「―――――姫様。お客様をお連れしました」
『ありがとう。入っていただいて』
……はっ!?
いつもデュバリィが『姫様』って呼ぶからつい身体が勝手に反応しそうになってしまった。
よくよく考えたら帝国で『姫様』と言えばアルフィン殿下なわけで。不敬では?
「エリゼ、もしかして……」
「ご想像通りかと」
どこか困り顔というか、それでも可愛いエリゼさんに連れられてバラ園の中へ。
「ようこそ―――トールズ士官学院の皆さん。わたくしは、アルフィン。アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。どうか、よろしくお願いしますね?」
「もう、エリゼ。悪かったから機嫌を直して」
「知りません。兄たちに話がおありならご勝手にどうぞ」
リィンさんびっくりサプライズ登場! はリィンさん大好きなのに素直になれないエリゼさんを拗ねさせてしまって。
そのあとアルフィン殿下はユーシスとラウラと挨拶を交わしたり。自分もトールズに編入しようかなどと言い出してエリゼの反応を引き出すアルフィン殿下はなんというか、会話上手で楽し気な方で。
「ふふっ……リィン・シュバルツァーさん。お噂はかねがね。妹さんからお聞きしていますわ」
「はは……恐縮です。自分の方も、大切な友人に恵まれたと伺っております。兄としてお礼を言わせて下さい」
「ああ……聞いていた通り……ううん。それ以上ですわね」
「―――リィンさん、お願いがあります」
ちょっと深刻そうな顔のアルフィン殿下。
ファン心理でうきうきな私。戸惑った顔のリィン君とエリゼ。
「今後、妹さんに倣ってリィン兄様とお呼びしていいですか?」
「え゛」
「ひ、姫様!?」
「その、事あるごとに妹さんからリィンさんのお話を聞いているうちに他人とは思えなくなってしまって……実際にこうしてお会いできて気持ちが抑えきれなくなったというか」
うん、やっぱりこの人オリビエさんの妹だわ。間違いない。
「いやっ……さすがに畏れ多いというか…!」
「い い か げ ん に し て く だ さ い」
「エリゼのケチ。ちょっとくらいいいじゃない」
「まあ。それはともかく」
うん、やっぱりオリビエさんの妹さんだわ…。
「今日、皆さんをお呼びしたのは他でもありません。ある方と皆さんの会見の場を用意したかったからなのです」
「ある方、ですか…?」
「そ、それは一体…?」
そしてリュートの音と共に登場する子安ヴォイス!
「フッ、待たせたようだね」
「……だれ?」
「えっと、どこかで見たことがあるような」
うわあああ言いたい! 言いたいけどここでネタバレは美味しくない!
ブルブラン相手ならグランドクロスするけど!
「フッ。ここの音楽教師さ。本当は愛の狩人なんだが―――この女学院でそれを言うと洒落になってないからね」
「穢れなき乙女の園に迷い込んだ愛の狩人――――うーん、ロマンなんだが♡」
「えいっ」
「あたっ」
どこからともなく現れる巨大ハリセン!
容赦なく兄の頭をどつくアルフィン殿下!
「お兄様。そのくらいで。みなさん引いていらっしゃいますわ」
「フッ、流石は我が妹……なかなかのツッコミじゃないか」
「ま、まさか……」
「ひょ、ひょっとして……?」
まあアルフィン殿下の兄と言われたら一人しかいないわけで。
「フッ――――オリヴァルト・ライゼ・アルノール―――通称“放蕩皇子”さ。そしてトールズ士官学院のお飾りの“理事長”でもある」
「よろしく頼むよ――――《Ⅶ組》の諸君」
というわけで場所を移し。
晩餐を囲みながらオリヴァルト皇子の話を伺うことに。
トールズ士官学院の理事長はもともと皇族が務めるのが習わしであること、一昨年のリベール旅行、リベールの異変から心を入れ替えて“悪あがき”をしていること。その一つが、士官学院に“新たな風”を起こすことなど。
「私は君たちに現実に様々な《壁》が存在するのをまずは知ってもらいたかった。貴族派と革新派だけではない。帝都と地方、伝統と宗教と技術革新、帝国とそれ以外の国や自治州までも……この激動の時代において必ず現れる《壁》から目を背けず、自ら考えて主体的に行動する――――そんな資質を若い世代に期待したいと思っているのだよ」
Ⅶ組の発起人ではあるが、既に運用からは外れているというオリヴァルト皇子。しかし今の話だけは伝えたかったのだという。そして、アルフィン殿下がそのために席を用意してくれたと。
「お兄様のため、というのもありますけれど―――エリゼの大切なお兄さんに一度、お会いしたかったのもありますね」
「ひ、姫様!」
「――――話を聞かせて頂いて、本当にありがとうございます。自分たちの中の芯が一本、改めて通ったような心境です。ですが……お話を聞く限り、自分たちが期待されているのはそれだけでは無さそうですね?」
「ほう……」
え、そうなのリィン君。
……いやこんな細かいところ覚えてないや。
「士官学院の常任理事の3名。我が兄、ルーファス・アルバレアに帝都知事カール・レーグニッツ。そして、ラインフォルト社会長、イリーナ・ラインフォルトですか」
「確かに、その3人は……」
「どう考えても、皇子様とは違う狙いを持ってそう」
あー、それは確かに。
「フフ、その通りだ――――先ほども言ったが、既に《Ⅶ組》の運用は私から離れ、彼ら3名の理事に委ねられている。このうち、知っての通りルーファス君とレーグニッツ知事はお互い対立する立場にある」
………そうそう。
ついルーファスが《鉄血の子供たち》筆頭なのが頭を過るせいで表面上は敵対してるのを忘れそうになる。
「イリーナ会長はARCUSなどの技術的な方面に関係しているが、その思惑は私にもよく分からない。そして―――君たちの《特別実習》の行き先を決めているのは彼らなのさ」
じゃあ本当なんでブリオニア島を実習先にしたのかはほんとに知りたいです……。なんもないよあの島……。
「正直ためらいはしたのだが、それでも我々は君たちに賭けてみた。帝国の抱える様々な《壁》を乗り越える“光”となりえることを」
「――――フフ……だがそれも我々の勝手な思惑さ。君たちは君たちで、あくまで士官学院の生徒として青春を謳歌すべきだろう。恋に、部活に、友情に……甘酸っぱい青春なんかをね♡」
その後、サラ教官が“紫電”の異名を持つ最年少でのA級遊撃士になった経歴があるとか。リィンがアルフィン殿下から園遊会でのダンスのパートナー――――将来のお相手候補とも言える――――に誘われたり。断り方にリィンが困っているとみるや、来年は社交界デビューなので考えて欲しいと見事な引き際。さすがアルフィン殿下。
で。なんか現れたサラ教官とクレア大尉に連れられて鉄道憲兵隊の車に乗せられヘイムダル中央駅まで。
「――――テ、テロリスト!?」
ノルド高原に現れた<
まあ後の<帝国解放戦線>である。
Ⅶ組はそのテロの予防のために協力することを決定し――――遊撃士協会に戻り、何はともあれレポートを纏めて眠りにつくのだった。
―――――――――――――――――――――
人が……人が多い!
ゲームだと普通に出歩けたが、現実ではその比じゃない。約80万もの人口に加えて、恐らくは帝国各地からの観光客も多数。
アパルトメントから人が消えたとか、フィーが怪しい気配を感じたとか、百貨店でクロウが競馬の話をしてたりとか……。ちゃんといるじゃん《C》。
で、当然ながら地下道からマーテル公園に出るルートはこなしておく。
これやっておいても普通に警備抜かれるのは本当に何とかして欲しいんだけれども。
「ふと思ったんですけど、リィンさんがアルフィン殿下と踊れば至近距離で警護ができるのでは…?」
「ちょっ、ライナ!?」
「ふむ……だが、将来の相手候補として知れ渡ってしまうだろうな」
「リィンさん、どうですかアルフィン殿下のお相手は…?」
「さすがに畏れ多いって!」
「えー。残念です……」
「意外。ライナがアルフィン殿下推しとは思わなかった」
「でもほら、エリゼさんも至近距離で護れますよ。テロ、心配じゃないですか?」
「…………い、いや。それは流石に殿下に失礼だろ?」
(((ちょっと悩むんだ……)))
そして―――――事が起こったのは、ドライケルス広場でトワ会長たちに会った時のこと――――急激に噴水やマンホールの水圧が高まり、パニックが起こる。
そんな中で、即座に指示を飛ばしたのが我らがトワ会長で。
「アンちゃん、クロウ君! みんなの避難誘導を手伝って!」
「ああ!」
「合点承知だぜ!」
「会長、俺たちも―――」
「ここは任せて、リィン君たちは動いて! 君たちにしかできないことが、きっとあるはずだよ!」
「まさか、陽動か――――!?」
「マーテル公園!」
そうして駆けつけると、マーテル公園は帝都地下道にいた魔獣たちが氾濫してパニック状態。逃げまどう人々を飛び越え、突入したところで何かが崩れたような音が響く。
即座に内部に駆け込むと、腕を縄で縛られたアルフィン殿下とエリゼ。そしてそれに銃を向けているテロリスト。そして銃で撃たれたらしく肩を抑える知事閣下。
「殿下は関係ないだろう! 二人を解放したまえ!」
「――――このお二方には、君たちの陣営の致命的な失点になっていただく。命までは奪うつもりはないがね」
「エリゼ――――ッ!」
「兄様!?」
「リィンさん達……!」
「トールズ士官学院……ノルドでの仕込みに続いてまたしても現れたか。だが今回ばかりは邪魔されるわけにはいかん」
《G》は笛を吹くと魔獣を操り――――その程度とは。雑魚数匹で足止めできるなどと思われるのは、流石にちょっと不服である。
「舐められたものですね――――シュトルムランツァー!」
魔獣が跳ね飛ばされ、アルフィン殿下に銃を向けていたテロリストを吹き飛ばす。
同時に、ARCUSの戦術リンクで繋がっているリィン君が神気解放からの裏疾風でエリゼに銃を向けていたテロリストを昏倒させる。
「馬鹿な――――ならば!」
「リィンさん!」
「ああ!」
なにはともあれ、人質の救出が最優先。
アルフィン殿下を抱え、リィンがエリゼを抱えて一旦下がり。
笛の音と共に、崩落した地面の底から出てくるのは骨の竜――――ゾロ・アグルーガ!? あれって場所指定の魔物じゃなかったんだ……とちょっと新鮮な驚きを味わいつつ、アルフィン殿下の縄はリィンの刀ですっぱり切ってもらう。
「こ、これは…!?」
「骨の……竜!?」
「……クックク………ハッハッハ! これこそが《降魔の笛》の力……! 暗黒時代の帝都の“魔”すらも従わせる古代遺物だ! さあ、今度こそ死出の旅路に向かいたまえ、トールズ士官学院の諸君!」
「我は鋼、全てを断ち切る者―――――耐えてみなさい――――聖技、グランドクロスッ!」
一撃で骨の竜の胴体が消し飛び。
「―――――は?」
爆発で頭が吹き飛び、四肢が力なく吹き飛ぶ。
瘴気すらもどこかにいってしまったかのような静寂が園遊会の会場クリスタルパレスを満たす。
「脆すぎる」
「馬鹿な――――こんなことが――――」
愕然とする《G》にランスを向けるが、どこからともなく現れた巨漢が放つガトリング銃は流石にランスで防御。
距離を詰めていたフィーは、飛び降りてきた女性《S》の攻撃を回避して一旦下がる。
「同志《S》……それに同志《V》か……」
「こやつら……」
「テロリストの仲間か」
「やれやれ。今回は任せてもらうと言った筈だが……正直助かったぞ」
「正直無粋かと思ったけど――――お邪魔させてもらったわ。同志《C》と一緒にね」
『――――そういうことだ』
「同志《C》……まさか君まで来るとはな。しかし正直助かった、あまりにも規格外がすぎる」
ここで《C》の仮面を叩き割ったらどうなるのか――――正直気にならないでもない。
『なるほど、確かに分が悪いか――――《S》、《V》、援護を頼む』
即座にシュトルムランツァーで接近し、アルティウムセイバーでの追撃――――《C》は双刃剣で巧みに受け流すが、威力を殺し切れずに後ろに吹き飛ぶ。
すかさず《V》が持つガトリングからの援護射撃。
――――チッ。面倒な―――と、そこでリィン君が納刀しつつ闘気を溜めて。
「弧影斬!」
「ぐおっ!?」
放たれた飛ぶ斬撃で《V》が怯む。
その間にこちらはランスの一撃を《C》に叩き込み――――ギリギリで双刃剣で防がれるものの、それでも確実にダメージを与える。
「くっ、《C》! 《V》!」
「行かせないよ」
「貴様の相手は我らだ!」
援護しようとする《S》の前にはフィーとラウラのⅦ組最強アタッカーコンビ。
あれ、これ勝てちゃうんじゃない?
と思ったが、園遊会に来て、魔獣騒ぎのせいでまだ避難できていなかった人たちとレーグニッツ知事、そしてエリゼとアルフィン殿下はエリオットとマキアスが守っているとはいえ、無防備な人たちを巻き込む素振りを見せられるとこちらとしても戦闘続行というわけにもいかず。
一旦崩落した穴の前まで下がるテロリスト達と、向かい合うようにⅦ組も集結する。
『やれやれ。想定以上だ……』
「まさか、ここまでやるなんてね」
「なかなかやるじゃねぇか」
『いささか締まらない結果にはなったが―――――《帝国解放戦線》、本日よりそう名乗らせてもらう。静かなる怒りの焔をたたえ、度し難き独裁者に鉄槌を下す――――まあ、そういった集団だ』
「そこまでです!」
と、駆けつけてきたのはサラ教官とクレア大尉。
『クク、どうやら時間のようだな――――それでは諸君。また会おう』
そう言って煙幕を出し、崩落した穴に飛びこんでいく《帝国解放戦線》の面々。
流石に無策で追うというわけにもいかず――――戦闘は終結するのだった。