【書籍化】3S探索者の代理人   作:かんだ★

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20. エファネル

 秋人は窮地に陥っていた。再生し終わると同時にレオネアから逃亡を図ったのだが、そう簡単には逃がしてもらえなかった。アルデバルダの探索者(シーカー)を総動員して攻撃をしかけてきたのだ。

 

 龍神族の血が一番残っていると自称するだけあって、皆それなりに強力な能力者だし、秋人としてもそう簡単に殺すわけにはいかなかった。

 おまけにレーザーも撃ち込まれる。恐ろしいのは、その射線にアルデバルダの者がいてもおかまいなしなところだ。おかげで何人かはレーザーによって戦闘不能となっていた。

「最悪だな、もう」

 薫のところに瞬間移動(テレポート)するには少々魔力が心許ない。ダンジョン以外で使うにはそれなりに魔力を消費するのだ。

 

「いいかげん諦めなさい。あなたの大事な人にまたミサイルを撃ち込んでもいいのよ」

 レオネアが嘯くが、秋人はすでに薫が結界の外にいることを察知していた。というか、なんで地下にいるんだろうか? 謎である。

「ちっ」

 舌打ちを一つこぼす。このままでは埒があかないので、殺してでも突破をするかと覚悟を決めた時だった。

 

「もう、おやめなさい」

 投光器の強い光とともにそんな言葉が放たれた。

「ブラフォードさん!」

 投光器の傍には探索者連盟(シーカーギルド)本部総裁がひどく悲しげな顔で立っていた。

 

「ミスター如月には何の罪もありません。日本の大切なSランク探索者(シーカー)です。彼を攻撃することは許しません。レオネア様、投降してください」

 ブラフォードの背後には10数名ほどの人物が立っていた。皆一様に硬い顔をしていた。

 

「ブラフォード…お前、私を誰だと思ってるの?」

 レオネアが歯軋りして呟く。

「あなたは、我々アルデバルダの守神のようなものだ。だが、何をやっても許されるわけではない。ましてや彼は外国の要人だ。これ以上の傍若無人は許されない」

 彼は強い口調で告げた。

「ホテルにミサイルを撃ち込みましたね。私は絶対に辞めるように言ったはずです。あそこには従業員だっていた。多数の死者が出ました」

 レオネアはまるで関心がないように肩をすくめた。

 

「お前たちは私に仕えるのが使命でしょ?命を捧げますって言ったじゃない」

 冷ややかな声だった。

「私はお前たちを許してないわ。私の愛するものを奪ったのだから」

 レオネアが片手をあげると、武装した探索者(シーカー)たちがブラフォードに向かって武器を掲げた。

 

「私の命を聞かない一族など要らない。始末して」

 攻撃に備えてブラフォードが防御魔法を展開するも突破され、何人かに攻撃が命中した。一族中でも理性的でレオネアのやりように反対する人々だった。ブラフォードはアルデバルダの近代化を推進する改革派の一員だった。外国へも広く門戸を広げ、協力して救世来神教(エルミネイト)に対抗するよう推進する予定なのだ。ここで邪魔されるわけにはいかない。

 

「あなたがやっていることは、救世来神教(エルミネイト)と同じだ。我々にも愛する人がいる。それを傍若無人に踏み躙っていい筈がない!」

 ブラフォードが吠えた。しかし、レオネアの方が強い。死を覚悟してでも止めるつもりだった。

 

「結構かっこいい人なんですね、ミスター・ブラフォード」

 不意にそんな声がしてレオネア側の攻撃の圧が下がった。

 ブラフォードの目の前に秋人が立っている。彼の展開している防御魔法がレオネア側の攻撃を弾いたのだ。

 

「依頼を受けてもいいですよ。護衛の」

 秋人の言葉にブラフォードは少しだけ笑った。

「お願いいたします」

「引き受けました」

 秋人が頷くと同時に、一気に反転攻撃に移った。

 

 秋人的には攻撃してもいい口実ができたので、遠慮なく反撃できるのがありがたかった。一番怖いのは多勢に無勢でこちらが悪者認定されることだったので、それがなくなっただけでも精神的にかなり楽になる。

 

「とはいえ、このままだとジリ貧か」

 薫が来てくれれば助かるのだが。

 秋人には薫の雷神の雷鎚(トールハンマー)ほどの広域攻撃能力がない。あるにはあるのだが、おそらく灰も残らず消しとばしてしまうだろう。流石にそれは不味い。薫の改訂雷神の雷鎚(トールハンマー)は数を調節すれば軽度の攻撃力に抑えられるところが使い勝手がいいところだ。

 

「くっ」

 レオネアの魔法攻撃の圧が増してきた。

「こっちの魔法使いはどれくらいいるんですか?」

 秋人が尋ねるとブラフォードが困った顔で頬をかいた。

「どちらかというと戦士系でして」

「・・・・全部吹き飛ばしてもいいですか?」

「できれば最後の手段にしてください」

 依頼人の言葉に秋人は小さく悪態を吐いた。

 どうするよ…

 若干困って宙を睨むと、不意にあちらからの攻撃がやんだ。

 

 

「え?」

 目の前に白い人間が立っていた。

 

 銀の髪が腰まで流れている。服も着てない裸体の女性だ。

 彼女が自分を守るようにレオネアに対峙していたのだが、レオネアがその姿を見て呆然と立ち尽くしていた。

 

「どうして…」

 彼女の唇から疑問の声が溢れた。

「エファネル…エフィどうして、あなた、その姿は?どうして起きているの?」

 レオネアの顔に恐怖が浮かぶ。あり得ない。ダンジョンの氷室に厳重に保管していた筈だ。如月秋人の存在を知るまで、科学の進歩を信じて氷室で延命処置を施していた。その娘が今目の前に立っている。

 

「この子は私のこどものこどもだもの」

 エファネルは当たり前のことを聞かれたように、戸惑って首を傾げた。

「さっきの子はちゃんと守ってくれる人がいたから大丈夫。でも、この子はひどい攻撃を受けてたから助けに来たの」

 謳うように彼女は答えた。

 

「私の子の子供はもうこの子とあの子だけ。たくさんいたのに全部死んでしまった。悲しい」

 エファネルの瞳から涙が溢れた。

「悲しい。たくさん生まれたのに皆死んでしまった。たくさん、たくさんせっかく私から生まれたのに」

 娘の言葉にレオネアは恐怖した。

「やめなさい!そんなのはあなたの子供ではないわ!勝手にあの連中があなたの体を使って生み出しただけよ」

 エファネルは自分の卵子から生まれた子供を全て把握していたのだ。そのことはレオネアにとっては恐怖だった。なぜなら…

 

「どうして?」

 エファネルが震える声で尋ねる。

「お母様、どうして私の子供たちとその子供達を殺したの?」

「・・・・・・」

 レオネアは答えない。

 

「どうして殺したの?」

 エファネルの顔に狂気が浮かぶ。

「どうして私の子供達を殺したの!?」

「やめて!!!!」

 悲鳴と共にエファネルの攻撃がレオネアに向かって炸裂した。それと同時にエファネルの体が崩壊する。形を保っていられず崩れ出した。

 

「どうして?お母様、どうして私の子供…どうして?」

 膝を突き地面に横たわる。

 レオネアが悲鳴をあげた。

「エフィ、エフィ、お願い生きて!体を再生して」

 傷だらけになりながらも娘にすがりつく。しかし、娘は母の腕を拒否した。

 

「あの人だけが私に聞いてきたわ。生きたいのか、死にたいのかって」

「エフィ…お願い生きて、生きて」

 レオネアが娘にとりすがるも、娘は拒絶するように顔を背け、秋人を見つけるとニコリと笑った。

 

「あなたの大事な人、とても優しい」

 エファネルが秋人をじっと見つめた。

 

 秋人は自分ができる一番優しい顔をつくる。それはたぶん薫が時々自分に向けて浮かべる、慈愛に満ちた顔を真似たものだ。

 

「生きたい?それとも死にたい?」

 秋人が優しく尋ねた。彼女は笑って頷く。

「このまま死なせて」

「わかった」

 秋人が了承すると同時に、秋人は自分とエファネルだけを覆う結界を張った。

 半狂乱になったレオネアが結界に飛びかかるも中には入れない。その間にもエファネルの体は崩壊していく。

 

「わたし、たくさんの人を殺す手助けをしてしまったの。ダンジョンを異界から呼び込んでしまった」

「うん」

「だから代わりにたくさん子供も作ったんだけど、みんな死んでしまったの」

「うん」

「だから、もう生きていたくないの」

 エファネルの瞳から涙がこぼれ落ちた。

 

 秋人はぎゅっと拳を握りしめた。

「でも僕はあなたに感謝してる」

 

 秋人の声は優しく響いているだろうか?

 自分の中に巣食っている絶望を、この哀れな女性に感じさせないでいられるだろうか?

 

 秋人は内心冷や汗をかきながら、できるだけ優しい顔と口調を作り上げた。そして、そっとエファネルの手を握った。

 

「僕の母を生んでくれてありがとう。おかげで今僕は幸せに生きてる。大好きな人に囲まれて恋人も友人もいる。普通の人生を歩んでる」

 秋人の声がしんと静まり返ったその場に響いた。

 

「僕の保護者はすごく有能な弁護士で料理がとても上手。彼が僕を高校に通わせてくれた。勉強は割と得意。クラブは美術部に入ってて、油絵を描いてる。親友は野球部のエースで女の子のことしか頭にない困った奴だけど、いざって時は頼りになるよ。恋人は美人で優しくてお菓子作りが得意で絵のことならなんでも知ってる。僕はスイーツ巡りが趣味で、今度彼女とデートで苺ビュッフェに行くんだ」

 できるだけ、普通のことを。彼女が望んでも手に入らなかった「普通」のことを、秋人はつらつらと並べた。

 

「ありがとう。お祖母ちゃん」

 秋人の言葉を聞いてエファネルの瞳が大きく見開かれた。

「よかった」

 その言葉とともに彼女の体はかき消えた。

 

 わずかに秋人の手に温もりを残して。




秋人「・・・・・・・・・・」

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