その日、
まさにギルド本拠地が物理的に揺れるほどの一大事だった。
「ギルドマスター…」
秘書が傍らで震えている壮年の男に呼びかけたが、男は咄嗟に声も出なかった。
「如月秋人の引退届を国際探索者連盟が受領した」
その一報がもたらした破壊力はすさまじいものだった。
まさに阿鼻叫喚。上を下への大騒ぎである。
「誰か、今すぐ確認を取れ!」
息を吹き返したギルドマスターの坂田が叫ぶ。
秘書官が慌てて電話に向かった。別の者がパソコンにとびかかる。いつもは泰然として落ち着いたリーダーらしい雰囲気を醸し出している坂田だったが、さすがに平静ではいられなかった。
「まだ外部には漏らすな。一報はまだ公になっていないな」
男はそう怒鳴りながら、内線に手を伸ばした。
「赤城誠を呼べ!如月の担当の赤城をここへ連れてこい!!」
◆◆◆
独自のルールを持ち、特殊能力と鋼のメンタルの持ち主である
各国に支部があり、基本的には国家単位で動いている。
特に貴重な高位の
そうして国家の願いを聞くことで、探索者ギルドは大きな権力を持っていた。ある意味、
しかし、黎明期には国家とギルドが結託して
そのことを受けて、国際探索者連盟はあらゆる国家から独立した存在として、発足した。
国家からの虐待から逃げてきた
国際探索者連盟への訴えが通ると、まず該当の国家支部へ連絡がいく。
国際探索者連盟はこの時点で調査はほぼ終えており、訴えが受領されたという知らせが支部へ来た場合、支部に100%勝ち目はない。
支部が悪い場合、態度を改め相手への補償を行い、自らの非を詫び、該当者に許しを得ることができればこの一報は破棄される。しかし、もし
それは「この国家は
その時点で、ありとあらゆる国が除名国に所属する
暗黙のルールとして、違う国家への
ありとあらゆる条件や報酬をもって、世界中の国からスカウトにやってくる。
それを止めることは国家権力といえども不可能なのだ。
食い荒らされた国家が、ダンジョンの崩壊を止められず滅びたこともある。
日本はダンジョン発生が他国より多いこともあり、ダンジョンへの対応力が強い。そのノウハウは国際的にも有名で、ギルド職員、探索者の数も質も他国を大きく上回っている。もしもこのまま除名されれば、各国の恰好の狩場になるだろう。
今、日本は崖っぷちに立っていた。
◆◆◆
ギルドマスター坂田は知っていた。
彼らが誇る3Sランクの
自分たちが、まだモノを知らないあの少年を騙し、欺き、搾取してきたことを。
それらを直接的にしていたのは、部下の赤城だったが、坂田もその恩恵にあずかって長かった。じわりと、不安が坂田に押し寄せてきた。
太った体を目いっぱい縮こまらせて、赤城がギルドマスターの部屋に入ってきたのはそれから15分後だった。
「遅い!何をやってた!如月はどうした!!」
部屋に入るなり怒鳴られて赤城誠は不満げに顔を歪めた。
「あの小僧を探していたんですよ」
親の借金があるからとダンジョンで得たドロップ品や報酬、依頼の品をほとんどすべて横領してきたのは、赤城と坂田である。
まだ幼く世間を知らなかった少年を言いくるめ、時には暴力をふるって言うことを聞かせていた。3Sランク
あんな小汚い薄汚れた小僧をありがたがって何になると。
ダンジョンで戦うしか能のない、何もできない子供だった。
学校にもほとんど通わせなかった。
他のギルド職員も近づけなかった。
地底を這いずり回り、金を稼いでくるしかできない低能。
ただ、ちょっと力がある頭の悪い少年を、自分たちが国家やギルドの役に立つように使ってやっている…そんな考えだった。
「ここへ今すぐ連れてこい。折檻してやる」
「ギルマス、声が大きいですよ。誰かに聞かれたら大変だ」
坂田の怒鳴り声にうんざりしながら赤城がたしなめた。
「くそ、一体どうなってる。誰の仕業だ。アメリカか?」
爪を噛みながら坂田がぼやく。
アメリカは高ランク探索者が不足しており、あちこちで引き抜き騒ぎを起こしているのだ。
「いや、まだうちの支部が排除されたわけではありませんから、ヘッドハントはできないはずです。
おそらく学校で誰かに入れ知恵でもされたんでしょう。愚か者には制裁を受けてもらいましょう」
赤城が嘯く。
秋人への扱いはSランク
「しかし、国際探索者連盟への訴状の提出は、かなり法的な知識がないと難しいと聞いていたが…」
坂田が眉を寄せる。中学校の職員などで行えるレベルのものではない。
ある意味国家を訴えるのだ。
それ相応の知識が必要だし、正式な書式と証拠、証言がいる。
そして、そういう物を揃えるには、えてして大きな金がかかるのだ。
如月少年は生きていくのにぎりぎりの金しか持たせていない筈だった。
しかし、最近生意気な目つきをするようになったと赤城は思っていた。
証拠隠滅のため、次にSランクのダンジョンが発生したら装備を全て取り上げてソロで突っ込ませようかと坂田と相談していたくらいであった。赤城は舌打ちしたい気分だった。
せっかくの自動で金が舞い込んでくるシステムに、傷をつけたどこかの誰かにはそれ相応の報いを受けさせるべきだと思った。
謎の男性「すみません。ごめんくださーい。坂田信二さんいらっしゃいますか?ギルドマスターの」
受付嬢「あの、アポイントメントはございますでしょうか?」
謎の男性「あ、私如月秋人氏の代理人で神崎薫と申します」
受付嬢「す、すぐに手配いたしますので、こちらでお待ちください!!!!!」