アルドノア二次(仮)   作:クイハ

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二期の投稿もすると言ってから放置して結構な時間が経ちましたが
思った通りの展開が描けず、さらに自分の中ではより面白い展開が思いついてこの作品を放置していました
現在投稿しているガンダムとは別に、アルドノアゼロで書きたいと思っていたのですが、この作品が心残りでどうにも筆が進まずグダグダしていましたが、このたび書き直そうと決意しました

というわけで新たにアルドノアゼロの二次を書くつもりではあるんですが実は投稿していないだけで書いてあるこの作品の続きが数話分だけあるんですよね
一応一期が終わっておりいい区切りなので投稿しないでもいいかなぁとか思ってたんですが、続き読みたいという感想を頂いていたのも思い出しまして、供養も含めて投稿し、この作品は未完として終わりにしたいと思います

今後はガンダムの方を書きながらプロットを練り必ず二期も含めてハッピーエンドで締めれるように頑張る所存ですので応援よろしくお願いします


お知らせ+書きかけ供養

ザーツバルムの揚陸城での戦いから19ヶ月が過ぎた

あの戦いのあと真の捜索が行われたが結局のところ誰の姿もなく、シュルトだけが残されていた

 

戦況としては

火星側はアセイラム姫の生存が確認されたことや現皇帝レイレガリア・ヴァース・レイバースが病に倒れたため慌ただしくなっていた

と言ってもザーツバルムを中心として月面基地では着々と進行の準備が進んでいる

アセイラム姫による火星騎士への鼓舞や量産機の配備を行い、士気、兵力を共に高めていた

地上に降りた火星騎士の諸侯も目立った侵攻こそ無いものの確実に領地を広げていった

 

地球側も目立った反抗作戦は行っていないが、サテライトベルト(割れた月の欠片でできた土星の輪のような衛星群)に基地を設置し、宇宙仕様の装備も開発されていた

前回の反省を生かし時間があったことも相まって敵機の情報収集にも余念が無い

 

なおデューカリオン部隊だが、アルドノア起動権を持つものは二人、界塚姉弟である

この二人のどちらかがいなければ、実質デューカリオンは鉄塊と化すのだが

ユキは乗艦を拒否、伊奈帆は長い昏睡期間とそのリハビリのため戦線離脱のため一応補修して放置されていた

 

乗組員はあちこちに飛ばされたが元々学生であったこともあり、大きな戦闘も無かったことから

現在に至るまで欠員は出ていない

 

そして戦争は完全に膠着状態に陥っていた

 

 

 

 

 

が、それも今日までの話である

 

 

 

 

 

「私、ヴァース帝国第一皇女、アセイラム・ヴァース・アリューシアはその義に服し

偉大なる務めに殉じる軌道騎士の諸侯らを称え、賞賛します」

 

その一言で締めくくられた演説は事実上の宣戦布告である

 

これを聞いていた韻子、ニーナ、ライエは違和感を感じずにはいられなかった

 

地球と火星の和平を誰よりも望んでいた彼女が火蓋を切るなんて言うのはありえない

しかし、映像に映る彼女の姿は三人がよく知るアセイラムのものだった

 

一体何があったのだろうか?どれだけ考えてもそんな考えだけが残るのであった

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しかし、そんなことを考えていても始まらない

わからないものはわからない、そう割り切れなければ軍人などやっていけない

 

何よりこの状況にデューカリオンの凍結が解除され

明日には乗艦、明後日には打ち上げとデューカリオン組も慌ただしいのだ

その中には彼も・・・

 

 

ー翌日ー

 

「またしばらく一緒だね」

 

久々にデューカリオンを見たニーナが呟く

 

「生きて・・・帰れるといいね・・・」

 

先の戦闘で何もできなかった韻子は自分に言い聞かせるように言う

 

「死ぬわけないでしょ

火星人に勝つ、勝って地球に平和を取り戻す、絶対に

死んでる暇なんてないわ」

 

そして、どこまでも強気なライエは相変わらずだった

 

ピーッ!ピーッ!ピーッ!

 

『敵襲!』

 

デューカリオン組にとっては19ヶ月ぶりにやってきた火星のカタフラクト

それは、長い間戦場を離れたという意味ではなく、19ヶ月準備をしてきたという意味である

 

そしてそれはパイロットである韻子達だけではない

 

「全艦戦闘態勢、ドックを離れます

発進にはどれくらいかかりますか?」

 

「最速で30分です」

 

「待てません、10分でお願いします」

 

「無理です」

 

「不見咲くん、君がモテない理由を教えましょうか?」

 

「結構です。自覚していますので」

 

指揮を執る彼女らもまた、19ヶ月ぶりのやり取りであった

生憎こちらは相変わらずではないが

 

以前と違う点はまだある

 

それは情報

 

以前はなんの情報もなくやって来る敵に対して様子を見ながら戦ってきたが

現在は火星のカタフラクトの機体、そのパイロットや特殊兵装など予備知識を持って戦うことができる

 

今回の敵はヤーコイム男爵のカタフラクト『エリシウム』

氷結のエリシウムの名で呼ばれ、特殊兵装はエントロピーリデューサー、その効果は・・・

 

 

 

 

半径1kmのフィールドに入った物質の分子運動を奪う

それにより生まれる効果は絶大であり、空気が変化するどころか凍りつくほどの超低温を生み出す

 

 

 

 

「ってこれ反則じゃん!?なんとか足止めしないと・・・」

 

情報を見て驚愕の顔を浮かべる韻子

 

「足止め?何言ってんの?倒すに決まってるでしょ?」

 

軽い口調で言うライエであったがその強気は必ずしもうまく働くものではない

 

ババババババババババッッッッッッッッ!!!!!!

 

韻子とライエのアレイオンが勢い良くマシンガンを放つがそれは当たることはなかった

すべての弾がエリシウムの手前であらぬ方向に飛んで行くのだ

 

「バリア!?そんなはずはっ!?」

 

明らかな動揺を浮かべるライエ

だが彼女の言葉は決して間違いではなく、確かにバリアは張られていない

 

しかし、エリシウムが凍らない理由でもある機体の半径30mの常温の部分が原因である

金属が冷却されれば電気抵抗は下がるが、温度の上昇によって電気抵抗が増し散乱する

 

この超電導と呼ばれる現象を用いてエリシウムは温度差による一種のバリアに近いものを生み出していた

 

「くっ、このままじゃジリ貧ね。なんとか足止めする方法を考えないと」

 

「倒すって言ってたのはどうなったの?」

 

「下方修正!」

 

「変わり身早っ!?」

 

まだまだ喋れる余裕はあるがそれも時間の問題

デューカリオンを凍らされれば敗北であるにも関わらず未だあ足止めの方法すら見つけられていない

 

ライエは考える、こんな時あの人ならどうするだろうか?きっと突拍子もない事を思いつくんだろうな・・・

だけど私にはそんな考えはない堅実で無難でつまらない手でもいい。私は私のやり方で戦う

 

バンッ!

 

いよいよ切羽詰まってきた頃、一発の銃弾がライエたちとは離れた位置から放たれた

 

バンッ!バンッ!

 

続いて2発3発と銃撃は続く

その後彼女らの耳に狙撃手の声が届いた

 

「ヤツの冷却能力・・・弾頭の電子時限信管が凍るまで50mといったところか

ヤツのフィールドは1km。つまり・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20発あれば行ける」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って行けるかぁぁぁぁぁあああああ!!!何考えてんのナオ君は!!」

 

オレンジ色の機体ースレイプニルが突っ込もうとした時通信に怒鳴り声が入った

言わずもがな彼、界塚伊奈帆の姉である界塚ユキの声だ

 

「でも理論はあってる」

 

「理論しか合ってない」

 

「めんどくさいなぁユキねぇ。じゃあ上官命令で大人しくしててよ」

 

「むぐっ。・・・・誰よ、ナオくんを無駄に昇格させた奴は」

 

こちらも実は19ヶ月ぶりの再会であったが長年連れ添ってきた二人がたったそれだけで変わるはずもなく

つまりは結局のところ、弟は弟で、姉は姉だった

 

ちなみにではあるが伊奈帆の言う通り、階級はユキよりも伊奈帆のほうが上である

閑話休題

 

「グレネードランチャー空中炸裂モード、安全距離カット、飛距離50m、3、2、1、ファイヤ」

 

改めて突撃を開始する伊奈帆の作戦とは非常にシンプルなものである

信管が凍りつくギリギリ手前で起爆し、その熱によって機体の凍結を遅らせる。ただそれだけである

 

ただしこれは水に足が沈む前に次の一歩を踏み出せば水の上を歩けるという考えのように

非常に困難で危険なものである

 

少しでもタイミングが狂えばアウト

しかし、伊奈帆にはそうならない確信があった

 

それは彼の左目

ザーツバルム城での戦いでスレインに撃たれた伊奈帆は左目を欠損した

今そこにはアナリティカルエンジンを搭載した義眼が移植されており、高度な分析や計算はそれによるものである

 

その能力を十分に把握し、十全に使える伊奈帆が出した結論がこの方法であり、心配など無用なのである

 

バァアンッ! バァアンッ! バァアンッ! バァアンッ!

 

次第にエリシウムに接近していく伊奈帆。そして・・・

 

「チェックメイト」

 

マシンガンを突きつけた

 

対するヤーコイム男爵は驚いた後フッと笑った

 

ババババババババッッッッッ!!!   

 

・・・・・ドォォォォォオオオオオオオオオンンンンンッッッッッ!!!!!!!

 

エリシウムが沈黙すると同時に吸収されていたエネルギーが暴走し、大爆発を起こした

 

これで一件落着

・・・・かと思いきやまだ終わってはいなかった

 

「新たに機影発見!戦闘態勢は継続されたし!繰り返す!新たに・・・」

 

「やっぱり来てたか・・・。でもこのタイミングって・・・」

 

新たな機影。それにいち早く対応できたのはユキだ

というのも実は本来ここにユキはいないはずだったのだが、たまたま近くを通った火星カタフラクトが

デューカリオンの方へ向かっていたため追跡していたのだ

 

途中で見失ったため散開して捜索していた途中、奇しくもデューカリオン組と再会を果たしたのだ

 

敵カタフラクトは紺と青の機体で特徴と呼べるものは無いが、限りなく人型に近い、火星にしては珍しいタイプのものである

 

「一応聞いとくけど、投降しなさい。しっかりとした待遇を約束するわよ?」

 

「アレイオン3機、中破スレイプニルが1機・・・勝算あり、よって投降はしない」

 

「「「「!?」」」」

 

相手の返事、その言葉ではなく声に誰もが驚いた

 

「私はザーツバルム卿に仕える騎士。主の命により貴様らを殺す

ヴァース帝国騎士ヴェリテ(・・・・)、駆るはブルーデスティニー。推して参る」

 

そうこの声は紛れも無く真のものだった

全員が混乱するが、ヴェリテは容赦なく襲い掛かる

 

ババババッッッッ!!!

 

伊奈帆がマシンガンを放ち、それにつられて他の面々もマシンガンを放つ

 

が、それはブルーデスティニーが振るう二刀のビームサーベルによって切り捨てられていった

そして、素早くユキのアレイオンの前に立つ

 

「まずは1機・・・」

 

「っ!!ユキねぇ」

 

いち早く反応した伊奈帆がユキのアレイオンを引っ張る

それにより撃墜は免れたが、装甲が切り裂かれコックピットの中が丸見えになった

 

そこには悲しそうな目で青い機体を見つめるユキの姿があった

 

ドクンッ!

 

「ぐっ!!」

 

途端に様子がおかしくなるヴェリテ

それに気づいたユキは声を張り上げる

 

「真さんっ!真さんなんでしょ!お願い、戻ってきてっ!!」

 

「がっ!ぐぁぁぁぁああああっっ!!頭がっ!痛いっ!がぁぁあああああ!!」

 

「真さん!真さん!」

 

「俺はぁヴェリテだぁぁぁああああ!!!」

 

ヴェリテは限界だった

それを振り払うかのごとくビームサーベルを大きく振るう

 

ドンッ!

 

しかしそれは伊奈帆のスレイプニルによる蹴りで妨害された

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

息も絶え絶えなヴェリテは伊奈帆をキッと睨み、そのままユキを睨んだ後撤退するのであった

 

「真さん・・・・」

 

残されたユキたちはデューカリオンから連絡が入るまでそれぞれの思いにふけっていたデューカリオンが宇宙に発進した頃、港から少し離れた火星の基地にて通信が行われていた

 

地球から通信を行っているのはヴェリテ

そしてその相手は・・・

 

「・・・以上で報告を終わります。先日の失態誠に申し訳ございません、ザーツバルム様」

 

そう、かつて互いに殺しあったザーツバルムである

19ヶ月前のあの日、ザーツバルムもスレインによってその命を助けられ、現在表向きではアセイラム姫を救助した功労者となっている

 

そしてザーツバルムは秘密裏にヴェリテを配下とし、手厚くもてなしていた

 

「よい、貴公が無事であって何よりだ。ヤーコイム男爵のことは残念だったが戦争とはこのようなものだ」

 

「はっ、お心遣い痛み入ります」

 

感謝の意を示すヴェリテだったがその目はどこかうつろで、ザーツバルムは軽くため息を吐いた

 

「・・・うむ、それにしてもオレンジ色の機体が出てきたと言っておったが・・・」

 

「はい、形式番号KG-6スレイプニル、学生用の訓練機です。搭乗者は間違いなく界塚伊奈帆ぐっ!」

 

『界塚伊奈帆』たった一人の名前を言おうとしただけでヴェリテは頭を抱えた

 

「大丈夫かヴェリテ!?」

 

「ご心配いりません、少し頭痛がしたものですから」

 

『界塚伊奈帆』、いやもしかしたら『界塚』という部分に反応したのかもしれない

彼が真だった頃の恋人の名前が『界塚ユキ』という名だったからな

しばらく接触はさせないようにするか

 

ヴェリテの様子を見ながら一人そう思うザーツバルムであった

 

「しかし、私はそちらへ向かわなくてもよろしいのですか?」

 

「問題ない。それに貴公のブルーデスティニーは地上用であろう?無理はするものではない」

 

「しかし、私ならステイギスでも・・・」

 

「ならん!・・・とにかく貴公は休め。そなたもまだ目を覚ましてから日が浅い、戦果を上げるのは万全になってからでも遅くはあるまい」

 

「承知いたしました」

 

そう言うとともに通信は途絶えた

 

 

「ふぅ、とりあえずこれでヴェリテ様の方はなんとかなるだろう

元々は運良くヴェリテ様が記憶喪失になられていたものを少しばかり手を加えただけのもの

それ故、本人に負荷が及ぶことはなくとも何かのはずみで記憶が戻ることも十分あり得るというもの

なればこそ、忌々しい地球人は即刻排除せねばな・・・」

 

そう呟きながらザーツバルムは19ヶ月前のあの日のことを思い出していた

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スレインは応急手当用のキットを使いアセイラムの止血を済ませるとザーツバルムの元へ歩いて行った

 

ゴゴゴゴゴッッッッ!!

 

その時、揚陸城が大きく揺れる

それと同時に天井から多くの瓦礫が降り注いだ

 

「姫様っ!!」

 

スレインは慌ててアセイラムを抱きかかえ、彼女を庇いながらタルシスへ乗り込んだ

いくつか瓦礫のぶつかった部分もあるが痛がってもいられない

スレインはアセイラムを抱きかかえたままタルシスを起動させ立ち上がった

 

「ザーツバルム卿はどこに?」

 

死んでしまったのか?というスレインの考えは一瞬で否定される

そう、目の前でディオスクリアが立ち上がったのだ

そしてディオスクリアのパイロットから通信が入る

 

「スレイン、姫様はご無事か?」

 

「は、はい・・・?」

 

聞こえてくるザーツバルムの声に一応返事はしたもののアセイラムの無事を問うその内容にスレインは混乱した

 

「うむ、ならば早々に離脱するぞ。我に乗れ」

 

しかし、状況がスレインが落ち着くのを待ってくれるわけもなく

スレインは混乱したままディオスクリアに乗って宇宙へと運ばれるのであった

 

一方ディオスクリアのコックピット内ではザーツバルムが操縦する傍らに真が眠っていた

 

ユキと別れた後真は揚陸城に戻り、機体を置いて内部に入っていた

そして中枢部に辿り着いたその時、揚陸城は大きく揺れる

降り注ぐ瓦礫の中、真は目の前でザーツバルムが大きめの瓦礫に潰されそうになっているのを見た

 

「危ないッ!」

 

真がザーツバルムを突き飛ばすと同時に瓦礫は無慈悲にも真に降り注いだ

 

「なぜ助けた?」

 

目の前で頭から血を垂れ流す真にザーツバルムは問いかける

 

「俺はお前と命をかけて戦った

お前は俺を殺すつもりだっただろうし、俺もそのつもりだった

ただな、お前にとって俺を殺すことが目的でないように、俺もお前を殺すことが目的じゃない

俺はできるならお前に贖罪して欲しいんだよ。だから簡単に死なせねぇ

お前には昔みたいに頭を・・下げ・・させ・・て・・・やるから・・・・・・な」

 

そう言うと真は意識を失った

 

「・・・かしこまりましたヴェリテ坊ちゃま(・・・・)

 

涙ながらにザーツバルムは忠誠の姿勢をとった

 

そうして現在に至る訳であるのだが

その後真は目を覚ましたものの記憶喪失になっており、記憶の空白による錯乱状態になっていた

そのため、精神に作用するシステム『EXAM』を持つ

最新機『ブルーデスティニー』に搭乗させることで精神の安定をはかった

 

しかしEXAMにより好戦的となった真はすぐに戦場に舞い戻ろうとしたのだ

そのためザーツバルムの配下とすることで制御に成功したのだが・・・

 

「まさかヤーコイム男爵の戦闘にあてられて輸送機から出撃するとは・・・」

 

まだまだ不安の残る存在であった

 

「ザーツバルム伯爵、スレイン殿が戻られました」

 

「了解した、出迎えに参る」

 

スレインにもこの事実は隠蔽しているため

こころの休む暇もないザーツバルムであった

 

 

ヘブンズホールによって欠けた月は現在火星の基地として君臨している

本国から遠く離れた地球を攻めるための最重要拠点として

ザーツバルムを中心に君臨していたのだった

 

そんな月面基地の主にカタフラクトの収容を行っている区画にザーツバルムはやってきていた

 

彼が到着するとまもなく白い機体がそこに着艦した

色は白くなっていてもその姿は青く輝いていたシュルトのものだ

 

そのコックピットから降りてきたのは騎士の服装を身にまとったスレインだ

彼はこの19ヶ月でザーツバルムの配下として騎士の称号を得ていたのである

 

「偏傾重力中とは思えぬ巧みな着艦、また腕を上げたなスレイン」

 

「お褒めいただき光栄です、ザーツバルム伯爵」

 

礼をするスレイン

その姿は身なりだけでなく心も騎士としての成長が見られるきれいな礼だった

 

「騎士の称号を与えて正解だったな。戦果は?」

 

「アレイオンを4機ほど」

 

スレインが答えると先ほどまでザーツバルムの後ろで黙っていた男が反応した

 

「お手柄にございます、スレイン様」

 

「やめて下さい、ハークライトさん。僕に『様』は必要ありませんよ」

 

「わたくしはスレイン様のしもべにございます

むしろわたくしに『さん』を付けないでくださいませ」

 

彼、ハークライトの反応にやり辛そうに目を背けるスレインは

人の上に立つものとしてはまだまだなのかもしれない

 

 

スレインを出迎えたザーツバルムはそのままスレインを引き連れてアセイラムのいる部屋へと向かった

 

部屋には高級ではあるが派手でない家具が必要最小限置かれているだけでスペースが余り

特徴といえば紫系の色で統一されていることぐらいだ

 

そのため窓際で外を眺めているアセイラムとその車椅子を押す侍女のエデルリッゾの姿には寂しさが感じられた

 

ドアが開く音にアセイラムが振り返るとスレインの姿を見つけ喜色の笑みを浮かべる

 

「お勤めご苦労様です、スレイン」

 

「そう言っていただけると光栄です

姫様こそ、先ほどの演説には火星騎士一同、心より感銘を受け一層精進するものでした」

 

「ふふっ、お上手ですね

・・・っと、まだこの姿のままでしたね」

 

そう言ってアセイラムが胸に輝くペンダントに触れると全身が輝きやがて異なる姿に変わった

 

「レムリナ姫にはご苦労おかけいたします」

 

そう言ってザーツバルムが深々と頭を下げる

 

そう、演説をしていたのは本物のアセイラムではなかったのだ

本物のアセイラムは前回の揚陸城戦からいまだに目が覚めないでいる

その代役として選ばれたのがこのレムリナである

 

なぜ彼女が代役に選ばれたのか?

それは彼女もれっきとした王族の血を引くアルドノア起動権の持ち主だからだ

加えて言うならば彼女はアセイラムの妹でも有りうってつけだったと言うわけだ

 

「良いのです。私もこうなることはわかっていましたから

スレイン、ザーツバルム、これから忙しくなる中で貴方達には手を借りることが増えると思いますが

よろしくお願いしますね」

 

「「はっ」」

 

 

「我が愛馬の仕上がりは?」

 

「起動テストは終了しました。後は各ユニット間のシンクロ調整が終われば戦闘可能です」

 

「よし、調整は島でやる。運び込んでおけ」

 

「はっ」

 

レムリナとの対談もそこそこにザーツバルムは出動準備をしていた

 

と言うのも地球軍のトライデントベースと火星軍のマリネロス基地がおよそ72時間後に接近するのだ

両基地の強いては両陣営の総力戦にも近い戦闘にザーツバルムも参加する

 

その前にマリネロス基地に移動しなければいけないので何かと忙しかったりする

 

スレインもタルシスに乗り込み移動の準備をしようとした、が

 

「起動しない?どうして?」

 

今まで問題なく動いていたタルシスが急に反応しなくなった

コックピットから乗り出したスレインが見かけたのはレムリナの姿だった

 

原因に気付いたスレインはレムリナへと向かって行った

 

「どうかされました、スレイン?」

 

明らかにとぼけている

 

「なぜタルシスを止められたのですか?

アルドノアを強制停止できるのは姫殿下だけです」

 

「かもしれませんね」

 

レムリナの回答は要領を得ないものだ

 

「アルドノアを起動してください」

 

「お姉さまに頼めば?

あなたが必要なのは起動因子なのでしょう?」

 

スレインは気付いたレムリナがなぜこんなことをしたのか

 

きっと今までアセイラムを慕ってきた彼らがアセイラムが死んで(正確にはそう勘違いして)

皇帝も病床に伏した今になってレムリナを慕いだしたのはアルドノアの起動因子をもつ道具としか思ってない

 

そう思っている、あるいは態度の節々にそういった思惑を感じ取っているのだろう

 

するとスレインは急に上着を脱ぎだした

 

「何を・・・」

 

そうしてランニングシャツ一枚になったスレインの体にはいたるところに傷跡があった

 

「地球生まれの私はザーツバルム伯爵に騎士にしていただくまで下僕として遣えていました

姫様の苦しみが分かるとは言いませんが、その片鱗は理解しているつもりです」

 

そして服を着直し手から忠誠の姿勢をとる

 

「お慕いしております、レムリナ姫」

 

「・・・顔を上げなさい」

 

言われて顔を上げたスレインは急に唇を奪われた

 

「ありがとう・・・ご武運を、サー・スレイン・トロイヤード」

 

 

一方でデューカリオン部隊、さらには合流したトライデントベースも当然大規模戦闘に向けて準備を始めていた

 

といってもデューカリオン部隊は異端部隊として作戦会議でもまともに意見も取り合ってもらえないような状況なので

少しばかり偉くなったとはいえ伊奈帆も正直言って暇だった

 

では何をするかといわれれば前回のアセイラムの演説の分析を行っていた

 

「伊奈帆は何やってんの?ってこれこの間の・・・」

 

と暇だった韻子が伊奈帆がいじっていたパソコンに目を向ける

 

「僕の左目に埋め込まれたアナリティカルエンジンはまだ試験品だけど

十分な演算能力を持っているんだけど

それを使えばちょっとした人の動作から三次元的な演算をしたり

人の声の振動からその人の緊張状況やそこから来る心境の把握も可能になってくるんだけど」

 

「つまり・・・・どういうこと?」

 

「つまりは嘘発見器としても使えるんだけど

この部分の声に人が嘘をついているときの緊張状況が見られるんだ」

 

そう言って伊奈帆が再生したのは

『私アセイラム・ヴァース・アリューシアは・・・』

という部分だった

 

「これが嘘ってことはこの人は本物のアセイラム姫じゃないってこと!?」

 

「絶対にとは言い切れないけど、9割方そういうことになるね」

 

「じゃあ真さんももしかしたら偽者の可能性があるかも」

 

「いやそれはないよ。その必要が無いし、なにより・・・」

 

なにより真は元々火星の王族だ。もしかしたら今まではアセイラム姫がこちらにいたから共闘していただけで

地球軍に組するつもりではなかったのかもしれない

 

そう言いかけて伊奈帆は首を振った

今までの真を見ていてそんな訳が無いのは明らかだ

 

だとしたら洗脳された?人質をとられた?はたまた二重スパイをしているのか?

そんなとりとめも無い考えが浮かんでくるばかりである

 

そんな様子の伊奈帆に韻子は小首をかしげる

 

「どうしたの伊奈帆?」

 

「なんでもないよ。三日後に向けて色々しないといけないなぁと思って」

 

「伊奈帆は真面目だなぁ。カームほどとは言わないけど適度に休まないとダメだよ」

 

「カームは適度にじゃ無くて過度にじゃないかな?」

 

そう言って二人は笑いあった

 

そのまま韻子は部屋を出て行き、また伊奈帆ひとりの空間になる

 

伊奈帆が見るパソコンの画面はアセイラムの演説の動画ではなく

ある機体のデータが表示されていた

 

「『ブルーデスティニー』、特殊武装はEXAMと呼ばれるシステムによる機体の運動性の向上

このEXAMに問題があって開発は中止されていた・・・はずだった

しかし、実際は真・・・ヴェリテの専用機とされている」

 

一体何があったのか分からないが次にあったときは殺しにかからなければいけない

ましてやユキ姉と戦わせるわけには行かない

 

と、決意する伊奈帆であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ヴェリテ様、本当に行かれるので?」

 

「ああ伯爵には止められたがいやな予感がしてならない

お前が打ち上げに協力したことは黙っておくから安心してくれ」

 

その夜地球から一筋の光が宇宙に走っていったという

 

月から出動したザーツバルム一行は地球周回軌道に入った

その際に大気圏を通りブレーキ代わりにして、減速後、マリネロス基地に向う

そしてその航路はトライデントベースと接近してしまうものでもあった

 

「行きがけの駄賃だ。ステイギス隊出撃」

 

ザーツバルムの指示に従い4枚羽の付いた戦闘機、ステイギスが発進した

ステイギス隊は1機のステイギスリーダーの羽に合計4機のステイギスがドッキングしており

戦闘時に分かれるという形態をとっている

 

このステイギス隊が3隊、トライデントベースに向かっていった

いわゆる前哨戦というやつである

 

対するトライデントベースの部隊は岩石に取り付き迎撃体制をとる

宇宙仕様の機体には肩部に8基のワイヤーユニット、脚部にキッカーユニット、武装として無反動銃が装備されている

ワイヤーは岩石に射出して軌道を変更でき、キッカーユニットは燃料カプセル入りで、それを消費して宇宙を移動する

無反動銃は長砲身で、機体が流されずに射撃できるという代物だ

 

しかし

 

「このっ!このっ!」

 

そのような武装をもってしても韻子が放つ銃弾は掠りもしない

韻子だけに限った話ではなくお互いに一撃として命中していなかった

 

それはなぜか

 

「風が複雑だわ。お互いにこの距離じゃあたらない」

 

高密度衛星群による重力偏向、ようは岩石が引力を持つためまっすぐに飛ばないのだ

それが地上で吹く風のようなものなので『風』とよんでいる

 

お互いに牽制しながら相手のテリトリーに踏み込まないように当たらない銃撃戦が続く

 

 

ドンッ!・・・・・・・・バァンッ!!

 

 

しかし、1機のステイギスに着弾した

 

「当てた!?」

 

「この距離で!?」

 

韻子とライエが驚く

 

その銃弾を放ったのはオレンジ色の伊奈帆の機体だった

 

「重力偏向による調整完了。マスタング0-0攻撃を開始する」

 

伊奈帆の左目に仕込まれたアナリティカルエンジンは重力偏向による弾道のずれも計算しきっていたのだ

さらにその能力は敵機の弾道予測まで行い、伊奈帆の操縦技術と合わさって圧倒的な回避力を誇る

 

このチートじみた能力を用いてこの戦場でただ一人、的確にステイギスを撃墜していく

 

「くっ!」

 

「ステイギス隊が!」

 

これにはさすがのザーツバルム、ハークライトも驚きを隠せない

そしてオレンジ色の銃弾はやがて彼らの乗る船にまで牙をむく

 

しかし、その銃弾が届くことは無かった

 

「大丈夫ですか伯爵」

 

「スレインか」

 

スレインの駆るタルシスがその銃弾を防いだのだ

 

「僕が囮になって弾を逸らします。ハークライトさんは回避運動を」

 

「承知しました」

 

そして敵に向かっていくスレイン

同様に距離をつめていく伊奈帆

 

「この風の中で正確に当ててきている!?」

「避けた!?何だあの動きは!?」

 

両者の攻撃が当たらないまま徐々に接近していく

 

「攻撃が当たらない、一体・・・」

「弾丸の軌道を見切っている、一体・・・」

 

「「どんな敵だ?」」

 

そして遂に両者はカメラで捉えることのできる距離まで近づく

 

「「見つけた」」

 

「オレンジ色の機体・・・まさか」

「探したぞコウモリ、いやウミネコにクラスチェンジか」

 

やがて両者は目視できるほどまで近づきそして・・・

 

 

 

 

 

すれ違った

 

 

 

 

 

「オレンジ色の訓練機、エデルリッゾさんが言っていたパイロットの名は・・・」

「タルシス、元はクルーテオ伯爵の機体、現在の搭乗者の名前は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「界塚伊奈帆、生きていたのか」

「見つけた、スレイン・トロイヤード」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上になります

応援ありがとうございました。次回作品にご期待ください

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