――――私のチケットは使い切ったぞおお!
リィン君の分? 知らんな……と言いたいところだけど、いちいち別れる理由も特にないし小腹が空いたのでそのまま廊下を流されて、美味しそうな匂いのする教室の前へ。
「こちらは1年Ⅳ組の東方茶屋《雅》です。東方風の落ち着いた店内で美味しいお茶とお菓子をお召し上がりになれます。よかったら一休みしていきませんか?」
「和菓子! いきましょう、リィンさん」
「和…? 東方風か、確かに気になるし入ってみようか」
「竹っぽいものに、石庭っぽいもの……あと和傘もあるとけっこう雰囲気ありますね」
「ああ。俺も家族と温泉旅行で共和国の東部に出かけたことがあるんだが……けっこうな再現度なんじゃないか?」
「抹茶にお茶菓子……早速頼みましょうか」
「この分なら、お茶も期待できそうだ」
というわけで、いざ実食。
うん、美味しい。
なんというか郷愁を感じる……。
お茶も抹茶の苦みと風味そして旨味に、お茶菓子の甘さが絶妙…。
クオリティ高い。これは素敵な東方喫茶です。
と既に大満足なところに、やってくる双子の店員さんリンデとヴィヴィ。
「えっと、突然ですが。おみくじを引いてみませんか?」
「おみくじって言うと確か……」
「女神様に祈願して吉凶を占う東方の文化なの。チケットを使ってくれたお客様だけのサービスよ」
「へぇ、面白そうですね」
「ああ、ためしに引いてみるか」
「では、私とヴィヴィのどちらから引くかお選び下さい。私の方は様々な吉凶を占う《開運おみくじ》が―――」
「あたしの方は恋愛や相性を占う《縁結びおみくじ》が引けるわよ♡」
「――――じゃあリィンさんはヴィヴィで!」
「って勝手に決めないでくれ!?」
「リィンさんの恋愛運とか絶対面白いじゃないですか、さあどうぞ」
「くっ、ならライナも同じのでいいな?」
「いいですよ。受けて立ちましょう」
「「せーのっ」」
はいこれ! 《大吉》! はい、わたしの勝ちですね。えー、『相性は抜群です。貴方の熱い想いにお相手も気づいているハズ』…………へ、へぇ。まあ男女云々を抜きにすればリィン君のことは前世から好きだからね。
「リィンさんは―――? えーと、《末吉》! 『あまりに多くの縁が絡まり身動きが取れなくなっています。更にそのせいで意中の相手にも気持ちが伝わりません』―――ふふっ」
「ちょっ、笑うことはないだろう!?」
「いるんですか、意中の相手――――まあ占いですし、当たるも八卦当たらぬも八卦でしょうけど。あまりにも多くの縁……ふふっ」
「――――まあ、そうだな。ところでライナは?」
「大吉でした。私の勝ちです」
「勝負だったのか…?」
というわけでリィン君とはそこで別れて。
生徒会の手伝いなんかをしつつものんびりと過ごすうちに日も暮れて。
『――――学院祭・1日目はまもなく終了時間となります。来場者の皆様方、どうぞ明日もふるってご参加ください。準備がある学院生の皆さんはあんまり無理しすぎないように、してくださいね』
トワ会長の放送を聞いて、Ⅶ組の皆で集合して第三学生寮に向かう。
他クラスの出し物のクオリティの高さについて語り合っていると、リィンが不意にどこかから何か聞こえたかのように周囲を見渡す。
「どうした?」
「なんだなんだ、来場者の可愛い子と知り合ったのか~? それで『リィンさん、連絡先を聞いても良いですか♡』なんて声を掛けられたとか」
「……(じろっ)」
「いや、あり得ないから。それより、夕食後にでも最後のミーティングをしよう」
………
……
…
「うん、これでバッチリだね!」
「そうね、最後の曲の導入も気が利いてる感じだし……」
「なかなかのサプライズになってくれそうだな」
「だろ?」
「フン、奇策に近いというのがこの男らしくはあるが……」
「というか完全に不意打ちだと思うけど」
「当然クロウ先輩のことですし、“仕込み”はしてあるんですよね?」
「~~♪」
口笛吹いて誤魔化してるが、クロウのことなのでいきなり博打を打つというよりはできる策は全部打っておくタイプだと思っている。
例えばアンコールの“サクラ”をあらかじめ頼んでおくとか。
「あれ、いいんちょ。なんか元気ないねー?」
「どうしたの? 体調が悪いとか?」
「いえ……大丈夫です……その、探していた姉さん……いえその、血のつながりはないんですが……」
「お姉さんがどうかしたのか?」
「別の子の姉代わりをしていて……」
「おおぅ」
「あ゛」
ヴィータ姉さまちょっと困った半笑いだったのそういうこと!?
私のガバのせいで委員長のメンタルが爆発している……。
と、ここで響いてくる鐘の音。
「ちょっと待て、こんな鐘の音……今まで聞いたことあったか?」
「確かに、いつも学院で鳴っているのと違うような……」
「――――あの時、ローエングリン城で鳴っていた!」
「間違いない、同じ音だ」
「ええっ、どういうこと!?」
「なるほど。なんとなく状況は掴めたわ。君たちもついてきなさい」
と、駆け付けたサラ教官に従いやってきたのは士官学院。
そこではあの日のローエングリン城と同じように光る旧校舎で。
その前でヴァンダイク学院長に、トワ会長、トマス教官とジョルジュ先輩が話していて。
「来たか」
「状況は?」
「先ほど鐘が鳴り始めた直後、すぐこの状況になったそうじゃ。複数の学生が証言している」
「なんだか、透明な壁に包まれているみたいで」
「工具のハンマーでたたいても、衝撃が吸収されているような感じですね」
「物理的な衝撃を相殺するような力場…?」
「不可解な場所とは思ったがここまでだったとは……」
「んー、とりあえずガーちゃんにブチかましてもらう?」
「やめておけ、古城の時と同じオチだろう」
「――――全教官を招集。これより緊急会議を開く。最悪の事態を想定して備える必要があるじゃろう」
ヴァンダイク学院長の宣言に、トマス教官がどこか残念そうに呟く。
「うーん、そうなっちゃいますか」
「トワ君、明日の学院祭だが中止の方向で進めておきなさい。ジョルジュ君は、この場所の監視機器をそろえてもらいたい」
「……は、はい……」
「……了解しました」
「ま、待ってください!」
「まさか学院祭を中止にするおつもりですか」
「仕方ないわ。こんな異常事態……夜が明けても続いたりしたらとても来場客は入れられない」
「周囲にどんな被害があるかも分からない状況だし。学院……ううん、トリスタに避難指示を出す必要があるかも」
「この一カ月―――俺たちも、他のクラスも学院祭に全てを賭けてきました。単なる意地の張り合いだったり、身内への見栄もあるかもしれません。皆で何かを成し遂げるのが単純に楽しかったのもあります」
「リィンさん……」
「……リィン」
「だけど――――それだけじゃない。俺たちがここにいた“証”それが残せるかどうか、それが残せるかどうかなんです。勝ってもいい、負けてもいい。大成功でも、大失敗でもいい。これまで教官や先輩たちに導かれお互い切磋琢磨してきた、“全て”を込めるためにも……」
「どうか、俺たちに“明日”を掴ませてもらえませんか!?」
「――――ぁ」
「……………………」
「ぼ、僕からもお願いします!」
「自分からもお願いする」
「フッ、できる悪あがきなど知れてはいるだろうが……」
「それでも可能性がゼロでない限り最後まであきらめたくはありません」
「同感。いっぱい練習したし」
「ボクもボクも! これで終わりはやだよー!」
「もとより、この建物の調査は我らの役目でもありましたゆえ」
「今回の異常事態についても私たちが調べるのが筋でしょう」
まあ無茶言ってるのは分かるけれど。
でも信じてくれとしか言えないのが私たちの立場で。リィンが口火を切ったことで、皆の想いが一つにまとまっていく。
「無理は承知の上です。ですが重ねてお願いします」
「あんた達……」
「ふう……本気みたいだね」
「意気込みはともかく、この障壁をどうするかですが……おやぁ、リィン君。腰の所、どうしたんですか?」
と。トマス教官が指摘したのリィンのARCUSを入れているホルダーで。障壁と同じ輝きを纏ったARCUSの光がⅦ組全員に広がっていく。
よかった。ちゃんとリィン君が《起動者》になるように旧校舎の探索は皆勤しないように気を付けてはいたけど無駄にならなかったようだ。まあ、全部いても結果は変わらないとは思うけど一応ね。
「ハハ……俺もかよ」
『時ハ来タ―――サア、示スガヨイ』
何かに導かれるようにリィンが障壁に触れて――――そのまますり抜ける。
「ハァ。参ったわね――――すみません、学院長。どうやら育て方を間違えてしまったみたいです」
「フフ、おぬしはこの上なくよくやってくれたと思うぞ。それに、どのように育つか選ぶのもまた、若者たちじゃろう」
「―――現在19:40、24:00までの探索を許可しよう――――それ以上はさすがに“明日”に障りがあろうからな」
「あ……」
「それでは…!」
「君たちの“証”を残すため、やれるだけのことはやってきなさい。多少の無茶なら許可するわ」
「学院長……サラ教官も!」
「みんな…! くれぐれも気を付けて! わたしたちも出来る限りバックアップするから…!」
「技術棟も開けておくから、整備が必要なら来るといい。それと、売店や食堂も閉めないように頼んでおくよ」
「会長、先輩……ありがとうございます!」
そうして私たち“Ⅶ組”は旧校舎の内部に突入し―――――新たに現れた“第7層”へと降り立った。
「―――っ」
「リィン、大丈夫なの!?」
「……リィンさん。胸のアザが疼くんですね?」
「ああ……そうだけど……でも、どうして」
「ちょっとしたお呪いです。ですがこの先は、尋常ではない場所のようです。リィンさんも含めて……皆さん、覚悟は出来ていますか?」
「俺は――――俺たちはみんな、Ⅶ組があるからここまで来られた。お互いがお互いを認めて成長し、それぞれの道を認めて成長できるような。そんな強さを少しは手に入れられたんじゃないかと思う」
「……リィンさん」
「ふふ……そうね」
「リィンさんはもうちょっと自己肯定感上げて欲しいですけど」
「まさか入学した当時、皆とここまでの絆を育めるとは思っていなかったからな」
「ラウラ、直球すぎ」
「フン、そこの男を認めた覚えはないんだがな」
「そ、それは僕の台詞だ!」
「あはは……」
「こういうやり取りも含めて俺たち“Ⅶ組”ということだろう」
「ん-、いいなぁ」
「やれやれ、スレたお兄さんには眩しすぎるくらいさ」
「ミリアムもクロウも同じさ……それに委員長も……これだけは自信を持って言えるんじゃないか? ――――俺たちⅦ組が“最高のクラス”だって」
「ふふ……確かに。およそクラス分けには縁が無かった私ですけれど。Ⅶ組が最高であるのは自信を持って言えると思います」
「だったら行こう――――この先に。俺たちのクラスが最高だと、俺たち自身に証明するために。この異変を食い止めて“明日”を引き寄せるために」
「分かりました。もうとやかく言いません。行きましょう、私たちの明日を掴むために」
「ああっ」
「――――リィン、せっかくだからいつものをやってくれない?」
「いつものって……あれか」
「それはいいな」
「作戦開始の号令は大事」
「せっかくですし、リィンさんのカッコいいところをお願いします」
「そうだね、これも僕たちの特別実習みたいなもんだし」
「よっ、我らがリーダー」
「噛むんじゃないぞ」
「全く、プレッシャーをかけないでくれ……」
「トールズ士官学院、Ⅶ組総員――――旧校舎の異変を食い止めるべく、これより第7層の攻略を開始する! 各自、全力を尽くしてくれ!」
「「「「おおっ!!!!!」」」」」