若干時系列が前後します。
また、整合性確保のため若干前話の台詞を改変しています。
アイゼンガルド連峰。
《灰の騎神》から一カ月ぶりに目覚めたリィンはセリーヌと共に、一人と一匹で山道を歩いていたのだが―――。
「やっぱり見覚えがある……以前ユン老師に連れてきてもらった場所だ」
『それって、あんたの剣の師匠っていう?』
「ああ。このあたりは、5年くらい前に老師に修行で連れてこられた……俺の故郷《ユミル》から数時間ほどの場所だったはずだ」
『ふぅん。ま、よかったわね。なんとか日没までに人里にたどり着けそうな感じじゃない』
「ああ、急いで向かおう。到着したらすぐにでも状況を確かめてみないと――――」
瞬間、地響きとともに近づいてくる気配。
「この気配……近づいてきているのか!?」
『まさか…!』
咆哮とともに崖の上に姿を現したのは、ヴァリマールにも匹敵する巨体。
『あれは――――《魔煌兵》!!』
「知っているのか!?」
『暗黒時代の“魔導のゴーレム”――――凄まじい戦闘力を持っているヤツよ! チッ、どうしてこんなところに……!』
魔煌兵は凄まじい跳躍力で崖の上からリィン達の近くに降り立ち。着地の衝撃をものともせずに再び咆哮する。
『くっ――――一旦逃げるわよ! 生身で戦って勝てる相手じゃないわ!』
「……そうかもしれない。だが――――退くわけにはいかない」
『アンタね……ただでさえ本調子じゃないでしょう!?』
「そんなのは知ったことか。ここを乗り切らない限りみんなの所には戻れない……――――だったら、全力で立ち向かうまでだ!」
魔煌兵はその巨体に見合わぬ俊敏さを発揮し、巨大な曲剣を振り回す。
リィンはそれを完全に見切って脚の関節部を狙って斬りつける。が―――。
(くっ、固い――――!)
「効いていないのか―――!? くそっ、あと少しでユミルだって言うのに―――」
『ああもう……だから言ったでしょ! 下がりなさい!』
結界を張ってなんとか魔煌兵の一撃を防ぐセリーヌだが、防ぎきれずに吹き飛ばされ。
「――セリーヌッ!?」
「……っ (こんなところで、やられるわけには)……」
打つ手がない―――その瞬間に浮かんだのは、後夜祭で見たライナの笑顔で。
「(ライナ……っ)」
「――――我は鋼、全てを断ち切る者――――聖技、グランドクロスっ!」
黄金の閃光が駆け抜けた。
凄まじい衝撃とともに魔煌兵が横に跳ね飛ばされ、崖の下に落下していく。
「……どうやら、間に合わなかった……いえ。間に合ったみたいですね」
「ライナ……? ははっ、こんなところで会えるなんて……嘘みたいだ……」
「無事で何より、と言いたいところですが……やつれていますね」
「よかった……本当に無事で。でも、どうして、ここ に――――」
リィンの意識が遠のく。
それをそっと受け止めて、ライナは小さく呟いた。
「………仕方がありませんね」
――――――――――――――――――――
リィンが目覚めると、そこは温泉郷ユミルで。
セリーヌと話していると、不意に扉が開く。
「……あ」
「エリゼ……無事だったんだな、良かった……」
「……っ……!」
そのままリィンの胸に飛び込んでくるエリゼ。
「兄様―――目が覚めたんですね! 本当によかった……! 帝都があんなことになって……兄様も行方が分からなくなって……わ、私……私……っ!」
「エリゼ……すまない。心配をかけてしまったな」
「ぐすっ……いいえ、いいえ! 私……信じていましたから。兄様がきっと無事でいるって……おかえりなさい、兄様」
「ああ、ただいま……本当にありがとうな」
感極まって涙ぐむエリゼに、申し訳ないやら有難いやら、色々と感じるものがあるリィンだったのだが。
そこで更に部屋に入ってくる三人の影。
「クスクス……朝からお熱いですわね♪」
「ひ、姫様」
「おはようございます。リィンさん、エリゼも」
「よっ、お邪魔させてもらってるぜ」
「アルフィン殿下、トヴァルさんも」
「リィンさん、そこは熱く抱きしめてあげるところでは……?」
「ライナ…!」
ジト目でなんだかよく分からないことを言いつつこちらを見てくるライナに、柄にもなく慌てるリィンだが。
アルフィン殿下と二人で「抱けー、抱けー!」と仲良くコールされてエリゼが顔を赤くしてリィンから離れる。
「リィンさんは今日も平常通り朴念仁ですね」
「フフッ……楽しくなってきましたわね」
と、そこでなぜかアルフィン殿下をリィンの前に連れてくるライナ。
「じゃあ次は姫様どうぞ」
「はい、じゃあリィンさんお願いします」
ノリノリなアルフィン殿下は手を広げてハグの構え。
「い、いや流石に畏れ多いというか!?」
「「ええーー」」
なんでライナと殿下は二人して落胆しているのか。
「それとその……助けてくれてありがとう、ライナ」
「え」
「ええ。ライナさんがいなかったら今頃兄様は……」
「聞く限りですと、かなり危うい場面だったみたいですし……」
「い、いえいえ。やりたくてやってることですし……」
「――――目を覚ましたか」
「父さん、母さんも……!」
混沌とした場に登場したのは、リィンの育ての両親であるシュバルツァー男爵夫妻で。
「ふふ……お帰りなさい、リィン。2カ月ぶりですか……よく戻ってきましたね」
「色々と聞きたいこともあるだろうが、まずは軽く食事をとるといいだろう。“これから”の話は、その後だ」
――――――――――――――――――――
「――――かの《貴族連合》によって帝都が占領されたのが1カ月前……今では、帝国全土の主要都市が同じように占領された状況にある。各地に配備されていた帝国正規軍も一部を除いて悉く退けられたそうだ」
「やはり、そうでしたか……エリゼ、皇女殿下も。本当によくご無事でしたね」
「わたくしたちも、帝都の女学院で混乱の最中にあったのですが……そんな中、トヴァルさんに連れ出してもらったんです」
「トヴァルさんが?」
「緊急の連絡があって、急いで向かったのさ。皇女殿下とシュバルツァー家のご息女を安全な場所まで護衛する――――オリヴァルト皇子からのじきじきの依頼だったからな」
「オリヴァルト皇子の……そうだったんですか」
ほんとに帝国だと立派なんですよね、スチャラカ皇子。
「貴族連合の捜索をかわして、帝都の外まで連れ出していただいて――――それから10日ほどかけて、ようやくユミルに到着したんです」
「話によれば……皇帝陛下やセドリック皇太子は貴族連合の手に落ちたそうだ。あくまで“保護”という名目で、無事ではいらっしゃるようだが……オリヴァルト皇子についてはその後、行方が判らないらしい」
「そんな、殿下が……こんな状況ですし、心配ですね」
まあオリヴァルト皇子なら大丈夫でしょう。死んでも死ななさそうというか、死ななかったし……。
「リィンが気になってるトリスタ方面の話だが―――これはライナから聞いた方が早いか?」
「ええ。リィンさんとの戦いで消耗していた蒼の騎神は到着したカレイジャスと<光の剣匠>を前に撤退―――その隙を突いてⅦ組の皆はある程度まとまって逃走しました」
たぶん原作通り、3手に分かれていることだろう。
ケルディック方面、レグラム方面、そしてノルド方面か。
逃げるついでに機甲兵は何機が潰しておいたのだが、占領が難しいとみるや帝都から増援が派遣されてさすがの士官学院も耐えきれなかった。
「学院関係者もかなりの人数が脱出に成功したと思います。ただ、人数が人数だけに詳細は分からないのですが……」
「そうか……よかった。ありがとう、ライナ」
「いずれにせよ本調子ではないのだろう。しばらくは郷で養生に専念するがいい」
そのシュバルツァー男爵の言葉でその場は解散となり。
リィンは郷のみんなに顔を見せてくることになったのだった。