1. 護衛
秋人が帰宅すると、見慣れない警備のような恰好の人物がエレベーターホールに立っていた。
「あれ?この前の…」
秋人が目を見張ると、相手は明らかに動揺していた。
「あ、どーも」
小早川将司がぺこりと頭を下げる。秋人と彼はこの前のデステニーワールドでのダンジョン出現時に初めて出会った。それ以来の再会である。
「今日からこのビルの護衛に就くことになった小早川将司です。いつぞやは命を救っていただきありがとうございました」
折り目正しく頭を下げる将司の仕草に秋人は苦笑を零した。
「いや、こんな子供相手に。ご丁寧にありがとうございます」
秋人も丁寧に頭を下げたので、将司は居たたまれない。何しろ相手は3S
将司は正直この少年にどうやって接していいか分からなかった。悩みに悩んで、出たとこ勝負のつもりだったが、やはりどうしていいものやら戸惑うばかりである。
如月秋人少年はデステニーランドで見たとおり、ほっそりと華奢で少年独特の細長い体躯をしており、頭部が小さく、手足の比率が己とは違う人種なのではというくらいに長い。さらには彼の保護者とはまた違うタイプの恐ろしく美しい容姿をしており、漆黒の髪と大きな瞳が特徴的だった。
おそらく10人いれば10人が「美少年」だというレベルの容姿をしているが、けして近寄りがたいわけではなく、にこやかで優しそうだった。
さぞやモテるだろう…という、どうでもいい感想が将司が最終的にいきついた結論である。
「普通に話して」
という秋人のリクエストに当初は困った顔をしていた将司だが、少年である秋人に馬鹿丁寧に話しているのも色々と不自然だという彼の言い分に頷かざるをえなかった。
「刀、ちゃんと返してくれてありがとう。師匠が弟子になった記念にくれた大事な物だったんだ」
と秋人が礼を言うと、将司は思わず二度見した。
「この前もちらっとそんなこと言ってたけど、あんたを教えられる人がいるのか?」
正直なところ剣の腕前も魔法の威力も、この少年は将司が今まで見てきたどの
しかし、そんな将司の言葉に嬉しそうに秋人は胸を張った。
「師匠はすごく強いよ」
「何を言ってるんだい」
秋人の背後から声がかかって、将司は跳びあがった。その声の主には先日挨拶したばかりだが、ある意味秋人よりも緊張する相手だ。アークエンジェルのエース霧崎桜子である。サングラス越しでも圧がすごい。
「あ、師匠。お帰りなさい」
「『お帰りなさい』じゃないよ。今朝、挨拶もしないで学校に行っただろ。薫さんがものすごく凹んで困ったんだからね。チョコレート渡すタイミングがすごく難しくなったじゃないか」
長身の美女が腰に手を当てて怒っている姿は迫力満点である。しかし、秋人はてへへと笑ってどこ吹く風だ。
「あっ、小早川さん、こんばんは。お疲れ様です」
桜子の挨拶に将司は慌てた。最強二人組の何ともいえないほのぼの会話に、口をぽかんと開けて間抜け面を晒してしまっていたが、護衛としては言語道断の振る舞いである。
「お帰りなさい。その…秋人くんの師匠が霧崎さんなのか?」
将司は思わず尋ねてしまった。
「はい、そうです。僕の師匠です」
と秋人がにこりと笑う。桜子は苦笑して頷いた。
「まあ、成り行きで」
「えー、酷いよ。僕は真剣だよ」
と秋人がぼやくと桜子は今度は大きく頷いた。
「まあ、そういうことにしておこう。それじゃあ」
と笑って二人はエレベーターに乗り込んだ。その姿を見届けた将司はほうっと大きくため息をついた。
3S
「あー、まだ現実味がねえなぁ」
と将司は己の頬を捻った。痛かったので、やはり夢ではなかった。
「ただいまー」
という秋人と桜子の声に「お帰り」という穏やかな返事が返る。秋人はちょっとだけ緊張しながらキッチンへ向かった。
「あの…薫…その…今朝は黙って行ってごめんなさい」
秋人の謝罪に薫は苦笑を浮かべた。
「うん。でも今度から早く出かけるならメモかなんか残しておいて。俺は君の魔力は探知できないから、家にいるかいないか分からないからね」
「はい。ごめんなさい」
再度秋人は謝った。薫がなかなか起きてこない秋人をハラハラして待っていたのだと気が付いたのだ。
「叩き起こしにいけばいいんだよ」
と桜子が言う。
「まあ、そうなんだけど。昨日は色々あって疲れてただろ」
新潟まで跳んで帰ってきたのだ。秋人はへとへとだったはずである。
「さ、ご飯食べよう」
と薫が仕切りなおした。
分かりやすくテーブルの上には秋人の好物が並んでいる。たぶん薫は昨日新潟に跳ぶ直前のアレを気にしているのだろう。秋人は無性に居たたまれなかった。
「薫…その馬鹿って言ってごめんなさい」
と謝った。薫は少しほっとしたような顔で一つ頷いて席に着いた。
◆◆◆
食事中に薫は小早川将司と幸田和美がビルの護衛につくことについて説明をした。
「いいの?
と秋人が首を傾げると、薫は難しい顔をする。
「まあ、そうなんだが…あそこのパーティー解散しちゃったらしいんだよ。例のデステニーワールドでの途中離脱が原因でな」
と薫が説明すると、秋人は「ああ」と頷いた。そういえば、そんな会話を彼らはしていたっけ。
「それに君の顔見られちゃってるからね。近くにいて仲良くしてもらって、できるだけこちらの陣営に組み込んでしまった方が喋ったりしないだろ」
「それはそうかもだけど…役に立つんっすか?」
当夜が唐揚げをほおばりながら尋ねる。
「腕はいいって後藤さんのお墨付きだよ。色々と要領が悪くて足止め食らってたけどって」
「うん。悪くないと思うよ。特に小早川さんの方は、本来ならAでもおかしくない腕前だと思う」
と桜子の言葉に当夜が「おっ」という顔をしてから、
「手合わせしてもらおうかな」
とぼそりと呟いた。
当夜は己の技量が足りてないことがとても気がかりだった。できればそれこそ薫の護衛として、それなりの役に立ちたいのだ。今のままでは足手纏いだと、そう感じていた。
和美「ええええ、如月さんに会ったのー!サインは?」
将司「いや、俺は頼むつもりないし」
和美「私が休みの日に限ってえええええ」