【書籍化】3S探索者の代理人   作:かんだ★

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5. パリ第一ダンジョン

 レアが呆然と平になったダンジョンを眺める。

 さっきまで蠢いていたモンスターごとダンジョンの壁が階層出口まで無くなってしまった。少年のたった一振りの魔法剣で。

 

「じゃあ、次の階層にいきましょう。あと4つでダンジョンボスです」

 薫が杖を掲げながら呟く。秋人は双剣をもう構えている。

「走ります」

「待って!もうちょっとゆっくり!!」

「急ぎなので!!」

 レアは二人のやり方に付き合わされてヘトヘトだった。もはや色々なことが衝撃すぎて感覚が麻痺してしまっているだろう。

「わかったわよ!チクショウ」

 と叫んで一気に身体強化で加速を開始した。

 

◆◆◆

 

 Sランクコンビのやり方はレアの想像を超えていた。

 身体強化をして高速で走り、薫の防御魔法でモンスターを消滅させ、それでは倒せないレベルのモンスターは秋人が魔法剣で薙ぎ払っていく。そのまま入り口で作成した3Dモデルを利用して最短距離を進むのだ。

 時々階層に人がいないことが判明すると、壁ごと秋人が魔法で出口までぶち抜いた。

 

「ね、ねえ。日本での攻略ってみんなこんな感じなの?」

 レアが必死に走りながら叫ぶ。

「いやあ、たぶん違うと思いますよ。これは秋人の流儀に私の技を足してできたオリジナルです」

 と薫がのんびりした口調で答える。

「いつもはあなたがやってくれている私の護衛役の探索者(シーカー)がいるのですが、今回は別行動でして。つくづく失敗でした。こんなことになるなら、泣き落とししてでも連れてきたらよかった」

 と薫が嘆く。

「当夜、どうしてるかなぁ」

 秋人が寂しそうに呟いた。

「きっと東京に帰る頃には強くなって帰ってきてるさ」

 薫の言葉に、秋人は大きく頷いた。

 

◆◆◆

 

 わずか半日でダンジョン最下層までやってきたことにレアは驚きを隠せない。自分の身に起こった出来事であるとは俄かに信じがたいのだが、現実にダンジョンボスが聳え立っていた。

「トレントだねえ」

 秋人がダンジョンボスを見て呟く。

「木だな…」

 薫が見たままをストレートに表現した。

 

「いや、確かに木だけど、巨木のモンスターで凄く強いのよ」

 レアの経験からして複数のパーティーで取り組むようなモンスターだ。

 

 彼女が知っている情報ではパリ第一ダンジョンのボスはミノタウロスのはずだ。間違ってもこんな強力なモンスターではない。しかも、ボス部屋に入ってしまったので今更離脱もできないのだ。

 

「どうしよう…」

 自分が連れてきてしまった所為で、無関係な二人を巻き込んでしまった。

「ふ、二人ともどうにか逃げて!ここは私が食い止めるわ」

 とレアが勇気を振り絞って宣言したのに、二人はまるで不思議な言葉を聞いたようにキョトンとした顔をしていた。

 

「いや、レアさん。大丈夫。木だし」

 薫が杖を構える。少しの魔力を貯めるように構えていた。

【雷神の雷鎚(トールハンマー)】

 薫の呪文と共に轟音が響き渡った。トレントはその魔法の雷光を受けてあっという間に炭化した。

 

「薫!コントロールすごくよくなってる!だいたい中心に当たったよ」

「だいたいかぁ…。今日のは結構いい感じだと思ったんだけどなぁ」

 と呑気な二人の会話に、レアは呆然としていた。たった一撃で数組のフルパーティーで倒すようなモンスターが灰になってしまったのだ。

 

「嘘でしょう」

 呟く声が掠れた。

「閉鎖はするなって話だから、迷宮核はそのままにってことだな」

 と薫が嘯く。

 ボスが倒れたので、背後に迷宮核の部屋が現れた。本来これを消滅させればダンジョンは閉鎖できるのだが、このダンジョンは資源が豊富で比較的穏やかだった事もあり、存続が希望されていた。

 

 

「あ、まずいな」

 薫が眉を寄せる。秋人も無言ながら顔を顰めている。レアは二人の視線の先の迷宮核へ目をやった。

「何これ…」

 そこにはレアが見たことがないような光景が広がっていた。

 

 粘菌のようなものが迷宮核の部屋を覆い尽くしており、その真ん中にあるはずの迷宮核がない。いや、あるにはあるのだが、レアが知っているそれではなかった。

「黒い迷宮核…」

 薫が嫌なものを見る目で小さく呟いた。

 

 

「あー、もしもし。ムッシュローラン。緊急事態です」

 薫がダンジョンでも繋がるデバイスでギルドマスターに連絡を入れた。

『何かありましたか?』

 速攻返事がきたのはおそらく待機していたからだろう。フランス人にしては真面目だなと薫は偏見に満ちたことを思い浮かべた。

 

「今ダンジョンボスを倒したんですが…」

『は?まだ半日も経っておりませんが』

「ええ、まあ通常運転です。Sランク二人なんてそんなもんですよ」

『レア!本当かね?』

 スピーカーにして会話しているので、ギルドマスターは同国人のレアに確認をとった。

「本当です。ムッシュローラン。私ほとんど何もしてないです。現在ボス部屋の奥で待機してます」

『すごいな』

 ローランは絶句した。現在フランスにはSランクの探索者(シーカー)がいない。もともと国としてもダンジョンの発生自体もあまり多くないのだ。

 

 

「えー、それでですね。迷宮核が黒いです」

 薫がローランにそう告げると、デバイスの向こうは息を呑んだ。

 

 この件は後藤から全世界の支部へ報告が上がっているのだが、日本以外での発見は初めての事だった。

『ムッシュ神崎、それはどうにかできるものでしょか?』

「うーん、そうですねぇ。閉鎖覚悟でも何とかした方がいいかと思います。これ人工的に歪められているので、正直今後どんな状況になるか皆目見当もつかないので」

 

 薫がそう助言すると、ローランは大きなため息を吐いた。このダンジョンを失うのは大きな痛手になる。都会にあるからこそ、初心者の探索者(シーカー)が訪れやすく、育成の場にもなっているのだ。

『なんとかなりませんか?』

 ローランの懇願に薫は眉を寄せた。

「鑑定してみます。それで無理そうなら諦めてください。命より大切なものはあまりありませんよ」

 薫はそう助言して通話を終了した。

 

「第五位使うの?」

 秋人が心配そうに眉を寄せる。あれを使ったあと、薫が昏倒したのを秋人は忘れてない。

「まあ、あれからだいぶレベルも上がってるし、魔力も増えたから大丈夫だろう」

 薫の言葉に秋人は小さく頷く。

「万が一の時は帰還のスクロールを使いなさい」

「わかった」

 先日喧嘩になった原因のマジックアイテムが早速役にたつ時が来た。

 

【不可視の分析(インビジブルジャッジ)】

 薫の詠唱とともに杖の先のサンダードラゴンの魔石が大きく輝き、黒い迷宮核の上に光が降り注いだ。




ローラン「お、日本の探索者が入場したんだな。どれどれ」
秘書「ギルドマスター、この方って日本の有名な探索者ですよね。三つのSランクダンジョンをソロ討伐したすごい猛者だって聞いてますよ。この前挨拶したんですか?どんな人でした?」
ローラン「え?いや、あれ?一緒にいた子って12歳くらいの子供じゃなかったっけ?」
秋人「なんか、今、すごく嫌な気分になった。なんでだろう」
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