槍の聖女の軌跡を超えて   作:アマシロ

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士官学院祭1日目午前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学院祭で行う演奏会―――そのための特訓は苛烈を極めた。

 場所は幸いにも旧校舎が使える。のだが。

 エリオット鬼教官が音楽に関しては妥協を知らず、普段の穏やかさが嘘のように容赦がなかったからである。

 

 

 そこで、ふと思いついた『ARCUSの戦術リンクを用いた演奏特訓』はかなり有効に作用した。

 

 互いの考え、動きが手に取るようにわかるこのシステムは戦闘だけに限定するのがもったいないほどの可能性を秘めている……秘めていた。これでちょっとは特訓が楽になるぞ! と皆も安堵の表情を浮かべて―――。

 

 

 

 

 

「すごいや! これならクオリティを妥協しないで済みそうだね!」

「あの、エリオットさん……?」

 

 

 

「あ、ライナさっきのところロングトーンを意識してもう一回やってみようか」

「……あの……?」

 

 

 

「さあ、時間は限られてるんだしどんどん行こう!」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 ダメだこんなの耐えられない!

 ならばと連絡を取ったのはヴィータ姉さま。大人気オペラ歌手であり、エリオットが大ファンの姉さまならばエリオットも強くは出られまい……! <結社>の謎パワーで何故かARCUSを持っているヴィータ姉さまにさっそく通信で電話。ちょうどトリスタにいてくれたので見事に繋がったのは女神の助けかと思った。

 

 

 

 

 

「なるほど――――私に任せなさい。ライナならオペラも合うと前から思っていたのよね~。あ、ライナそこ声がブレてるわよ。もっとしっかりお腹から声を出して。はい、ワン、ツー」

「あ、あれ…?」

 

 

 

 

「特訓のためにヴィータ・クロチルダまで呼ぶなんて………もうこうなったら妥協は一切ナシだ! 限界まで頑張ろう、皆!」

「「「ライナ……?」」」

 

 

 

「ごめんなさいそんな目で見ないで下さい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 違うんです……全部裏目に出ただけなんです……。

 

 そうして夕方ごろようやく予定の3曲は完成を見て。

 忙しいヴィータ姉さまも帰ったことでようやく一息つけると思ったその時だった。

 

 

 

 

 

「と、とにかく寮に戻ってちょっとだけ休みたいです……」

「ですね……」

 

 

「おいおい、何を寝ぼけてんだ? ステージにはサプライズとアンコールがつきもの……ようやく他のクラスに勝てそうな“ダメ押し”が狙えるんじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべるクロウ。もうこの時点で嫌な予感しかしない。

 やめ、やめろぉぉぉぉ! やめてくれぇええええ!?

 

 

 

 

 

「ま、まさか……」

「これ以上、追加で曲をやれなどとぬかすんじゃあるまいな……?」

 

「クク、そのまさかだ――――なぁに、聞いちまったらお前らだってやりたくなるだろ。メロディはシンプルかつ有名。歌詞もそれなりに有名―――さぁて、時間もないことだし段取りを説明させてもらおうか?」

 

「……あ、悪魔……」

 

 

 

「はぁ……」

「いいんちょー!?」

 

 

 

 

 

 絶対一番ノリノリなのクロウ、お前だよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。なんとか寮にたどり着いたところでラジオから聞こえてくるのはヴィータ姉さまの声で伝えられる臨時ニュース。クロスベル独立宣言―――。

 

 知っていてもちょっとびっくりなこの宣言に少しだけ目が覚めたものの。私からできることも、やりたいことも何もない。

 

 今は学院祭に集中するだけ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『――――学院生の皆さん、そして来場者の皆様方。大変長らくお待たせしました。これより、第127回トールズ士官学院・学院祭を開催します。どうぞ心行くまで楽しんで、みんなで盛り上がってください!』

 

 

 

 

 トワ会長の放送とともに始まる学院祭。

 

 

 

「―――さてと、僕たちの出番は明日の午後だ。今日一日ステージは忘れて学院祭を満喫することにしよう」

「忘れるなんて、そんなの無理ですけどね……はっ、すみません」

 

 

 

 

 

 

 エマ委員長がストレスと疲労でナイーブになってる……。

 

 

 

 

「え、えっと、クラブの手伝いをする人もいるでしょうから今日は終日、自由行動になります。ですが、備品のチェックもあるので帰りにはいったん集まりましょう」

「そうだね、導力楽器の搬入タイミングも確認したいし」

「簡単なチューニングくらいは一応やったほうがいいからな」

 

 

 

 

 

 というわけで、その場は解散。

 リィンさんは生徒会の予備メンバーとしてお手伝いに回ることに――――ならなかった。

 

 

 

 

「も~、今日くらいはお手伝いはいいのに~。初めての学院祭なんだから楽しまなくなちゃダメだよ?」

「学院祭は学院祭でちゃんと楽しませてもらいますよ。あくまで空いた時間にお手伝いするだけですから」

 

 

 

 

「うーん、怪しいなぁ……そうだ! リィン君にこれをあげる!」

「これは……何かのチケットですか?」

 

 

 

 

「えへへ、生徒会が発行した来場者全員にプレゼントしてる特典チケットだよ。アトラクションに入る時に渡せばちょっとしたサービスは受けられる趣向なの。それを今日中に使い切ること!」

 

 

 

「ええっ、本気ですか!?」

「リィン君、こうでもしないと自分のことは後回しにしそうで……それに、初めての試みだからどんな感じかレポートも欲しいの。1枚につき2人まで使えるから色々と活用してみて?」

 

 

 

 

「さすがトワ会長。リィン君の自己犠牲癖を熟知してらっしゃる」

「ライナちゃんも、はい」

 

 

 

 スッと私にも手渡されるチケット。

 

 

 

「え゛」

「そういうライナちゃんも、リィン君の心配ばっかりじゃなくて自分も楽しむこと!」

 

 

 

 

「「は~い……ありがとうございます、トワ会長」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 トワ会長のことだし、ちゃんと使い切らないと叱られそう……。怖くはないけど、悲しませたくはないのである。

 

 チケットの枚数は……3枚ずつ。

 

 

 

 

 3枚くらいならすぐに使い切って――――あれ。

 

 

 

 

 

「2人で仲良く使ってね?」

 

 

 

 

 にこにこ笑顔のトワ会長は天使。

 なんだけど、なんか2人で回るの確定してます? いやリィン君以外に誰か誘う相手がいるかと言われたらいないんだけど。

 

 リィン君にはエリゼちゃんもいるし、豪華ヒロインズが……―――ええいままよ!

 

 

 

 

 

「とりあえず私の3枚はリィンさん助けてください」

「いや俺の方も助けて欲しいんだが……」

 

 

 

 

「リィンさんにはエリゼさんもいるじゃないですか」

「エリゼはエリゼで来場者分を貰うんじゃないか……? というか来る予定があるのは明日だし……」

 

 

 

 

 

 くっ、鋭いなリィン君は! 君のような勘のいい主人公は好きだよ! 朴念仁のくせに!

 

 

 

 

 

 

「あ、ほら。リィン君はトワ会長も誘ってあげて下さいよ」

「それは確かに……会長も他人の手助けに夢中になりそうだし」

 

 

 

 

 とかなんか言いつつ二人で校庭の方に流されていくと。

 そこには特設コースを駆け抜ける馬の姿が! タイムアタックだぁ!

 

 

 

 

 

 

「2年有志による出し物、《マッハスタリオン》によくぞ来た! ここは学院で育成した馬たちによる乗馬体験と、特設コースを周回するタイムアタックに挑戦できるのだ! 素晴らしいタイムを叩き出し、この私を驚かせてみるがいいっ!」

 

「「おぉ……」」

 

 

 

 

「リィンさん、乗馬できるんでしたよね」

「ああ、それなりには」

 

 

 

 

 チケットを渡して、タイムアタックに挑戦。

 

 

 

 

「うむ、カップルコースだな。2人乗りの分、タイムにはハンデが付く。張り切っていくがいい!」

 

「「あれ……」」

 

 

 

 

 

 いや私も一人で乗れるんですけど。

 完全にリィンさんのサポートありきで乗ると思われている……。

 

 

 

 

 

 しかし混んでいるので今更「違います」とも否定しにくい空気。

 ………あ、スカートだから一人乗りは厳しいか。パンツ丸出しは流石に恥ずかしいと思う程度には私にも羞恥心がある。

 

 仕方ない。ここは深窓の令嬢のようにリィンさんが手綱を取る腕の前に横座りで………ほぼ抱きかかえられるような状態だが。これで走れと。

 まあ私の鋼のメンタルからすればこの程度の仕打ち、大したことはないというかリィン君なら別に密着しても不快感ないからね。さすが主人公。これが《博士》とかだったら母様に通報してダブルグランドクロスするところだけど。

 

 

 

 

 

「あれ、どうしたんですかリィンさん。顔が赤いですよ?」

「………いや、流石に恥ずかしくないかこの体勢」

 

 

 

「リィンさん、羞恥心はかなぐり捨てるものですよ。恥ずかしいと思うから恥ずかしいんです」

「いや大事に持っておいてくれ……」

 

 

 

「えー、なんですかー?」

「ちょっ、ライナ!?」

 

 

 

 

 ふふっ、ちょっと密着されたくらいで慌てるリィンさんとか貴重すぎる。今しか見られないんじゃなかろうか。内戦が始まったらアルフィン殿下とこの話題で盛り上がりたい。

 

 にしても、ふむ……“鬼の力”にちょっとずつ慣らしていることもあるのかもだけど、八葉一刀流は流石というべきだろうか。よく鍛えられている。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ライナとリィンだ。おーい!」

「お前たちもか……」

 

 

 

 

 ミリアムを抱えるような形で乗馬するのはユーシス。……流石に様になっている。

 

 ……ところでこれ、もしかしなくても……レース!?

 

 柵で仕切られているのと、外側にはハンデが付けられているが……。

 

 

 

 

「勝負とあらば本気で行きますよ、リィンさん!」

「まっけないよー! やっちゃえ、ユーシス!」

 

 

 

「ラ、ライナ!?」

「ええぃ、引っ張るな!」

 

 

 

 

 

「葦毛ですし、君の名前はヴァリマール号です! 行きますよヴァリマール号!」

「こっちはガーちゃん号だ! いけー! ガーちゃん号!」

 

 

 

 

 

 

 とはいっても私にできるのは体幹を安定させてリィンさんの腕に身をゆだねるくらいなんですけど。………今更ながらちょっと恥ずかしいなこれ!?

 

 くっ、ミリアムはパンツ丸見えなんのその、横座りじゃなくスカートでも普通にズボン感覚で乗ってるしこれは不利か!? いや、ユーシスが頭を抱えてフォローに回ってるからワンチャンある!

 

 

 

 

 

「「くっ、こうなったら一刻も早くゴールするしか――――!!」」

「「いっけーーー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 大接戦でゴール!

 

 決着は僅か頭一個分の差で私たちが勝利!

 記念品として「マッハ杯記念盾」を貰い大満足。リィン君は要らないらしいので有難く頂戴して。これは部屋に飾らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 なんとなくそのまま二人で近くの練武館へ。

 そこで行われていたのは超巨大もぐらたたきとでもいうべき「みっしぃパニック」で。

 

 

 

 

 

「いきます! 二の型―――疾風!」

「いいぞ、ライナ!」

 

 

 

 

 

 リィンさんからパク……模倣させてもらった《疾風》で悪みっしぃなるものを叩きまくり。最高得点を見事に更新――――した直後。リーチの差でリィンさんに1体分スコアを上回られて敗北。本家には勝てなかったよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 その後はお昼を過ぎたこともあり、ちょっと休憩しようと二人で1年Ⅱ組の出し物《星の庭園》へ。かなり本格的な星空の演出を二人でベンチに座りながら眺めて…………あれこれデートでは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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