鉄道憲兵隊の主導によって夏至祭初日の混乱は収まり。
負傷しつつも陣頭指揮を取ったレーグニッツ知事によって夏至祭も無事に終了。その翌朝、Ⅶ組メンバーはオリヴァルト皇子、アルフィン殿下そしてエリゼとバルフレイム宮の第二迎賓口で顔を合わせていた。
「いや、君たちには本当に世話になってしまった。兄妹ともども、士官学院に脚を向けて眠れなくなってしまったほどさ」
「いえ、そんな…!」
「その、あまりにも畏れ多いお言葉かと…!」
「いいえ。いいえ。わたくしとエリゼなど、あのまま連れ去られていればどんな運命が待ち受けていたか……。本当に、何度お礼を言っても足りないくらいの気分です」
「わたくしからも、改めてお礼を言わせてください。本当に、ありがとうございました」
そうして話は自然と《帝国解放戦線》のものに。
独裁者に鉄槌―――そう言われて思い浮かぶのはやはりあの人。<鉄血宰相>ことギリアス・オズボーンだろう。
と、そこでやってきたのはアルフィン殿下の双子の弟であるセドリック皇太子とレーグニッツ知事。わざわざ見送りに来てくれたらしい。………なんでこんないい子があんなになっちゃうんだろうか。
とかなんとかやっていたら、大ボスの登場である。
「――――どうやら、お揃いのようですな」
で、出たー! オズボーンだあああ!
リィンパパにしては強面! アルフィン殿下の無事を喜ぶ言葉とオリヴァルト皇子への《帝国解放戦線》への対処の話。如才なく話を進めていたオズボーン宰相だったが。
「――――失礼。諸君への挨拶がまだだったな」
「―――――帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。《鉄血宰相》という名前の方が通りがいいだろうがね。フフ、私も君たちの噂は少しばかり耳にしている。帝国全土を股にかけての特別実習――――非常に興味深い試みだ。これからも頑張るといいだろう」
「恐縮です」
と、そこでオズボーンと目が合って。
………僅かに目を見開いた。
見間違いだろうか。
サラ教官と遊撃士の話をし。そしてヴァンダイク元帥が元上官なので更なる協力をする、何て話をするオズボーンには特別何か感じるところは無かったのだけれど。
「諸君らも……どうか健やかに、強き絆を育み、鋼の意志と肉体を養ってほしい」
…………ああ、これはきっと“本音”なんだろうなぁ。
原作をやっていた身としては感慨深い。あまりにも遠まわしで、それでいて確実な言葉。目線を向けていなくとも、リィンに向けた――――いやなんか一瞬こっち見たな!?
なに、何でなの!? 私なんかした!?
「――――これからの、“激動の時代”に備えてな」
――――――――――――――――
と、いうわけで。
Ⅶ組の仲間が増えました。
クロウ・アームブラストとミリアム・オライオン。
Ⅶ組メンバーも彼らを受け入れつつ、明らかに<鉄血宰相>の指示で編入してきたミリアムに壁は作らないようにしようと話して。
さくっと馴染んでしまうのは二人の人柄なのか、あるいはⅦ組の懐の深さなのか。
あと授業でリアンヌ・サンドロット―――母様の話題が出て私も鼻高々である。ランスでは常勝無敗、鉄騎隊を率いて一騎当千の活躍をしたと授業でも高評価。
その時拠点にしていた城、ローエングリン城がラウラの実家の近くにあるというトマス教官の補足に、ラウラからサンドロット家が断絶してしまってから魂を弔わせてもらっており。城も最低限の管理はしているとのこと。
そして、噂をすればなんとやら――――次のⅦ組A班の実習先は、ラウラの故郷でありリアンヌ・サンドロットゆかりの地でもあるレグラムになるのだった。
―――――――――――――――――
というわけでレグラムである。
湖と霧が幻想的な街。そして帝国では唯一と言ってもいい、遊撃士が現役の場所で。遊撃士であるトヴァルさんが今回の課題を取りまとめてくれた。
街灯の点検に手配魔獣と順調に課題を進め、門下生との手合わせ、そして師範代の執事クラウスさんとの手合わせもこなした私たちを待っていたのは<光の剣匠>ことラウラの父、レグラム領主ヴィクター・S・アルゼイドさんで。
本来ならここでリィンとアルゼイド子爵との手合わせが発生するのだが。
リィンは“神気”を畏れつつもある程度のレベルで使いこなせている。手合わせは必要ない―――そう思っていたら、なんでか私が手合わせすることになっていた。
「娘から話には聞いている――――かの<槍の聖女>をも思わせる使い手だと」
「しかし父上、さすがに父上とは――――いや、ライナなら………」
まあ師匠が<槍の聖女>だからね…。
リアンヌ・サンドロットとその部下である鉄騎隊の筆頭、どちらが強かったのかなんてのは伝わってはいない。だが――――母様が最強だと、私は信じている。
まあ、達人級の相手との試合も母様、マクバーン、レーヴェくらいしかできてなかったしちょうどいいと言えばちょうどいい。
帝国の“武”の双璧――――鉄騎隊の流れをくむアルゼイドの剣、受けてみたくないと言えばウソになる。
――――――――――――――――――
試合は、日中に門下生との手合わせでも使われた練武場で行われることになった。
ライナが携える馬上槍、そしてアルゼイド子爵の構える宝剣ガランシャール。ともに巨大な得物同士――――。
試合の始まりは静かなものだった。
アルゼイド子爵が先手を譲り、ライナは以前に帝都で見せた気功術で一気に闘気を解き放つ――――が。
「いきます――――麒麟功!」
「ハアアアァァァァ―――――ッ!」
ライナの身体に収められていた闘気が荒れ狂うように広がり――――練武館を覆い尽くすほどに広がり。
「な、なんだこの闘気は…!?」
「普段でもまるで本気じゃなかったってコト!?」
「(この闘気――――あるいはユン老師にも――――)」
「私も本気で行かせていただきます――――シュトルムランツァーッ!」
「―――――ぬっ!?」
だが迎え撃つ<光の剣匠>もさるもの。
重厚な闘気で迎え撃ち――――それでも超高速の突進を受けきれずに僅かに後ろに押される。
「――――くっ」
「やるな」
だが双方の表情は必ずしも状況通りではなかった。
渾身の一撃を不完全とはいえいなされたライナは苦い表情で、アルゼイド子爵はまだ余裕のありそうな笑みを浮かべる。
「洸迅剣!」
「アルティウムセイバー!」
互いの技が激突し、衝撃波で建物がビリビリと震える。
「なんと凄まじい――――」
「こ、これほどだなんて――――」
「これは……どちらが優勢なんだ?」
「………アルゼイド子爵だな。ライナは馬上槍を扱うにはそもそもの身長、体格が足りていないんだ。これまでは、その強さで問題にしていなかったが――――」
「相手が父上ほどにもなると、そこが弱点となるか」
一合、二合と剣を合わせる度にライナの闘気が小さくなっていく。
「やはりあれだけの威力を出すには消耗が凄まじいのか……」
「うーん、流石に限界かなぁ?」
状況は明らかにライナが不利――――しかし、リィンが呟いた。
「いや、違う、これは――――」
「むっ」
「――――――ふぅぅぅ―――――ッ! シュトルムランツァー!」
凄まじい轟音と共にゼムリアストーンの馬上槍と宝剣ガランシャールが激突する。
試合開始時と同じ光景―――だが、今度はアルゼイド子爵はわずかに押されるどころかたたらを踏んで明確に後退させられた。
「――――成程。まだ“上”があるか―――!」
「生憎、対人戦の経験が偏っているものでして」
「闘気を研ぎ澄ましている――――圧縮しているんだ」
「―――――ならば! 洸翼陣!」
「ハアアアアァァァァ―――――ッ!」
アルゼイド子爵もついに本気を出す。
これでパワーでは完全に押し負けるようになったライナが吹き飛ばされ――――否、自分から吹き飛んで距離を取る。
「シュトルムランツァー
瞬間、ライナが“増え”る。
高度な分身―――分け身のクラフトである。
3人のライナがそれぞれ実体をもってアルゼイド子爵に向かって突っ込み。アルゼイド子爵はそれをラウラの洸刃乱舞に似た剣舞で弾き返す。
その一撃でライナの分け身は消滅するが、互いに一撃ずつ受けたらしくライナは後方に吹き飛び。アルゼイド子爵は一歩後ろに下がる。
「――――――ならば」
「いいでしょう」
「――――――絶技、洸凰剣!」
「――――――我は鋼…! 全てを断ち切る者――――聖技、グランドクロスッ!」
二つの技のぶつかり合いは、その相性からライナに軍配が上がった。
巨大な闘気の渦で相手を拘束するグランドクロスを洸凰剣が断ち切ったかと思われたところを、ライナの全力の一撃が突き刺さったのである。
「――――くっ!」
「―――――まだだ! 絶技、洸凰剣!」
間髪入れず、二発目。
今度はライナが吹き飛び。場外に放り出されたところを、見切っていたかのように近くにいたリィンが抱きとめる。
「うぐぅ……」
「ライナ、大丈夫か!?」
「く、悔しい………」
「あはは……大丈夫そうだな」
「…………リィンさん、受け止めてくれてありがとうございます」
「ああ、いいってこれくらい」
「それはそれとして、ちょっと屈辱的なので降ろしてください」
「ははは……」