【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人   作:かんだ★

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300話記念SS 美術部部長 柏崎玲の考察

 如月秋人という少年は、ある日ふらりと美術部の見学にやってきた。

 

 彼はあまり本格的に絵を描いたことがないようだったが、副部長の工藤が水を向けると黙々とキャンバスに色を載せ始めた。

 

「あ、こいつ。持ってる方の奴だ」

 と一目でわかった。おそらく工藤も瞬時に理解しただろう。

 

 

 美術など芸術と一括りにされる類の活動に従事する人間は、ある一定の努力の後に理解する。己の才能はここまでだと。

 もちろん、努力すればある程度までは到達できる。努力次第によっては頂点に近い場所までいくことも可能だ。ただし、それには人を捨てたような厳しい努力が必要になる。

 

 けれども、稀に、本当にほんの一摘みの人間の中に、そういった努力を嘲笑うような才能を持っている者がいる。

 彼らは生まれつきそのセンスを持っている。

 センスの内容は様々だ。

 

 デッサンが気が狂ったように巧い

 色彩感覚が頭抜けている

 あらゆる角度から想像でものが描ける

 生き生きとした色気のある線が引ける など、

 

 絵に関したことだけでも千差万別だが、わかる。

 一生懸命この世界で努力している人間ほど、連中の気配には敏感だ。

 その少年はおそらく手慰みにしか絵を描いたことがない。 技術でいえばおそらく今美術室で描いている人間よりはるかに下だろう。

 けれども一年ここで学べば、学校中の全ての人間より優れた絵を描くことになるだろう。今でも、構成されている色彩の華やかさだけで目が眩むようだった。

 

 

「すごく綺麗ね」

 と工藤が感嘆の声を漏らした。

 

 俺は内心複雑だった。工藤美香とは幼馴染のような関係だ。親が芸術家同志ということで個展や展覧会、美術賞のレセプション、講演会などで小さな頃から知り合いだった。

 俺は彼女の努力と芸術に対する献身を知っている。俺のように別の道に逃げなかった立派な奴だ。それが、今打ちのめされようとしている。文字通り天才の筆によって。

 

 

「え?もらっていいの?嬉しい!ありがとう」

 彼女は少年の描いた小さなキャンバスをもらっていた。何気なくゲットしているが、おそらく将来ものすごく高値がつくだろう。なにしろ天才の処女作なのだから。

 

「じゃあ、入部希望ね?これ書いて担任の先生に提出してね。あと、週末に道具を買いに行きましょうね」

 ニコニコと笑顔で彼に説明している彼女の姿が痛々しかった。

 

 

「工藤…」

 少年が美術室からいなくなった後、俺は彼女に声をかけた。何と言って慰めればいいのか…と言葉を詰まらせたが、俺は彼女をみくびっていた。

 

 彼女は文字通り芸術に身を捧げた女だったのだ。

 

「み、見ました!これ!素晴らしいです!聞いたところ初めて油絵の具触ったみたいですが、見てください!この麗しい色使い!流れるようなタッチ!繊細な筆使い!!天才ですよ!如月君、如月君って言ってましたよね!ここでちょっとテクニックを覚えたらきっと素晴らしい画家になります!やだ!私作品1号もらっちゃった!宝物にしないと!乾くまでここに置いてて盗られたら嫌なので、これからタクシー呼んで持って帰ります!!」

 

 とぶち上げた。俺は彼女の言動に理解が追いつかなかった。

 なに言ってるの、こいつ…

 

「お前の家までものすごいタクシー代かかるんじゃないか?」

 と俺が思わずどうでもいいことを尋ねると、彼女はにやあと笑ってみせた。

 

「タクシー代ごときでこの絵の価値は揺らぎません!やっほう!どの絵の具紹介したらいいか今から検討しなくちゃ!日本製?ドイツ製?ああ、急がなくちゃ!週末まで時間がないわ!ではこれでさよなら!!」

 とその小さなキャンバスを掲げ持って帰って行った。

 

 

 俺の感傷を返してほしい。

 

 そう俺はしみじみと思った。バカだった。俺は工藤美香という女の本質をまったく理解していなかった。幼馴染だからわかっているなどというのは幻想だった。

 

 奴は、芸術に恋をしている女だったのだ。

 

 だから、まああの芸術を体現したような少年と彼女が、いつの間にか恋仲になっているのも、納得というか、理解が深いというか。

 

「美香!おはようございます!!」

「おはよう!秋人くん!!」

 そんなわけで今日も部室は桃色の空気に犯されている。

 

 

 俺は早々に推薦で大学が決まっているから構わないが、先月のバレンタインからこちら、彼氏いない系の部員から注意してくれと散々言われている。まだ受験が終わっていないメンバーからも冷たい視線が注がれている。いや、俺じゃなくて!あっち!あっちに注げよ!その視線!!

 

 それでも、幼馴染で芸術に全振りだった女が、こうして幸せそうに笑っている姿を見るのは悪くない。

 俺たちのように凡庸な才能を持っているものが、天才にぶち当たったときに、こんな風に幸せな結末を得られることは稀だからだ。

「お幸せに」

 と俺はそっと心のなかで呟いた。




 ちなみに部長の初恋はお姉ちゃんの佐紀で、現在も片思い継続中。
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