【書籍化】3S探索者の代理人   作:かんだ★

287 / 287
24. 断罪

 元宮は首都高封鎖が解除して1時間後に、都内のラブホテルの一室で悲惨な姿で発見された。

 

 突如現れた死神のようなものに足を切られたと彼は言い張ったが、そんな怪我はどこにもなかった。しかし、彼はそれから一歩も歩くことができなくなっていた。

 彼は恐怖に震え、吐いた汚物の中で涙を流していたという。その部屋にはカメラやビデオが用意されていて、違法な薬も発見された。

「ロクなことしようとしてなかっただろ」

 通報で駆けつけた警官は、元宮の用意したものを見て吐き捨てた。

 

 それからすぐに親元に連絡が入った。

 元宮は元宮建設という大手ゼネコンの一人息子で、今までなら息子の不祥事は親が金を積んだり、マスコミを操作したり、最悪の時は政治家に献金をちらつかせて揉み消していたが、今回はどこの政治家に頼んでも誰も動いてくれなかった。

 

 中の一人がその理由を教えてくれた。

「いやあ、総理がね、おっしゃるんですよ。今回の犯人を庇ったらダンジョンに捨てられるぞってね」

 その言葉は、永田町に生息している誰に対しても、暗黙の不文律として知られている。

 

 絶対に侵してはならない相手の逆鱗に触れるぞという警告なのだ。

 

 

 後日、元宮の罪状が次々と暴かれた。例の大学生たちは元宮が女の子を襲う時にいつも使っていた連中だったので、芋蔓式に他の犯罪も明るみになったのだ。

 性犯罪は取り扱いが難しい。美香の誘拐の件もあったので、薫は慎重に他の被害者に聞き取りをした。中には男性がすっかり怖くなって引きこもっている女の子もいたが、そういうケースでもだいたい薫とは話せる。

「この時だけは自分の顔に感謝だな」

 と薫は言うが、薫の中に一切自分に対する性的な興味を感じないからではないかなと、金子などは思っている。薫は相対する人の鏡になることができる弁護士だ。そこを金子は恐ろしいと感じることがある。薫は敵対するには大変な弁護士なのである。

 

 連中の話していた通り、写真や動画などを撮られて酷い扱いを受けていた女性もいた。そういう子たちは自分の写真がデジタルの海に流されることを恐れて、元宮たちの言うことをきかされていたのだと言う。

 

 薫は秋人に頼んでその元データを押さえた。元宮が警察で事情を聞かれている間、こっそり秋人の手を借りて不法侵入して審判の眼(ハイ・スコープ)を使えば簡単にデータがどこにあるか把握できた。

 薫はそれらを被害者の女性に手渡した。

「これ以外は全部消したから、もう大丈夫。私はSランクの探索者(シーカー)の魔法師なので、ちゃんと残らず始末しています。最後の1つもここで消しましょう」

 と言うと家族とともに泣き崩れた子もたくさんいた。

 

 子供を甘やかして庇っていたということで、元宮建設の信用は地に落ちた。

 元宮自体もおそらく無事では済まないだろう。訴えられる可能性が高かった。

 

 しかし、それよりも何よりも彼を打ちのめしたのは、彼がもう二度とサッカーができないということだった。

 

「先生、俺の足、俺の足は?」

 医者に縋って呟く元宮に医者は困ったような顔をした。

「いや、それがね。不思議なことに何をやっても一向に改善しないんですよ。血流も滞りはじめてますし、このままだと切断するしか…」

「いや、いやだ!やめてくれ!嘘だろう!」

 元宮は発狂したように医者に掴み掛かろうとしたが、立ち上がることさえできなかった。

 

「いっそ殺してくれ」

 と彼は呻いた。

 彼の前にはこれから先の人生を二度とサッカーをすることができない現実だけが横たわっていた。

 

 あの弁護士は言ったではないか。違約した場合は命よりも大事なものを失うぞと。

 元宮はようやく魔法契約の怖さを理解した。

 

 ◆◆◆

 

「こんばんわ」

 夜、自室で縮こまっていた元宮の元に、一人の少年が現れた。

「お前…」

 元宮はその相手を見つめて憎悪を滾らせた。

 秋人が窓から侵入してきたのだ。高級マンションの高層階だ。どうやってこいつはここへ来た?ふと元宮はそのことに気がついた。

 

「ど、どうやって?」

 怯えた声に秋人は「ああ」と首を傾げた。

「普通の住居の窓なんて僕らからしたら、開いているドアにも等しいですよ、先輩」

 秋人は笑って窓枠に腰を下ろす。睥睨するように元宮を見つめた。

 

 逃げることも立ち上がって襲いかかることもできない。元宮はまな板の上の鯉だ。恐怖で声さえでない。

「あ、騒いでも無駄ですよ。消音の魔法をかけたので、外に声は漏れません」

 にこにこと笑顔の少年。如月秋人はこんな雰囲気の男だっただろうか?

 教室でも試合の時でもこんな薄い氷を纏った狂気を感じることはなかった。

 

 ごくりと元宮は喉を鳴らした。

「お、俺を殺すのか?」

 彼は思わず呟いた。命乞いをしようかと思った。恐怖で目尻に涙が浮かぶ。しかし、そんな様子の元宮を見て、秋人は首を捻った。

 

「うーん、殺すつもりはないです。だってあなたこのまま生きていく方が辛いでしょ?」

 秋人の言葉は真実だった。元宮の輝かしい人生は音を立てて崩れ、敗残者としての生活だけが残されている。家もおそらく没落するだろう。近々このマンションも引っ越し予定である。

 

「本当は、もっとぼっきぼきに折るつもりだったんですが、もういいかな」

 秋人はふっとため息を吐いた。

 美香や薫の「弱い者いじめはだめだ」という声が聞こえるような気がしたのだ。

 

 ただし、これだけは譲れない。

「今後、二度と僕の大事な人の名前を呼ぶことは認めません」

 秋人はそう宣言した。

 

「それだけ?」

 元宮は理解した。秋人を心底怒らせ、こんな風に自分を破滅させた原因は、自分が美香のことを『自分のモノのように呼び捨てにした』たったそれだけのことだったのだと。

 

「それだけって言うけど、自分にとってたわいもないものが、誰かにとっては絶対に踏み躙ってはいけないものだってことがあるってこと、あなたは理解した方がいい」

 秋人はそっけなく答えた。

 

「もしも、理解してすごく反省するなら、パラリンピックは邪魔しないよ。反省したらだけどね。まあ、無理かな」

 秋人は去り際、そう呟いた。

「誰かがあなたの行いをずっと見てるよ」

 秋人はそう呟いて、窓から去って行った。

 

 元宮は死神がすんでのところで去って行ったことを悟って、がくがくと震えた。

 心の底から安堵した。

 そうして、さっきまで「死んだ方がマシ」だと思っていたのが嘘のように「死にたくない」と願ったのだった。




元宮「こ、こわかった」
秋人「失礼な!」
当夜「いや、普通の人はタワーマンションの高層階に窓から現れる人間は怖がるって」
元宮「なんか、微妙に違う!」

⚫︎感想、お気に入り、評価などいただけましたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ドールマスターヒロシ(作者:我島甲太郎)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

人形使いは木製のマネキン人形を召喚して戦わせる職業だ。▼ゴーレムより脆く、精霊よりも火力がない木偶人形にも一つだけ利点があった。▼それはレベルを上げていけば、人間並みの知能を得られるということ。▼――なら、人工声帯とオナホ仕込んで嫁にするしかないよね。▼そんな性欲に脳を犯された猿どものせいで風評被害に塗れたとある人形使いの少年は、ある日に飛び降り自殺を図って…


総合評価:2560/評価:7.88/連載:125話/更新日時:2026年09月20日(日) 18:00 小説情報

崩壊世界でルートシューター(作者:穴熊拾弐)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

ルートシューターってジャンルのゲームがある。広大な廃墟に放り出されてゴミを漁って持ち帰る。それを売ったり、施設を改良したりして成長していくってゲームだ。俺はそれをやらされている。何故か人を喰う怪物が闊歩し、滅亡寸前の現実世界で。▼金が尽きれば命が尽きる。崩壊世界で生きる1人の傭兵の話。▼


総合評価:4458/評価:8.37/連載:68話/更新日時:2026年10月10日(土) 11:00 小説情報

壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい(作者:あまぐりムリーパー)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

聖女ちゃんが、心を閉ざして動かなくなっちゃった、どうしよう!?▼せや、適当にそこら辺の魂突っ込んどけばええやろ!▼それで、俺が選ばれたってわけ▼んで、死なない体で化け物退治とかさせられてたんだけど、なんか聖女も狂信者も神官くんも、様子がおかしくない?▼※不定期更新▼カクヨム、小説家になろうにもマルチで投稿始めました


総合評価:4065/評価:8.23/完結:94話/更新日時:2026年08月11日(火) 20:15 小説情報

皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム(作者:サイリウム)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

転生者の主人公が皇位争いから上手くドロップアウトしようと思ったら、奴隷たちに囲まれてる話。▼伯爵家の四男エドモンドは、転生者である。彼はきたる皇位継承戦に向けて功績を積むため、両親からダンジョン攻略を命じられてしまう。しかも所属する国家が奴隷を推進する国だったため、不本意ながら購入することに。彼自身は奴隷たちに反乱されぬ様に程よい“雇用関係”を築こうと思って…


総合評価:8241/評価:8.18/連載:43話/更新日時:2026年09月22日(火) 12:00 小説情報

ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~(作者:蝉時雨)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 世界にダンジョンという、いくつもの『扉』が出現してから、早五十年。▼ ▼ 人類はこの未知の脅威に対し、慎重に対処をしようとしていた。しかし、その『扉』から現れた異形のモノたちが蹂躙をはじめる。▼ 現代の兵器は異形には届かず、為す術なしかに思われた。▼ だが、人類は諦めなかった。▼ 自ら『扉』に乗り込み、戦果を持ち帰るものが現れ始める。『扉』の先で得た素材で…


総合評価:1377/評価:6.89/連載:42話/更新日時:2026年10月18日(日) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>