【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人   作:かんだ★

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5. 契約

「呆れた」

 昼休みにやってきた秋人の話に美香が憤慨する。

「私を賭けの対象にされるのは、流石に不愉快なんだけど」

「ごめんなさい」

 秋人は素直に謝った。怒られて涙目ではあるが。

 

「でも、あいつが『美香』って呼ぶの辞めさせたかったんだよ」

「だからって…」

 美香が嘆いていると、背後で事情を聞いていたクラスの女子がわらわらと寄ってきた。

「いいじゃん。かっこいい彼氏じゃん。美香のために元宮に勝つってなかなか言えないよ」

「でも、本当に大丈夫?相手はJリーグからも声かかるような選手だよ」

 などと、全面的に秋人の味方である。

 

 美香は秋人が負ける心配はしていない。だが懸念はあった。

「秋人くん、サッカーのルールちゃんと知ってる?」

「さっきルールブック全部読んだから、知ってる」

「…目立ちすぎないようにね」

「うん、その辺はサッカー部の織田が色々見てくれるって」

 秋人がどんと胸を叩いてみせた。微笑ましい光景に美香のクラスメイトはにこにこしていたが、美香自身は若干不安だった。

「Jリーグのスカウトの人には絶対に見られないようにね」

 ぼそっと告げるのは忘れなかった。

 

 ◆◆◆

 

 というわけで、放課後秋人は元宮を連れて加藤法律事務所へ向かった。

 しかし、同じビルに美香の住居があることを知らせたくなかったので、本日は美香とは別行動である。そのことだけでも、秋人は元宮への好感度がマイナスへ振り切れていた。

 

「お邪魔しまーす。薫いますか?」

 珍しく事務所の方へ顔を出したので、事務員の楠本が首を傾げた。

「あら、珍しい。お友達?」

「いいえ。違います」

 秋人は秒の速さで否定する。そこへ、何事かと当夜も顔を出した。ガタイのいいイケメンが現れて、少々元宮は腰が引けてる。

 

「あっくん、どうしたの?先生はいま来客中だよ」

「うん。昼休みに電話した契約について、相手を連れてきたんだ」

「へえ、あんたが物好きな先輩か」

 当夜は半笑いである。意味が分からなかったが、元宮はなぜかヒヤリとした。

 

 さらに追い討ちをかけるように、出かけていた金子が帰ってきた。

「やあ、秋人くん。久しぶり。今日はどうしました?」

 怜悧な雰囲気のインテリ系イケメンが現れて、またも元宮は言葉に詰まる。

 なんなんだよ、この法律事務所はホストクラブかよと内心毒ついていた。

 

「こんにちわ。金子さん。今日は契約にきました」

「契約?神崎ですか?」

「はい」

 金子は秋人の背後で無表情で立っている学生を憐れむように眺めた。

「そりゃあまた、気の毒に。容姿自慢の男を連れてくるなんて、秋人くんも人が悪いなぁ」

 元宮を一瞬見ただけでそのナルシスティックな面を見越した金子は、おそらくこの数分後に元宮が受ける衝撃を想像して苦笑を溢した。

 

 がちゃりと音がして所長室のドアが開いた。中から出てきたのが巌だったので、秋人はニコリと笑った。

「巌さん!こんばんわ!」

「おや、秋人くん。学校帰りかい?会えてよかった。先生にさっきエルミターレ美術館展のVIPチケット2枚渡しておいたから彼女と行ってらっしゃい」

「いつもありがとうございます」

 明らかに上流階級とわかる出立の巌が、秋人に丁寧に接しているのを見て、元宮はさらに困惑した。

 

 元宮は秋人の噂をざっと同じサッカー部の取り巻きから集めた。彼らは元宮が喜びそうなネタを提供した。

 如月秋人は災害孤児で、親戚でもなんでもない弁護士の元に居候として身を寄せている。小遣いもろくにもらっておらず、その弁護士にこき使われているらしい。

 

 というような情報を聞いていたので、元宮は少し脅せば秋人がいうことを聞くだろうと踏んでいた。しかし、この事務所に連れて行かれている時点で元宮のアテは大きく外れているのだ。不安になっても当然だろう。

 

 

 さらに、所長室から出てきた人物を見た瞬間、元宮の中にあった一本の柱が大きく倒壊した。

「おかえり。秋人。その人が例の先輩?」

 にこやかに柔らかい声で告げた人物は、元宮がこれまでの人生で見た中で、一番美しい容姿をしていた。男であるにも関わらずである。

 

「うん。契約の門(カヴェナント)をお願い」

「書面じゃなくて魔法にするの?」

「うん。違約した時、紙の契約だと賠償って結局お金でしょ?親の金で済まされたら堪ったもんじゃないからね」

「なるほど」

 秋人の言い分に薫は苦笑して、チラリと元宮を見た。

「どうぞ、こちらへ」

 所長室へ薫が手招きする。

 薫の容姿を見たことでショックを隠せない元宮は、秋人と薫の言うがままに所長室へ入って行った。

 

「子供相手に…」

 と金子がふっとため息をつく。

「いやあ、先生、完全にあの先輩のこと敵認定してましたねぇ」

 当夜は相変わらず半笑いである。巌までも事情を聞いて同情を浮かべていた。

 

 ◆◆◆

 

「では、この契約で間違いないですか?」

「は、はい」

 元宮は今朝秋人が確認したのと同じ内容が記載された控えを読んで頷いた。学校にいる間に親に確認をしておくようにとは言われていたので、一応メールで許可はとってある。

 息子のわがままをいつも反対するでもなく、甘やかしてばかりの親なので、中身もほぼ見ないでサインして送り返してきたのだ。

 

 

「では、契約をしましょう

【契約の門(カヴェナント)】」

 薫の手にいつの間にか魔法の杖が握られている。その杖の先でオパールグリーンの魔石がキラキラと光を放った。

 

 

「負けた方は工藤美香さんへ二度と自ら関わらないで間違い無いですね?」

「ああ」

 元宮は己の弱気を叱咤するように強気の返事を返す。

「学校関係での関わりがある可能性があるので、「自ら」関わらないとし、違約の判定は事象確認後にペナルティが発生することにします」

「分かった」

 元宮は鷹揚に頷いた。

 

「違約した場合はあなたは命より大切なものを失いますよ」

「は?」

 薫はにこやかに微笑んだ。

「だって、秋人にとって工藤さんは命より大切な人ですから。その彼女に関わらないなんて条件を出したのですから、あなたも相応のものを差し出してもらわないと」

「は?何それ?」

 元宮が思わず一歩下がるも、背後に立っていた秋人に腕をがっちり掴まれた。

「これは魔法契約なので、等価交換です」

 厳かなその声に、元宮は少し腰が引けたが、ふっと薫が柔らかい笑みを浮かべた。元宮はそれを軟弱者の証拠と受け止めたが、秋人はそれは元宮を誘い込む罠だと理解している。

 

「間違えないでいただきたいのは、これは違約した場合のペナルティです。あなたが負けた時、約束通り工藤さんに関わらなければ起こらない条件ですよ」

 にこやかに薫が告げる。元宮はくっと喉の奥に言葉を飲み込んだ。

 

 自分が負けた場合の条件など、どんなものを賭けたってかまわないではないか。負けるはずなどないのだから。

 

「いいぜ、それで」

 元宮は虚勢を張った。先ほどから次々現れるイケメンたちにライバル心が疼いた所為で、尻尾を巻いて逃げ出すことができなかったのだ。

【契約成立】

 とどこからともなく、厳かな声が響いて部屋中を何か得体の知れない気のようなものが満たした。

 

「では、控えはお持ち帰りください。契約は終わりました。元宮くんは未成年なので、最終の契約締結には保護者のサインが必要です。送り返してくださいね」

 とにこやかに薫が告げる。

「へっ」

 と吐き捨てて元宮は足早に去って行った。

 

 

 事務所を出たところで当夜、金子、巌に事情を聞かれた秋人は、3人に事の経緯を説明した。当夜が恐る恐る尋ねる。

「秋人さんや、あの先輩、たぶん間違いなく違約すると思うけど何もらうつもり?」

「足」

「だよねー」

 当夜がぽりぽりと頭をかいた。存外この少年は一度嫌った相手に対してはとことん容赦がなくなる。

 

 薫は秋人がどれほど美香を大事に思っているかを知っている。小姫からも龍の龍珠に対する執着も聞いている。だから、思わず尋ねた。

「あの人、工藤さんに何したの?」

「…『美香』って呼んだ」

「ああ、うーん。そっかぁ。そうだなあ。それはダメだよなぁ」

 難しい顔で薫が唸っていると、堪りかねた金子が

「おい、教育的指導」

 と薫に言い渡していた。

 

「まあ、でもあの手の男は自滅するもんですよ」

 と巌が遠い目をして締めくくった。

 先達の言葉はことさら重かった。

 

 元宮家から保護者のサイン入りの書面が返送されたのは、それからすぐのことだった。

「それでは、契約成立」

 と薫が唱える。これで魔法契約が成立した。




金子「前から薄々思っていたんだが、お前いくらなんでも秋人くんに甘過ぎないか?」
薫「いやあ、分かってるんだけど。この前、バカって言われて以来、なんというかこう」
金子「まあ、確かに年下の身内への教育ってのは難しいのはわかるが」
薫「お前、弟はどうやったんだ?」
金子「聞くなよ…そんなこと」
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