目を開けると知らない天井、いや天蓋が目に飛び込んでくる。それと同時に、脳が現状を理解しようと回転を始める。それまでの最後の記憶は、高校の卒業式。紅白饅頭をもらって、さあ帰ろうとエレベーターに乗った時。そのあとは、覚えていない。
少し横に目を向けると、心配そうな顔をした中国人風の女性たち。喋っている言葉は日本語ではないが、なぜか理解できる。文系だったわたしは、理系の友人に言えば「非現実的だよ」と切り捨てられそうな推測を立てていた。すなわち、異世界に転生したのではないかということ。
「
一番偉そうな女性がそう声を上げると、一番下っ端らしい女性が部屋の外に出ていく。と同時に、ある一つのことが気にかかる。今、この女性はわたしのことを「奏華妃」と呼んだ。ということは、わたしは女性なのだろうか。それも位のかなり高い。そう思って体を意識すると、確かに女性の体である。ということは、転生は転生でもいわゆる性転換までした転生ということか。なんとも珍しい体験だなぁ、妃に転生できてよかったなぁなどと呑気に考えていると、女性が声をかけてくる。
「奏華さま、お目覚めになられたのですね。お身体は心配ありませんか。私達のことを覚えておられますか。」
そう問われるが、知るわけがない。わたしは今さっきここに転生してきたのである。しかし答えなければならない。どうしようか、と考えていると、ぬるっと精神が入れ替わる感覚がして、そして脳内で俯瞰するような状態になる。
「
そう「わたし」が声をかける。まさかの転生の中でも、転生先の人格を維持したまま転生してしまったらしい。どうしたものだろうか。この体は女性だから、前世の「わたし」とは性別が違う。つまり、今喋った「わたし」とも性別は違うはずで……ああ、わたしばっかりでややこしくなってきた。脳内であたふたしていると、もう1人の「わたし」が語りかけてくる。
《一旦瑞たちは部屋の外に払わせたから、わたしたちだけで話しましょう。わたしは周奏華、元条王さまの妃よ。あなたは何者?》
〈わたしは
《そうね、どうやらわたしは数ヶ月眠っていたようだけれど、その間に見た夢では『日出る処より、其方たちを救う者がやってくる』という預言のようなものがあったわ。あなた……暁どのがそうなのかしら?にしても、一つの器に二つの魂を入れるというのは、なかなかなことをするわね……》
〈なるほど、しかし救うとはどういうことでしょうか。奏華さんは目覚めた、ならこれでわたしの役目は終わりなのですか?〉
《おそらくだけど、そうではないわ。暁どのの役目は、間違いなく別にある。どちらにせよ聞かれてしまうのだから、言ってしまえばいいかしらね。》
そう言って、奏華さんは語り始めた。この国、
《まずはこの国の事情から話していくわね。宵という国は、代々皇帝陛下の徳によって治められてきた国よ。現在の皇帝陛下は8代目なのだけれど、男子が二人おられて、どちらを東宮とするか悩まれていたの。長男が
〈え、でもそれなら長男を東宮にすればよいのでは?〉
《宵では決して長男が相続するわけではないの。それに、長く平穏が続く中で、武芸に優れた桂西王さまが東宮となるよりも、文治に優れた元条王さまが東宮となる方が良いのでは、という意見も多かったのよ。そんな中で、元条王さまの方が先に妃を娶ったの。その妃がわたしね。》
〈しかし、それを認めてしまっては、桂西王の陣営は納得しないのでは?〉
《もちろん納得しなかったわ。そんな時に、婚礼の儀で事件は起こったの。婚礼の儀の最中にわたしが突然倒れて、意識が分からなくなった。そして倒れている間に、夢で預言を授かって、今に至るのよ。》
話を聞いてあらすじはわかったけれど、どうやって預言にあった「救う」を実現すればいいのか分からない。そう思っていると、奏華さんが言葉を続けた。
《確かに宵は平穏な暮らしを送ってきた。けれど8代の治世で、徳を失っていないとは言い難い。暁どのが『日出る処』から来たのであれば、あなたはこの宵の国にとっての夜明けをもたらすはず。きっと、その使命を持って、あなたはここにやってきたのよ。》
要は、この国自体を救ってほしいのではないか、ということか。わたしは前の世界では政治と古代中国に興味を持っていた。それならば、と選ばれたのかもしれない。わたしの答えは一つだった。
〈宵のため、奏華さんのため。全力で働かせていただきます。〉
わたしの長い改革の旅路が、幕を開けた。