【チラ裏】ムルタ・アズラエルは刻の涙を見る   作:d_chan

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第77話 投資家と革命家③(裏:ジオン・ズム・ダイクン)

 翌日の夕方、デギン・ソド・ザビから通信が入った時、私は異論書を読みながら、朝に届いた分と同じ一頁を二度数えていた。

 

 画面の向こうに現れたデギンは、挨拶より先に、港で止まっていた貨物がすべて仮設倉庫へ移り、生活設備の荷下ろしが再開したことを報告した。私が一日かけて会議をまとめているあいだに、彼は許可の食い違いを見つけ、倉庫を空け、損失を分担する相手を説得し、貨物列車を動かしていた。

 私が彼を必要とする理由を、デギンはいつも説明ではなく結果で示す。

 

「それから、君の客人にも会った。予定していたわけではないが、ちょうど現場を見に来ていたので、工業組合の応接室で昼食へ誘ったよ。サイド3へ資本を持ち込む人間に、動かない貨物を見せたまま帰すのは趣味が悪いのでな」

 

「ムルタ・アズラエル君のことだね。君なら、昼食の席で契約書を三通ほど書かせても不思議ではないが、彼の名前を支持声明へ入れる約束まで取ってはいないだろうね」

 

「私を何だと思っている。貨物を動かすのに演説は要らんが、信用を失えば貨物より先に投資家が動く、それくらいは心得ている。企業連合への参加を打診し、民生利用、公開会計、派閥を問わない雇用、武装組織への流用禁止という、君が聞いたものとほぼ同じ条件を出されたので、検討を受け入れた。それ以上でも以下でもない」

 

「安心したよ。彼は自分の言葉を勝手に増やされることを、投資損失より嫌うところがあるようだ。もっとも、損失についても一秒後には正確な数字を出してくるだろうが」

 

 デギンは口元だけで笑い、傍らの資料へ一度目を落とした。彼の背後には港湾の事務所らしい人の出入りがあり、通信の最中にも二度、職員が確認を求めて紙を差し入れていたが、デギンは話を切らず、必要な箇所へ署名をしながらこちらの言葉を聞いていた。

 

「君も、彼をこちらの旗の下へ急いで引こうとはしないでくれ。違う入口から同じ問題へ着けるなら、いま互いの道を塞ぐ必要はない」

 

「旗の下へ引くより、帳簿の前へ座らせた方が役に立つ。こちらも慈善を求めているわけではないし、あの条件で利益を出せる事業を示せなければ、サイド3に自治能力があるという君の主張まで疑われるからな」

 

「君がそこまで言ってくれるなら任せられる。私は進む方向を語れても、貨物一両を動かすために必要な許可証を、その日のうちに三部署へ通すことはできない。私にできないことをしてくれる者を、力を持ちすぎるかもしれないという理由だけで遠ざけていては、人類へ相互理解を求める資格もないだろう」

 

「相変わらず、大きな話へ戻すのが得意だな。こちらは明日の荷役人員の話をしていたはずだ」

 

「大きな話を小さな仕事へ戻してくれるのが、君の役目だと思っているよ」

 

「勝手に役目を決めるな。条件は書面にして送るから、君の委員会案と食い違うところがないか見てくれ。では、また連絡する」

 

 通信の消えた画面には、睡眠不足の顔だけが残った。私が一日かけて言葉を直しているあいだ、デギンは止まった貨物を動かしていた。私には彼の仕事ができず、彼も私と同じ言葉では人を集めない。

 

 その違いを、私は亀裂ではなく、同じ橋を両側から支えるための形だと考えた。デギンへの信頼を疑う理由はなく、彼もまた、私の言葉を現実へ運ぶために自分の名と人脈を使っていた。

 

 

 

 出発の日、アズラエル一行を乗せた船がサイド3の港を離れたという報告が届いた。

 

 見送りへ出る予定は最初から入れていなかった。私が姿を見せれば、少年が誰と握手をしたかを数える者たちに、また一つ余計な材料を与えることになるし、彼にはすでに、ここへ来た時点で見物人ではいられないという忠告が与えられていた。ならばせめて出発の時くらい、私の政治から離れ、友人たちとの別れに時間を使えばよい。

 

 私は机へ戻り、ムルタ宛ての書簡を開いた。そこには四条件を方針として受諾し、関係組織と事業者へ公開協議の設置を提案したこと、正式な調査に必要な資料を準備すること、そして会談の公表では政治的支持を得たとの表現も、許可のない実名も用いなかったことを、飾り気のない文章で記した。

 

 最後に礼を述べようとして、「我々のよき支持者へ」と入力し、すぐに消した。彼は支持者ではないし、こちらが勝手にそう呼ぶことこそ、最初の条件へ反する。「よき理解者へ」と直してから、それも消した。彼ならおそらく、理解したからといって賛成したことにはなりません、と返信へ書くだろう。

 

「先生、まだお帰りにならないのですか。今日はもう会議も面会もありませんし、その手紙なら明日の便でも間に合います」

 

 昼の声明を直した若い書記が、空になった茶器を交換しながら、私の画面を横から見た。

 

「宛名を考えていたんだ。『親愛なる批判者へ』では、喧嘩を売っているように見えるだろうか」

 

「おそらく、批判一件ごとの料金表を付けて返信してくると思います。先生が思想の検査を頼んだ記録もありますから、監査報酬まで請求されるかもしれません」

 

「それは困る。彼の提示する価格は、年齢への遠慮がなさそうだ」

 

「普通にお名前を書けばよろしいのではありませんか。相手を分類しない、と先生ご自身が赤鉛筆で書いていたでしょう」

 

 書記の視線を追うと、会談前には十分な長さがあった赤鉛筆が、声明と演説草稿と会計方針を直すうち、卓上で指先に隠れるほど短くなっていた。

 

 私は「ムルタ・アズラエル君へ」とだけ宛名を戻し、サイド3で見たことについて、いつかまた率直な意見を聞きたいという一文を添えた。

 

 人間は変わり得ると考える私と、人間が変わらなくても争わずに済む仕組みを作ろうとする彼が、同じ答えへたどり着くことはないのかもしれない。

 それでも、生まれた場所によって未来の選択肢を奪われる者をなくしたいという一点が残るなら、異論は決裂ではなく、互いの誤りを見つけるための橋になり得る。

 

 私が必要としていたのは、私の言葉を信じる少年ではなく、私の言葉が間違った時、それを私の前で間違いだと言える少年だった。

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