吹き飛ばされるライナの姿を見て、求めたのは“力”だった。
“鬼の力”――――それを限界まで引き出しても、それでもライナには敵わない。そのライナを助けられるだけの“力”が欲しかった。
それに応えるように、脳内に声が響く。
『――――我が選び、汝が選べば《契約》は成立する――――』
『求めるのであれば我が名を呼ぶがいい―――――“焔”を刻まれし者……《
セリーヌが、猫が喋るという異常事態もあるが、それよりも重要なのは―――。
「来い《灰の騎神》ヴァリマール!」
旧校舎のエレベーターに乗り込み、天井を突き破って飛び立つ《灰の騎神》を謎の力で感じ取る。その不思議な感覚に集中しつつ、ヴァリマールをこちらに呼び寄せる。
ドラッケンの猛攻はミリアムのアガートラムのシールドとⅦ組の仲間たちの攻撃が守ってくれている。
不思議な事に、操り方は自然に、それこそ歩くのと同じようにできた。
セリーヌ曰く「基本的な知識は《起動者》になった時に取り込まれる」らしいが。
飛行して狙い通りの位置に着地。膝をついたヴァリマールに乗り込むとやはり身体が覚えているように――――近づいてきたドラッケンの腕を払い、八葉一刀流の八の型“無手”の型でコクピットに衝撃を与えて気絶させる。
ついでにそのままドラッケンの剣を奪い、そのままの勢いでシュピーゲルに近づくと半ばまで折れたシュピーゲルの剣と打ち合う。
『くっ、この――――』
「甘い――――!」
打ち合って分かる。この相手はライナよりも弱い。
剣で一撃加えて、奇妙な手応えに《リアクティブアーマー》とやらの仕組みを大まかにではあるが察する。
鈍らなドラッケンの剣では八葉一刀流の技は使えない―――故に、剣を捨てて《無手》の型を使う。
《破甲拳》――――衝撃を徹す一撃でシュピーゲルがダウンする。
だが――――。
『おいおい、何か忘れちゃいないか?』
映像に出てきた蒼い騎神――――。
飛来したその速度はこちらを上回っている――――そう冷静に判断しているのに。
『《C》――――いいタイミングじゃない!』
「クロウ……クロウなのか!?」
『ああ、久しぶりだな。……って昨日の夜、一緒にメシを食ったばかりだったか。だが、ずいぶん遠くに来ちまった気がするぜ』
「どうして……なぜこんなことを!? 宰相を撃ったのもクロウなのか!? それに……その人形は一体どこで……!?」
大事な仲間だったハズのクロウが、敵として立ちはだかっている現実を認めたくない思いが先行してしまう。
『そもそも士官学院に入ったのは《帝国解放戦線》の計画のためでな。まあ予想以上に楽しんじまって、失って青春を謳歌しちまったが――――俺の本分は《C》――――学院生クロウ・アームブラストはただの“フェイク”さ』
「――――っ、ふざけるなッ! 俺たちと一緒に過ごした時間も! トワ会長やアンゼリカ先輩、ジョルジュ先輩との関係も! ぜんぶ偽物だって言うのかよ!? あの学院祭のステージも、嘘だったって本気で言うのかよ!?」
『それは――――ああ、その通りだ』
――――――――――――――――――――
リィン君つっよ。
ドラッケンはまだしも、シュピーゲルを二発―――実質ほぼ一撃とか…。
まあゲーム的には機甲兵が弱すぎると騎神戦が面白くないという事情もあったのかもだけど。
双刃剣―――《C》と同じ得物を取り出した蒼の騎神に、リィンのヴァリマールも先ほど投げ捨てたドラッケンのブレードを拾いなおす。
『悪いが、その《灰の騎神》に粘られると後々面倒なんでな。士官学院共々、ここでブッ壊させてもらう。お前らを含めた学院関係者はまあ、全員軟禁ってトコか』
『そうか―――だったら、俺が勝ったらどうするつもりだ?』
『クク……お前が勝ったら50ミラの利子を耳を揃えて返してやるよ。何だったら、今度はお前の後輩になってやってもいいぜ?』
『分かった。それでいこう―――言っておくけど、利子は莫大だからな。そして後輩は先輩の言う事に従うのが筋だ……戻ってきてもらうぞ――――クロウ』
『クク……ナマ言いやがって。だが、そのあたりが落としどころってヤツだな。……最後に一つだけ忠告しておいてやろう。お前がまだ俺を“大事な悪友”だなんて思っているなら、それは今―――この場で捨てることだ。殺す気でかかってきな。でなきゃ―――死ぬことになるぜ』
「こ、これは……」
「二人の闘気に連動した、膨大な
灰の騎神と蒼の騎神、それぞれが輝く霊力を纏って激突する―――。
先手を取ったクロウの方だった。
双刃剣を使い慣れた動き―――そして騎神でのリーチも完全に把握した一撃。
だが、リィンはそれを完全に見切って紙一重で躱し。機甲兵ブレードが蒼の騎神に叩きつけられる。
鈍い音。
シュピーゲルのリアクティブアーマーに防がれる程度の攻撃では騎神の防御力を突破できないらしい。
しかし激しい衝突音はあれど、蒼の騎神に大したダメージはなく。
即座に剣を投げ捨てた灰の騎神に対して蒼の騎神は容赦なく攻め立てていく。
リーチが違いすぎるが故に状況は灰の騎神の圧倒的不利。
しかし《無手の型》を使いこなすリィンは積極的に蒼の騎神の懐に飛び込むことで双刃剣の間合いの内側に入る。
そして放たれる《破甲拳》。
近接戦闘の能力で、リィン技の冴えはクロウのそれを上回る。
しかし無手は無手。
何発入れても大きなダメージは見込めないリィンとヴァリマールに対して、蒼の騎神の双刃剣は一撃入れるだけで十分すぎるダメージが入るだろう。
それでもリィンは一撃受けたら終わりの緊張感の中でも着実に蒼の騎神にダメージを積み重ねていき――――。
『――――ハハ、マジかよ。八葉一刀流……これほどとはな』
「約束だ、戻ってもらうぞクロウ!」
『お前はそいつに乗ったばかり。だが俺は3年前からコイツを乗りこなしている。悪いが“奥の手”を出させてもらうぜ』
迸る霊力とともに蒼の騎神の装甲の一部が開き――――その動きが“変わる”。
自由自在に、人間と同程度の動きから操縦士の意志を“先読み”する、人と機械が一体化したかのような境地へ。
それに比べると灰の騎神は反応が鈍い。
双刃剣を受けつつも致命傷は避けるリィンだが、一撃、二撃とダメージが積み重なり。美しかった灰の騎神の装甲が削り取られていく。
それを見ていたⅦ組の面々は誰が言うでもなく意見が一致していた。
「みんな、覚悟はいい?」
「うむ。なんとかリィンだけでも―――」
ついには体勢が崩れたところに大きな一撃を受けて、灰の騎神の装甲の一部が弾けて。倒れた灰の騎神を庇うように全員が集まる。
「「「「させるか―――――!」」」」
『みんな……一体何を……』
「みんなで決めたの! 貴方をここから逃がそうって!」
「なんとか立て直して、離脱するがよい!」
『そんなこと、できるわけがないだろう…!?』
「いいから行きたまえ! 帝都が占領された以上、これから内戦が始まるだろう!」
「たとえ遅れを取っても、帝国全土の正規軍は精鋭……たぶん、熾烈な戦いになる」
「でも、リィンとその灰の騎神がいれば。貴族派でも、革新派でもない第3の力が存在したら」
「きっと流れを変える“風”となってくれるだろう」
『だ、ダメだ、生身で敵う相手じゃない!』
「フン、満身創痍のお前に心配される謂れはないな」
「そーそー。僕たちに任せときなって」
「私たちも、この場を離脱したら教官たちと合流しますから! セリーヌ、リィンさんをお願い!」
えーと、じゃあ私も何かリィンさんのストレスを軽減できるようなことを言わないと。
「リィンさん、大丈夫です。私が必ず、皆を――――リィンさんを、守ってみせますから」
『ヴァリマール、離脱して! なるべく遠くへ――――でも帝国内のどこかへ!』
『か、勝手なことを言うな!』
セリーヌの指示に従い、ヴァリマールが飛び上がる。
そのまま飛び去って行くヴァリマールを追撃する様子はない蒼の騎神――――それなりにリィンの攻撃のダメージもあったのか、それともクロウが鉄血宰相の首を取るという大目的を失って燃え尽きているのか。
『やめろ……やめてくれぇえええええッ!』
さて、ここからどうするかだが―――。
確かカレイジャスが来るまで粘ればクロウは帰るはずなので、ちょっと私も本気を出そう。
「――――我は鋼、全てを断ち切る者―――――聖技、グランドクロス!」
蒼の騎神の装甲と激突した瞬間、感じたのはこれまでにない手応えで。固いような、柔らかいような、なんともいえない手応えに衝撃が吸収・分散されるのを感じ取る。
『チッ、相変わらずぶっ飛んでやがるな……Ⅶ組のお転婆姫は!』
「なるほど、騎神とはこれほどのものですか」
「ライナのグランドクロスを……」
「受け止めた!?」
私からすると母様には通用しないし、まだまだ上があるのを知ってるからそんなに驚きはないんだけどね。
ふふっ、いいね……腕が鳴るってもんだよ。
いつもは人間相手でも魔獣相手でもなんやかんやで遠慮しないといけないけど――――今日はその心配もなし!
騎神と戦いたがったマクバーンの気持ちが、今なら少しばかり分かってしまうかもしれない。
『だが、そこまでだ!』
クリミナルエッジ――――蒼の騎神の刃が迫り、こちらもアルティウムセイバーで迎え撃つが堪えきれずに吹き飛ばされる。
いや、生身の人間に向ける火力じゃないわ…。
大したダメージになってない自分にもドン引きだけども。
「ライナ!」
「問題ありません。この程度なら―――」
と、そこで聞こえてくる飛空艇の独特の駆動音。
紅き翼―――カレイジャスから飛び降りてきたのは、<光の剣匠>で。
『チッ。いい加減ここらが潮時か――――』
誰もクロウと蒼の騎神を追撃できる余力はなく―――。
貴族連合の更なる援軍もあり、Ⅶ組の皆は散り散りになって逃げることに。
原作通りの結末に安堵する反面、結局リィンさんの慟哭は止められなかったなぁ、と柄にもなく少し落ち込む。
でも、きっと救ってみせる。
……過程の段階で散々酷い目に遭うのは変えられない。残念だけどこの世界に生まれてきて思い知らされた。自分一人の力の限界を。
だから、そう―――――。
――――――――――――――――――――
―――――ユミルの郷に、火が放たれた。
内戦が始まってから行方が分からなかったアルフィン殿下―――。
その居場所を探すアルバレア公によって雇われた《北の猟兵》。テオ・シュバルツァー男爵により一時は互角は渡り合うが、子どもを人質に取られたシュバルツァー男爵を凶弾が襲い――――。
「無駄です」
銀髪の少女と、黒い傀儡の操るバリアによって凶弾が防がれる。
「―――なっ」
「任務条件の一つをクリア。対象の安全を確保します」
次いで、巨大な馬上槍を携えた金髪の少女が《北の猟兵》たちを纏めてなぎ倒す。
「貴女は――――Ⅶ組の」
「アルバレア公、そしてカイエン公――――貴族連合の上層部に姫様の居場所が割れてしまった今、ユミルは安全ではありません。すみませんが、アルフィン殿下には我々と共に来ていただきます――――貴族連合旗艦、《パンタグリュエル》へ」
「ライナ!?」
「リィンさん――――」
山から戻ってきたリィンとライナの視線が交錯する。
銀髪の少女――――アルティナの操るクラウ・ソラスによってアルフィン殿下が抱えられ、そこにライナも飛び移る。
「目標は達成しました。ライナさん、帰還の指示を」
「ええ。戻りましょう――――」
「っ、―――リィンさん!」
「待て、待ってくれ―――ライナッ! 殿下っ!」