「――――成程な。道理で散々な成績だったわけだ」
バリアハートへの特別実習へと向かう列車の中――――いがみ合うマキアスとユーシスに向けてリィンが放った一言は痛烈に突き刺さった。
「前回のB班の特別実習につけられた評価は“E”…。はっきり言って、普通の試験なら赤点レベルの落第点だ。また同じことを2人とも繰り返すつもりなのか?」
「だからわだかまりを捨てて仲良くしろとでも言いたいのか?」
「そこまでは言ってないさ。そもそもあんな経緯で選ばれた俺たち《Ⅶ組》だ。立場も違えば考え方も違う。お互い、どうしても譲れない事情だってあるだろう」
「だけど、それでも数日間俺たちは“仲間”だ」
「フン、何を言い出すかと思えば」
「冗談じゃない! 誰がこんなヤツと――――」
「“友人”じゃない。同じ時間と同じ目的を共有する“仲間”だ。さらに露骨に言ってしまえば――――アリサやガイウス達B班に負けないための“仲間”じゃないか?」
「……勝敗にこだわるタイプだとは思わなかったが」
「生憎、勝ち負けが気にならないほど達観しているわけじゃないからな。――――この間の教官との勝負だって、悔しくて仕方なかった」
「それは……」
「実際、サラ教官の実力は圧倒的だったと思う。それでも俺たちがARCUSの戦術リンクを使えていれば、勝つことは難しくとも一矢を報いることはできたはずだ」
自然と、全員の視線はサラ教官から『譲歩』を引き出して見せたライナに向かう。
黙って座っていれば深窓の令嬢にしか見えないライナであるが、自分に話が向けられると淡々と告げた。
「……そうですね。ARCUSの真の力は卓越した連携―――“数の力”を最大限に活かせることにあります。3対1と、そして技能試験というあの条件であれば、“時間切れ”まで粘るのも可能だったはずです」
つまり試験で手加減されてあのザマだぞ、と言外に告げるライナである。なお本人に自覚はない。一人で時間切れまでやり合った実績もあるので何も言い返せない。
「……判った。もういい! 少なくとも今回の実習が終わるまでは休戦する! 君もそれでいいな!?」
「フン、いいだろう。合わせるつもりもないが……負け犬に成り下がる趣味も持ち合わせていない」
「……ちなみに強さの秘訣は?」
気になったのか横から尋ねたフィーに、ライナは普段の生活を思い返しつつ言った。
「とにかく実戦経験ですかね……」
「それはわかる」
「あとは強い人に師事することでしょうか」
「ライナは誰に教わったの?」
「母様ですね。ちょっと意味が分からないレベルで強いですよ。負けイベントです」
「……わお。サラより強い?」
「サラ教官よりは強いですねー。サラ教官が3人くらいいれば“
「どんな世界なんだ……」
――――――――――――――――――
「でもライナさんのお母さんですか……どんな人なんですか?」
「厳しくも優しい人ですよ」
エマからの問いかけに、割と原作イメージが崩れるレベルでダダ甘な母様も思い出しつつも答える。うん、厳しいところも……あるよ?
そんな答えに、フィーが何気なく言った。
「……ライナに似てるなら、美人そう」
「ふふふ。美人ですけど、私は両親を知らないので」
「あ、私といっしょだ」
―――――空気が死んだ。フィーも孤児だもんね。
確かエマもお母さんが亡くなってるんだよなぁ……。
せっかくなのでここは畳みかけておくか。
「そういえばリィンさんも血が繋がっていないとおっしゃってましたね」
「え。いやまあ、そうなんだが」
確かユーシスのお母さんも亡くなってたような? Ⅶ組の生徒、波乱万丈すぎるなぁ…。
「もしかしたら私も知らないだけで貴族だったりするかもしれません」
ふっ。居たたまれない感じになってるマキアス君はちょっと日頃の言動を反省してもらって。
「まあ確率は低そうだけど……ライナなら正直驚かない」
そうかな?
この世界美形が多すぎて正直なところ自分の評価が難しいんだよね。
母様みたいな人の娘だったら嬉しいけど。まあ例え血のつながりがどうでも、母様は母様か。
「ひ、姫様……こ、このようなこと、主様にどうお伝えすれば……」
―――――――――――――――――――
そうして列車に揺られて到着したバリアハート駅。
出迎えの駅員を下がらせたのは、気品と人を従わせるカリスマのようなものを備えた男。
「――――親愛なる弟よ、3カ月ぶりくらいかな。いささか早すぎる再会だが、よく戻ってきたと言っておこう」
――――実際に目にするまでは、何とも思っていないつもりだった。
ルーファス・アルバレア。
不意打ちで母様と殺すことになる大敵の姿――――“C”として暗躍することになる姿――――仲間によって救われ、重荷を下ろした後の姿――――。
(――――ああ、そうか。私は――――)
どうやら思っていた以上に、母様のことが大好きになっていたらしい。
とはいえ、ここでコイツをどうにかしても意味はない。3と9のこと、そしてラピスのこと、その他諸々を勘案すると、コイツは生かしておかないといけない相手だ。
「(ライナ…?)」
「(すみません、大丈夫です)」
リィンが心配そうにこちらを気遣ってくる。さすが八葉一刀流、観察眼が鋭い―――とかなんとかどうでもいいことを考えて気を紛らわす。
「……はい。兄上も壮健そうで何よりです」
「そして、そちらがⅦ組の諸君というわけか」
まあ常任理事で成績まで把握してるだろうに、それらを表に出さない手腕というか、擬態は本当に見事だと思う。
その後、リムジンで今回の実習の宿泊先となるホテルまで案内されたのだが正直なところ心ここにあらずになってしまった。
特別実習中で、無理を言ってAチームにしてもらったということもある。気を取り直して頑張らなければ。
「これが、今回の課題ですね」
「手配魔獣に、半貴石の捜索が必須の課題か」
……そういえばこの半貴石の課題、やっぱりおかしいと思うのは私だけだろうか。
いくらそれが取れる木が多く生えているからと言って普通ドリアード・ティアなんてそう簡単に見つけられるものでもなし。帰ったタイミングでの“アレ”も含めて《仕込み》なんじゃなかろうかと疑ってしまう。正直ルーファスならやりかねない。
そして、ターナー宝飾店。
半貴石の依頼について尋ねに行くと、ちょうど依頼人と店員が話しているところで。
結婚指輪にするために、宝石よりは安値で済む半貴石を探しているという事情の説明を受けた。
「ただ、半貴石とはいえそれなりに珍しいものには違いありません。なので、相当探さないと見つけられないと思いますが」
それが必須の課題になってるあたりお察しだったのかもしれない。
「――――いや、そんなことはない」
「何してるんですかブルブランさん」
「やあ、聖女のいとし子よ。君たちが探そうという無垢なる木霊の涙……それを私が先ほどこの目で見たと言ったら?」
堂々としていると意外とバレないって、はっきりわかるんですね。
というわけで結社でもおなじみ怪盗Bである。
「なんで自分で採らなかったんだろうなと思いますね」
「フッ。私はあくまで“美”の鑑賞者―――己の手で手折る時と、そうでない時があるのだよ」
「え、ええっと……知り合い、なのか?」
「母様が所属してる組織に所属している不審人物です」
「フフッ。これは手厳しい――――改めて、お初にお目にかかる。私の名はブルブラン男爵。およそ芸術と名の付くものであればどんなものにでも愛と情熱を傾ける―――自他共に認める好物家さ」
「自他共に認める不審人物です。最低限の道理は弁えてますけど」
ほんとなんでこのタイミングで出てくるんだろうなぁ……。
後々考えると貴族連合を統括してるルーファスと、<結社>がこの時点である程度の密約を交わしてるっていうフラグだったのかと思わないこともないけれど。
「とりあえず場所をキリキリ吐いてください」
「フッ。そういったところは本当に君の御母上によく似ている……。しかし生憎と土地勘が無いのでうまく説明できそうにない。――――だが光というのは自ら見つけてこそ輝くものだからね」
まあそれはそう。
依頼人は自分も探しに行くぜ! くらいの気概があっても……いやまあ邪魔か……。もし来ていたらなんとか伯爵と契約を結ばされて買収されることもなかっただろうけれど。
結局そこの結果は原作と変わらず。
なんとか伯爵の口にドリアード・ティアは収まって。激昂してしまったマキアスの尻ぬぐいをユーシスの威光でなんとかしたところで一つ目の課題はクリア扱いになるのだった。