《しばらくはわたしが表に出るから、暁どのはゆっくり休んでいて構いませんよ》
奏華さんにそう言われ、わたしは休みながらこの世界とわたしについて考えていた。なぜわたしはこの世界にやってきたのか。いきなり現れたわたしを奏華さんがあっさり受け入れてくれたのはなぜか。そして、救うということについて。
奏華さんの言うことをそのまま信じるのであれば、この世界には超常的な誰かがいて、その誰かが何らかの意図を持ってわたしをやって来させたのだろう。受け入れてくれたのも、その誰かが働きかけてくれたのかもしれない。そうであれば、わたしが考えたところできっと無駄だ。それならば、最後のことを考えるほかなかった。
救うということ。わたしにとっては、救うということは大切なことだった。「できる限り多くの人を救う」ことを理想にしていた、わたしの好きだったキャラクターを思い出す。そのキャラクターは、歌で誰かを救おうとしていた。けれど、わたしに求められている「救う」はきっとそうではないだろう。この国が直面していることは、歌で治る類のものではないはずだ。
わたしの考えではあるが、救うということはマイナスからゼロにすることだ。病気を治すことだってそうだ。病気というマイナスの状態を、健康体というゼロの状態にする。元々の以上に元気になることはあっても、それを目指してやっているわけではないのだから。
そう言われて外に目を向けると、高級感ある内装の部屋が目に入ってくる。目の前の空いている、豪華な椅子が元条王の席だろうか。この状態のわたしの視界は奏華さんの頭に360°カメラがついたような状態で、ぐるっと見回せる。なので、奏華さんが見ていない方向も見ることができる。そうして慣れない世界の慣れない部屋を興味深く見ていると、瑞さんの声とともに扉が開く。
「元条王殿下がお入りになられます」
そう声がして入ってきたのは、身長が高くすらっとした美青年だった。前世で男性だったこともあって、あまり男性の顔に興味はないけれど、それでも美しいと思う。そのくらいの美青年だった。
「起きてくれたか、奏華」
「はい、おかげさまで。元条王さまだけでなく、皇帝陛下も見舞ってくださったと瑞から聞きました。本来であればわたしが自ら陛下のもとに参内してお礼申し上げるべきところを、できずに申し訳ございません。」
「いや、病み上がりなのだし構わぬ、と父帝陛下からも言伝を預かっている。まずはそなた自身が健康になることだな、まだ起きたばかりなのだから。」
「お気遣い、感謝します。陛下にもそうお伝えください。」
「ああ、しかと伝えよう。時にそなたは、そなたが倒れていた間のことを聞いたか?」
これは、と思った。会話の邪魔をしないようにしつつ、奏華さんに聞かせてほしいと伝える。
「いいえ、起きてから今まで身の回りを整えることで精一杯でしたので。よろしければ聞かせていただけますか?」
「ああ、もとよりそのつもりだ。そなたが倒れたこととも関わってくるが、責めているわけではないと思ってくれ。」
「ええ、構いません。しかしわたしが倒れたことが関わってくるとなると、やはり桂西王さまとのことでしょうか。」
「そうだな、まあ兄上自身というよりは、兄上派閥の人間とのことではあるが……」
そう言って、元条王は語り始めた。曰く、奏華さんが倒れてすぐに、元条王派閥の人間のうち珍しく血気盛んな部類の者が桂西王の手のものの陰謀ではないかと追求してしまった。すぐに宥めたが、一触即発の空気になってしまったとのこと。
《元条王さまと桂西王さまは、それぞれ文と武を担っておられます。派閥の者も元条王さまは文官、桂西王さまは武官が多く、棲み分けができていましたし、元条王さま派閥の者から争いを仕掛けるなど、あまりなかったのですが……》
〈元条王派閥の人間の気持ちもわかるけど、あんまり国内で争うのもよくないですよね。皇帝が皇太子を定めれば済む話じゃないんですか?〉
そう疑問を投げかけた時、まさにその答えが元条王から返ってきた。要するに、この争いが発展して早く皇太子を定めろ、という圧力が両派閥から出てきたものの、今定めては明確な差がない以上火に油を注ぐだけになる。だから定められないのだ、という皇帝目線の話だった。
〈なるほど、理由はよくわかりました。はっきりとした功績を挙げて、皇太子に相応しい人間にどちらかがなるまでは、立太子もできないのですね。〉
《ええ、そういうことです。しかしまずは、この空気をなんとかしないといけません。どうすればよいか、ご助言をいただけますか?》
どうやら、早速わたしの最初の仕事がやってきたらしい。今度の答えを出すには、少し悩まなければいけないようだけれど。