「――――リィンさん、実はちょっとお願いがありまして……」
「? ああ、俺にできることなら何でも言ってくれ」
男前がすぎるぞリィン君。
私のメンタルが女の子だったらドキッとしたかも……しれない? いやまあメンタルが男かと言われたらノーなんだけど。女の子かと言われるとちょっと怪しい。
「実はその、戦術リンクを組んだ状態で組手をしてほしくてですね……」
「…………なるほどな。それは俺も得るものが多そうだ」
つまり、超高精度な見取り稽古みたいなもの。
八葉一刀流パクらせて♡ という大変厚かましいお願いである。
……いや、うん。だいぶ厚かましいな!
と、勝手に凹んでいると自然に頭を撫でてくるリィン君。………こ、こやつ頭を撫で慣れてる! エリゼにも散々やったなお前!
「別に気にしなくていいさ。その、どちらかというと俺の拙い技でいいのかなっていうのがな。八葉一刀流の名を汚すわけにはいかないし」
「大丈夫です。リィンさんの技の冴えで初伝とか詐欺もいいところですし。あくまで稽古の一環で私が勝手に真似するだけ………ということにできないでしょうか」
「それならセーフ……かな?」
「あくまで組手ですし」
組手だけ! 組手だけだから!
そう言って練武館にあった木刀を借りて二人でゆっくりと打ち合う。
戦術リンクを通じて、リィンさんの動き―――その“理”を読み解く。
(なるほど、疾風の歩法がこうで。螺旋はそういう……)
「これは……凄く勉強になるな。―――いや、そうか。そういう動きが―――」
!?
なんでこの人急に一段飛ばしで技の冴えを上げてきてるの!?
ゆっくりと動いているはずなのに、無駄がなく、速く、そして柔軟性がある。これがあと数年で“理”に至る主人公の実力――――!
おかしい。鍛錬を頼んだのは私のはずなのにリィンがめっちゃ強くなってる。
出力を制限し、得物も違えば技も限られる。
付け焼刃の八葉一刀流もどきで立ち向かうと、お手本のように綺麗な型で返される。……これ初伝じゃなくてもう教える側の練度じゃないかなぁ!?
しかしこちらもアリアンロードの娘としてそう簡単に負けるわけにはいかない。
レーヴェの剣の技を思い出しつつ披露し。うおおお鬼炎斬! ……うわなんか螺旋で受け流された!? 螺旋撃ってカウンター気味に撃てるのね!?
い、いやだリィン君にまで負けたら私のちっぽけなプライドが打ち砕かれる!
とムキになってしまったのが悪かったのだろう。次第に稽古の速度が上がっていき。ほぼ互いに全力で打ち合うが、戦術リンクのお陰で互いに全部受け切るというちょっと異様な光景になった。
結果は引き分けだった。
……引き分け! 誰が何と言おうと引き分けだったの!
―――――――――――――――――
―――――機械仕掛けの手配魔獣。いやこれ<結社>のヤツじゃ……。
なんとなく見覚えのあるフォルムに、みんなが色々考察しているのが申し訳なくなってくる。どうしよ。言ったところでどうなるものでもないんだよなぁ……でも多分<結社>がここに何か仕掛けてくるってことはないだろうけど。
とか悩みつつ歩いてレグラムに戻ると。
見慣れぬ貴族軍の兵士たちの姿が。
「白と紫……帝都の夏至祭でも見た色だな」
「たしかあの色は……ラマール州のものだったはずだ」
「ラマール州といえば帝国のほぼ反対……どうしてその領邦軍がレグラムを訪れるのだ?」
……んー?
もしかして内戦関係で何かあっただろうか。
アルゼイド子爵がいるだけでけっこう戦力的にもだけど、インパクトも大きいし。
「フフ、そう言わずに考えておいてくれたまえ。貴公が来てくれれば会合にも箔がつくというものだ」
「所詮、片田舎の領主に過ぎぬ身。さすがに買いかぶりでしょう」
「価値を決めるのは周囲であって貴公自身ではないのだよ。判っているとは思うが……くれぐれも妙な真似はせぬことだ。正規軍での武術教練とやらも、できれば今後は控えてもらいたい――――無用な波風を立てたくなければな」
あれ。カイエン公じゃん。こんなイベントあったっけ……?
黒いスーツにグラサンと、マフィアみたいな<西風の旅団>、ゼノとレオの二人を引き連れてパワハラしに来るなんて……暇なんだろうか。
「それは……」
「フフ。それではさらばだ。――――執事。なかなか美味い茶だったぞ」
「恐縮でございます」
と、階段降りてこっち来た。
「ラウラ嬢か。久しいな。―――ほう、ユーシス君までいるのか」
「……ご無沙汰しております」
「……いつも父たちがお世話になっております」
「フフ、久闊を叙したくもあるが、少しばかり急いでいてな。また近いうちに、会う機会を設けるとしよう」
四大名門の筆頭、カイエン公爵。
革新派のトップがオズボーン宰相だとすれば、貴族派のトップはこのカイエン公。あるいは見方によってはカイエン公は旗頭にして大将、実働部隊のトップは指揮を取るルーファスかになるだろう。
「うむ、それではさらばだ」
「ハハ、なるほどなぁ。君らがトールズ士官学院の《Ⅶ組》ってやつか」
「……!?」
「何故それを……?」
「いやな、縁があって少しばかり調べてたんや。うん、なかなかええ面構えをしとるわ」
「そういう貴方たちは<西風の旅団>の《罠使い》と《破壊獣》ですか」
ちょっとやり返したくなって口を挟むと、ギラリと二人の眼光が鋭くなる。あ、余計なことしたかも。
「……へぇ」
「ほお。よく知っているな……だが、閣下がお待ちだ。このくらいにしておけ」
うん、やっぱ見た目がマフィアか何かにしか見えないよ…。
「<西風の旅団>って、フィーが所属していたっていう……」
「なるほど、それで―――」
「――――恐らくカイエン公が私的な護衛として雇ったのだろう」
「父上……」
「ふふ、そんな顔をするでない。だが、いよいよ本格的に動き始めたようだな」
…………
………
……
「貴族派が水面下で動き始めている……!?」
「うむ、先月当たりから貴族派が頻繁に動き始めている。各地で会合が繰り返され、結束を再確認しているようだ……そちらのお嬢さんは当然知っている情報だろうが」
「んー、まあね。とうとう革新派と本格的にやり合うつもりかって情報局もピリピリしてるし」
「そうだったのか……」
さらっと情報を教えてくれるミリアム。まあアルティナもそうだけどこの子たちけっこうそういうところは緩いよね。
「でも、カイエン公っていえば貴族派でもリーダー格だよね? わざわざ来るっていうのはさすがにびっくりしたよー」
「うむ……私も驚いた。貴族派全体の会合を近いうちに開くつもりらしくてな。それに必ず出席するようにとこんな辺境まで訪ねてきたらしい」
「で、ですが父上はあくまで貴族派からは……」
「……はい。距離を取っておられます。さりとて革新派にも近づかず、中立を取っておられるのですが」
「だが、先方にしてみれば貴族ならば貴族派に所属して当たり前という理屈なのだろう。気の進まぬ貴族たちを強引に引き込んでいるとも聞く」
「……当然、俺の実家もそれに関わっている筈ですね」
神妙な面持ちのユーシス。
まあ貴族は階級社会だし、公爵家が相手ともなれば誘いを断るのもほぼ不可能に近いのだろう。
「うむ。そうだな……《四大名門》の主導権をカイエン公とアルバレア公のどちらで取るか……やや揉めていると聞くが基本的には同じ方針であろう」
「その、自分の実家については何かご存じありませんか?」
と、やっぱり両親とエリゼを大切に思ってるからか、こういう時には珍しく不安げなリィン君。
「フフ……そなたの実家ならば心配は無用だろう。シュバルツァー卿といえば私以上の頑固者として有名だ。貴族同士の胡乱な動きに加担するとはとうてい思えぬ」
「そ、そうですか。少しばかり安心しました」
「ふむ……待てよ。―――そういう事なら、まだ打つ手があるやもしれん」
もしかして“新たなる風”に参加するのってここで閃いたのだろうか。そうだとするとリィン君ファインプレーどころの騒ぎじゃないんだけれども。
「クラウス、またしばし留守にする。悪いがよろしく頼んだぞ」
「かしこまりました、お館様」
「ち、父上!?」
「あはは。また唐突だねー」
「即断即決が信条でな――――各地の中立派の貴族と連絡を取り合うことにする。貴族派全体の強引な動きに取り込まれることがないようにな」
………
……
…
そうしてアルゼイド子爵は気になることがあるというトヴァルさんを連れてすぐさま飛び立ち。Ⅶ組A班は残ってギルドの仕事を肩代わりすることになった。
魚釣り、花の捜索、そして地道な書類作業。
それらが済んだ頃、駆け込んできたのは町の子どもたちのうち二人が『お城』に行って戻ってこないのだという話。
というわけで、導力ボートを使ってⅦ組A班出動!
「これが《ローエングリン城》……」
「救国の聖女が本拠地とし、歴戦の勇士たちが集まったとされる伝説の古城か」
救国の聖女ですってよ母様。
私も養女として鼻が高い。
「な、なんかボ~っと光ってない!?」
「光ってますね……さすがかあ――――<槍の聖女>のお城です」
「いや、私も以前から何度か訪れたことはあるが、こんな状況は初めてだ」
そうして中に入ると勝手に扉が閉まり。
驚いたミリアムがアガートラムで破壊を試みるが、結界によって阻まれる。
エマが魔女の力を少しだけ開示してくれたり。謎の魔物が徘徊していたりと色々あったが―――――問題はやはり、最後のボスだろう。
仕掛けを順調に解除し、子どもたちを発見し。
ラウラが子どもたちを叱って、宥めたところで最奥へ到達。
したところで。
怪しげな宝珠から出現するノスフェラトゥ。……ちっ。出てこなければ宝珠ごとグランドクロスしてやろうと思ったのに。
不死の王だかなんだか知らないが、こっちにはグランドクロスがある!
のだが。
「すまない、ライナ」
「我らも腕を磨かねばな」
「えっと、そういうことでしたら……」
ノスフェラトゥ君はみんなの経験値になったのだ……。
と言っても、裏疾風して洸刃乱舞してノードアルベリオンしたらほぼ終わっていたけど。
そして宝珠を破壊しようとしたら溢れ出す力で全員が拘束され。
……おおー。けっこう力強い。
「し、しまった……!」
「迂闊でした、まだこんな力が残っていたなんて……!」
「くっ、みんな………」
「「「「ライナは!?」」」」
「うわー。うごけないー」
「いや、ライナ…!?」
「ちらっ」
目線を高所に送ると、「仕方ない子ですね」と微笑む母様の姿。
飛来した馬上槍は一瞬で宝珠を粉砕し。
気功術を存分に使った大ジャンプで母様がどっか行く前に飛びつく。
「―――――母様っ!」
ふっ、今日も鎧がカチカチだぜ……。
とか微妙に物足りない気分を味わっていると温かな手が頭を撫でてくれる。
「<光の剣匠>と立ち会ったようですね」
「……うぐぅ………負けちゃいました」
「貴女はまだまだこれからなのですから。怪我が無ければよいのですよ」
「はいっ」
「あ、そうだ。母様、私の友達を紹介させてください!」
というか紹介するからまだ帰らないで! そんな思いで手を掴むと、優しく微笑んでくれる。うーん。これは聖女ですわ。
「というわけで、私の自慢の母様です!」
「結社《身喰らう蛇》が使徒第七柱、アリアンロードです。娘がいつも世話をかけているようですね」
なんかその自己紹介をこの空気感でやるとちょっと面白いな…。
「い、いえ。こちらこそライナにはいつも助けられていて――――」
「って、そっくりじゃん!」
なん……だと……。
無邪気なミリアムの一言に、ちらっと母様の顔を見ると不思議そうに頭を撫でられた。
「ええ。私の自慢の娘ですから」
―――――私、母様の娘だったかもしれない。
何を言っているのか分からないが、私にも訳が分からないよ……。
え。ちょっと待って。父親は!? 父親は誰なの!?
いやでも母様の娘かぁ!
………人造人間説も捨てきれないのがゼムリア大陸ってやっぱクソだわ。