3S探索者の代理人   作:かんだ★

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200話記念SS「作原委員長と猫耳魔人」

 俺たちが命からがらデステニーワールドから逃げ出した後、ようやくテレビやネットでダンジョン発生とモンスターによる人的被害について報道が始まった。

 本来ならもっと時間がかかっただろうが、如月が俺たちを逃がす時に情報をデステニーランド側に共有させたことによって、ダンジョン発生時のマニュアルが順守され、素早い伝達が可能になったようである。

 

「まずいな…」

 俺はスマホ片手にため息をつく。

 まだSNSだけだが現地の映像が上がり始めている。具体的に如月の姿が映っているものは無いが、おそらく時間の問題だろう。

 あんな修羅場からようやくの思いで逃げ出したというのに、人間の承認欲求というのはおそるべしである。どんな感情でモンスターに襲われている人をスマホで撮影しているのか、俺には理解できない。

 

 

 如月があの『如月秋人』だということは、つい数時間前までクラスの誰も知らなかった。一番仲の良い智輝でさえ知らなかったのだから、おそらくトップシークレットだろう。

 

 さもありなんである。

 

 目の前にいくつもヒントは転がっていた。

 ・如月秋人という漢字まで同じ名前であること

 ・両親がいない天涯孤独の身の上なこと

 ・高校に来る前は殆ど学校に通ったことがなかったこと

 ・保護者が弁護士かつSランク探索者なこと

 ・その保護者が『如月秋人』のパーティーメンバーであること。

 

 これらを踏まえれば、奴があの3S探索者であることを推測できたのではないか?などと後から思うわけだが、実際そんなことは欠片も思わなかった。入学時のクラス名簿で奴の名前を見た時、俺は「お、3Sと同姓同名じゃん、覚えやす」としか思わなかったし、間違いなくクラス全員そう思ったに違いない。

 

 実際の秋人は物静かで穏やかで寡黙な人物で、美術部に所属も納得のおおよそ探索者とは真逆のインドア派少年だった。背もクラスの中で高いほうではなかったし、華奢でパッと見女子かと見間違うくらいの綺麗な顔立ちもその印象を強めていた。

 

 正直なところ今でも、あのデステニー城の前での立ち居振る舞いを見ていなければ、信じられなかったと思う。

 

 だいたい、如月の年齢が本当に俺たちと一緒だった場合、恐ろしいことに最初にSランクのダンジョンを討伐したのは、奴が11歳の時だ。そんな荒唐無稽な事を一体誰が信じるというのだろう。

 

 でもそれは本当のことで、彼は俺たちを守るためにモンスターの坩堝に残って今も戦っている。

 

 

 おそらく、如月はもう学校には戻ってこない。

 彼の正体があの『如月秋人』であることが衆人環視に晒されるのは時間の問題だ。俺たちにも知られてしまった。秘密が守れなかった以上、もはやこの環境に彼が身を置くことはできないだろう。

 

 彼がおそらく初めて体験した『なんの変哲もない日常』は、俺たちを守るために彼の手からすり抜けてしまったのだ。

 

 

 俺が推測するに、彼は自ら希望して探索者をやっていたわけではないと思う。

 どこの子供が10歳でソロの探索者をすることを望むだろうか。

 ダンジョンブレイクにあった子供だって、「大人になったら探索者になってモンスターをやっつけるんだ!」という希望の元に探索者養成学校に入って修行することはあっても、今すぐそれをやろうとは思わないし、不可能だ。

 

 何かおそらく理由があって、彼はたった一人で探索者稼業を続けざるを得なかったのだ。

 

 『如月秋人』の戦績と貢献をネットで調べただけで、恐ろしい数とボリュームの内容が上がっている。これだってたぶん全部ではない。アップしきれない細かな内容がもっとあると思う。この資料から察すると、彼はおそらくほぼ毎日休まずダンジョンに通っていた計算になる。

 

 如月は学校にも行かずただひたすらモンスターを狩る生活を小学生から中学生にかけておよそ5年間続けていた。そう想像するだけで、何か言い知れない気持ちになって泣き叫びたいような衝動に駆られる。

 

 俺たちの平穏は、俺と同じ年の少年の犠牲の上に成り立っていたのだ。

 

 おそらく、そんな如月の苦境に気が付いたのが例の保護者だったのだろう。あの弁護士が探索者に登録された頃に『如月秋人』の戦績はぴたりと止まっている。きっとあの人が秋人を救ったのだ。

 

 俺たちにも何かできることがないだろうか?

 

 俺はふと、ネットにアップされている現場の映像を見つめた。

「顔が映ってない?」

 動画をダウンロードして拡大再生してみる。

 俺は昔からネトゲはもとより、プログラミングや動画作成、生成AIに興味があったので、かなりパワーの強いPCを使っている。なので、めいっぱい解析してみたが、彼のスピードと現場の瘴気による磁場の所為であまりくっきりとした映像がない。いくつか拾ってみたが同じ結果だった。

 

「あ、キャップか。これのおかげで顔が隠れてるんだ」

 デステニーワールドに入った直後、メインキャラの猫耳カチューシャを女子に勧められて大弱りしていた如月を見かねて、女子の委員長が見つけてきた猫耳付きキャップをどうやら被ったまま戦闘を続けているらしい。

 

 『猫耳魔人』と俺は銘打って動画を再アップする。『デステニーワールドのメインキャラが助けてくれたんだ!』という内容を付け加えた。

 動画はあっという間に拡散されていく。こういう恐ろしい現実は、エンタメ要素を付け加えると受け入れやすいのだ。誰しも地獄がすぐ近くに発生するなど想像したくないものだ。

 『猫耳魔人』はネットミーム化され、現実の人物であることは人々の印象から遠ざかっていくはずだ。

 

 うまくいけば、彼の居場所をまだ守ることができるかもしれない。

 学校という穏やかな場所で苦しかった5年を癒すことがまだ可能かもしれない。

 まだ、秋人が経験したことがない体験が学校には山ほど残っている。今までの彼の辛酸を考えると、それくらいのご褒美があったって罰は当たらないだろう?

 

 後は、俺たちが黙っていればいいだけだ。

 

 俺は、クラスRINEに、俺が思いついた恩返しを呼び掛けた。

 

 皆は応えてくれるだろうか。

 願わくば、そうあってくれと俺は祈った。

 




200話記念SSでしたー
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