1. 往路1回目
薫と秋人が国際
「こんにちわ」
と挨拶すると彼はひどく焦った顔で二人を見つめた。
「申し訳ありません。伝えそびれておりましたが、行き先は海外です。パスポートはお持ちですか?」
「一応」
羽田に呼ばれたが日本ではないだろうと想定して海外用の準備はしている。しかし、薫は肩から下げた手荷物一つだし、秋人に至っては手ぶらである。
「荷物は?」
「ああ、収納魔法に入れてます」
「あっ」
秘書は赤面して俯いた。
この二人は収納魔法を便利なトランクルームか何かと勘違いしているが、通常の収納魔法はそこまで大きな量は入らない。
一般の
ただし、Sランクの
「チャーター機になります。あちらのゲートをご利用ください」
と指示されたので、彼らは素直に従った。
「神崎様、如月様ですね」
搭乗口で一応確認されたが、薫はもはや顔パスである。反対に秋人はこの前の誕生日に桜子にもらったメガネを掛けている状態だ。受付の係は提出された書類と秋人の顔を何度も確認して首を捻っていた。
「我々の他にも行く方がいるのですか?」
と薫が何気なく尋ねると、乗務員の女性は「いえ」と簡潔に否定した。
なので、薫たちが乗り込めば出発だ。
◆◆◆
今回は当夜は連れてきていない。護衛は不要と書かれていたが、おそらくごねれば何とでもなりそうだった。薫としては遊撃隊&連絡係として来てもらう方がありがたかったのだが、どうやら当夜にもやりたいことがあるらしく、しばらく留守にするとだけ言い残して出かけて行った。
「色々あるんだよ」
とは桜子の弁である。
なんとなく修行しに行ったのではないかと薫は睨んでいる。当夜が自分の技量をもっと上げたいと思っていることは察していた。
「当夜、強いと思うけどな」
同じ思いの秋人もそんなことを言っていたが、桜子に言わせるとそういう事ではないのだと。
「秋人はまあもう別格だけど、薫さんも段々人間離れしてきてるからね。同じパーティーとして自分も足並みを揃えたいって気持ちがあるんでしょ」
との事。
薫は当夜はムードメーカーだし居てくれるだけでありがたい存在なのだが、本人のプライドの問題だというのなら仕方ないのである。
◆◆◆
用意されたチャーター機は小型とはいえジェットだった。秋人はおそらくその価値をあまり分かっていないが、薫は内心唸った。彼ら二人の迎えにためだけにこれだけの物を寄越したのだ。何を聞かれるのか、何を求められるのか若干めんどくさい騒動の匂いを感じた。
機内はチャーター機と言う事で、通常の旅客機とは違い広々ゆったりである。離陸の時はシートベルト着用は仕方ないが、基本的にはまるで応接室のような設えの内装の機内でのんびり過ごす事になる。
薫は持ってきた小説を流し読みだし、秋人は母の日記を読んでいた。
「なんか面白いこと書いてあるのか?」
薫が尋ねると、秋人は口元に笑いを堪えて頷いた。
「お母さん、結構変な人だ」
「そうなんだ」
「お父さんの方がちょっとだけ普通」
「ちょっとなんだ…」
「うん、ちょっとだけね」
とまた笑いを堪えている。
「あと、加藤先生はもっと変な人だね」
「ああ、それは否定しない」
薫が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「四季はいい人っぽい。お父さんもお母さんも大好きで、どっちが養子になるかで揉めたんだって」
秋人の言葉にふむふむと頷いていたが、ふと日記帳の厚さが気になった。
「秋人、その日記そんな前からの内容が書いてあるってことは、もっと何冊か続きがあるのか?」
と薫が尋ねると、秋人は笑って首を振った。
「お母さん、魔法でページ増やしてるんだけど、厚みは空間を捻じ曲げて減らしてるんだよ。ものすっっごく高度だけど、ものすごくどうでもいい技術の使い方だよね」
と秋人が笑う。
「変な人」
そういう秋人の言葉にはどこか懐かしさが宿っていた。
◆◆◆
「お飲み物はどういたしましょう」
客室係の女性が薫に声をかけてきた。
「何がありますか?」
「ビール、ワイン、オレンジジュース、リンゴジュース、烏龍茶、紅茶、コーヒーがございます」
と彼女が案内してくれたので、薫は当然のようにビールを注文した。しかし、彼女は秋人に注文を聞かず立ち去ろうとしたので薫は慌てた。
「秋人!飲み物何にする?」
日記を読んでた秋人は気がつかなかったのか、先ほどの彼女の案内を聞いていなかったようで
「何がありますか?」
と尋ねた。すると、彼女は心底嫌そうに顔を歪め
「ちっ」
と舌打ちしたのだ。
あまりの態度の悪さに薫は唖然とした。しかし、秋人はすっと顔の表情を消すと何事もなかったように日記に視線を戻した。すると、彼女は今度は薫に向かって愛想よく
「すぐにお持ちします」
と声を掛けたのだ。薫は不快そうに眉を顰めた。
「そこの人!」
入り口付近に立っていた制服の男性に向かって薫は声を掛けた。
「この態度の悪い女を変えてください。不愉快です」
と冷たく言い放った。
男性は慌てて飛んできた。係の女性は真っ赤になって立ち竦んでいる。
「薫、僕は別にいいから…」
と言いかけた秋人を薫は手振りで遮った。
「秋人、理由もなく蔑まれることを受け入れてはいけない」
凛とした言葉に秋人は姿勢をただし、「はい」と頷いた。
薫はさらに男性を睥睨する。
「我々は本部の招きに応じてこの飛行機に乗っているという前提はご存知ですよね?」
冷たい言葉に男性は俯いた。
「では、その女性の秋人に対する態度には何か理由があるのですか?」
「いや、それは」
言いかけた男性を女性が遮った。
「なり損ないに顎で使われる筋合いはないわ!」
と喚く。流石に係の男性が嗜めたが、彼女は不満を隠そうともしなかった。
秋人の顔色がさっと変わった。
薫は女性の発狂っぷりを冷たく眺めていたが、悪魔のようにニヤリと笑った。
「なるほど。それがそちらの見解だということでしたらいいでしょう。我々はお暇することにします。秋人、帰るよ」
薫は席を立った。秋人は神妙な顔で薫に続く。機内職員の二人は何を言われたかわからず突っ立っている。
「私は審議官です。そちらの無礼は余す事なく総裁にご報告させていただくとします」
薫の言葉に男性は顔色を変えた。
おそらくこの扱いは総裁の本意ではないのだなと薫はチラリと脳裏にメモをとる。
「では、ご機嫌よう」
薫の合図と共に、二人の姿は機内から消えた。
秋人「集合場所羽田になってるけど、国際探索者連盟の本部って日本にあるの?」
薫「いや、外国だと思うけどな。一応パスポート持って行こう」
秋人「瞬間移動で帰ってきた場合、入国手続きってどうなるんだろう」
薫「一応後藤さんにそうなった場合はすぐ電話しろって言われてる」
秋人「まあ、そうそうそんなことないよね」
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