーに勝負を挑み。
フィーもそれを受諾。マキアスが慌てる中、リィンは冷静に街中だと迷惑がかかるのでマーテル公園あたりがいいのではと提案。導力トラムで移動することになるのだった。
――――――――――――
「――――フィー、単刀直入に言おう。この勝負、私が勝ったらそなたの“過去”を教えて欲しい」
「最初は、そなたの強さに納得できぬものを感じていた。そなたが力を抑えていたのは最初から分かっていたからな。そしてその体格で、その練度。私の“武”の常識からは余りにもかけ離れすぎていた」
「だろうね」
「そして《猟兵》という存在……その在り方にも正直、良い感情は持っていなかった。騎士を“正道”とするなら、猟兵は言わば“邪道”……己の価値観に反しているゆえ、心を合わせられないのだと思った」
「………」
「だが、それは勘違いだった」
「え」
「エリオットの話を聞いて、私はもう一度自分の心と向き合ってみた。そうすると……ひとつ気づいたことがあった――――数カ月共に過ごして、私がそなたを信頼できる人物だと、とっくの昔に知っていたことを。価値観とは関係なく……”心“がそう判断していたことを」
「………ぁ………」
「だが私の頭の固さと頑なさが、それを見えなくしていた。“心”ではそなたを認めているのに、“頭”で合わないと思い込んでいたのだ―――おそらくその矛盾こそ、ARCUSで心を合わせられなかった原因だろう」
「………“壁”があると思い込んでいたのは、わたしも同じ。ラウラはいつも真っ直ぐだから。わたしを受け入れられないって心のどこかでちょっと諦めていた」
「でもなぜ? なんでわたしの過去を知りたいの?」
「それは私がそなたを“好き”だからだ」
「な、なにを……」
「以前、リィンに絡んでしまった時もそうだったが……どうも私は、見込んだ相手や気に入ってしまった相手のことは理解できないと気が済まないらしい」
「そなたの過去、そなたが“そう在る”経緯の一端を知りたい。だからこれは、ただのわがままだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「やっぱり、ラウラは凄いな。いいよ、教えても。―――でも、報酬は自分の手で掴み取るのが猟兵の流儀……それでいい?」
「フフ……良かろう。だが、報酬のつもりはない。勝利の勲とさせてもらおう」
そうして始まったラウラとフィーの戦いは、なかなか見ごたえがあるものだった。………いやまあ、<結社>のやべー人たちとは流石に比較できないけど。
速さで攪乱するフィーと、凄まじい威力の一撃を放つラウラ。
ほとんど引き分けと言っていい結果だったが―――――夜間戦闘で、閃光弾も使って決着を付けられなかったフィーが負けを認める形になった。
そうして語られたのはフィーの過去。
いつの間にかどことも知らない戦場にいて、<西風の旅団>という猟兵団の団長に拾われたこと。手伝いなんかをするうちに色々な技術を教わったこと。
10歳で偶然実戦を経験して、西風の旅団の一員になったこと。
去年、西風の旅団の団長である<猟兵王>がそれに匹敵する猟兵団<赤い星座>の団長である<闘神>と一騎打ちの末に亡くなったこと。
猟兵団が、フィーを残して解散してしまったこと。
途方に暮れていたフィーの前にサラが現れて、トールズに入学することになったこと。
そうして話し終えたことで――――。
「――――ようやく私は“そなた”を知った。どうだろう―――今から試してみないか?」
「…………いいよ」
大剣と銃剣を構えた先は――――あれ、わたし?
「……ライナ、そなたの過去も是非語ってもらいたいな」
「……ん。わたしだけだとなんか不公平っぽいし」
いや、それはいいんだけど――――。
「それなら2人だけでは不足ですね。――――せめて4人纏めてかかってきて下さい」
「………へぇ」
「上等」
「ははは……」
「いやいやちょっと待ちたまえ!?」
これはもうやり合う流れだよ、マキアス君。
そうして始まった戦闘は、フィーが牽制、ラウラが本命の二段構えに加えてリィンとマキアスがカバーに回るかたち。
へぇー、ふーん。神気使わないのは舐めプじゃない? リィン君。
「――――シュトルムランツァー!」
ランスを構えての高速突撃技―――フィーとラウラを纏めてなぎ倒し、そのまま後衛のマキアスに一撃入れる―――寸前で、神気を解放したリィンが割って入る。
「―――くっ、容赦ないな…!」
「リィンさんが本気で来てくれないので」
「ARCUS駆動――――」
「神の雷よ、戦場へ来たれ! アングリアハンマー!」
マキアスが何かしらのアーツを発動しようとするがそれはキャンセルだ。
雷鳴が轟き、アーツを強制中断。おまけとばかりに全員にダメージを与える。
「――――ならば!」
土煙を裂いて突っ込んでくるラウラ。その大剣の上に―――フィー!?
「…っ、これも防ぐか」
「少し驚きました」
ラウラの斬撃と、ラウラの剣から跳んだフィーの銃撃からの奇襲。しかしその程度ならランスを振り回すだけで薙ぎ払える。――――っ!?
本命は、更にその影に隠れていたリィンか!
完全に体勢が流れた状態で、マキアスの援護射撃もありリィンの業炎撃を受けきるのは難しい。
ランスの柄で迎撃するが、衝撃を受けきれずに後ろに少しばかり下がる。
「―――なるほど。舐めていたのは私の方だったようですね」
「ここまでやってほとんどダメージなしとか……」
「……フフ、流石はライナと言ったところだが」
「ハハハ……けっこう渾身の一撃だったんだけどな」
「ならば――――あ」
「お前たち、何をしている!」
やってきてしまったのは巡回憲兵さん。
アングリアハンマーの雷鳴とか明らかに近所迷惑でした。これは失敗。
リィンたちと一緒に憲兵さんに平謝り。
なんとか学院への苦情などもなく乗り切ることができるのでした。