【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
「快晴や!!!」
莉音の叫び声に冬由も大きく頷いた。
「いやあ、神崎せんせ、ありがと!こんなすっごいチケット見たことないわあ」
「マルオワールドにいくぞおおおおお」
「おお!」
と年少組プラス音々が力を込めている。薫と秋人は顔を見合わせてクスリと笑った。
貰ったチケットは8枚あり、薫、秋人の他に冬由、莉音、音々、当夜、聖夜、遊馬の8人でやってきたのだ。巌は流石に真夏のテーマパークは暑いのでパスとのことだった。
「俺はベンチで座ってるから適当に遊んでおいで」
と薫が言うと当夜が恨めしそうな顔で薫を見る。
「俺も留守番っすか」
「子供か」
と薫がため息を吐く。
「わかった、わかった。じゃあ、アトラクションの近くまでは行くよ」
薫は髪を掻き上げて帽子を被り直し、サングラスを掛けた。
「私が神崎先生についてるから、お前は年少組のガードを頼んだぞ」
と聖夜が言うと、ぱっと顔を輝かせた。
「おう!任せとけって」
と完全に遊ぶつもりの弟に深々とため息を吐く。
「すみません」
思わず薫に謝る聖夜に、吹き出してしまった。
しばらく歩いていると最近よく見かける黄色い服に気がついた。あちらも気がついたらしい。
「神崎先生!秋人くん!!」
語尾にハートをつけそうな勢いの小金井に薫はうんざりした顔をした。
「また、あなたですか。アポ無しはごめんだと…」
「いやいやいや」
慌てて小金井が否定する。
「誤解ですよ。盆にこんな小僧が休みとるなんて100年早いって言われたところを、無理やり休みとって先生たちに合わせて関西に来たんですよ。なのに、談話の一つもとれなかったので、キャップにせめてユニバでも取材してこいって。しかも自腹ですよ!ひどくないですか?」
号泣である。薫は流石にちょっと不憫に思った。このテーマパークはそれなりのお値段なのだ。
「秋人!」
薫が呼びかけると彼が振り向く。
「こちら、小金井さん。東都新聞の記者さんだ」
「うん、知ってる。それが?」
秋人が首を傾げたが小金井はそれどころじゃなかった。
「うそ!如月秋人が俺の名前を知ってる!!」
とかいう斜め上の事象に感動していた。若干秋人は引いている。
「一緒に遊んであげて。1人で寂しいんだって」
「えーーーーー」
嫌そうな顔をされて地味に小金井が凹む。
「たぶん、なんでも買ってくれるよ」
と薫が嘯くと小金井はさっと立ち直った。
「大人だからね!任せて!!」
とどんと胸を叩いてみせた。秋人というより秋人の周囲の子供が大喜びである。
「チュロスー、ポップコーン、アイスクリーム!!」
とねだる声が響く。秋人も彼女たちの笑顔に絆されて小金井を受け入れることにしたようだ。
「ちょ、ストップ!注文メモするから待って待って!」
と小金井が叫ぶ。彼は胸ポケットから万年筆を取り出した。
「あ、綺麗」
秋人が目ざとくそれを見つめると、小金井は嬉しそうに笑った。
「秋人くんに褒められたんなら親父も本望だろうな」
彼はその美しいペンを秋人に見せてくれた。
「俺の親父は魔道具の側師だったから、俺が上京する時に世界で一番丈夫な万年筆を作ってやるってこれを作ってくれたんだ」
「凄く綺麗ですね。側師ってことは小金井さんのお父さん魔道具師と取引があったんだ」
「人間国宝とかのレベルじゃなかったけど、腕は良くて人気だったんだよ」
と小金井は胸を逸らした。側師とは魔法を付与する前の段階の部分を作る職人のことで、腕の良さで付与率が大きく変わるのだ。
「秋人くんに褒められるなんてきっと親父も喜んでるよ」
小金井の言葉に秋人は
「そう?」
と首を傾げていたが、当夜は少し顔を曇らせた。秋人はまだ他人の言葉の細やかなニュアンスに気が付かないが彼は違う。当夜は小金井の父が過去形で語られていることに気がついていた。
当夜の視線に気がついた小金井は小さく首を振った。
小金井を含めた秋人、当夜、冬由、遊馬、音々、莉音のメンバーはなにやら高いところから降りてくるゲームキャラのついたスライダーに乗るための列に並びに行った。
「先生もお人が悪い」
ぼそりと聖夜が呟く。
「ん?」
しれっとした顔で薫が聞き返した。
「たぶん、あの中で一番お金もってないの小金井さんですよ」
「だよねー」
薫もそれは気がついている。
音々はもともと貴重なスキル付与の魔道具師なので金には当然困ってない。
当夜もSランクの
遊馬は朽木家の御曹司だ。正直金銭感覚はあの子が一番やばい。
秋人はもはや言うに及ばないが、実は莉音も割と金持ちだ。それは彼女がゲーム実況でバズっている動画配信者だからである。投げ銭やら広告収入だけで成人の男性並の月収なのだそうだ。
そして、冬由である。
秋人はごくごくあっさりと両親の遺産の権利を二分割した。そしてその半分の権利を冬由に渡した。それだけで、彼女は億万長者である。利息だけでも相当なものだ。手続きやら何やらで大変だったが、つい最近ようやく落ち着いた。ミドリが悲鳴をあげていたが、まあ頑張るだろう。
「東都新聞の月収があそこのメンバーより高いってことはないでしょう」
聖夜が苦笑する。そういう彼も既にAランクの
「まあ、それくらいのリスクを払ってでも、秋人と仲良くしたいならいいんじゃない?」
と薫はにっこりと笑った。聖夜も苦笑で返すだけに止めた。
彼は薫がいずれきちんとマスコミを使って世間に秋人のことを伝えようとしていることは察していた。
「秘密にされればされるほど、人間ってのはほじくり返したくなるもんで。きちんと発表しちゃうと興味がなくなるもんだよ」
と薫が嘯く。確かに一昔前は週刊誌の熱愛報道とか不倫騒動などの騒ぎが多かったが、最近ではタレント本人が発信してしまうので、昔ほどの熱量は存在していなかった。
「何か飲みに行かないか?」
薫が聖夜に尋ねる。屋根のあるベンチで休んでいるとはいえ、8月のテーマパークの屋外だ。じりじりと暑い。
「秋人くんみたいに氷結魔法をうすーく出せるの羨ましいですね」
聖夜が珍しくぼやく。
「ああ、あれ何気にかなりの高等技術らしい。康子さんが絶句してた」
「そうなんですね」
涼しい顔で屋外でも平気で過ごしている秋人とその周辺が羨ましい。流石にここまでは冷気を飛ばせないらしい。
「俺もやってみようかな」
「やめてください!!」
聖夜の切実な制止にちょっとだけ傷つきながら、薫はベンチを立った。
「暑いな。やっぱりどこかカフェでも入ろう。RINE入れといてくれ」
「わかりました」
聖夜と薫は2人、少し列から距離のあるカフェの列へ並び直した。
まだ昼食の時間には早かったからか、想定よりかなり短時間でカフェに入ることができた2人は、エアコンの中で深々とため息を吐いた。
「あああ、やっぱエアコン最高だな」
「ええ、本当に」
聖夜も珍しく同調する。
薫はアイスコーヒー、聖夜はアイスティーを頼んで2人は空いている席についた。窓際の席が取れたので、そこから秋人たちが並んでいる列を眺められる。
「最近はどう?」
薫が尋ねると聖夜は苦笑を返す。
「まあ、それなりですね。私も昔ほどジョブの種類に劣等感は持ってないつもりです。料理人はかなり強力なジョブだなって思いますしね」
でも…と聖夜は続けた。
「でも、やはり軽く見られることもありますし、時には酷い罵声を浴びせられることもなくはないです」
聖夜は達観と名前のついた作品のような顔をしていた。
「でも、これは黙って受け入れるしかないですね。だって、私は弟の未来をもうずいぶん歪めてしまったから」
「そんな事は…」
薫の言葉を当夜は黙って否定する。
「いえ、そうなんです。たまたま、当夜が選んだ先が先生のところだったから運がよかったに過ぎません。あの子は私の立場を脅かさないように、もう随分気を遣って生きてきたんです。私はそれを分かっていて『もういいから』となかなか言えなかった」
悔恨の言葉は続く。
「当主の血族に料理人です。赤城ほどではないにしろかなり叩かれたのは事実です。それでも私が歪まなかったのは、いえ歪むことが許されなかったのは、あの子を犠牲にしていると分かっていたからです」
「聖夜…」
「私ほど恵まれた蔵持ち家系の兄はいませんよ、ほんと」
眩しそうに聖夜が外を見る。屈託なく笑っている弟の顔を見ていると本当に安心する。聖夜は心の底から良かったと思っていた。
「そう…だよな」
薫はふと優と匠兄弟のことを思い出した。
匠は兄への尊敬の念は隠していなかった。兄を立て、自分が出来の悪い乱暴者のように振る舞っていた。そのことを、当の兄が気が付かないなんてことがあるだろうか。
短い期間しか一緒にいなかった自分たちでさえ気が付いた匠の献身を、優は本当に分からなかったのだろうか。
「なんだか、変ですね…」
聖夜が低く呟く。
「?」
薫は聖夜の方を見ようとしたが、唐突な目眩を覚えた。意識が急激に遠のく。
「せ、先生…」
苦しそうな声に顔をあげようとしたが、薫の方も身動きができない。
「あらあら、たいへん。美男子が2人も手に入ってもうたわ」
という粘着質な声が頭上から聞こえた気がした。
薫「ところで、聖夜くんはご結婚は?」
聖夜「あー、今の所見合い三十連敗で記録更新中です。血族のお見合いババアに恨まれてますよ」
薫「それは、なかなかすごい戦績だな。君が料理人だからってことかい?」
聖夜「いえ、それは最初から分かって見合いしてくれているので」
薫「原因はなんだろうな…」
聖夜「あ、神崎先生、見ました?うちの弟女性にめっちゃ親切にしてますよ。あ、アイスこぼした!ワイルドに拭いてる!かわいい!!」
薫「あ、察し」