――――ユミルの温泉。
当然のように混浴であるが、一応湯着があるので恥ずかしくない。
のだが、死にそうな顔でお湯につかっているリィンを見るとなんというか、とても申し訳ない気持ちになるわけで。うん、目標だったリィン君の慟哭全然阻止できていないからね。ノルマ未達成。
「――――自分にもっと力があれば、そう言いたげな顔ですね」
「ラ、ライナ!? ど、どうしてここに―――」
「混浴では?」
「こ、混浴だけれども」
冬で寒いのでささっとかけ湯をしていざ突入!
あったか………きもちいい……。
「………リィンさんは、《蒼の騎神》に立派に立ち向かっていましたよ。あの“奥の手”がなければ勝負は分からなかったでしょう。それと比較して私は……」
「ライナ……」
「リィンさんには八葉一刀流も《灰の騎神》もある。これからもっと強くなって、もっと多くのものを守れるようになるでしょう」
「……けど、クロウを引き留めるなら“あの時”しか――――」
「いいえ。もう既にクロウさんは引き金を引いていましたから。それならもう、多少時間が経過しても大差ないと思いませんか?」
「……………俺は」
「はい」
「…………俺は、12年前の吹雪の日……父さんが俺を拾ってくれた時も……8年前の雪の日、暴走してエリゼを怖がらせた時も……ユン老師に修行を打ち切られた時も……士官学院に入学してからも……そして一カ月前……みんなが命懸けで逃がしてくれた時も。思えば恵まれすぎていたんだ。世話になりっぱなしで……ただ、優しさに甘えるばかりで」
「……はい」
「あまつさえ、疫病神のように災厄を呼び寄せて巻き込んで……俺には……優しくされたり気を遣われる資格なんてない。大切な人たちを守ることも、恩すらも返せない俺なんかには……」
………いや、うん。
この後多分裏切ることになる身としてはリィン君のメンタル負荷が心配になるレベルなんだけど……。
温泉に入っているのに冷え切っているように思えるリィンの手をそっと握りしめて、気合を注入する。
「――――リィンさん、じゃあトワ会長がみんなから愛されてるのは資格があるからなんですか?」
「そ、れは………トワ会長がみんなのために頑張っているからで……」
「リィンさんがⅦ組の皆から愛されてるのは、何かの資格の問題ですか?」
「…………一緒に、色々な“壁”を乗り越えてきたから……?」
「惜しいです。リィンさんがみんなに優しくしたから、です」
「……………ライナ」
「リィンさんからすれば大したことじゃなかったかもしれない。けれど、それで助けられてきた人がⅦ組には沢山います。それを忘れないで下さい」
「…………そうか………みんな信じてくれているんだな、俺のことを……」
「そうですよ。皆が信じるリィンさんを信じてあげて下さい」
「………ありがとう。ライナにはいつも助けられてばかりだな」
「……なんて、偉そうなことを言って私も肝心なところで役に立っていないんですが……」
「そんなことないさ。ライナがいてくれたお陰で牽制にもなっただろうし……ライナがいてくれなかったらここまで戦い抜けなかったと思う」
ところが原作で明らかな通り、別に私がいなくても大して変わりはないんですよね…。まあ多少余裕があったかもですけど。いやでも唯一明らかに変わってるところ、原作よりかなり強化されたリィンでも結末は変えられないあたり筋書きの強さというか修正力みたいなものを感じてしまう。
そしてユミルに響き渡る魔煌兵の咆哮――――。
一旦温泉から上がることになり、リィンと別れたところで脱衣所で物陰に声をかける。
「アルティナ、状況は?」
その瞬間、ステルスが解除されて現れる黒い傀儡と銀髪の少女。
「……ユミルの渓谷道の奥から巨大なエネルギー反応が確認された模様です。また、アルバレア公がユミルに猟兵団を派遣したのが確定情報になりました」
「そうですか、ありがとう。引き続きヴィータ姉さまとユミルの守備をお願い」
「……獅子戦役の再現、でしたか。理解はできませんが、任務は了解しました」
そうなんだよね。獅子戦役を再現する都合上、リィンの故郷が巻き込まれるのは避けられないらしい。なのでヴィータ姉さまとアルティナに頼んで人的被害をゼロにしてもらうことにした。これでシュバルツァー男爵も無事だし無駄にエリゼを攫わないように言い含めることもできた。
――――ふっ、勝ったな。
………
……
…
魔煌兵の相手はなんというか、余裕だった。
リィン君が疾風と弧影斬で攪乱して、グランドクロスをぶち込んだところでヴァリマールを呼び出し。
ヴァリマールが魔煌兵の動きを完全に見切った動きで一方的に殴りまくり、破甲拳で核をぶち抜く。
《灰の騎神》つっよ。いや、リィン君が強いのか…?
さながら2周目か何かかと思ってしまうくらいには余裕である。
これには一緒に来ていたトヴァルさんとエリゼもびっくり。
と、そこで響いてくる銃声だが……まあ原作と違ってヴィータ姉さまが協力的だしアルティナも私の指示を聞いてくれるので恐らく大丈夫だろう、流石に。
「すみません、少し先行します」
「ライナ!?」
それでも全力ダッシュでユミルまで戻ったところで――――うん。大丈夫だった。
クラウ・ソラスのシールドが男爵閣下を襲うはずだった凶弾を完全に防ぎきり。
リィン君からパクった疾風の歩法とアルティウムセイバーで猟兵団を纏めて薙ぎ払う。
うーん、郷はちょっと燃えてるけど見た限り人的被害はゼロ。さすがヴィータ姉さま。
というわけで姫様には我々と来てもらう!
さらばだリィン君……エリゼちゃんはほんとにリィン君のことお願いね……。
「―――待ってくれ、ライナ! 殿下――――ッ!」
――――――――――――――
「………はぁ」
貴族連合の総旗艦である《パンタグリュエル》、その中でも<結社>の関係者に割り当てられた一室にて。
母親そっくりの長い髪を物憂げに弄る少女の姿があった。
「………ぐぬぬ、雛鳥ごときが姫様の御心を煩わせるなど……万死に値しますわ!」
「まあ待て、今回のことは姫様の本意ではなかったのだろう?」
「そうよ、問題はむしろカイエン公とアルバレア公じゃないかしら」
「くっ、主様の命でなければ今すぐ叩き斬ってやりたいですわ」
「……リィンさん、流石に怒ってるだろうなぁ」
「やはりあの雛鳥のせいでは…?」
「「まあまあ」」
「デュバリィ、どう思う?」
「姫様に怒るなど身の程知らず、万死に値しますわっ!」
「……アイネスとエンネアは?」
「まあ、どちらかというと怒るというよりショックだったのでは」
「姫様の日頃の行いのお陰ですわね」
「う゛、余計に申し訳なくなってきた………殿下にも謝ってこよう……」
ふらふらと心ここにあらずなライナに「お労しや」と顔を覆うデュバリィはリィンに会ったら一発ブチかます決意を固め。
ライナはすっかり入り浸っているアルフィン殿下の貴賓室に入るとすっかり慣れた様子のアルフィン殿下に出迎えられる。
「あら、ライナさん。今日はどうされたのですか?」
「殿下……すみません、ご不便をお掛けして……」
「あらあら、それは言わない約束ですよ?」
「殿下…!」
わーい、と二人で抱き合って巨大なベッドに寝転ぶ。
そうして二人でリィンとエリゼについてのエピソードを語り合ったりしていたのだが一応まだここにきて2日目であり。リィンがまだケルディックに向けて出発していないくらいのタイミングで。
ちなみに既にマクバーンをお供にしてパンタグリュエル内を好きに練り歩いたりと、この小さい姫二人は2日目にして割とやりたい放題していた。
「ところでライナさん。わたくしリィンさんのことが心配で―――少し様子を見てきて下さるかしら?」
「で、殿下――――」
ひしっと抱き合う二人。
なんでかすっかり仲良くなっていた。
「デュバリィ!」
「ハッ!」
「アルフィン殿下に不自由がないように、万事頼みましたよ」
「万難を排してみせますわ!」
―――――――――――――――――――
一方そのころ、リィンとトヴァル、そしてエリゼの三人はヴァリマールの元を訪れて“精霊の道”を使ってケルディックのルナリア自然公園まで転移―――。
縄張りを荒らされて激怒したグルノージャをあっさりとリィンが切り伏せて安全を確保していた。
「さすがだな」
「兄様、すごい……」
「ふぅ……なんとかなったか」
(…………待っていてくれ、ライナ。必ず追いついて見せるから――――)
<結社>のこと、ライナの身内のこと――――知らないままで通してきたけれど、今回はそれが影響してしまった。知っていれば、あるいはまた違う道もあったかもしれない。
それにユミルを守れるだけの力があれば、ライナにあんなことをさせずに済んだ―――そう考えるともっと力が欲しいと思う。
《灰の騎神》が、ヴァリマールがいてくれる以上もうライナに守られるだけではいない。ライナを守る側にも立てるのだと思うとリィンの気力は充実していた――――いやまあ、本当は落ち込んでいたところにエリゼに喝を入れられたのだけれど。
途中、トリスタ方面の様子が見られないか探りに行ったものの帝都方面ということもあり厳重な検問が敷かれていて諦めてケルディックを目指す一行。
「ケルディックか……特別実習できた以来か。ピリピリしているという話だったけど……」
「聞いていたほどではない、でしょうか…?」
「装甲車なんかも配備されちゃいるが、意外と緊張感は感じないな。まあ、帝国内の戦況はかなり貴族連合に傾いてるって話だが……」
『やれやれ、それで気を抜いてちゃ世話ないわね』
辛辣なセリーヌだが、そのあたりはまあ貴族連合らしさと言えるかもしれない。
「とにかく、聞き込みを始めよう。Ⅶ組メンバーの手がかりも何とか見つけてみないと」
「よし――――っとその前に忠告だ。お前さんは貴族連合にしてみればかなりの要注意人物のはずだ。制服を着ていないとはいえ、あまり目立たないようにな」
「ええ、肝に銘じておきます」
「では、一通り回って見ましょうか」