「ごほん。まあそれは置いておいて。利用料の話をしましょう」
ブラフォードが再度仕切り直しをかけた。
「個人での利用に利用料を取るつもりはありません」
薫はそう宣言した。
魔法を発明すると
「それは、しかし、莫大な利用料になりますよ。財団ができるくらいの」
ブラフォードの言い分は尤もだが、薫は続けた。
「そもそも、これだけ整理してもかなりの魔力を食う魔法です。ダンジョン外で使える
薫の言葉に秋人も大きく頷いた。しかし、次に薫はにこりと悪魔のような笑顔を浮かべた。
「ですが、企業・団体には払っていただきます」
「それは?」
「この呪文の汎用目的はダンジョンにゲートを作ってダンジョン同士を繋げることです。ダンジョンの魔力を使うので、ダンジョン外よりははるかに大規模で大人数を遠くまで運べる。飛行機や船の代わりですね。そういったものを作る場合、おそらく利用料を取るでしょう。それをピンハネします。そうですね、3割ってとこかな」
ブラフォードの笑顔が引き攣った。
「さ、3割ですか。割と暴利ですね」
「個人の分を取り返そうかなと」
薫が肩を竦める。
職員らしき人物が顔を顰めて尋ねる。この術の利権関連の人物のようだった。
「げ、ゲートの権利は?」
「作った方が持ってくださって結構ですよ。その方にまとめて支払ってもらいます。財団できるくらい稼げそうですよね」
薫がいい笑顔で告げた。
「ゲートを作るのはおそらく我々
ブラフォードが苦笑してぼやく。
「まあ、そうでしょうねぇ。誤魔化さないように契約していただきますよ」
薫のジョブを思い出し、ブラフォードはため息を吐いた。
「ケチくさいこと言わんと払ってやりなさい。これはそれくらい価値のある魔法だ」
と博士が告げる。しかし、薫は首を振った。
「ですが、先ほど博士もおっしゃったように、飛行機、列車、車、船などを過去のものにしかねない魔法です。なので、作成は慎重にお願いします」
薫の言葉に博士は眉を顰めた。
「何を言っておる。世紀の大発見だぞ」
「そうです。しかし、飛行機、列車、自動車、船舶関連に一体どれだけの人口が携わっているか、博士は考えたことはありますか?」
「ぐっ」
アデライド博士は思わず唸った。
「それらを生産している方ばかりではありません。販売している方、運行している方、修理工場、運輸産業、旅行産業などざっと考えただけでも計りしれない雇用が発生しているはずです。これは膨大な失業者を招きかねない魔法です」
「・・・・・」
「さらに、軍需産業への転換も考えられます」
薫の指摘に博士は俯いた。当然彼はそれも視野にいれていたのだろう。
「なので、慎重に各国に諮って対応すべきです」
薫の言葉にブラフォードは天を仰いだ。
「それ、我々に丸投げしておいて、3割持って行く気かね」
「まあ、期限付きでいいですよ。私と秋人が寿命で死んだらチャラにします」
薫の言葉に総裁は首を傾げた。
「子々孫々まで食べていけるだけの莫大な富になるかと思うんだが。君、確か婚約者がいただろう?」
彼の言葉に薫は苦笑する。
「私の婚約者は矜持の高い人です。夫になる男の財力を当てにするなどということは絶対にありません。また、子供ができたとしても『働かなくても食べていけるわあ』なんて思想になりかねないもの、毒にしかなりませんよ」
と薫が惚気た。
「僕も、お金たくさん持ってるので、奥さんと仲良くやっていけたら十分です」
と秋人が頷く。奥さんとは当然美香のことである。気が早い。
「わかりました。お二人の意思を尊重します」
と総裁は了承した。
「次は…さらにややこしいものですね」
次の書類をマヌエルがテーブルの上に並べる。
「ダンジョンを永久機関とするエネルギー発電所への転換システム」
ブラフォードが読み上げると、周囲の背広組が唸った。
「そんな都合のいいものが本当に存在するのですか?総裁」
彼らの一人が揶揄するように尋ねるも、総裁は静かに首を振った。
「実在しています」
「そうですね」
薫が間髪入れずに頷く。
「しかし、それは特殊なケースなのでは?かなり小規模のダンジョン一件だけでしょう」
と尚も食い下がる。
「ああ、それでしたら、実はもう一件発見しました」
「は?」
総裁が目を見開く。
「秋人のご両親が生前生活していた小規模のダンジョンを発見しました。ランクはEなので最低レベルですが、どちらかというと世界的にもそのランクが一番多いはずですよね?」
さらりと薫が爆弾発言をしたので、総裁がコホンと咳払いをした。
「待ってください、ミスター神崎。その話はお伺いしてませんよ」
「ええ、報告してません。つい最近見つけて探検してたので」
「探検ですか?」
総裁が首を傾げる。
「ええ、秋人のご両親が残した書類やなんかがそのまま放置されてまして。それと、ダンジョンでのドロップ品の魔石や魔具とか、なんか怪しげな箱とか。あと研究成果を書き殴ったメモとか散らかってるんですよ」
薫の言葉に中の一人が大きく目を見開いた。
「秋人」
そっと薫が呟くと同時に秋人が
「
がちゃんと秋人が彼の腕に例のリングをはめると、男の顔が変わった。
「わあ、変身能力の人って複数いるのかぁ」
薫が頭を抱えた。
突然同僚の顔が変わったのだ。その場にいた薫と秋人以外の全員が飛び上がって後退った。
「こ、これは一体」
「言ったでしょう。スパイがいるよって」
「た、確かに」
総裁が青い顔で顔の変わった男を見る。
「本物の彼はどこだ?」
総裁の質問に彼は悔しそうに顔を歪めた。
「いつから入れ替わってた!」
男が悔しそうに歯軋りした後、おそらく奥歯に仕込んだ毒薬を使おうとしたので、秋人が思い切りよく男の頬を殴った。
「む…だだ」
男が毒を飲み込むと同時に秋人が男の口に青色の瓶を突っ込んだ。
「無限毒消し」
ぼそっと秋人が呟く。
瓶の中身は減ることなく男の喉を通過していく。男が気絶するまでそれは続いた。気絶するまで液体を飲まされるとか、体のいい拷問である。
周囲の大人はドン引きである。しかし、中で一人だけ大興奮の人物がいた。
「待て待て待て!少年!この瓶はもしかしてどこかの空間と繋いでいるのか?なるほどなるほど、大量の毒消しの湖から直接ここへ転送させてるのか。やや、これはなるほどふむふむ…素晴らしい魔法式、魔法陣だ。これはどこから発見したのかね?」
アデライド博士は大喜びで男の口に突っ込まれた瓶を観察している。
「僕が作ったの」
秋人の言葉に博士は驚嘆の表情を浮かべた。
「君、幾つだね?」
「16歳」
「天才だ!!!!」
博士が小躍りして秋人の手を握りしめた。
「結婚しよう!!」
秋人の顔が嫌悪に歪む前に、博士の頭にテーブルの上にあった灰皿が飛んだ。
「うちの子から離れろ、変態め」
薫が先程まではかろうじて浮かべていた見せかけの友好の表情をかなぐり捨てて詰め寄る。
「待ちなさい!待って!ちょっと!」
総裁が仲裁に入るも騒ぎは大きくなるばかりである。最大級に喧騒が激しくなった時だった。
「鎮まりなさい」
と凛とした女性の声が部屋に響いた。
全員が動きを止めて声の方を見る。そこには美しい銀髪をシニョンに結い上げ、白いスーツを着た美しい女性が佇んでいた。
薫「正直言うと口座のゼロが怖くてもう見てない」
秋人「僕も」
ミドリ「いや、見ろよ。お前ら。税金対策する方の身になれよ」