3S探索者の代理人   作:かんだ★

179 / 179
19. 焔の桜

 朝、桜子が起きると傍らに恐ろしく美しい寝顔があって飛び上がるほど驚いた。

 どうやら自分はソファで寝てしまったらしい。慎ましい恋人は彼女を部屋に運ぶのを躊躇ったようである。自分が起きるまで傍らで待機してくれていたが、そのまま寝入ってしまったのだろう。

 ふと見ると桜子にも薫にも毛布が掛けられている。おそらく、自分の毛布は薫が、薫の毛布は秋人が掛けたに違いない。

 

「薫さん、起きて」

 桜子が薫を揺り動かすと、彼は二度、三度と瞬きする。恐ろしく長い睫毛がぱしぱしと動くのを桜子はじっと見つめていた。睫毛が持ち上がって少し色素の薄い茶色の瞳が大きく見開かれる。彼はしばらく何が起こったか分からずフリーズしていた。

 

「うわ、おはようございます!?」

 慌てて跳び起きる。

「居眠りしてしまったね」

 桜子が苦笑すると、薫も頭を掻いた。

「あなたが起きるまで起きて居ようと思ったんだけど」

「朝まで爆睡しちゃった」

 たははと笑う桜子に薫は綺麗に微笑んで見せた。朝日に溶けるような笑顔だ。

 桜子は別に薫の顔に惚れたわけではないが、彼のこの手の気の抜けた笑顔は好きだ。というより、そんな気の抜けた笑顔を自分に向けてくれることが、桜子はこの上なく幸せだった。

 

 

「これ」

 薫が収納魔法から一つのケースを取り出した。

「本当は昨日渡すつもりだったんだけど、タイミングがなくて」

「えっ!?」

 どうみても指輪のケースである。

「えっ、えっ」

「結婚を前提にお付き合いしている訳ですから、その…早く渡さなくちゃと思ってて…」

 ぽかんと桜子は口を開いたまま固まっている。実は婚約指輪などもらえるとはこれっぽっちも思っていなかったのだ。

「開けてもいい?」

「もちろん」

 薫は大きく頷いた。おそるおそる桜子はケースを開いた。

 

 ケースの中には紺色のシルクの台座があり、その真ん中に飾り気のないシンプルな指輪が鎮座していた。ダイヤなどの宝石は一切ついていない。紅と金色の中間のような色合いの半透明なリングに小さな金具の装飾が一つ。ケースの蓋裏には小さく「焔の桜」と銘があった。

 

 普通の女なら「なんだこれ」な指輪だが、探索者(シーカー)である桜子は思わず二度見した。

 リングの部分の色合いがチラチラと変化している。放つ魔力が揺れているのだ。まるで焔を閉じ込めたように。

 桜子はごくりとつばを飲み込んだ。

 彼女は探索者(シーカー)だ。それもSランクの経験豊富な探索者(シーカー)だ。長年いろいろなダンジョンに潜ってきた。当然多くのモンスターを討伐しているし、ドロップ品や魔石もゲットしている。だからこれが何かなどと嫌というほど知ってる。

 

「か、薫さん、これまさか…」

「ハレー・ウィンストンよりこっちの方がいいと思いまして」

「か、火竜の魔石をくりぬいたの!?」

「はい」

 にこにこ笑う恋人の言葉に桜子は絶句した。

 

 ああ、そうだった。薫の魔法の師匠はサンダードラゴンの魔石を削って杖にしちゃう少年だったと痛感した。

 通常魔石は大きいものは大きいまま加工する方が価値も高いし、威力も大きい。削ったりくりぬいたりするものではない。それだけでも驚きだったが、薫はさらにとんでもないことを言い出した。

 

「指輪についてるその小さい金具、そうその金色の部分を押すと指輪からブレスレット、それからチョーカーに大きさが変わります。変異魔法の一種で魔石の大きさを空間変異させてます。だから、魔石の威力はさほど削られてないです。秋人が俺に作ってくれた杖と同じ原理の加工です。桜子さんは剣士なので、剣を使う時は指輪は邪魔かなと思って形が変わるように作ってもらいました。変異魔法は魔石自体の魔力で維持できます。それから、チャージなしで三度まで炎熱魔法の上級が撃てます。攻撃魔法は使うと空になっちゃうので、魔法師にチャージしてもらってくださいね。康子さんは炎系の魔法が得意なので、たぶん大丈夫だと思います」

 桜子はこのものすごい魔道具をおっかなびっくり触った。フワリと魔力が馴染む。

 

「桜子さんの属性は火なので、火竜の魔石が手に入って超ラッキーでした」

「新潟で?」

「はい」

 薫が頷く。

「前に俺や秋人が魔法を撃つのを『いいなぁ』って言ってたじゃないですか」

「ああ、巨福呂坂の帰り道ね」

「はい」

 桜子が鎌倉からの帰りの道中で、薫や秋人がどうやって巨大な白竜を攻撃したのかをリサに説明していた時のことだ。

「いいなぁ。私もあんな風に大きな攻撃魔法を撃ってみたい。スカッとしそう」

 と確かに言った。どうやら、それを薫は覚えていたらしい。

 

 新潟で魔石を手に入れてから今日まで、ほとんど日がない。おそらく秋人が後藤とギルドの職人に圧力をかけて納期を短縮したのだろう。魔石加工の権威がおそらくブラックな環境で作り上げたに違いない。

 

 矯めつ眇めつ桜子は指輪を眺めた。ふと、今度はこの小さな金具の部分に目がいく。当初は金かと思ったが、よくみると色が違う。

「ちなみにこの金具、金じゃないよね?」

「ヒヒイロカネです。綺麗でしょ」

 綺麗でしょで済ませる金属ではない。魔法との相性がすこぶる良いダンジョンでも超絶に貴重な金属だ。

 お値段が怖くて聞けない。ハレー・ウィンストンどころではない。10本買ってもおつりがくるだろう。

 

 薫の目が「褒めて」と訴えている。桜子はチラリと廊下を見た。

 ものすごく期待値マックスな弟子と、青い顔の朽木兄弟がこちらの様子を窺っていた。

 

 桜子は確かに指輪の内容に驚いたし、少しばかり呆れもしたがその指輪に込められた薫の愛情を理解できない人間ではなかった。

 おそらく魔法が使えない自分が、もしもの時に何か攻撃手段を持てるように考えての品だろう。

 何より、これで桜子も魔法が撃てる。康子がやってるのを見ていつも「いいなぁ、やってみたいなぁ」と思っていた夢が叶うのだ。

 

「ありがとう、すごく嬉しい。大切に、一生大切にします」

 桜子は万感の思いを込めてそう囁いた。

 彼女のその言葉を聞いて、薫は本当に、本当に美しく微笑んだ。

 

 その笑顔を桜子は生涯忘れることはなかった。




当夜「秋人、因みにあれの加工って誰に頼んだ?」
秋人「大塚さんっていうお爺ちゃん」
聖夜「大塚幹久老か…人間国宝の」
秋人「後藤さんが前に薫の杖作るときに紹介してくれた人で、すっごく腕が良くて仕上げが早くて優しくていい人だった」
当夜「うん…まあ如月秋人の名前出されたらそうなるよな」

というわけで、第十章終わりです。

感想、お気に入り、評価などいただけましたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

エロゲーオブザデッド (仮)(作者:にーと戦士)(オリジナル現代/コメディ)

チート盛り盛り、特典増し増しで転生した主人公。▼しかしそこは期待した異世界ではなく現実世界だった。▼そんな最中、平凡な日常を過ごしていたある日異変が起きた。▼ーーいや、なんであいつフルチンなん?▼


総合評価:6804/評価:8.48/連載:10話/更新日時:2026年08月07日(金) 06:22 小説情報

ロボゲーっぽいギャルゲーに転生したが整備科になってしまった(作者:なんちゃってメカニック)(オリジナルSF/コメディ)

転生したが整備科になってしまった俺、幼馴染の主人公にクソ振り回される模様。▼頼むから、整備士俺一人なのに機体を増やさないでください。


総合評価:6248/評価:7.82/連載:115話/更新日時:2026年08月04日(火) 08:00 小説情報

崩壊世界でルートシューター(作者:穴熊拾弐)(オリジナルSF/冒険・バトル)

ルートシューターってジャンルのゲームがある。広大な廃墟に放り出されてゴミを漁って持ち帰る。それを売ったり、施設を改良したりして成長していくってゲームだ。俺はそれをやらされている。何故か人を喰う怪物が闊歩し、滅亡寸前の現実世界で。▼金が尽きれば命が尽きる。崩壊世界で生きる1人の傭兵の話。▼


総合評価:2670/評価:8.23/連載:47話/更新日時:2026年09月11日(金) 08:00 小説情報

最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜(作者:窮北の風)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ゲーム開始十年前。最強だった男は、最弱の見習い傭兵として戦場に立つ。▼かつて俺は、世界的人気ゲーム『Throne of Glory』で最強ギルドを率いるギルドマスターだった。▼しかしギルド任務の最中、操作していたキャラクターは強敵に倒されてしまう。▼……次に目を覚ました時、俺はそのゲーム世界に転生していた。▼しかも時代は、ゲーム開始の十年前。▼今の俺は、ただ…


総合評価:3477/評価:8.45/連載:87話/更新日時:2026年07月25日(土) 23:16 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【美人で最強、なのに俺の前ではうざかわポンコツな魔王様】▼女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したは…


総合評価:2848/評価:8.38/連載:424話/更新日時:2026年09月12日(土) 23:50 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>