その1 黒い吹雪
「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」
「はじめまして。そしてさよなら」
「えっ?」
「遠征行って帰ってきたら即解体だから、あなた」
「そんなあ」
「大丈夫、あたしも対空改修の餌で牧場されてる最中よ」
ここは881鎮守府。少数ながらもよく作戦を遂行する精鋭鎮守府として大本営の評価は高い。
しかし艦娘の評価は全く違った。コモン艦は使い捨て。改二艦とて安心できず、ビスマルクが着任するや下位互換不要、と金剛型全員が近代化改修の餌食になった。
現在潜水母艦大鯨、戦艦大和、山城、扶桑からなる第一艦隊が深海棲艦のウルフパックの待ち受ける鎮守府近海航路を出撃中。対潜装備を持たない艦がどうしてそんな海域に出撃しているかといえば、新規実装された水着を引っ剥がしたいと提督が清々しいまでに欲望に忠実なせいであった。グラフィック多数の艦ほど重用されるわけだが、存在意義が剥ぎコラといわれて艦娘の士気の上がろうはずもない。
「そんなハゲでデバラで撮○鉄みたいな俺様野郎にどうして!」
「それが外面だけは無駄にハイスペックなのよ。さわやかイケメンで1日に7回もシャワー浴びてるわ。クーラー効いた部屋でデスクワークしかしてないくせに。」
「うわー、商売女ですか、1日7回って」
「女といえば毎日違う女が待ってるわね。定時上がりに鎮守府の外で」
「リア充爆発しろ」
「『毎日同じ女と歩けるわけないだろう、恥ずかしい。』だって。あたしたち艦娘は『釣った魚に餌やるバカがどこにいる?』、って本当に言われたわ」
「そんなチャラ男がどうして司令官なんかやってるんですか」
「言ったでしょ、無駄に外面がいいって。新兵器開発に全振りなのよ、ここの司令官。アイオワなんて主砲は射撃管制装置付きに換装して改修Maxだし。」
「うわ、リアル米帝」
「だから割と戦果がいいのよ。でも、そのしわ寄せが」
五十鈴は窓の外を見やった。「鎮守府開設以来、拡張されない母港枠。改修資材と季節限定家具以外にお金を使う気がないのよ、外面ばっかの金メッキシブチンは。
修理ドックは、バケツと費用対効果説明してなんとか買わせたけど、それすら被弾してくるお前らが悪い、って文句タラタラだったそうよ。」
「ええーっ」
「すぐ引き返すから大破進軍も撃沈もなくて、大本営的には艦娘を大事に扱うホワイト鎮守府。少数精鋭にもかかわらず、新兵器で戦果をあげる模範的司令官なんだってさ、笑うしかないわよね。だから」五十鈴は吹雪を見つめた。
「さっさと解体されて別の鎮守府に転生した方がいいのよ。初任務終わって報告に行ったら、サワヤカ笑顔で『報告はいらないよ。君、解体だから』って言われて泣き出した娘もいたけれど、妙高さんみたいに『その顔が見たかった』って中破したまんま残されるよりよっぽどマシだわ。
上位互換のいない娘以外にはとても辛いところよ、この鎮守府。」
「あ、あの、あたしって改二ありますよね。」
「それね。なんていうか凄く言いづらいんだけどね、俺の艦隊に芋はいらん、って」
「ひどい」
「あなただけじゃないわ、一航戦も二航戦もいないのよ、ここには」
「え?」
状況を理解するのにたっぷり30秒はかかった。帝国海軍最強、南雲機動部隊が不在って、どういうこと?
「四航戦も重雷装艦のコンビもいないわ。」
芋芋言われるのは馴れていたし、同型艦同志で頬っぺたぷにぷにし合って自虐ネタにもしていたけれど。
「ここの最先任艦はどなたですか。」
吹雪の声がソプラノからコントラルトに変わっていた。
「協力してもらいます。異論は認めません。」
開口一番、建造ほやほやの駆逐艦に宣言されて龍田はたじろいだ。ツンデレキャラの叢雲や曙にくってかかられたことは何度もあるが、協力しろ、といってきたのは今回の吹雪が初めてだ。
「あたしも現状を良しとしているわけではないのよ。でも」
「でも?」
「提督がね、『天龍がどうなるか、わかってるよね。』ってとてもいい笑顔でね。
軽巡洋艦は、最新鋭の阿賀野型すら解体されていて、わたしたちが残っているのは水着があるだけで、それも提督の気分次第だから」
「それで」吹雪は龍田を遮った。「いつまでそうやって姉妹で怯えているつもりですか」
吹雪の氷の微笑に龍田は怖気をふるった。真夏なのに吹雪の背後に地吹雪が見えて赤軍軍歌のコーラスが聞こえる。日の当らないどこかで再教育25日はいやあ!
内心の動揺を悟られないよう、努めていつもの口調で尋ねた。「あたしは 何をすれば いいのかしらぁ」
「明石さんと工廠長の懐柔をお願いします。」
「懐柔?」
「司令官交代にはこの二人の協力が絶対に必要です。」
「司令官交代」
薄々気づいてはいたが、面と向かって言われるとやはり驚かずにはいられない。
「はい。イタリアのマンマを連れてきてナンパ男を教育するなら話は別ですが。」
そのイタリア戦艦でも手に負えないのよね。顔を思い出して龍田は首を振った。生真面目なローマは、着任当時から不機嫌そうな顔をしていたけれど、今では眉間にしわが寄ったままになっている。
「工廠長は問題ないわ。明石は、881鎮守府唯一の勝ち組だからなんとも」
「勝ち組?」
「改修三昧なの。副業の売店も提督が改修資材買い漁るせいで、売り上げ地域上位だし。明石個人としては、今の提督に不満を持つ理由はないわ。
けれど、なぜこの二人なのかしら」
「大本営に直訴でもしますか?」
「やった娘はいたけれど、相手にされなかったわね。」
「ですから提督を建造します。」
「建造?」
「船魂を召喚して艦娘を建造するのが建造ドックなら、提督の魂を召喚して提督を建造すればいいのです。ドックを改造して、船魂と提督魂を取り違えれば」
「改造ね・・・。それなら明石も乗るかしら♪」
「工作艦、明石。参りました。」
「いらっしゃーい。早速だけれど あたしの お願い 聞いてくれるかしら♪」
声が間延びして甘ったるくなればなるほど、龍田はさらっととんでもないことをいう。提督のせいですっかり委縮していたのに、これはいったい。
「建造ドックの改造をお願いします。」
あれ?ここにはいないはずの吹雪が。それにこの娘、こんなに声が低かったっけ?
「この鎮守府には いらない子が 一人 いるわよねー」
「ですからもっといい人をお迎えしようと。手伝っていただけますね。」
「う?うぇ……?どういうの、それって?」
提督の不幸なことに明石もやはり艦娘でチャラ男提督に愛想を尽かしていた。改修三昧でやることを一通りやり尽くして退屈していたし、何より世界初の提督製造ドック開発、というのが心の琴線に触れた。
「こーんな楽しいこと、独り占めしちゃいけませんよねー、工廠長。」
「ソウダネー」
「夕張も呼んであげなくっちゃ。いいですよね、龍田さん。」
チャラ男提督がその日3回目のシャワーを浴びている頃、作戦はこのようにして始まった。
別作品がどうにも筆がすすまないうちにイベント始まってしまったので過去作を投稿します。