艦娘たちの叛乱  その1 黒い吹雪   作:デモステネス

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その2 自分に素直な娘たち

数日後。

 

「ここね・・・」

「やっと見つけた」

 

 吹雪は、船魂と提督魂を取り違えろ、と簡単に言ってくれたがその判定ルーチンを解析するのは簡単なことではない。妖精さんの手助けがなかったらユニットの解析どころか分解すらままならなかった。カスタムチップ化されてなくて本当によかった!

 海軍ゆかりの魂のうち、船魂なら人型で建造、それ以外は艤装製作、となっている構文を船魂でない魂を人型で建造、に書き換える。

 

「=ヲ<>ニシテ アトニ REM ヲ ツケルダケノ カンタンナ オシゴトデス?」

「提督魂抽出プログラム、書いてみる?別に技師でもなんでもいいけれど」明石からは冷たい視線で見られ、工廠長にはドつかれる工廠妖精。

「イタイ」

「オシャカサンノツモリカ、テメーハ! リンネテンセイ、ソンナカンタンニデキテタマルカ」

「サーセン」

「とりあえずできたけど、どうする?」意味ありげな笑いを浮かべて尋ねる夕張。

「もちろん実験しなくちゃ。図面だけでメカできたら誰も苦労しません。」

「デスヨネー」

「じゃあ、張り切って参りましょー!とりあえずオール30で。ぽちっとな」

「夕張、それ睦月ちゃんの台詞。 建造時間15分、って何これ?」

 建造所要時間最短の睦月型よりも短い時間に首を傾げる明石。

「艦娘じゃないもの建造してる証拠ね。待つのもかったるいしバーナーバーナー。」

 バーナーこと高速建造材はどこの鎮守府でも在庫余りまくりなので使うのに躊躇がない。

 

「けほっ、けほっ、なんだこれは」 黒の第一種軍装を着た男が現れた。

夕張、ツカツカと男に近寄り「この、軟弱者!」

一喝して張り手。艦娘の手加減なしの一撃に男は文字通り部屋の隅まで吹っ飛んだ。

「妖精さん、やっちゃってください」

「ガッテンショウチ」

 カーン カーン カン。史上初の建造提督は3分で解体。資材に変わった。

「うわー、すっきりした。あの内地では勇敢なアホは艦時代からぶっ飛ばしてやりたかったのよねー。これだけでも作った甲斐あったわぁ」ウットリー

「じゃ、あたしも。ぽちっとな。」

「あちち、なんだ、ここは」

「貴様こそ陸戦隊の先頭に立て!」

 23tのクレーンを普段使いする明石の掌底打ちに第一種軍装の男は宙を飛んで壁に叩きつけられた。「ぐえっ」

「妖精さん、やっておしまい」

「アイアイマム」

 カーン カーン カン。史上第二の建造提督も3分で解体。資材に変わった。同時に工廠長にバールのようなもので小突かれる二人。

「いたっ」×2

「マジメニ シゴトセンカ!」

「はーい。 じゃあ、本気の明石、いっちゃいますよ」

 

   * * *

 

 艦娘の心のオアシス、甘味処間宮。キラキラな明石がスキップしながらやってきた。

「いらっしゃませー」

 

 菓子職人見習いのトクさんとは世を忍ぶ仮の姿。その正体は、特型駆逐艦一番艦の吹雪が迎える。わざと古臭い髪型にして伊達メガネをかけ、紺絣の上に割烹着を着たら提督は全く艦娘と気付かなかった。というか、見向きもしなかった。

 良い機会です。それに偽装するならそれらしく、ですよね、と間宮に言われて本当に菓子職人修行もしているので絶賛女子力向上中だったりする。

 

「間宮羊羹、2本ください。持ち帰りで。」

「すいません。間宮羊羹は、型枠に入れたばかりなんです。」

 何この明石さんのバラの花千本背負ったみたいなキラキラっぷりは。困惑しながら事前に決めておいた合言葉を答える。

「あと30分くらいでできますから、工廠にお持ちしましょう。」

「願いまーす。大淀にもお裾分けしちゃおっと。あー、抹茶も追加で」

「かしこまりました。」

 

 事前の符牒にはなかった言葉だが文字通り祝杯でも挙げたい気分らしい。良い傾向だ。工廠にお届けに行ってきます。暫く戻りません、と間宮に断わると羊羹と抹茶を入れた魔法瓶を手提げ袋に入れて工廠へ。吹雪が工廠に入っていくと、キラキラの明石と夕張のコンビがとびっきりの笑顔で迎えてくれた。

「龍田さんと大淀さんは?」

「龍田は遠征帰りで補給中、大淀は提督まいているところ。二人ともまもなく来ますよ。」

「うまくいったようですね。」

「もちろん。あたしたちに不可能の文字はないわ」Vサインをする夕張。「百聞は一見に如かず。行きましょうか。」

 

 連れて行かれた建造ドックでは、小柄な作業服姿の男と長身の白衣の男が工廠長と何やら熱心に話しこんでいる最中だった。

「おやっさん、ドク。ちょっといいかな。」明石が声をかける。

「こちら特型駆逐艦の吹雪さん。おやっさんたちを作ろう、って言いだした張本人だよ」

「ほう。嬢ちゃん、なかなか気のきいたこと考えるじゃねえか。よろしくな」

「発明の産みの母という訳ですね。よろしく。」

「よろしくお願いします」

 親のような歳の初対面の男に褒められていささか照れる吹雪。打ち合わせあるからまた後でね、と、夕張が言い、工廠の事務室に戻る。龍田と大淀も間もなくやってきたので羊羹を切り分け、お祝い兼今後の打ち合わせを始めた。

 

「あの二人は誰なんですか」

「おやっさんは、おやっさんですよ」と明石。

「ドクは、ドクね」と夕張。

 きょとん、とする3人に明石は説明を始めた。「メカニックならね、憧れる人がいるわけですよ。真田さんとか榊さんとかヨシムラさんとか。そういう人が来てくれたら、どんなに捗るかなあ、って。願いが叶った結果がおやっさんです。」

「同じく。堀越さんとか八木さんがいたらどんな兵装考えてくれるか、って思ったらワクワクするじゃない。」

 明石、真面目な表情になり「あたしの思い浮かべる理想のメカニックが召喚された、ということです。特定の個人じゃなくて。だから誰でもない”おやっさん”」

 夕張も頷いた。「だから”ドク”。艦娘の建造は、オペレーターを誰がやるかで艦種が決まってくるけど同じことが提督建造にも起きるわけ。

 ちなみにいい加減な気持ちでやるとカスが出るわよ。」

「カス?」

「変人とか、海軍陸軍歩兵大佐とか」

 龍田がギョッとした顔をした。「その人たちは?」

「資材置き場」

 

 三人は思わず安堵のため息をついた。航空支援も対潜哨戒もない海面に根拠のない憶測と精神論で体裁のために進軍を命じるような無能を後釜に据えるのでは意味がない。

「だから提督を建造するのは主力艦で古い人がやるのがいいと思うわ。乗組員も多いし、いろんな人を知っているはずだから。」

「艦娘の最古参といえば金剛さんですが」

「この鎮守府には いないわねー 金剛型全員」

 ため息をつく龍田。チャラ男のやつが近代化改修の餌にしてしまった。

「次は、扶桑さんと山城さんですけど。」

「うーん。あの二人はちょっと」

 全員でハモってしまった。なにしろ海にいるよりドックにいる方が長かったといわれる戦艦である。艦これ世界の通称は不幸姉妹。不幸の星の下に生まれた提督を建造しそうだ。

「伊勢さんと日向さんはいないから、あたしと天龍ちゃんね。だけど主力艦じゃないから」

「となると長門さんですが」

「やってくれるかしら。」

 日本の誇り、聯合艦隊旗艦長門。生粋の武人であり、とても提督追放なんて陰謀に加担するとは思えない。悪法もまた法なり、とか言って逆に自首を勧められそうだ。

「じゃあ陸奥さん?」

「不幸の真打よね。」

 皆押し黙ってしまった。軍縮条約で生まれる前から解体されそうになり、ビッグ7と言われた割にはいざ戦争になると戦艦温存策で髀肉の嘆。やっと出撃しても低速が祟って毎度おいてけぼり。一度も敵艦隊と砲火を交えず。そして謎の爆沈。生き残った乗組員は口封じに死地送り。

「後は、空母は翔鶴さん、戦艦はイタリアさんまでいないですよ。提督が一航戦、二航戦解体しているせいで」

「イタリア人提督は論外として、翔鶴さんじゃもう新参ですよね。」

「ということは、決まりね。古鷹さんに」

 

 

 甲巡古鷹。巡洋艦といえば6.1インチ15.5cmが主砲だった時代に20cm砲を搭載。各国海軍を震撼させた艦である。為にロンドン海軍軍縮条約で重巡洋艦というカテゴリを新設、準主力艦として保有制限をかけた。戦艦ドレッドノートのように在来艦を陳腐化させたわけではないが、新たなカテゴリを作った点で日本ならずすべての重巡洋艦の姉といえる。なお補助艦艇を重武装して準主力艦に、という思想は戦後-アメリカ海軍にその必要はなかったので-ソヴィエト海軍に受け継がれた。

 この世界線の一部提督からは、「天使」「フルタカエル」と呼称されているが、別に袖口から各種近接用武器を繰り出したり、省エネ男を使役する術に長けているわけではない。

 

「承りました。精一杯努めさせていただきますね。」

 

 真剣なまなざしで押した建造ボタンの建造時間は4時間30分。

「伊勢型か正規空母ですよね、艦娘なら。」

「これは 期待よねー♪」

 そしてバーナー投入。現れたのは薄汚れた第三種軍装の初老の男。ポケットが何かで膨れ上がっている。

「む?」

「提督! あなたの古鷹ですよー!」

 キラキラどころか光り輝くオーラを身に纏い、男の胸に飛び込む古鷹。遅れじと夕張が続く。そしてぱっと顔を赤らめて男から離れると今度は二人で万歳三唱を始めた。

 

 

「状況を説明してくれるか」

「実はかくかくしかじかで」と大淀。

「なるほど、さっぱりわからん。しかし」男は言葉を切り、一同の顔を見渡してから続けた。「おまえたちが艦の化身で、妖怪変化から国を守っている。それだけわかれば十分だ。本官は常におまえたちと共にある。」

「はいっ!」

「先ずは内憂外患の内の方をなんとかせねばならんな。」

「それについては、私に案があります。」

「ほう。」悪い笑顔の吹雪に男は凄みの効いた笑顔を返した。「聞こうか」

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