【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人   作:かんだ★

289 / 322
第十六章開始です。
今回は薫がかなり大変な目にあったりします。ぎゃふん


第十六章 代理人、平和ボケを痛感する
1. 汚部屋工房


 秋人と薫は桜子に連れられて、とある工房にやってきていた。

「せっかく作ってもらったのにもう壊しちゃったなんて」

 秋人はため息をついた。

 

 2月の誕生日に桜子から贈られた認識阻害機能付き眼鏡をかけて、この週末に美香と遊園地デートに行ったのだ。秋人は元宮の所為で先日怖い思いをした美香を楽しい気持ちにさせたかった。そう言うわけで、ギャラリーに邪魔をされたくなかった秋人は、薫や桜子と相談してこの眼鏡を着用していくことにした。

 最初は順調だった。しかし、昼をすぎた頃には調子が悪くなり、夕方にはレンズにヒビが入ってしまった。

 

 帰って早々、青くなって桜子にあやまる秋人に対して、桜子は「うーん」と首を捻った。

「やっぱり本人連れて行って調整してもらわないとダメか」と。

 

 桜子が言うには、この眼鏡は装備者が外に放出している魔力を使って顔周りに光学迷彩の薄い幕を作成し、見る人の認知を歪ませる仕組みらしい。これを作る職人さんは珍しい光属性のクラフト系魔道具師で、この光学迷彩の調整は探索者のように魔力がある人間の場合は、本来は個人個人の調整をした方がいいのだそうだ。

 

 秋人の正体をあまり広めたくなかったので、今回はだいたいの魔力量や桜子の眼鏡を1.5倍に強化してもらって作ったのだが、桜子と秋人は魔力の質が全く違うので、うまくいかなかったのだろう。

 おそらく、これまでに蓄積されたダメージが、初の長時間使用によって眼鏡側への負荷としてもろに出たのではないかというのが、桜子の見解だった。

 因みに、魔力がない人間へ作る場合は、眼鏡の柄のところに魔石を入れて魔力を作る。この小さい魔石を作るのに時間と金がかかるのだ。

 

「薫さんの契約魔法で口止めする前提で、秋人連れて行っていい?」

 桜子の申し出に、薫は一も二もなく頷いた。薫は、できれば自分も作ってもらいたかった。信号待ちで立ってるだけで家庭を壊したり、カップルを破局に導くのは自分だって避けたいのだ。

 

 というわけで薫と秋人は桜子の案内でその認識阻害アイテム職人の工房にやってきたのである。

 

◆◆◆

 

「音々(ねおん)、いる?」

 隠れ家のような古びた工房の入り口を、桜子が無造作に開ける。どうやら鍵もかかっていない。

「いるんでしょ?入るよ」

 桜子は慣れた様子で工房の中を進む。男二人は女性の職場ということで少々ためらったが、桜子が「来い来い」と手招きするので、恐る恐る立ち入った。

 

 工房は荒れていた。荒れているというか、ぶっちゃけ汚かった。ゴミ溜三歩手前だ。

 うず高く積まれている何かしらの魔物系素材、図面、設計図、紙、本、合間に工具、それから恐ろしいことに何年前のか分からないレトルトの食器やコンビニのお弁当の残骸、飲みかけのペットボトル、菓子パンの袋、お菓子の箱などが散乱している。

 

 賃貸物件のいざこざ案件で、この手の部屋にある程度免疫のある薫は、それらを無表情で通り過ぎたが、秋人は眉間に深いシワを寄せて周囲を伺っていた。

「汚部屋は初めて?」

 薫が秋人に尋ねる。秋人はコクコクと頷く。

「僕、こんな地獄みたいなとこ初めて見た」

 とあらゆる修羅場のダンジョンを潜り抜けた3S探索者(シーカー)は、己の感性のまま正直に答えた。

 

 薫に引き取られる前、極貧生活をしていた秋人はモノが溢れている状況というものには縁遠かった上に、親の躾がしっかりしていたので、自室はいつも清潔に保っていた。

 さらに赤城たちに言われ、ダンジョンで得たアイテムを依頼主に届けに行ったりしたこともあるが、大概それらは政治家や企業家、宗教家などの金持ちだったので、住居や仕事場は美しく整えられていた。

 今秋人が通っている学校も私立の有名高校なので、当然整然と整えられており、荒れた校舎や部室などは存在しない状況だ。

 なので、こういう乱れた環境を実際に見るのは初めてだった。話に聞いたことはあったが、こうなるのか…と驚きでいっぱいだった。

 

 

「地味にその反応、堪えるわあ」

 工房の真ん中、大きな木製の机に座っている女性が、鼻の頭にシワを寄せてぼやいた。

「汚いとか臭いとか片付けろって言われた方がまだマシって反応あるんやねぇ」

 がっくりと項垂れる。

「あんたがちゃんと片付けないから、こういうことになるのよ」

 桜子が呆れて腰に手をやってそう告げると、ぶわっと女性は涙を流した。

 

「だって、だって、桜子様!片付けようとすると興味のあるものが出てくるしい、あとでいいかって思うと積み上がるしい、片付け面倒って思うと溜まっていく一方で…気がついたらもう私にはどこから手をつけていいか、わからへんくて」

 机に突っ伏して号泣する。

 

「てか、あんたに言ったよね?あんたの憧れの如月秋人連れていくよって。まさか全然片付けてないとは思わなかったよ」

 桜子の言葉に彼女は突っ伏したまま首を振った。

「うそつき!連れてきてないやん!隠し子の方だなんて聞いてへん!!」

 泣き声がさらに大きくなる。

 

 薫は、例の「隠し子説」の広がりに少々驚きを隠せなかった。どこからどこまで広まっているのか見当もつかない。先日後藤に尋ねたら、彼も知らなかった。噂はギルド産ではないらしい。

 

「汚部屋にびっくりして帰っちゃったんじゃない?」

 と桜子がわざと意地悪く言うと、女性の泣き声はさらに加速した。

「師匠、可哀想ですよ」

 秋人が囁くと、桜子はふうっと大きなため息を吐いた。

 

「ほら、泣き止みな。あんたの目の前にいるのが憧れの如月秋人だよ。本物。ほんとの本物。なんならギルドカード見せてもらいなさい」

「え?」

 女性が泣きながら顔をあげる。秋人は困ったように小首を傾げて、ギルドカードを手渡した。

「え?」

 女性が思わず二度見するのも無理はない。

 どう見ても目の前の人物は、無理やり見積もっても二十代になるかならないか、いや有り体にいえばミドルティーンにしか見えないのだ。

 華奢で手足の長い、恐ろしいくらいの美少年が困った顔で立ち尽くしていた。

 

「は、はじめまして。探索者(シーカー)の如月秋人です」

 にこりと秋人が笑って握手の手を差し出した。

 

「う、うそおおおおおおお!!!!!解釈がちがううううううううう」

 と彼女がさらに泣き出したので、桜子はとうとう彼女の頭にゲンコツを落とした。




秋人「薫は汚部屋には慣れてるの?」
薫「まあ、不動産関連の仕事ではままあるからな」
秋人「…弁護士って過酷だね」
薫「秋人に言われると、すごい過酷さが際立つな」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。