2日目。
ヘイムダル港の手配魔獣を倒し、マキアスの家でコーヒーをご馳走になりつつマキアスの“姉さん”が貴族に裏切られて命を絶った話、そして「結局は身分に関係なくその人次第だとリィンやラウラ達を見て学んだ」とマキアスが語ってくれたことでしんみりといい空気が漂っていた中。
――――怪盗B騒動である。
いやあの……ブルブラン………せっかくいい空気だったのに…。
宝飾店の店員さんによると、盗まれたのは<紅蓮の小冠>。なんと1億ミラにもなるという凄まじいお値打ちもの。Ⅶ組A班を名指しし、試練に打ち克てば返却するとのことだが……。
つまりお使いクエストである。
いやあの………このクソ広い帝都をなんでブルブランのせいでお散歩しないといけないんです?
「『獅子の心を持つ覇者、その足元を見よ』か」
「そう言われると、やっぱりヴァンクール大通りにあるドライケルス大帝の石像が思い浮かぶけど」
「ですね。ちょっと行ってくるので導力トラム乗り場に行っていて下さい」
「え」
導力トラムに乗るより、建物の屋根の上を跳んだ方が早い。
ブルブランめ、会ったら一発グランドクロスしてやる。
「ありましたね」
石像に置かれたカードには『第二の鍵は光透ける箱庭の中、北東の座に』とだけ書かれている。………ゲームならいける場所が限られてるからマーテル公園だってわかるけどさぁ! ARCUSの通信で伝えると、リィン君が八葉一刀流特有の“勘”の良さでさっくりと特定してくれたので導力トラムでそっちにむかってもらう。
そうしてマーテル公園に到着すると――――どの面下げてか、ブルブランがリィンたちと話しているところで。
「フフ、まあいい。今日は私も少々忙しいので、この辺で失礼させて―――」
「――――麒麟功! はぁあああああッ! 耐えられるものならば――――――耐えてみなさい!」
普段は全身を循環するように巡らせている気功を、爆発させる。
今の私は、速度だけならば母様よりも勝る。
「ちょっ、ライナ――――!?」
「―――――聖技、グランドクロスッ!」
チッ。手応えが浅い。
転移か分け身でも使っていたのか、何なのか。小癪にも煙幕を使って視界を塞いできたブルブランだが逃がすと思ったか――――!
こっちにも転移も分け身もあるんだよ!
「―――デュバリィ!」
「ハッ! 姫様! ブルブラン――――かの剣帝に迫りし神速の剣技、とくと食らいやがれですわぁッ!」
こちらも分け身を使ったデュバリィがあらかじめ包囲網を敷いている。
幸いにもこの温室はさほど広くはない。お使いクエストの途中で黒幕が出てきたなら叩き潰してやるのが世の情け。
「――――フィー! ライナを援護だ!」
「! 了解!」
さすがリィン君判断が早い!
フィーも確実に逃げ道を狭める銃撃で、デュバリィが動きやすいナイス援護。
「――――フッ、グッ、ちょっと待ちたまえ――――」
「せめてその散り様で“美”とやらを示してみなさい―――グランドクロス!」
お前が! 倒れるまで! グランドクロスを止めない!
こちとら常時ウォークライ上等な気功術でパワーは有り余っている。HPは減るが、誰が言ったか「死ななければ安い」。
取った――――確実に3万ダメージくらいは与えてやった手応えがあったのだが、やせ我慢なのか何なのか、一応優雅っぽく立っている――――デュバリィに剣を突きつけられているが――――ブルブラン。
「さあ、キリキリ盗んだものの場所を吐きやがれですわ!」
「ま、待ちたまえ。様式美というものがあるだろう…?」
「様式美如きで姫様のお手を煩わせるなど――――万死に値しますわッ!」
「ブルブラン、もう一回グランドクロスしておきますか? 今度は威力マシマシで行けますよ?」
「………ぐ………フ、フフ………ハハ、ハーッハッハ! ――――ごふっ」
「黙れですわ」
ゴン、とデュバリィの剣の柄が鳩尾に入った。
痛そう。
「―――よくぞ我が正体を見破った―――」
「そのキャラ続けるのか……」
マキアスもちょっとあきれ顔だぞ。
「見事と言う他あるまい――――しかしだね、あらかじめ正体を知っている者は黙っておくのがマナーではないのかな?」
「人のモノを盗まないのは最低限のマナーですよね」
「フッ。そこに“美”がある限り、我が使命は変わらない――――ごふっ」
「黙れですわ」
今度は脛に蹴りが入った。痛そう。
「転移で逃げるよりこの剣が切り裂く方が早いですわよ」
「フッ――――仕方あるまい。ではこのカードを渡そ――――」
「デュバリィ、やりなさい」
「舐めてるんですの? 盗んだものを返せと言ってるんですわ」
「ガハッ―――――いや、今は持ってな―――」
「チッ、相変わらず迷惑なヤツですわね………いかがなさいますか、姫様」
「仕方ないですね。とりあえずカードを見せてもらいましょう」
どれどれ……。『水辺にて佇む鋼鉄の鳥。その身に課せられた白き重荷の裏に』。
ふーん。
「どうやらグランドクロスが足りないようですね」
「猟兵流の聞き方もあるよ」
「どうやらこの男が怪盗Bらしいな……」
「なるほど、そういうことか」
「ええっ!?」
「それで攻撃してたのか……」
「いきなりグランドクロスはちょっとびっくりしたよ」
「―――仕方あるまい。此度の饗宴はこれまでとしよう――――」
だいぶズタボロになったブルブランだが、懲りているのかいないのか。
カッコつけたポージングと共にデュバリィと転移し。
次の瞬間、私の目の前に再度転移してきたデュバリィが黒い箱を捧げ持つように跪く。
箱の中には目も眩むような眩い紅のティアラ。
「姫様。こちらでよろしいでしょうか」
「ありがとう、よくやってくれましたねデュバリィ――――もう一発殴っておいてくれました?」
「ハッ! もちろん抜かりはありませんわ!」
「パーフェクト」
こうして余計な事件というか仕事というか余興に悩まされなかったお陰で2日目の仕事はスムーズに終わり。
リィンにサラ教官から入った通信で、夕方5時にサンクト地区にある<聖アストライア女学院>――――リィンの妹のエリゼが通っている場所だ――――に行くように言われたとのこと。
あっ。これはもしや……あのオリビエさんに会えるチャンス!
ファン魂が疼く……アルフィン殿下もリィンさんとの例の逃避行がね、すごく好きで……。
というわけでアストライア女学院の正門前へ。
リィンたちとラウラが入ったら大人気になっただろうなーという話や、アルフィン殿下も通っている、『天使のように愛らしい』とかオリヴァルト皇子とアルセイユ号の話とかを話しているとB班も到着し。
ラウラとフィーが仲直りしたという話題で盛り上がっていると、不意に聞こえてくる可憐な声。
「兄様……?」
「エリゼ!? どうしてここに……って、ここに通ってるんだし別におかしくはないか」
「え、ええ。Ⅶ組の皆さんもお揃いみたいですが……ちょっと待ってください。兄様たち、ひょっとして5時過ぎにいらっしゃる10名のお客様……でしょうか?」
「ああ、ちょうどⅦ組全員で10名になるけど……」
「ああもう、ほんとうに悪戯好きというか…! いきなりこんな不意打ちをしてくるなんて……!」
ああ、アルフィン殿下ね。
エリゼがリィンに懸想しつつも素直になれないのを知っているので、多分そんな悪戯を仕掛けてきたのだろう。
「こほん。失礼しました。トールズ士官学院Ⅶ組のみなさま――――ようこそ<聖アストライア女学院へ>。それでは案内させていただきます」